只絶対にシリアスには締めない(確信)
「『ブル・ザグルク』――――!」
『――――西方向、すぐ!』
「よし、SET! 『ザケル』!」
イヤホンにつないだ携帯電話越しに聞こえる方向を向き、そちらにザケルを放つ。
今の所春彦さんからの指示にミスはなく、分身してこちらに突撃してくる鳥の魔物を、ガッシュと俺は捌き切れていた。
あちらのパートナーの子が段々とイライラしているようだが、悪いがそんなことに気を回すつもりはない。既に避難は完了している以上、俺達は確実に、あの魔物を倒す。そのことだけに意識を割けるのがどれだけ有難いか――――。
春彦さんやスギナとだけじゃない。もっと、他にも仲間になりうる魔物の子というのはいるのかもしれない。そんな希望的観測が過るくらいには、今の俺達のコンビネーションは安定していた。
「くそっ、もう一度だ! 第3の術『ブル・ザグルク』――――!」
スギナのアーガス・ジュロンのドームの中で打ち合わせをしていた俺達に対して、あの魔物は分身攻撃をしかけてきた。複数の雷の鳥が連続でバリアへと攻撃をかけ、段々とこげた匂いが充満していった。
それを期に「流石にもう無理か」とドームを解除した春彦さんたち。彼らは彼等でつくしに肩を貸しながら、こちらから距離を取った。
――――そしてその遠方から、スギナは「ジュロン」を使ってこちらをサポートしている。
『分身三体、本体は…………、東、上空からくる奴!』
「SET! 『ザケル』!」
「くそう……、どうしてペニの分身がわかるんだっ!」
種と仕掛けについて明かしはしない。だがガッシュも「ウヌ!」と、少しだけ出入口の方を見て得意げに微笑んでいた。
そう、植物園の外からジュロンを使ったスギナは、そのまま植物を操作するのではなく、園内の植物たちすべてに「力を貸してもらっている」らしい。物理的な攻撃をするのではなく、木々が感知できる情報を収集して、それを春彦さんに伝えているんだ。それを携帯電話で聞き取って、正確な位置を判断している。
そしてスギナたちは、動けない。園内の植物全ての情報を収集する際に、かなり負担がかかるらしく、そのまま戦闘することが出来ないらしい。
『まあ、臨時の助っ人としてはちょっと頼りないだろうけど、そこは容赦してくれよ? 後できれば、あんまり園内の木々を傷つけないでくれ』
「……ああ、努力するさ」
言うなればあっちがオペレーターの役割で、こちらをサポートしてくれている状態だ。
ただ……、そうはいっても限界ってものはある。
「ぜぃ、ぜぃ……」
「はぁ…………、はぁ……」
「……」
「清麿っ! 大丈夫か、清麿」
あの鳥の魔物のパートナーも、俺も、どっちもそろそろ心の力がガス欠だ。あの妙な味のする果実、チャージオ・ジュモルクのリンゴで補って、ようやく五分五分といったところ。多分、あっちの術が最終的に直接攻撃するタイプだからこそ、一度唱えた術がしばらく持続する関係で、俺達よりも使用する回数が少ない。だからこそこっちほど消耗していなかったということなんだろうけど……、こちらの迎撃回数が増えたことで、あちらも余裕がなくなったと言うことだ。
どちらにせよ次で最後だろう。そうタカをくくった俺の判断は、まだ甘かった。
肩で息をしてるあの子供、その手の本は猛烈な光を放ち始めてる――――まるで「新しい術」が出て来た時のような。
「憎い……、こんな状況を認められるか! だって、負けそうじゃないか! こんなに疲労させられて、逆転だってされるかも知れないなんて!
そんなことになったら、また僕はひとりぼっちだ! 弱虫に逆戻りだ! そうはいかない、ペニの力は僕の力なんだ、だから――――」
「――――違うだろ! そうじゃないはずだ!」
思わず絶叫した俺に、男の子は目を丸くする。ガッシュもびっくりしたように「清、麿?」と言ってるが、構いやしない。
「その魔物の子の力で、いじめをなくしたとしても! それはあくまで『魔物の力』なんだ。お前の力じゃない!」
「何を言ってる! 僕が使えるんだから、それは僕の――――」
「――その魔物がお前に力を貸してるからってだけだ! ソイツにどんな意図があるかわからない。だけど! 強い力を手に入れて、『それだけ』に踊らされていたら、きっとお前だっていつか大きな間違いをする!
