P036.六等星
テストにはまだちょっと早い。だが期末レポートはちゃんと出されているので準備を色々やって慌ただしかったころ。
忙しかろうが何だろうが、いつも通り、俺が漫画の新刊を買いに行った時のことになる。本日は「吉凶占師・オマモリ隊」第22巻発売日。内容としてはドタバタしてはいるが少年誌らしいバトル漫画。こっちの世界のサンデーで、雷句先生が連載している漫画だ。アニメの劇場版が控えていたりするので、初回限定版とかが販売されている。オマモリ隊では、ショートOVA付とトレーディングカードゲームのカード付のものだ。
俺としてはカードの方はどうでも良いので、OVA目当てで買いに来たんだが……。モチノキ町圏内には専門ショップとか書店がないので、必然的にデパートの本屋とかでの購入になる。
そう、そして。そんなにオタクがどうのこうのとクールジャパンだの言われていなかった年代になるので、こういう特装版みたいな書籍の入荷数は、少ない――――!
千年前の魔物のあたりから色々ゴタゴタしていたこともあって予約を忘れていた俺は、午前中の講義が終わり次第速攻で書店へ向かい、そして颯爽と購入してクールに去ろうとモーションをかけていた。
そんな俺の延ばした手が、女の子の手とぶつかった。
「お?」
「お?」
同時に箱型の初回限定版に手を伸ばして、同じところを触った故の接触。ラブコメ漫画か何かかよ!? と内心突っ込みながら相手の方を見た。
向こうも全く同じ擬音で返して、俺の顔を見る。身長は俺より低いが化野先輩よりは高い。つまりはまあまあ高身長(化野先輩自体そこそこ背が高いので)。黄色いノースリーブっぽいポロシャツとミニスカート、ただし見せスパッツが膝まで伸びている。
そんな彼女の容姿を見て、思わず俺は呟き。
「水〇亜美……?」
「パラ〇パ……?」
くしくも向こうも同時に呟いて返して来た。
そしてまた同時に、突っ込み返す。
「いや何でパラ〇パラ〇パーだ……? そんな似てないだろ」
「えっ何でセ〇ラ〇ム〇ンなの……? あんな可愛くないし」
なんだか似たようなタイミングで似たようなことを考えて、似たようなリアクションを返してくる女の子だ。髪はちょっとセ〇ラ〇マ〇キュリ〇っぽい感じで、眼鏡をかけているところもポイント高い(月に代わってオシオキ的な意味で)。ただ顔立ちはやわらかいというよりちょっとキツめなので、可愛くないという彼女の自称はそういうところに現れているだろうか。そしてこの容姿、何か見覚えがある気はするが……。いや、まあいいか。
んでもって、どうして俺は人間ですらないキャラクターに例えられたし……? いや、「I Gotta Believe!!」とか歌えるけどさ。
ただ何かよくわからないが、少しお互い顔を見合わせて何かを察する俺達。そのまま一歩後退して、頷き合いながら、話し合いが開始される。
「私は、トレカが欲しいの。だから初回盤に必ずしもこだわる必要はないの。だけど……、あなたは?」
「俺は、まー漫画欲しいっちゃ欲しいけど、どっちかっていうとOVAの方だな」
「そう。…………じゃあ、折版といきましょうか」
お互い求めるものが違ったお陰で、喧嘩にならず平和的に解決した。
最終的に、初回限定版1冊と通常版1冊の合計金額を折半する形で購入し、俺は限定版のディスクと漫画。彼女は限定版のカードと通常版の漫画を入手した感じだ。
カードを手に入れた彼女は、それはもうハイテンションだった。「ひゃっほーい!」とか言いながら昇〇拳ポーズで飛び上がったりテンションがちょっとおかしい。
そしてしばらくすると俺の方を見て「あなたもオマモリ隊のファン? オマモリ親衛隊?」とか聞いてくる彼女は、自分のことを佐久間菜須香と名乗った。
とりあえず親衛隊じゃない(要するに非公式の会員制ファンクラブのことだ)とだけ先に断って置いて、その上でノンジャンルで色々ものを見るという話をちらっと語ったりした。俺としてもこんな近隣にオタの血を感じさせる相手に珍しくあったこともあり、テンションがちょっと上がっていたんだろう。
そのまま手前のサ〇ゼを指さし、ちょっと話していかない? とか逆ナンめいたことをされる始末。
まあ特に用事があるわけでも無かったので(午後の講義サボって買いに来てるし)、そのまま直行。スギナ様にお昼は置いてあるからあっちはあっちで問題ないとして、彼女はひたすら俺に語るわ語るわ。彼女、ナスカは俺と同い年だった。大学はモチノキ方面ではないものの近隣で、どうやら学内でもオタ仲間がいないらしい。
