『ブルァア!? 待て小童ァ!』
「待てと言われて待つやついないでしょ。ツヅリだってお面取ったらすぐ逃げ出すし」
『何をぅ! スナフキ○の出来損ないがいうではないかっ!』
「あっ角の先にカナブン」
「ぴょ、ぴょえ~~~~~っ!?」
「植物園で鬼ごっこはやめなさーい!」
ごくごく当たり前のツッコミを入れる俺に向かって、一瞬動きを止めこちらを見るスギナとツヅリ。スギナに言われた通りカナブンがついたお面をあらぬ方向にぶん投げて涙目になってる彼女に、ニヤニヤちょっと意地悪そうに笑いながらもちゃんと手を貸してるスギナだ。うん、もともと戦ってたっていうのもあるにはあるけど、ちょっと性格に悪い所があるらしい。……いやそれを言うとツヅリもあの感じを見るに似たようなものか。案外、数カ月は仲良く遊んでるから、似た者同士なところもあるのだろう。主に陰キャ的な意味で。
自宅から徒歩ニ十分くらい離れた位置にある、モチノキ町立植物園。主に清掃、梱包、受付などを、勤怠時間としてそこそこ自由に働かせてもらってる俺だけど、本日は先輩からツヅリを預かった関係で、バイト先にスギナ共々引き連れて来た。
ゴールデンウィークも明けて数日経ったけど、いやまぁ何と言うか込んでるんだか空いてるんだか。亜熱帯系の植物やら何やら年中生い茂っていて、季節感が狂ってるのはここの空調がそう調整されているからってことなんだけど、それはそうとして町立で結構広いこの施設ってだいぶ税金かかってそうで、ここら辺の税制がちょっと気になると大学生の自分は思う。
平日はともかく、日曜すらこの空きっぷりだし。
そしてそんな俺の感想なんて関係ないとばかりに、はしゃぎ走るお子様たち。どうやらお面がどこに行ったかわからなくなったらしいツヅリ。涙目になりながらスギナのマント? を引っ張って、一緒に探してと懇願しているようだ。
「けっこう気安くはなったよなぁ……。先輩とあの子もだけど」
さかのぼる事、今年の1、2月。大学の裏山での戦闘後、結局、俺達は先輩たちの本を燃やさなかった。
『僕ってあんまり、王様とかに向いていないのかもしれない。春彦』
魔界に送還されなかったという事実に、涙ながらにツヅリを抱きしめる化野先輩。そんな彼女に困惑したようなままのツヅリを見ての、スギナの一言だ。含意が広すぎるけど前後の言い回しから察するに、お互いの気持ちや感情がズレた先輩とツヅリのペアが、そのまま離れ離れになるのが忍びないと思った。そして思ったから、今後の「さらに強い魔物になる」可能性を前にしても、自らの天敵のような能力を持つ彼女たちを倒そうと思えなかった。どうやらそのことが、スギナ的には王様としてダメということらしい。
『ルールのある勝負でルールを徹底できないのは、典型的な負けパターンだと思う』
『そうか? …………』
『な、何で今頭を撫でたのさ』
『別にぃ?』
ただそれはそうと、そういった決断を下すことを「当たり前」と思えるくらい、倫理観というか「そういうお約束」をしっかり判断できるようになったスギナに、何とも言えない可愛げを感じて、つい頭を撫でた。ちゃんと成長してるんだな、という年上のおにーさん的な感想だ。
そしてそれ以来、何かと理由を付けて先輩が絡んでくるようになった。……主にツヅリの預け先として。
『私、ちょー貧乏だから! この制服だって中学の頃のやつだし。……私服買う余裕とか全然なくって、あはは…………』
そう言って良い笑顔でウインクしながらサムズアップしてくる先輩。……詳しくは知らないけど、大学も特待生で入って、その上で普段から学校関係のアルバイトを多く紹介してもらっているらしい。オープンキャンパスだけじゃなく、それこそ清掃とか、あとは詳しく知らないけど運搬とか搬入とか(学食系?)。全然意識してなかったけど、言われて見れば学内の本屋で先輩の姿をたまに見かけていた気もする。
