「まあ、自己紹介しておこう。俺は春彦。春彦・C・花柄・Gだ。こっちはパートナーのスギナ」
「よろしく」
「で、そっちのスギナの後ろで人見知りしてるのは……、ちょっと預かってるツヅリだ」
「…………ど、うも」
そう軽い調子で挨拶をしてくる職員……、いや、アルバイトの男。見た目は高校生か大学生くらいに見える風体はどこか飄々としていて、魔物同士が出会ったというのに明らかに調子が軽い。
あのレイコムという魔物や、ブラゴやシェリー、犬型のあの魔物ともまた違う。スギナという魔物の子も、パートナーである春彦という彼も、どちらも明らかにこちらへと攻撃の意志を示さない。
いやそれよりも、さっきの、ジュロンとか言ったか? 植物を操る術を見ても、あの女の子は特に驚いた様子もなかった。というか……、うん、なんかよく見るとスギナって子もあのツヅリって子も、目の下にガッシュみたいな線が入ってる。もしかしなくても、あっちの子も魔物?
いや、だとすると何でそんな、魔物同士がまるで普通の友達みたいに遊んで……? ブラゴやシェリーの言葉や態度を思えば、そんな生ぬるい付き合い方が許されるような訳でもないだろうに、どうして。
いや、それとも――――。
俺の困惑をよそに、ぐぅ、と大きな腹の虫が響いた。
俺を含め、全員がガッシュの方を見る。
「す、スマヌ、安心したら腹が…………」
「あー、そういえばもうお昼だっけ。でもバイト中だしな……」
言いながら春彦は、自分の本をまた肩掛けバッグに入れ直して、エプロンを少し整えてから財布を出して、千円札を三枚手渡して来た。
「入口の方、ベンチあるところまでは飲食可だから、近所のコンビニで何か買ってきなよ。お金はまあ、年長者のお兄さんのおごりってことで。
それに君、清麿君だっけ? 色々話を聞きたそうな顔してるし」
「…………これだけは聞かせてくれ。アンタ達は敵じゃ、ないのか?」
俺の質問に、一瞬驚いた顔をした春彦は。苦笑いしながら俺達の背中を押しつつ、やっぱり軽い調子で返答してきた。
「今まで随分好戦的な相手ばっかと戦ってたってのは判ったけど……、こちらからは状況次第ってことで、一つ。
とはいえ最初は話し合いから始めようじゃないか」
「……わかった。後、おつりは後で返します」
「いや、気にしないでいいよ? それに多分、魔物の食欲じゃ――――」
「清麿! コンビニにブリは置いていないのか? 頭から尻尾まで!」
流石に無いだろとツッコミを入れながらも、春彦が浮かべた微笑ましそうな苦笑いに、何とも言えない気分になった。
結局、おつりは余らなかった。……ガッシュがサンドイッチとかおにぎりとかを大量に投入していたせいだ。当然ブリはなく、ブリが具材になったおにぎりやサンドイッチもなく、涙ながらに買った結果大量となってしまった。
……流石にほぼ全部使いきって申し訳ないので、半分の千五百円は返金した。そしてそれも含めて、帰ってきた俺達を見た春彦。相変わらずエプロン姿のままの彼は、やっぱり苦笑いした。
「そんな風になるとは思ってたよ。…………って、あー、別にいいのに。まあ、気が晴れないっていうならもらっておくよ」
「いや、こっちも食事をたかるような形になるのは心苦しいというか……」
「お主たちもどうだ? いっぱい買って来たのだ!」
「春彦のお金だけどね」
「う、ウヌゥ……」
「いや、大丈夫だよガッシュ。春彦があげたお金だし、何か少し戻してもらってるみたいだし。でも気にしないでいいよ。ツヅリはパートナーがお弁当作って来てるの持ってきてるし、僕、小食だからこれ(にぼし1パック)で充分」
「…………じゅるり」
「ウヌ?」
「……ツヅリは欲しそうだね」
…………まあ結構グダグダだったけど、そんな流れで昼食をとる流れに。
春彦さんはシフトの関係でまだ食べないらしいけど、ガッシュたち魔物組はブルーシートを広げて仲良く? おにぎりとかを食べ始めてる。こうして見ても不思議なイメージだ。決して友好的な雰囲気には見えないけど、特に戦う訳でもなく……、そう、まるで接点のなかったクラスメイト同士が適当に会話しているような感じと言うか。
「モモンとかキッドとか、そういう子とは同じクラスだったらしいけど、ガッシュ君はクラスが違ったらしいね。聞いた感じ、どっちもいじめられっ子のカテゴリーには入ってたみたいだけど」