何と言うか、ある意味で俺とおそろいな感じだった。
「もっと都心の方に行けば虎の〇とかア〇×イトとか色々書店もあるのに、こっち全然仕入れる気ないでしょ!? 目撃情報聞いたからそりゃもう、大学の午後の講義サボってダッシュで買いに来たわ! 初回限定版!」
「後々プレミアつきそうだなぁ……。でもまあ、目的がバッティングしなかったのは良かったぜ。
ちなみにどうしてアニメの方は目的にしてなかったんだ?」
「いやこう、自分の中にあるキャスティングのイメージが崩れるからあんまり見たくないって言うか……」
その気持ちは判らなくはない。俺だって日常茶飯事だ。
まあその上で、俺はキャスティングのズレとか、実際に放映されたものの演技力を含めてあーだこーだとスギナとわいわい言い合ってる面倒くさい客である。
そんなことを、スギナのことを弟分と言って軽く愚痴れば、彼女は「ふうん」と不思議そうにこっちを見る。
「何だろう…………、同族の匂いがする」
「同族?」
「うん。こう、漫画家志望的な? 視点が一般視聴者っていうよりクリエイター的なやつな気がした」
「……………………お、おう?」
中々クリティカルなことを言われた。将来の夢と言うか、かなり俺のトラウマ的なところに接触している話題だ。早々に切り上げるために「元な」とだけ言って、肩をすくめた。
「人生色々あんだよ。ま、そこはこう、察してもらえればな。親とか」
「あっ。…………えっと、ごめんね? うん。そう言う意味じゃ私はまだ恵まれている方か。家は出たけど、親は反対してこなかったし」
マウンティングとったりすることもなく、こっちの状況に理解を示し同情されてしまった。俺もそういうのが欲しい訳じゃないので、適当に流してくれと言っておく。
「そっちは諦めなかった。俺は諦めた。ただそれだけの違いだ。……とはいえ、一度人生に染みついたものは簡単には抜けないしな」
「激しく同意だわ。……あっ! じゃ、ちょ、ちょっとさ。ネーム(※漫画の設計図のようなもの)見てもらいたいんだけど、良い?」
「お? いいけど、自信がおありかな? 初対面の野郎捕まえて、全身全霊をかけて臨んでいそうなやつを見せて来るとは」
「一応、持ち込みじゃなくて投稿からのデビュー狙ってるのよね。私もまあ、あんまり時間取れなくなっちゃうし。在学中にデビューできないと描く時間とか体力とか。
だから花柄君には、同好の士として忌憚ない意見が欲しいかなー、みたいな?」
「おーし。じゃあ……、思いっきり趣味に走るから、まずどこの出版社の雑誌に応募考えてる?」
そんな感じで割と真面目に話し合ったり、時に脱線したり。何故か妙に馬が合って、そのまま夕方まで語り合い。再会の約束をしてメアドと電話番号を交換し、俺と彼女は分かれた。
そこからは基本、メールのやりとりになっている。
やりとりになっているが……、夕方とか深夜のアニメの感想だの実況だのをメール(※まだチャットもスマホもない時代だ)で高速打鍵しながらレスポンスしていく俺の姿に、スギナもちょっと困惑気味だった。
「春彦、彼女できた? ミールがいるのに」
「いやミールさん全然ちがうからな? 全然違うから、な。
漫画友達って言ったら良いかなー。……真面目に漫画家目指してる感じの子」
「ふぅん。……それは、なんというかミールも大変だ」
「何が?」
「別に。……んー、自分のことになると人間ってやっぱり鈍感になるよな。ハリ〇が最後まで自分が間違えたところに気付けなかったみたいにさ」
とりあえずガ〇グレイブ好きすぎか、とだけはツッコミを入れておいた。
さて。雑に夕食のスパゲッティ(ベーコンとブロッコリーのバター醤油ペペロンチーノ)を食べ終えた後、アニメの録画を消化しながら俺はレポートをカリカリ書く。俺自身は割と注意散漫っぽいタイプなので、こうしてちょっとくらい煩い方がかえって目の前のものに集中することが出来るのだ。
本当はPCで打ってMD系形式にしてメール送信とかしてしまいたいところだが、教員のパソコンスキルがそこまで追いついていない(かつビューワなりエディターなり持ってない人が多い)こともあり、レポートは手書き。PCで下書きがてら打ってから、それをもとに手書きと言う二度手間作業だ。時代的に仕方ないんだが、なんとも悲しい気持ちになる。