そんな先輩にとって、ツヅリを一人でいさせるのは心苦しいということらしい。どうもあの後、先輩とツヅリも多少仲良くなったのか、仮面をつけても小娘小娘言わなくなったり、多少の変化が見られた。そしてその分、ツヅリが先輩から離れたがらないというところも。
『お姉ちゃん、いや……! いかないで、怖い……ッ』
『一人でいるのは怖くても、スギナ君と遊ぶんだったら、まだ大丈夫じゃない?』
『えぇ…………?』
『いや、何でそこで嫌がるのよ?』
最終的に俺に預けて、お子様同士で遊ぶあたり根っから嫌っていたりということはないんだろうけど、それでもツヅリはスギナと遊んでいれば、という提案にはちょっと引いていた。
これは人見知りの範疇ととらえるべきなのか、それとも……? ちなみにスギナは「お化け呼び出して戦ってるくせに怖がりとか意味不明」とボソッと言っていたりしたけど、それは置いておいて。
まあそのまま3,4ヵ月過ぎての現在。途中に一体魔物と戦って勝利したりということもあったけど、それ以降は特に動きもなく、こうして子守をしているところだ。スギナはオタク趣味に目覚めたものの、植物属性だからか割とアウトドア派。ツヅリはインドア派とお互い趣味はずれてはいるけど、そこはお互いがお互いに話し合って、今日は外、今日は家、みたいな感じで色々ルール決めがなされているらしい。色気の欠片もなく、割と幼児化して遊んでる二人を見るのはそれなりに微笑ましいものがあった。
……いや、途中で例の怖いお姉さんとその相方の魔物が訪ねてきたりして、ツヅリが白目向いてガクガク震えたりと言った変なイベントがあったりもしたけど、それは置いておいて。
「あっはっは、元気じゃないのあの子たち」
「ハッ!? つ、つくしの姉御ッ」
「姉御言うのやめなさいっ!」
思わずノリで舎弟風に動いて頭を下げた俺に、軽くチョップを入れてくるつくしさん。木山つくし、そばかすがキュートな正職員のお姉さんだ。年は聞いて無いけど多分二十代中ごろくらい?
まだ転生を自覚してなかった頃、アルバイトを色々転々としていた頃に知り合い、彼女がここに就職(?)してからは色々と良くしてもらっている。
「やれやれ、何なのよそのノリ。別に暴力とか振るってる訳でも、私が昔レディースだった訳でもないのに」
「いや、何と言うか本能的に頭が上がらないと言いますか……(ちょっと雰囲気が
実家がスペインな例の我が
その点で言うとつくしの姉御はかなり母親を想起させるので、お世話になってるけどつい舎弟風な態度になってしまうのも仕方ない。
「あの子たち、両方とも親戚の子?」
「男の子の方はっスね。女の子は、学校の先輩の妹さん。あっちもあっちでアルバイト忙しくって、一人にさせとくの心配ってことで」
「へぇ~。そういうのは人それぞれ家庭の事情があるけど、節度は気にしておいた方がいいと思うよ」
「その辺はぬかりなく。…………って、アレは?」
「でっかい木! でっかい葉!
ワァ――――――! 清麿! 清麿!」
「やかましい! はしゃぎすぎだッ!!」
そしてツヅリたちと反対方向、入り口付近のヤシの木に全力で登る金髪の頭の男の子と、そんな子に絶叫する見覚えのある中学生の姿。あの子、姉御が「学校でいじめられてるみたいだから、居場所くらいつくってやらないとね」とか言って、普通に平日ここに通してた子だったはず…………。
えっ? あれ、もしかしてあの子? 高峰清麿、原作主人公!?