「っ!? な、何で俺の考えてることを」
「いや、そんなに分かりやすくあの子たちみてたら予想もつくって。……まあ、スギナが『ガッシュが記憶喪失かもしれない』って言ってたのと、パートナーの君がちゃんとお兄ちゃんしてるようだったからさ。色々気を回しているかなって」
「…………そう、ですか」
なんとなく改まって、敬語になった俺。飄々としてつかみどころがなく、しかし話し方とか雰囲気で、敵意や戦意がないことをアピールしてくるこの人。最低でも年が五つは離れているだろう春彦
食事をする俺の横で、さっきのマングローブの近くの土をならしている。さっき術を使って木を生やしていたあの場所だ。術を解除したせいか、ガッシュの落下の衝撃を受け止めていたあの木も姿を消し、乱雑に荒らされた土だけが残っている。そこを丁寧にならして、周囲の土との差を減らしてく動きは、なんだか手馴れていた。
「じゃあ、改めて。何を聞きたいのかな?」
背を向けて作業しながら、話しかける春彦さん。サンドイッチを一口食べて、少しだけ思案する。
「……あのスギナって子とツヅリって子は、魔界で友達だったのか?」
「んー? いや、そういう訳じゃないみたいだけど。ツヅリの方が一方的にスギナのことを知っていたみたい。本来、相性的にツヅリの術属性は、スギナの術属性の天敵らしくてね。こっちに来てから、最初に潰そうと思ってたて言ってたらしい」
「随分物騒だなぁ…………」
「そりゃ、仮にもバトルロワイヤルだからね。……それがどうして仲良くなってるのかっていうのが聞きたいのかな? 流れというか成り行きなんだけど。成り行きとしか言いようがないというか、あの子もそのパートナーも結構図太い所があったせいというか……」
「ず、図太い…………?」
ポンコツと言ってもいいんだけど、とか言ってくる春彦さん。いや意味がわからない。
「本を燃やさないって決めたのはスギナだから、俺はその判断を尊重してあげたって感じかな。……あれは同情というか、もどかしさというか、そんな感じだったのかなぁ。
パートナーと魔物との気持ちというか、信頼関係みたいなのが上手く形成できてなくって。そのまま別れたら後々しこりになりそうだったって」
俺の頭の中に、冷気を使うあの魔物の子の映像がフラッシュバックする。あの子とその持ち主も、パートナーとして「本人たちなり」の形で信頼関係はあったのかもしれないが、それも何か致命的にズレていた。だからこそ、そのお互いの在り方と目指す先に怒れたから、俺とガッシュが全力で戦えたんだが。そういうこと、なのだろうか。
いや、スギナの背に隠れたりするツヅリの雰囲気からいって、もっと普通のことなのかもしれない。例えば普通の人間関係というか、コミュニケーションのギャップというか。少なくとも本を燃やさなくても再戦闘にはならないと思われるだけの何かがあったってことなんだろう。
そしてその結果か、スギナとツヅリはどう見ても友達同士の距離感に見えた。
…………そして二人とも、何故かガッシュとは微妙に距離感があった。
「う、ウヌ……? どうして二人とも、私から数歩離れるのだ? 私が何かしたか?」
「ツヅリは人見知りだからどうでもいいとして「……!?」、僕はちょっとガッシュ、君には思う所があるだけだよ。悪いね、僕個人の事情だ」
「ウヌ? お主、スギナといったか。魔界で私と友達だったのか!?」
「思う所があるって言ってるよね、話聞いてないのかな? これだから陽キャは……」
「それ、わかる……」
「ヌゥ……?」
「一体どうしたんだ、あれ」
「ご、ごめんね。どーもスギナって魔界だと、いじめられっ子の中でも影が薄かったらしくて……。直接的にいじめられはしてなかったけど、無視とか空気扱いはざらだったみたいで、変な所で捻くれてるんだ」
ガッシュに顔を近づけて「僕の目を見なよ、澱んでるだろ。陰キャなんだよ」とか言って困惑させてるスギナ。……ま、まあ居ない者扱いっていういじめも、される側の気持ちは「良くわかる」から、捻くれるってのも理解はできる。というか、俺だってその典型だった訳だし。ただあの子には、俺の時のガッシュみたいな誰かがいなかったのか、ひねくれたまま変に開き直ってしまった感じらしい。
というか、ガッシュもいじめられっ子だったとか言ってたか? 今。