俺の悲しさに呼応したわけでも無いだろうが、テレビ画面では録画再生されている「BL〇CK C〇T」の最新話。トレイ〇がクリ〇ドぶん殴って、瀕死のサ〇を抱えている映像になる。それなりに鬱っぽい展開が待っている訳だが、わくわくはらはらと見ているスギナにはあえてネタバレはすまい。
「あっ……、あっ…………」
「さて、続き書くかな。えーっと、畜産学のはさっき終わったから、あとは気象学か。……面倒だなぁ、俺そんなにバランスよく文字書けないんだよなぁ。ヘタクソだし……」
「そんな、え? これから幸せになれそうだったのに、えっ? 告白する流れじゃなかったの? どういうこと? えっ? えっ?」
「期末レポートもあるけど、気象の方は来週のコマの宿題あったか? ま、意見陳述だから大したことはないが、うーん……」
「春彦、これどういうこと? ちょっと僕、冷静さを失いかけている」
「…………」
「春彦?」
「んー、と、ん…………、……………………」
「ねぇ春彦ぉ~~~~~ッ!!!」
「うるせぇ、近所迷惑だッ!!!」
どうやら展開が展開だったせいか、心が物語に追いついていないらしい。限界をむかえたスギナは集中している俺の腕を引っ張り、涙目で抱き着いてきた。お前ほんと変なところで幼児化するな……って、まだ7、8歳か。充分幼子の部類だ。
「はいはいよしよし、で? 何だ何だ、何がどうした? トレ×サヤにクリ〇ドが挟まって来てざんばらりんして、ショックだったか? アニメ版はこうだけど原作読んだらまた違った感想になりそうだが……」
「そっちまで手が回ってないよ、ウチにあるんだろうけどさ。
だけど、ああいうの本当ダメだよ。何も、心の在りようが解決してないんだもん」
どうせ告白したってオトモダチから開始だからあんまり進展しなさそうだったけどさ、とさらっと毒を吐きながら、スギナは涙目で俺に頭を撫でられるまま。
とりあえずエンディングを一緒に見て適当に踊ってから(?)、さてどうしたものかと考えていると。珍しいことにインターホンが「ぴんぽーん」と鳴る。
「こんな時間に誰だ? 回覧板、だったらドアに下げとくだろうし……」
「ミールだったら問答無用で部屋に入ってくるしね」
大した相手じゃないというスギナ。とりあえずドアホンのカメラ画面を確認し、見知った顔だったので入り口を開けに行く。何と言うか珍しいというか、それどころではない様子だった。
「どうしましたか? 化野先輩」
「ご、ごめん春彦君……! 今晩、泊めてくれない? できれば…………、全員」
「ブルァアアアア~~~~!!! 死ぬな、死ぬなモヒカン・エース~~~~!!! ともにベリーメロンの頂きを登りつめると約束したではないかァッ!!!」
「死んじゃう! その調子でぶんぶんしてたら、死んじゃう! ちょっと魂とか抜けてるっ」
「近所迷惑だって言ってんだろうが、ちょっとは時間帯考えろッ!」
扉の前には、なんだか着衣が乱れたボストンバッグを下げた、ジャージ姿の化野先輩と。
何故か包帯でぐるぐる巻きのモヒカン・エースらしき誰か(包帯からモヒカンが飛び出してるのでそこだけわかる)をつかんで「死ぬんじゃないッ!!!」と泣きながら揺さぶるビクトリーム、そのビクトリームを涙目で止める「狐っぽいお面」を頭にかけたツヅリの姿があった。
とりあえず注意して黙らせたが、いやどういう状況だこれ?
ビクトリームなんか、首を360度時計回りに高速回転させて絵面がかなりヤバイし……。
とりあえずちょっと片づけるんで、と少し待ってもらい、俺は後方でレコーダーの電源を落とすスギナに目配せした。
※ ※ ※
ごめん春彦君、いきなりこんな感じでお邪魔しちゃって……。
えっ? 何で住所を知ってるんだって? そんなの学校のバイトの時に決まってるじゃない? 清掃のバイト。後輩に来年こそ年賀状出したいって言ったら、こころよく教えてくれたわよ? 食料経済論の教授さん。あの先生のゼミ狙ってるのよね?
で、えっと、本当に泊めてもらえるのよね? うん、全然雑魚寝で良いんだけど……、ありがと。寝袋はあるから、スペースだけ確保してもらえれば大丈夫だから。
泊めるのは良いけど経緯が全然わからない? そりゃ、そうよね。私もちょっと自分で理解が追い付いていないし。……えっウソ、ヘアゴムと間違えて輪ゴムつけてる!? そ、そんな馬鹿な……!