ちょっと前までの俺みたいに。だからこそ……、俺はガッシュに感謝してるんだ」
「う、ウヌ?」
しゃがみ、ガッシュの頭を撫でる。胸元の携帯電話、イヤホン越しに「ヒュー」と口笛を吹く音が聞こえるのが少し気恥ずかしい。
でも、それでも言わないといけないような気がするんだ。外ならぬ、俺と似たような痛みを感じていた
「力なんて関係ない。魔物なんて関係ない。ガッシュはただ、当たり前みたいに俺と友達になってくれたんだ。
少しばかり周りより頭が良くて、そのせいで浮いちまって、孤独のせいで嫌な感じに周りを見下してた俺を、当たり前のように庇ってくれたんだ。……それがどれだけ大きかったか」
「清麿……」
「だから王様にしたいって? だったら僕と一緒じゃないか――――」
「動機は一緒だけど、結果が違う! そのままいけば、お前は、いや、君はきっと『ずっと一人』のままになる。それじゃ、………………やっぱり寂しいじゃないか」
力だけで圧倒して、誰も逆らえないようにして。それでいじめは確かに消えたかもしれないけど…………、きっと俺にとっての水野のような誰かだって、彼の周りにいるんじゃないか。そう思ったから、「直感した」からこその言葉。
俺の台詞を聞いて、彼は歯ぎしりをして。
「――――うん、やっぱりちゃんと友達やってるんじゃない。いい感じになってるよ、清麿」
「ッ!?」
そして、男の子の背後に現れたつくしが、こちらに集中して気がそれていた彼の手から本を奪った。いや、いつの間に!? 傷を包帯か何かで簡単に手当てした状態で、当たり前のようにこっちに来てる。そんなつくしに「返せ!」と慌てた男のだけど「清麿が言ってた通り、暴力
そんなつくしめがけて、あの鳥の魔物が襲い掛かり――――。
「うおおお! やられっぱなしでいられるかよォ!」
「ッ!? アンタさっき、電撃のタックルで……!」
春彦さんとは別の、大学生くらいのガタイの良い人が来て、ペニの突進をアメフトのタックルような一撃で往なした。つくしを庇うように立って「良く分からないけど早く、あっちの方へ!」とか言ってる。
「二人とも、何で……!?」
「何言ってるのよ、水くさい。私だって友達、だよ?」
「あのサングラスの奴もそうだがなぁ……、大学生のお兄さんが、年下の子供に助けられて、黙ってられねぇよ!」
言いながら何か変な拳法のポーズを取って、ペニにとびかかる大学生さん。
つくしは本をかかえてこっちに走ってくる。
よし、これなら後は―――――――!
「ウヌ!? つくし――――!」
「えっ……? きゃあああああああ!」
その途中、ガッシュがつくしに飛び掛かるように動いて、男の子の持ってたスタンガンから守り。一撃で痛みに顔をしかめるガッシュはその場でうずくまり。
落ちた本を拾って、男の子は再度呪文を唱える。「ラウザルク」と言っていたから、身体強化だろう。脚で連撃して、そのまま大学生の人もこっちに投げてよこすペニ。
改めて本の輝きが強くなり――――――――。来るか、より強い、新たな術が。
「負けない……、僕だって、ペニと別れたくなんかない! ペニは、僕の友達なんだから!」
「――――――――」
今、そんなものを撃たれれば間違いなくやられる。
こっちだってせいぜいがザケル一発か、ラシルドでもそう強い攻撃は跳ね返せない程度だろう。だっていうのにこれじゃあ……。いや考えるんだ、二人を助ける方法を。せめて二人だけでも逃がす方法を――――。
『――――そうじゃないよ、清麿君』
えっ? と。ここまで黙っていた春彦さんの声が聞こえて。
そうだぜ清麿、と大学生の人が、俺に得意げに声をかける。
「なんかわからないけど、あの鳥ッコロは俺が抑えてやる! すげぇ力強かったけど、脚引っ張って飛ぶの妨害するくらいは出来るだろ!」
「私だって出来るか分からないけど、もう一度本くらいは奪えるはずだわ!
……わざわざそのために無理言って、あっちからまた戻って来たんだもの!」
力を合わせるんだ、と。
お前たちは一人で戦ってるんじゃないんだ、と。
二人の声が、言葉が、心が…………、しみるように感じられて。
「…………これが狙いか?」
『心の力は想いの力………………、ってところだな。新鮮な感情、だろ?』
「……ちょっと照れくさいけどな」
嗚呼、そうだとも。今の俺達は、俺とガッシュだけじゃない。
つくしたちも、春彦さんとスギナも。皆で一緒に戦ってるんだ。
そしてもしかしたら…………、さっきからずっと黙ったままのあの魔物を見て。その目に「何か」を感じて。
心の底から湧き上がってくる何かが、ガッシュの赤い本に載り――――わずかに本が「金色に輝く」。
「僕たちの目の前から消えろ! 『ディマ・ラウザルク』!」
「――――――――ッ!」
落ちた雷撃により、鳥の魔物の大きさが変化し。金色のエネルギーで出来た不死鳥のような姿になった魔物は、こちらを見て声もなく突っ込んでくる。
それを前に及び腰になる大学生やつくしの前に立つガッシュは……、ボロボロだけど頼もしく見えた。
「……清麿、『守る心』だな」
「…………嗚呼!」
行くぞガッシュ。この勝負、俺達が必ず勝つ!
