「……見事に俺達のこと無視してるな」
「だね。…………狙いはガッシュかな? 落ちこぼれだったし、昔は術もロクに使えてないし。いや今もかな? ツヅリとお揃いだ」
「っ!? ちゃ、ちゃんと使えてるもん」
「気絶」
「はうっ」
「――――『ザケル』!」
「――――『ザグルク』!」
清麿君の詠唱? と、ガッシュから放たれる電撃。びっくりするほどアニメや漫画の通りなイメージで、それでいて質量を伴うそれは見ていて中々にハラハラする。スギナの植物操作も初見のときは中々アレだったけど、ツヅリみたいに得体の知れないモノの放出じゃなく、しっかりと物理現象としての電撃なので、びっくりするくらい迫力があるのだ。
そしてそれを受けて、あのインコにしては中々いかめしい意匠の施されたアーマーみたいなのをつけた鳥は、パートナーの小学生くらいの男の子の詠唱に合わせて全身を発光させながら、ザケルへと激突していく。
気のせいじゃなければ、呪文詠唱と一緒にあっちも電撃を放出していて、詠唱直後から数秒だけその速度はとんでもないことになっているような……。
「春彦、あれ術のエネルギーを身体に溜めてると思う」
「何?」
「あの鳥に焼かれてる木々がそんなこと言ってるよ」
スギナの言葉の通り、ザケルの電撃を受けて動きがそれたり、あるいはガッシュが素手でつかんだり投げたりというのを繰り返してる最中。縦横無尽に動くあの鳥型の魔物は、植物園の木々の表面に傷をつけて行ってる。時に蹴り飛ばしたり、時にかわされた突進が直撃したり。その木から徐々に威力が増してるって情報が来てるということか。それはそうと、あーあーつくしの姉御がまたキレ散らかしそうだ……。
そしてそれとは別に、ガッシュも怒りに震えてる。
「ウヌゥ……、戦うならせめて、園の外でやるのだ! おまえたち、植物が可哀想ではないかっ!」
「ペニ、ザグルクを維持したままアタック!」
「なっ!!?」
「ガッシュ!」
つくしの姉御と友達にでもなったような物言いをするガッシュ。ここの植物を傷つけて欲しくないって言うのは、アルバイト的には納得するところなんだけど、いかんせんそう言ってるからこそ、マングローブやらヤシの木やらを「盾にされて」、自由に術を使うことが出来ないでいる。
まあ、そもそもここを戦闘するのに選んでいる時点で、敵の方はそのあたりを考えちゃいないんだろうけど。
清麿君と色々話し合ってる時に襲撃された後、そのままあの魔物はガッシュ目掛けて突進を繰り返していた。清麿君が庇った俺から離れてガッシュの元へ行き、ラシルドって盾の術を詠唱したり色々やったけど、戦闘自体は膠着状態。むしろガッシュが押されている。
お互い電気の術属性の魔物同士ってことだからこそなんだろうけど、その隙をついて足をくじいたツヅリをおんぶしてこっちに戻ってくるスギナは流石と言えた。思いっきり目の前でそれをやってるのに、何故か途中からガッシュとあの鳥の魔物の意識の外にいってるらしいスギナ。直に指摘したら「空気だからね」とか濁った眼で言わないけど、逆に頼もしくなるくらいのステルス性能だ。
そんな訳で、これ幸いにと避難協力を他のバイトの大学生とかと一緒にしてる俺達だ。時折清麿君がこっちに視線を寄越して目礼してくるので、動きとしては間違っていないだろう。
その上で分析を続ける俺達。
「見たところ、ガッシュ君の術は二つ。基本のザケルと、防御反転のラシルド。
対してあの鳥の方の術はもっとありそうだ。あっちの方が余裕あるってことはガッシュ君がピンチってことなんだけど…………、どうする?」
あんな魔物との戦闘があったかどうかなんて記憶に全然ないんだけど(植物園はむしろ俺とスギナのペアの独壇場だろうし)、それでも主人公だから何とかなるだろうと言う謎の確信が俺にはある。ただこの確信だって、俺と言うイレギュラーが紛れ込んでる時点で色々と違う部分も出てきているだろうし、素直には納得しておけない。
ということで、スギナやツヅリにも意見をつのる。助けるか、放置するか。
「……ライバルは、少ない方が、いい」
「えぇ……」
「マジで……?」
一番シビアな意見を言ったのはツヅリだった。あろうことかガッシュかペニか、どっちかが退場したのを見計らって俺達に攻撃しろとか言ってきている。完全に漁夫の利を狙う強かさを、このオドオドしたキャラから繰り出してくるのイズ何?