「所詮は一歩踏み出す勇気がないモブの僻み、みたいなものだから、ガッシュは悪くないよ。ツヅリはお面つけたらアレだけど」
「アレって、何……?」
「お面とは、ツヅリの持つそれかの。ウヌゥ…………、か、格好良いのだ?」
「普通に怖いって言っていいよ。着けたときのツヅリの豹変具合もだいぶ怖いし」
いや何と言うか、あのスギナって魔物の子は発言がことごとくネガティブだった。見ていて大丈夫か不安になってくるネガティヴさというか。俺みたいに周囲を見下す開き直り方じゃなくって、自分がダメな奴だって受け入れてしまったような開き直り方だ。
何であんな偏屈というか、何と言うか……。魔物の子とはいえ見た目幼児の発言なせいで、何か妙なダメージを負う。
「スギナが
「っ、わかるのか」
「なんか頭の回転は俺とかより絶対早そうな気がするけど、まだまだ表情に出てるからね」
言われてはっとして、自分の顔を触る。目とか口とかの状態を確認する俺に、春彦さんは生暖かく笑った。
「そうだね、例えば…………、君とガッシュ君が何を優先しているか、ってところがキーになってくるのかな。多分今まで、他の襲ってきた魔物は『王様になること』を最優先で襲って来てたんだろう。だから想定してる戦い方はとにかく見敵必殺だし、どんな非道な手段も『勝てばよかろうなのだァァァァ!!!!』って開き直って襲い掛かって来るイメージ」
「何だその、妙に力の入った言い回し……?」
「あはは、まっそれは置いておいて。
うん…………。正直スギナって、どういう王様になりたいかってイメージはあるみたいなんだけど、わりとそこまで積極的に王様になる! って感じじゃないんだよね」
こっちで色々教えたら、権力とか責務とか、自分勝手に振舞った時に何が起こるかとか、そういうのを色々知ったら怖くなっちゃったんだと思う、と春彦さん。積極的じゃないというか、ネガティブというか、おっかなびっくりというか、そういうことだと言ってくる。
なるほど、と素直に頷けないのはそれだけ信頼関係がないからだが。なんとなくガッシュたちと遊ぶあの子を見て、そのどんよりした雰囲気を見ると、あながちその言葉に嘘はないのかもしれない。
「参考までに聞いておきたいんだけど……、ガッシュ君はどうなんだい?」
「どう、とは?」
「王様になりたいのか、そうじゃないのか的な。見た感じスギナはともかく、ツヅリと仲良くできてるってことは、君たちもそうじゃないってのは判るんだけど…………。
それはそうとして、戦い続けるのには何かしら理由ってものが必要じゃないかな? それはもちろん君自身のことについても」
「…………」
春彦さんのその言葉に。特に何か話す義務はある訳ではないのだけれど。
それでもふと自分の中でも整理できていない部分を言語化したかったのか、俺の口は動いていた。
※ ※ ※
食事を食べ終わって遊び出すガッシュたちを見ながら、清麿君は少しずつ内心を語る。
「改めて言葉にすると恥ずかしいんですけど……、友達だから、ですかね」
「ふぅん?」
俺の反応に、言葉を選びながら。そしてちょっと居心地悪そうにガッシュたちの方を見ている清麿君は、まあ見ていて微笑ましいものがあった。年相応に中学生らしいと言うか何と言うか。いまいち事情は覚えてなかったけど、それなりに原作だとしっかりとした理由があったはずだ。少なくとも俺がスギナに肩入れするよりは真摯な理由で、だからこその主人公なんだろう。
「俺が一番苦しい時、心が悲鳴を上げていた時……、アイツは当たり前のように、俺の前に立ってくれた。それで、凄い救われたんです。だから…………、アイツが王様がどうとか思ってはいないんですけど。それでも魔物との戦いで、今のまま負けたら、きっとそれで終わりになってしまう。
それじゃダメなんだ。アイツがアイツの幸せや目標や、そういうものを見つけて、そのために全力になって……。そうなった時に力を貸してやれるような、そんな人間でいたいんです。
…………たぶん」
たぶん、と最後についちゃうところが中々中学生らしく、ニマニマと中々嫌な笑みが浮かんでいる自覚がある。
「だったらとりあえず、不戦ってことでいいかな? 俺達。お互いに魔物をこっちに残しておきたい理由がある訳だし」
「そうだな。……春彦さん、さっき『流れで』って言ってましたけど、差し支えなかったら聞いてもいいか?」