「第二の術『ラシルド』ッ!」
「おおおおおおおおおおおおお――――ッ!」
気絶しながらも絶叫を上げるガッシュ。目の前にそそりたつラシルドの電撃の壁面は、いつもより心なしか大きい。
それに直撃する変化したペニ、いや「ディマ・ラウザルク」。これで受け止めきれると思ったのだが、流石にそう上手くはいかないらしい。
「おおおおおおおおおおおお!」
「くそ……、持ちこたえてくれ、ガッシュ!」
本に注がれてるだろう、俺の心の力。輝きはアイツの本のそれに勝るとも劣らない。
だがそれでも受け止めきれるように見えず、ガッシュの肩をもって踏ん張り、気合を入れ続けるしかなくて――――――――。徐々に徐々に後ろ側に傾き「逸らされて」いくラシルドに、万事休すかと思ったその時。
『――――「ジュロン」!』
しゅるしゅると、ラシルドの裏側を支える様に、地面から様々な種類の植物の根っことか、幹とかが生えて、支えになった。
そのお陰で物理的に逸らされることは無くなり、なおかつ直線的なその威力が、地面に分散されて。
『一人じゃないって意味なら、最大の被害者たちにも力を借りないとね』
「……嗚呼、ありがとう!
ガッシュ、このまま弾き返せえええええええッ!」
「おおおおおおおおおおお――――!」
気絶してるのにもかかわらず、ガッシュは絶叫を上げ。
ペニと言っていたあの魔物も、ラシルドの電撃を伴いながら後方へとようやく弾き飛ばされて。
逃げまどう男の子を見て、瞬間、羽ばたいた衝撃で彼を逃がし。……その際に散った雷の火の粉のようなものが、彼の魔本に触れ、引火した。
※ ※ ※
「とりあえず何とかなったかな…………、と」
ジュロンを解除して「疲れた~」と足を投げ出してるスギナの頭を撫でてやる。何と言うか、成長を感じられて色々と微笑ましい。自発的に協力と言う発想に至ったのもそうだけど、あえてサポートメインに周るって言ったのもスギナだ。俺はそれを清麿君に伝えただけなので、今回に関してはスギナのファインプレーだろう。
なお、俺の隣で「チッ」とぼそりと舌打ちするツヅリが怖い。何だこの子、あわよくばガッシュもあのペニって魔物も一緒に共倒れになるのを望んでいたってことか……? 油断も隙もあったものじゃないというか、スギナと一緒に遊ばせるにしても、ちょっとは警戒しといた方がいいな。うん。
この妙な強かさみたいなのは先輩も時々発揮するので、あっちを見て学習したかんじかもしれない……? いや元からか、スギナ狙い撃ちだし。
とりあえずお子様二人をつれて園内に戻ると。あの小学生の子が、消え行くペニに涙声ですがりついていた。
「いやだ、嫌だよペニ……! せっかく出来た僕の友達なのに! 何でこんなすぐお別れしなくちゃいけないんだよ!」
「………………」
「何か言ってよ……、ペニ…………」
言葉を発さず、鳥の魔物はガッシュと清麿君を一瞥し。
そして何故か清麿君はそれに頷いて。
「…………私は、間違えてしまった」
えっ? と。ペニの、何だか大人の女性っぽい声に、びっくりしたような顔の男の子。
「
だけど…………、それが雅人の心を病んでしまった」
「ペニ……?」
「ダメなんだよ雅人。雅人が欲しいのは友達なんだから。私だけいればいいなんて、絶対にダメなんだ。仮に勝ち残っても、負けたとしても、私たちはいずれお別れしなくちゃいけないんだから。
だから皆、敵にしちゃいけなかったんだ。私はそれを間違えたから……、本当は王様になる資格なんてないんだって、ね?」
そんなこと言わないでと、インコくらいのサイズの魔物にすがりつく男の子。
そんな彼の頭を羽根でひと撫ですると、少しだけ申し訳なさそうな声音でガッシュの方を見て。
「手間をかけたね、ガッシュ・ベル。…………できればでいいんだけど、雅人を……」
「ウヌ、任せるのだ……!」
「……そうかい、それじゃ、ありがと――――」
スゥ、と音を立てて消えるペニ。それに号泣する男の子の背をポンと叩く清麿君。
任されはしたが、ガッシュもガッシュでどう声をかけたら良いかってなってる。
スギナが俺の袖を引いたので、しゃがんで耳を寄せる。ぼそぼそと小さい声で、スギナはいつも通りの調子で言った。