「久々に見るけど、あいつ、ちょっと変わったかな? どれどれ…………」
ちょっとニヤニヤしながら清麿の方へと歩いていく姉御。そしてこの光景を見て、びびび! と脳裏にデジャブが走る。あれ? 何かスゲー見覚えのあるような光景が。そう確かこのあと、清麿君ってばつくしの姉御に揶揄われる感じで、ガッシュとてんやわんやして……。
「………………いまいち思い出せないから、まぁ良いや」
そしてすぐさま、俺は思考を放棄した。お子様たちの監督もあるけど、それはそうとしてアルバイト中だしね。
※ ※ ※
「全く、相変わらずやり辛いなあの人……」
俺を全力でからかってくるつくしから離れて、俺は一人で植物園を散策する。今戻るとまた揶揄われそうだし、ガッシュはガッシュであの人と話した方が良いだろう。……なんだかんだ俺も、あの人には世話になった。ガッシュまで世話になるはちょっと気が引けるけど、少しでも色々なものに触れる時間があるっていうのは、決して悪い事じゃない。
あとガッシュは多分、いつもの調子で「友達になってくれ!」とか言ってそうだし、つくしも特に抵抗なく受け入れそうだ、という予想が立つ。
わざわざ確認しなくてもわかることに時間を割くより、このモヤモヤした気恥ずかしさから思考を逸らす方が先だ。今日は気分的に本を読むつもりもなかったから(というかガッシュが問題を起こすだろうと見越して、本を読んでる暇なんてないだろうと考えていた)、文字通り散策だ。
モチノキ町の植物園は、亜熱帯系の植物が多く植えられている。館内の気候もそれにともなってちょっと熱く、五月もまだまだ頭だっていうのに俺は薄いシャツ一枚。セミの鳴き声とかは聞こえないお陰で、なんとなく蒸し熱さは感じない。
「思えば、こうやってちゃんと館内を歩くのって初めてか? 最初に来た時くらいは歩いたと思うけど、あんまり興味がわかなかったからな…………」
中学に入って、周りから
家にいられないときの受け皿になってくれたここを、自分が思っているほど俺は知らないことに気づいた。
だったら色々見て回ろうかと、こうやって前向きに考えられるようになったのは……、ガッシュのおかげか。あんまり素直にそう言いたくはないけど。なんかこう、むず痒いし。
「多肉……、へぇこれサボテンの一種なのか。って、こっちはマングローブ!? いや妙に背が高いな…………」
一体つくし達、職員の人たちはどんなお世話をしているんだ、と思わず苦笑いをして。
そしてその木の枝に、何か変なものが引っ掛かってるのを発見した。
「……ん?」
こう、何だろう。あの平べったくて、角が二本ついてるみたいなシルエットは。鬼のお面?
明らかにここに元々あったと思えない、誰かが持ち込んだとしか思えない代物……。
ちょっと遠方から見て発見したお面は、もしかしたら誰かの忘れ物か何かなのかもしれない。……いや、まあ何であんな高い所にあるのかという話なんだけど。もしかしたら小さい子が遊んでて、誤って放り投げてしまったとか? それにしては高いところに引っ掛かってるし、人間技じゃない仮定になるな。いや、まさかな。ハハハ。
そしてそんなことを考えていると、俺の足元に小さい子が二人。どっちもガッシュくらいの年齢に見える、男の子と女の子だ。男の子はちょっとス〇フキンのコスプレみたいな恰好をしてて、女の子は浴衣っぽい青い衣装。
「わ、私のお面…………!」
「どれだけ怖がってたんだよツヅリ。……高いね、場所」
「高い…………」
なるほど。この子たちのお面なのか。
だとすると…………、とりあえず声をかけて、今職員さんを呼んで来るからと言い聞かせる。女の子は人見知りしているのか男の子の後ろに隠れて話を聞いていなさそうだ。だけど男の子は素直に頷いたので、これは大丈夫だろう。
そう思って無警戒に探しに行ったのが悪かったらしい。
具体的に言えば……、後から聞いたことだが、あの子たちのところにガッシュが歩いてきたこととか。
「ウヌ? おまえたち、何か困っておるのか? そっちは泣きそうではないか」
自分と同年代に見える子たちが困ってる様子を見て、ガッシュは完全な善意から声をかけて。ただ二人とも、ガッシュを見て驚いた顔をしたらしい。「ウヌ?」とよくわかっていなさそうなガッシュに、男の子、スギナって子の方が事情説明をして。
「さっきこっちに来ていたお兄さんが、職員さん呼んで来るって言っていたから、待ってるんだ」
「うん…………」