おっと、それはそうと清麿君からナチュラルに聞き返された。表情からして話の流れでふったっていうのもあるんだろうけど、こっちに内心を吐露した分、距離感が縮まったってことだろう。
これに答えないっていうのも、ちょっと年上のお兄さんとしては格好悪い。……せっかく漫画の一般モブよりはイケメンな感じに転生したんだし、そういういかしてない振る舞いは、主義に反する。
サングラスを上げて肩をすくめて、俺は清麿君の方を向いた。
「…………俺とスギナは、うーん……。最初に会った時にかなり一蓮托生な感じだったから、後は惰性か? 惰性で友達やってて、そのままここまで来ているというか。
俺個人は保護者のつもりだけど、スギナがどう思ってるかは聞いて無いな」
「一蓮托生?」
うん、と頷き、俺は少しだけあの状況を回想する。あの、現地マフィアに追われながらカブトムシみたいな魔物のペアと戦っていた時のことを。
『いい加減死ぬぴょん♪ 第四の術「ジンガムル・ディオボロス」――――』
『――――第二の術「ジュオウ・リシルド」! うおおおお、死なんわっ!』
ジュロンの木の根っこで相手を拘束しても銃弾の回避に集中できないから危ないし、なんならタンクローリーも突っ込んでくるし。そもそも魔物の方は拘束しようにも「すりぬけて」くるし。というか土も銃器もマフィアの衣服とかも一気に劣化したり錆びたり腐ったりしまくってたし、どう考えてもオーバキルの極みだ。改めてよく生き残ったって思うし……、あのタイミングでオウ系の術が出るくらいには精神的に追い詰められてたってことだろう。
というか、マフィアの追跡の車を全部おじゃんにしておいて、道路とかも大変アレなことにしておいて「弱い術」と断言したあの魔物のパートナーお姉さん、やっぱりおっかない……。
「世の中にはね、信じられないような状況や現象っていうのがあるし、人為だろうが自然だろうが関係なくヤバいもんはヤバいんだ。
そういうのを相手にして辛うじて生き残ると、妙な連帯感が生まれる。…………敵味方関係なくね」
そう、そして。
あの空間操作の魔物の能力も、ジュオウの力かで封じられてしまい。しばらくはお姉さんたちもその場から逃走できず、俺達四人で仲良くカーチェイスだったり何だったり、それこそ〇〇7ばりのスパイアクションじゃないけど、大忙しだったわけだ。
おかげでお姉さんとは敵同士なのに謎の親近感を抱くに至るし、あっちもあっちで結構気安い感じになって、今でもたまにこっちに遊びに来る。ツヅリがその二人を見てガクガクブルブル震えていたといえば、どれくらい俺とスギナの印象からかけ離れているかは察せるだろう。本来なら対極といっても良いくらいのパートナー同士だったのに、一応の連帯感が生まれるくらいには、お互いが謎の死線を一緒に乗り越えたということなのだ。
当然、相方の魔物との関係性も、それによって大きく変わる。
まああれからそれなりに時間は経ったけど、今の関係性があるのは間違いなく「あの」最悪のスタートダッシュがあったからだ。力に溺れる余地もなく、身の危険とストレスだけは未だに残っている。
スギナの術が妙にいっぱい出るのもそのあたりに由来してるんじゃないかと踏んでるけど、実際どうなんだろうねぇ。
発現理由については雑なものの、スギナはスギナなりに普段から多大なプレッシャーと死を意識するストレスにさらされているからこそ、それらが戦闘なしに結び付きやすいってことなのだろうし。
「そういう事案には関わらないこと一択なんだけど……、避けられない場合っていうのも結構あるからね。唐突に来るときは来るから、ある程度覚悟しておく方がいいよ」
「……あんまり参考にはならなそうだけど、気にはとめておく」
いや、残念ながら参考にはなるんじゃないかとは思うけどねぇ。君ってば主人公ペアなわけだしさ。
そんなことを考えながらも口に出さない俺だったけど。
「……っ、ちょっと待って!」
「ウヌ? どうしたのだスギナ」
「スギナくん?」
「いくよ、ペニ! 第一の術『ザグルク』!」
スギナが両手を地面につけながらガッシュたちの前で硬直したのと同時に聞こえた呪文の叫び……。思わず俺は清麿君を庇うように飛び、一緒に地面に転がって。
俺達の真上を通過した「金色の鳥」の雷撃に、思わず顔をしかめた。