ぼそっとスギナが「女の子、怖……」とか言ってるのが印象的だが、残念ながら男だってそういうのいないわけじゃ無いからまだまだ恐怖できるぞ(謎アドバイス)。
「んー、でも直接助けるって言っても難しいよね。ポ〇モンだってアニメとかで、トレーナー同士がタッグでバトルするにしても、お互いのコンビネーションが成立してないと上手くいかないし。
ガッシュと僕とか、ガッシュとキャンチョメとかガッシュと
下手すると足引っ張るよ、と冷静な判断を下すスギナ。ナチュラルに助ける前提で会話してるところが、個人的には好印象だ。……どうでもいいけどポケモ〇って名前が出た時にツヅリがはっとした顔で反応してるのは何だろう。ひょっとして君ってば、化野先輩からゲーム機もらってやってるのかい? なんかうずうずしてスギナの方見てるし。
その話は後でってことでツヅリのリアクションを無視しつつ、俺も清麿君たちの動きを観察して、分析してみる。
「…………パートナーと魔物の信頼関係は、上々ってところだな。ツヅリと化野先輩のときみたいな、口から術を放出する魔物らしい弱点が見当たらない」
「あっ、そうだね。ケツから火を噴く魔物のアレよりしっかりやってる」
「け、おケツ……?」
あんまり詳しく話す気はないけど、とりあえず「ツヅリたちの後に、ケツから術を放ってくる魔物の子と戦って勝ってるんだ」と軽く言う。あれは絵面がギャグすぎたけど、結構強敵だったからな……。ちなみに決まり手は純粋なジュロンによる拘束。ああいう使い方したのは久々だったので、スギナもなんかヘンに疲れていたっけ。
いや、そんな話はおいといて。
「
そうそうこれこれ、本を持ってない片手で指さして、その方向にガッシュが向いてザケルを放つやつ。アニメでなんとなく見た記憶があるそれをやってる清麿君とガッシュとの動きに、ラグは存在しない。縦横無尽に軌道を描いているあの鳥の魔物は、ぶっちゃけ「早すぎて」多方向からの攻撃に等しいっていうのに。それに翻弄される様子もなく、清麿君の動きに合わせて適宜対処しているって流れだ。
全てを避けたり、迎撃できている訳じゃない。傷は確実にガッシュたちの方にたまっていってる。それでも、見ていてそれなりに安心感があるバトルになっているあたり、その状況にもっていってる清麿君の頭の良さがよくわかる。
だからこそ…………、知らないことには対応できないんだろう。
「それはそうとして、ペース配分が気になるな」
「
あの魔物相手に術を使いすぎのガッシュと清麿ペア。そうなると早々にガス欠だろうしということで、俺たちもちょっとだけ準備しておくことにした。
「第7の術『チャージオ・ジュモルク』!」
「おいしくな~れ、おいしくな~れ」
「え? え? …………何、それ、キモい」
今度はツヅリがドン引きするターンだが、まあ仕方ない。植物化した右手から果実を作り出したスギナだが、その見た目が「ゲーミングカラーに発光する」リンゴなのだ。目に悪いし自然色ではありえないし、なんというかいつ見ても酷い。
※ ※ ※
「ちょ!? 清麿、一体何が起こって――――きゃっ!」
「つくし!」
「ウヌ!!?」
あの魔物が無差別に木々を切り刻んだりするものだから、事務室の方にいってたつくしも慌てて出て来た。春彦さんの方より俺たちの方に来たのは何故かわからないけど、そのせいで足に掠り、その場で倒れる。
思わず庇おうとそっちに走るけど、それを見越していたのかあの鳥は俺の方目掛けて――――。
「――――ウヌゥゥゥ……!」
ガッシュ! ぎりぎりで間に合ったガッシュがあの鳥を殴りつける。その腕は電撃でボロボロになっている。同じような術属性でも、術の発露の仕方が違うらしく、こちらのザケルのダメージがほとんど相手に通っていない代わりに、あっちの攻撃は見事にガッシュへと貫通していた。
抱き起すけど、痛みで苦笑いを浮かべるつくし。声は出ず、足を庇う様な動きのまま立つ余裕が無いらしい。
いや、つくしだけじゃない。ここに遊びに来ていた爺さん婆さんとか、そういう普通の人たちも巻き添えになってる。
相手は明確に俺達を狙ってきたはずなのに、だっていうのにこれは何なんだ。
決して俺達が逃げまどってるわけでもないのに、無差別に人を襲う様な事を――――。
「あーあ。やっぱりコントロールできてないんだ、ペニ」
「…………」
「何でだんまり? まあいいけど。…………圧倒的な速度と圧倒的なパワーで、君以外の魔物を蹴散らすんだ。『学校の時』みたいにさ」
学校のとき、だと?