「ウヌゥ、しかし普通の大人でも、あの高さで植物を傷つけずにとるなど、難しいのではないか? 大人があの木に登れば、間違いなく折れるぞ。
私はつくしと友達になったから、ここの植物たちを出来る限り傷つけたくないのだ」
その思考がどういう経緯を辿ってどう極まったのか。
「ウヌ! よし、私があのお面を取ってくるのだ!」
「えっ!? いや、危ないでしょ流石に」
「お、おぉ……!!?(相変わらず前向き、『落ちこぼれのガッシュ』)」
ガッシュの中ではそういう結論になったらしく、俺が到着するよりも先に、最初にヤシの木を駆けのぼった要領で木の上に上りあがって。
つくしが別なプランターに行ったのかつかまらず、通りがかったエプロン姿にニット帽、半透明なサングラスの職員さんを連れて、元の場所に戻ってくる頃には、もうガッシュがお面を手に取ろうとしていた。
「ガ――――ッシュ!? 何やってるんだ! 危ないだろ!」
「ウ、ウヌ!? 清磨、これには深い訳が……、わーッ!!?」
子供を心配する気持ちがそのまま表情となって表れて……、いるはずだ。うん。さっきの男の子と女の子が「ひっ」とか「お、鬼……! 本物の……!」とか言ってたけど、きっと気のせいのはずだ、うん。なんなら隣の職員さんも「えぇ……?」って俺を見て困惑してたけど、別に、普通に心配だから怒ってるというだけだ。
早く降りてこい! と言えば、だけどガッシュは首を横に振る。
「しかし、もうちょっとでお面に手が届くのだ。うん…………、しょっと!」
「止めろガッシュ! 流石にそれ以上行くと――――」
「ウヌ! 見ろ清麿、このように…………、あっ」
そして枝の先に手を伸ばした後、そのまま重心を崩して木から手が離れるガッシュ。
ガッシュの名前を叫びながら、走り出す俺。位置関係から言ってギリギリで間に合うか間に合わないか。退院してからまだそんなに時間が経っていないとはいえ、もってくれよ、俺の身体…………!
そしてガッシュを受け止めるために全力だったから、気付くのに一瞬遅れた。
「……春彦」
「うん、まあ
ウヌ!? とガッシュが声を上げる。俺は走りながら、ガッシュは落下しながらも、お互い驚愕した。
あのマングローブの木の地面から、根っこがバキバキと音を立てて地面から地上に生えて。それと同時に枝が一瞬で生い茂って、ガッシュの背中にぶつかり、落下速度と威力を落として――――。
俺がガッシュをキャッチする頃には、もう然程に衝撃はやってこなかった。
明らかに計算されたような枝のいびつな、自然界ではありえない生え方。そもそも地中から植物がいきなり生えるというその現象。
「大丈夫か? ガッシュ」
「う、ウヌ。お面も無事なのだ」
すっと差し出すお面を、浴衣っぽい恰好の子が受け取りに来て。
そしてその後方、「緑色の魔本」を持って居る、あの職員さんと。そんな彼の手前に、当たり前のように立ってる男の子。
「まさか、アンタたち…………!」
男の子は無表情のまま。女の子は、男の子の背後に隠れるように。
そしてあの職員さんは、サングラスをずらして額にかけて。
「無事でよかった! いやー、バイト先で変な事故とか洒落にならないからな! いやー、こっちのお子様たちが済まないっ」
「……!?」
「いや、だって僕は止めたし、ガッシュのこと」
「えっ?」
「う、ウヌゥ?」
驚きながらも、いつでも臨戦態勢に入れるくらいに腹をくくり始めていた俺に、心底安心したような声をかけてきて、思わず困惑した。
・原作第13~15話相当編その1。当然のことながら原作崩壊してます。
・訓練する必要性もないくらい実戦経験がイベリア半島で出来てしまってるので、必然的にイベントのフラグがおかしなことに。
・ツヅリとスギナ、ガッシュとティオみたいなお友達と言う訳ではないけど、ぬるく一緒に遊ぶくらいの交友関係にはなってる。
・二人とも当然ガッシュのことは知ってる。ただリアクションから「あれ? これひょっとして記憶喪失なんじゃない?」とオタク的な勘で察したスギナ。
・ガッシュ「大人の職員より私の方が頑丈だし力もあるだろうだから、植物を傷つけずあのお面をとれるのではないか?」という発想で自分から動いた感じです。
清麿も、ガッシュが落下してもそんなに大けがにはならないと思ってはいるけど、それでも痛いことに違いはないだろうと思って走り出した。つまりは保護者してるイメージです。
それはそうとして鬼! 悪魔! 清磨! の顔にはなってる。
※コピペミスにつき呪文修正