えー、えー、ちょっと待ってちょっと待って。……はい、つけなおしました。これで大丈夫のはず。うん。
じゃあ、そうね……。とりあえず今日あったことから言いましょうか。
いつもみたいに警備のバイトから帰ってツヅリと一緒に寝てたのよ。そしたらいきなり訪ねて来たの、そこで絶叫してるビクトリーム。うん、ツヅリが止めてるけど、あのまま揺さぶり続けたら傷口開いちゃうものね……。おいそれとティオちゃん呼べないし、月の石もないし。
モヒカン・エースさんがバイクできて、大学にとめてね? 私に荷物届けたいって言ったら、受付のオバちゃんがそのまま宿直室の方まで通しちゃって、もう! 何考えてるのよね、こんな美少女相手に。
何か言いたいことでもあるのかしら春彦君? 何、やっぱりボイン不足だって?
はっ倒すわよ!!?
ま、まあそんなことはともかく。……ツヅリに起こされてジャージ姿のままだった私だけど、京都旅行から帰って来たビクトリームから八つ橋とメロンもらって、ええ、まあ美味しくいただいたわ。
そのついでって訳じゃないけど、ビクトリームがお面持って来たのよ。
お目、うんうん。それ。ツヅリが今、頭につけているやつ。霧箱の中に、何か安倍晴明とか紫式部が書いたっぽい本とかと一緒に入っててね? うん。
『般若の面が砕けたままだったからなぁ。おさまりが悪かろう。
これはタマモがオシャレでつけていた面だァ…………、受け取るが良い』
って感じで。どうも京都の方の実家の方を訪ねて、安倍晴明由来の品ってことで譲り受けてもらっちゃったみたい。
うん、それなりに歴史的価値はありそうだけど……、魔物関係だし、どうせ表に出せない奴だし良いんじゃない? ぶっちゃけ、陰陽師的なあれこれとか、大っ嫌いだからどうでも良いの。ツヅリが楽しんでいられそうならね。
それで、あの狐さんっぽいお面をつけて遊んだり、術を試したりして、私も講義に行った帰りなんだけどね? 事件が起こったの。
事件っていうより、全く意味が分からないことって言うか……。
宿直室にいったん帰る途中、校舎の中央通り歩くじゃない? そこに思いっきりビクトリームたちがいたのよ。流石にモグリで聴講するわけでもないし、わざわざ来る意味なんてないじゃない。私たちへの挨拶は済んだわけだし。だから何をやってるのかって思って近寄ったら――――。
『モヒカン・エースよォ…………、そこな古き同胞の残骸に、長き眠りを――――』
『お前のこれって、
そこには、身体をVの字にして頭から術を放つビクトリームと。
『あいかわらず
電磁光線なら、
尻尾が二つある狐が、ポン! って音を立てて大きなゴムまりみたいなのに変身して。そのまま光線を弾いて、モヒカン・エースさんを轢き逃げしていく姿だったわ。
で、そのまま私とツヅリも巻き込まれて……、宿直室が木っ端みじんでねぇ。
「へぇ」
わかってくれた? 春彦君。
「ちょっと何言ってるかわからない」
そうよねぇ……。まあでも一つだけ確実に言えることがあるの。
私が陰陽師とかそういうの大っ嫌いだって言っても、実家のことは多少なりとも覚えてる。
だから、簡単に言うと…………。
たぶん安倍晴明のパートナーだった魔物、タマモが現代に蘇った。
石板に封印されてたとかじゃなく、なんかいきなり現れてね。
・佐久間菜須香との遭遇:
漫画家志望な女子大生である彼女との遭遇は、割と春彦的に新しい発見に満ち溢れたものだった。ウマが合うと言うか、作品を見る観点が似通っているのがお互い初めての相手で、いきなり仲良くなった流れ。
・吉凶戦士・オマモリ隊:
ゲームの方だと雷句先生をもじったネーミングの作家さんが作者なんですが、どう考えても雷句先生なので本作ではそのまま。あくまで同姓同名の別人くらいのニュアンスです。
ただその影響で、たぶんベルーバのCVが千葉さん(繁)、ネーロのCVが若本さんにキャスティングされている。
・ツヅリのお面更新:
般若のお面のかわりに、ビクトリーム運送が届けてくれた一品。いわゆる文様の入った狐面なので、ぱっと見はよくあるやつなんだけど、たぶん色々と魔よけやら何やらが施されているありがたい品(適当)。陰陽師関係のことが大嫌いな化野が調べないので、ツヅリもそのあたりの性能は良く知らない。
ただお面がなくなって寂しそうにしていたツヅリなので、ビクトリームには素直に感謝。
・復活のタマモっち(?):
詳しくはそのうち……と言いつつ早ければ次回。
ゲームプレイ済の方でしたら、カラクリはお察しいただけるかと。