俺のつぶやきを拾ったパートナーの男の子。小学生だろうあの子は、眼鏡をくいっと持ち上げて言う。
「ああそうさ。いつでも一人だった僕を、力でいつもクラスでねじ伏せられていた僕を、救ってくれたのがペニだ。魔物の術で、その力で、もう誰もクラスの子たちは僕に逆らわない!
そして、だから僕はペニを王様にしてやるんだ。それが、僕からペニにしてあげられることだから――――第二の術『ラウザルク』!」
そして、動きを止めたあの魔物に、園内の天井付近に突如現れた雲から雷撃が落ちる。金色の電撃をまとっていたはずの鳥は、その全身が金色に輝くように。
あれは何だ……? さっきまでの術は、あの魔物の身体を瞬間的に電気と同じ速度で動けるようにするもののはず。電撃を身にまとい、一瞬だけ超高速でせまる体当たり、それがあの術だろう。だが、見た目がほぼ同じに見えるのに違う術を使ったと言うことは……。
「――――!」
「ガハッ!」
答えはすぐに出た。そうか、純粋な身体強化! 電気の速度で迫りはしないが、今度は正面から脚の動き一つでガッシュを捻り、こちらに投げ飛ばしてくる。
つくしを抱えたままガッシュを受けることは出来ず、俺達三人はいっせいに転がった。
「誰も、逆らわない……」
俺だって、いじめられていた訳ではないとは思うが、それでも「そう見える」状況に晒されていた。だから判る部分もある。だけど、わからないのはその一言だ。
「魔物の力で、クラスメイトをいたぶり返したってことか?」
「力に酔っておるのか、おまえ!」
「だってそれがこの世界の真実なんだから。……確か『落ちこぼれ』のガッシュくんだったね。せいぜい僕のペニの、トレーニング用のサンドバッグになってよ」
行って、という一言とともに、彼の隣で飛んでいたペニというらしい魔物が、俺達に迫ってくる。
SET! と再び指先を構えて術を唱え、迎撃をもくろむ俺達。だが――――。
ぱしゅ、という音とともに、弱い電撃が辛うじて出る程度。
「な……?」
「う、ぬぅ?」
「――――――――アーッハハッハ! お兄さん頭悪いね。やっぱり何も知らないで使ってたんだ。
ペニ、解除して『ザグルク』!」
とっさに本を庇い、背中を向ける俺。その背後に強烈な熱と痛みを喰らい、声を上げて倒れた。清麿! と俺を呼ぶガッシュの声が聞こえる。
一体何故だ? 術は発動していたのに、威力が極端に弱くなって…………、燃料か何か? いや、術に燃料なんて概念はないはず。そもそもザケルやラシルドを使う時に、何か代償のようなものを消費しているはずもないし…………。
身体を無理やり起こそうとする俺に、何度も連撃してくるペニ。ガッシュは俺の前に立って、つくしや俺にその電撃や突進がいかないように庇っている。
「ぬぅ、ヌゥ、ヌォオオオオオオオオオオ――――――――!」
「しつこいねぇ。落ちこぼれなんだから、とっとと力に屈しな! 『ザグルク』――――」
「――――『アーガス・ジュロン』!」
そして、ドーム状に瞬時に生えて組み合わさった木の根っこが、俺達の周囲を覆った。
車でも激突したような打撃音。ばちばちという放電音。それらが目の前の木の根にぶちあたったっていうのに、へこみも割れもしていない。
ばきばきと、やがて俺達の後ろの方に隙間が空いて……。入ってきたのは、春彦さんたちだった。
「春彦……? それにスギナも」
「姉御、ご苦労様ッス」
「いや出所したヤクザとかじゃないんだから……」
少し回復したらしいつくしにお道化て声をかける春彦。いや、何で姉御なんだとツッコミを入れる余裕はない。かろうじて上体を起こした俺に、春彦はサングラス越しにウインクしてきた。
「一応、避難は一通り終わったと思う。……下手にコンビネーションプレーとかはできないから、あくまでサポートだけど協力するよ」
「ありがとう、ござい、ます…………」
「あと、これ食べな? 少し心の力を回復できるから」
「「心の力を、回復?」」
俺とガッシュの声が重なる。春彦さんは「やっぱり知らなかったか」と苦笑い。
「本が心の力をエネルギーとして魔物の術を発動させるってのは、流石に知ってるかな。だけどそれも無限じゃ無いんだよ。どんなエネルギーでも使えば空になる。ポケモ〇だってPPがカラになれば最後はわるあがきするしかなくなるみたいな感じだね」
「何でそれで例えたんだアンタ」
「清麿、ポ〇モンとは何だ?」