「(これ収拾つくの? 下手なアニメより感情の行き来が激しくて、逆恨みされそうだけど)」
「……流石にそこまでじゃ、ないとは思うけどな」
ペニは自分の失敗のせいで、あの雅人って子を「本当に」一人にしてしまったことに、罪悪感を抱いていた。だからあえて、そんな自分は間違っているというのを身体を張って証明したとか、まあそんなところなんだろう。
それが伝わってるからこそ、あの子も泣いているままに清麿君やガッシュたちに当たろうとはしていない。……見た感じお勉強は出来そうな感じの子だし、本当は薄々そういうのはわかっていたんだろう。ただ、改善された状況と、一番の友達のことを否定したくないから、現状を肯定した結果ああなったってところか。
まあ実際、前世持ち転生者として言わせてもらうなら、いじめてきた相手との関係なんて余程の改心か、共通の感情でも抱かないとうまくはいかないだろう。そう言う意味じゃしっかり周囲を距離を取る形にしたのは、あの雅人って子がしっかり自分の価値観を持ってるってことでもある。だからこそペニには歯がゆかったんだろうけど、当人からしたら余計なおせっかいだろうな…………。
ただ、そうは言っても。
「もしこの世界が漫画だったら、きっと少年漫画だからなぁ」
「?」
あえて冗談めかした一言を言って…………、実際は冗談でも何でもない一言だけど、そんなことを言いながら俺はつくしの姉御の方を見て。
何とか言ってやってくださいというこっちの意図を察したのか「仕方ないなぁ」と肩をすくめて、彼女は清麿君たち三人の方に歩いて行った。
「…………って、何で俺の肩も掴んでるんですか? 林谷先輩」
「まあ、良いだろ? そこのちびっ子たちも、全員で『友達』になれば」
いや、流石に俺達も巻き込んでそういう解決を望んでるってわけじゃなかったんですが……。清麿君たちに助太刀に入った、うちの大学の先輩は、それこそ当たり前のように良い笑顔を浮かべながら、俺やスギナ、ツヅリも連行して、雅人君の方へと向かっていった。
友達……、友達ねぇ。
そういえばスギナ、クラスメイトについては言及があったけど友達っていたんだろうか。
ちなみに後日、モチノキ植物園にて。
「「うぁぁぁ!? く……首絞めティオだァ!!?」」
「ち、ちょっと、怖がるのやめなさいよ! まるで私が鬼か悪魔みたいじゃないっ!」
「ウ、ウヌゥ……?」
涙目でガッシュの背後に隠れるスギナとツヅリに、朱色っぽい髪色をした女の子の魔物が盛大に怒りの声を上げていた。……うん、例え友達いなくてもあれくらいノリ良ければ、何だかんだ生きていけるな、スギナも(現実逃避)。
・フェニー・ペニ&雅人ペア:
インコのような鳥形魔物と、眼鏡にぼっちゃんカットのお勉強が出来そうな小学生の男の子のペア。もともと学校でいじめられていてヒキコモリがちになったとき、母親がどこかから拾ってきたペットだったのがこのペニ。それ以降アニマルセラピー的にメンタルを回復した後、正体を明かされ、共にいじめっ子たちに呪文で仕返しをしたのが、本編での増長? の切っ掛け。
最終的に、ガッシュたちとは友達になった。
・「ディ」「マ」・ラウザルクに勝つラシルド:
本来なら術の級的に勝てる道理はないのだけれど、今回勝ったのにはネタ的には裏付けがある。具体的に言うと、より明確に「金色の魔本」の伏線的な何か。若干独自解釈が入ってるかもしれない。
【ここまでで登場した術】
ペニ編……雷属性。主に身体強化系に割り振られている。
①ザグルク:
ザケルの電撃をまとった鎧を装備し、突進する。呪文を唱えてから2、3秒は電気と同じ速度で動くことが出来、これは呪文を再度詠唱することでリセットされる。また電気は鎧に蓄積され、異なる術を使うまで維持される。
②ラウザルク:
ご存知ガッシュ第6の術と同様。
③ブル・ザグルク:
電気の分身を生み出す。この際、鎧含めて全身が分身のそれと似たような姿になるため、一目で本物が区別できなくなる。また分身する数はザグルクでチャージした分によって増える。
④ディマ・ラウザルク:(New!)
ペニ最大呪文。全身を一時的に急成長させ不死鳥のような姿に超強化し、敵に体当たりする。ぱっと見は多分小さめのバルド・フォルス。