聞いたことのない名前にワクワクしてるガッシュに一瞬白けた目を向ける。いや、そっちの話は後回しだガッシュ。話が進まない。
「例えばどうしても許せないようなことをする魔物とか、魔物に悪事をさせるパートナーとか。そういうのに怒りを燃やしても、そう言う感情って長続きしないだろ? 当然、その気持ちに変わりはなくっても、瞬間的にわいてくるエネルギーみたいなものは徐々に落ちていく。
本が使うエネルギーは、多分そういう湧き上がってくるエネルギーなんだと思う。だからさっき、十回くらい呪文を唱えて決定打に欠けてたけど、術自体はいっぱい発動してるわけだから、エネルギーは比例して消費してるってことだ」
「なるほど。…………頭では感情を理解していても、心の底から気持ちが追い付けるか、みたいなことですか」
「そうそう。それで、そのまま帰り道とかで魔物に遭遇すると危ないし、とりあえず食べな? 大丈夫、毒リンゴとかじゃないから。俺もたまに食べるし」
「え、えっと…………、本当にこれ大丈夫なんですか?」
……そして春彦さんから差し出されたそれは、こう、何と言うか、ピンク色っぽい色をしたリンゴだった。リンゴだったけど、厳密には色がただのピンクじゃない。玉虫色というか、アーガス・ジュロンといったこの木のドームの隙間から入ってくる光に照らされる色味は、微妙に七色に変色していて、はっきり言って気色悪かった。
美味しくなさそうなのだ、と微妙に震えてるガッシュ。
「一応、スギナの回復術だ。身体の方も少しは無理が効くはず。
ただ傷を回復させるとかって言うよりドーピングする感じだから、反動は多少は覚悟してくれ」
「あ、ああ。…………一応、もらいます」
そして味はこう、何と言うか……、栄養剤? あんまり体によくない感じの味だ。しかも生暖かいから、美味いとは素直に思えないし。
とりあえずかじりつくと、果実は色を無くす。一口で効果が発揮されるってことなのだろうか。ガッシュも興味津々と言う感じだったので、食べさせてみるが「ウヌゥ……!? 何だこの、清麿、何だこのぅ……?」といった感じだ。やっぱり素直に美味しいとは言えないよな。
「冷えてないエナドリの味だろうから、そこはお察しだ」
「あ、あはは…………」
「それから清麿君、携帯電話って持ってるよね?」
「えっ?」
そして番号をその場で交換すると、春彦さんはおもむろに作戦を話し始め。
つくしは倒れながら「私、聞いてて大丈夫なのかな……?」と何とも言えない顔をしていた。
・スギナのステルス性能:ガッシュカフェのあのネガティブ具合から勝手に類推。例えば学校のクラスに朝入って「おはよう」と言っても誰一人顔を向けず声もかけず気づかず、昼寝から起きたら全員音楽の授業で誰からも起こされず置いてきぼりをくらったり、体育の授業中にトイレに行っても誰も気にせず遊んでいたり、二人組を作ろうで一人明らかに余ってるのにそのまま授業が進んでしまうといった具合。
えっ只のいじめ? ククク…………。
・黒いツヅリ:引っ込み思案でもじもじしていながら、案外したたかなツヅリ。スギナを狙い撃ちして倒そうとしたりするあたり、見た目通りの性格じゃない。もしかすると精神世界に「内なるツヅリ」がいるかもしれない。しゃーんなろーッ!
・ペニと小学生のペア:詳細は次回おまけ予定?
・SET!:ご存知原作からのガッシュと清麿のフォーメーション。ツヅリとの戦闘経験から「口から術を放射する」魔物の戦い方の弱点みたいなものを分析できているスギナたちからしても、即席で良く練って対応してるという評価。
ちなみに本作では、原作でスギナが倒した口から術を放つタイプの魔物を想定してツヅリを作ってる。
・チャージオ・ジュモルク:
スギナ第7の術。腕を樹木化した後、そこに急成長するリンゴ的な見た目のヤバい果実を生やす。果実自体は一口(1個につき)でエネルギーがチャージされ、身体と心の力を多少回復する。また3個食べるとヤバイエナジーのチャージが完了され、三日三晩貫徹でもパフォーマンスが落ちないくらいギンギンにエネルギッシュになる……が代償として4日目は猛烈な倦怠感と思考力低下に見舞われ、一日が潰れる。
もとはと言えばジュモルク化して春彦とゲームをしていても、肝心の春彦が夜中はすぐ眠って遊べなかったことに不満を抱いたのがきっかけで発現。味がエナドリっぽいのも、もちろん二十四時間戦わせる(?)ため。
※ちょいちょい展開変更の修正ミスがあったので修正