那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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何故かこのタイミングでワールドトリガーにハマってしまい、我慢できなくなって投稿。
ランク戦が書きたくて仕方ない病にかかってしまったので、ランク戦以外は巻きで進めます。


1 プロローグ

「うっへぇ。マジか」

 

 界境防衛組織『ボーダー』のC級隊員『空閑(くが) 遊真(ゆうま)』は今、目の前に広がる光景を前に絶句していた。

 彼は見た目こそ非常に幼いが、異世界『近界(ネイバーフッド)』にて経験を蓄えた腕利きの傭兵である。

 入隊直後だからこそ訓練生(C級)に分類されているが、純粋な実力であれば精鋭(A級)にも引けを取らない。

 そんな彼が──

 

「フハハハハハ! 吹き飛べぇ!」

 

 自身の外見年齢と同じくらい幼い少女に、一方的に追い詰められていた。

 現在はボーダー本部における、C級ランク戦の真っ最中。

 お互いの武装(トリガー)は一種類のみ。

 

 遊真のトリガーは、変幻自在の攻撃手(アタッカー)用トリガー『スコーピオン』。

 軽く、鋭く、体のどこからでも出せて、形状も自在に変形できる良いトリガーだ。

 

 対して、相手が使っているのは銃手(ガンナー)用トリガー『アステロイド』。

 何の特殊効果も無いただの弾丸だが、シンプルに威力の高い通常弾。

 

「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」

 

 そんなアステロイドが少女の持つ機関砲(ガトリング)から連射され、雨あられと遊真に降り注ぐ。

 それだけであれば恐るるに足らない。

 シールドが無いのでちょっと不安だが、それでも、こんな特に何の捻りも無く放たれる銃撃の嵐など、弾道を読んで躱して、懐に飛び込んでスコーピオンで仕留めるのは簡単だ。

 

 ただし──彼女が放つ弾丸の異様な速度が無ければの話だが。

 

「うっへぇ」

 

 速い。速すぎる。

 訓練用トリガーのはずなのに、向こうの世界でもそうは見ないほどの圧倒的弾速。

 しかも、それが秒間何十発と連射されるのだ。

 おまけに彼女の技量が微妙なのが逆に幸いして、弾道が酷く読みづらい。

 下手な鉄砲が良い感じに散らばって、遊真の逃げ場を奪っている。

 

「おっと……」

 

 とうとう弾丸の一発が遊真の足に当たり、戦闘体(トリオン体)が損傷。

 掠っただけで太ももの半分が消し飛び、そこからトリオン体を動かすためのエネルギーであるトリオンが漏れ出す。

 この状況で足が削られたのは致命的だ。

 

「これで終わりだぁ!」

「マジかー」

 

 降り注ぐアステロイドによって穴だらけになり、遊真は緊急脱出(ベイルアウト)した。

 腕利きの傭兵が、素人の女の子に負けた瞬間だった。

 

◆◆◆

 

「やったぜ!」

「おめでとう」

「ホントにやっちゃったよ……」

「凄い! 凄ーい!」

「新メンバー誕生だね」

 

 ボーダー本部内、B級以上の正隊員の部隊に与えられる場所。

 B級12位『那須(なす)隊』の作戦室にて。

 この度、めでたくボーダー最年少の正隊員となった小学四年生、十歳の少女『那須(なす) (めい)』がVサインを決めていた。

 

 そんな彼女に対し、那須隊隊長にしてメイの実の姉である『那須 (れい)』は優しい顔で祝福を送り。

 高身長でボーイッシュな女剣士『熊谷(くまがい) 友子(ゆうこ)』は、入隊二週間足らずでB級に昇格したメイの才覚に呆然とし。

 元気娘な狙撃手『日浦(ひうら) (あかね)』は、メイに抱きつきながら全身で喜びを表現して。

 引きこもり系オペレーターの『志岐(しき) 小夜子(さよこ)』も、今日ばかりはボイスチャット越しではなく直接会って、メイに拍手を送った。

 

「はい。設定完了」

「ありがと、小夜子! トリガー起動(オン)!」

 

 正隊員となったことで支給され、小夜子に調整を加えてもらったトリガーを起動する。

 すると、いつものように、あっという間にメイの体は『トリオン体』と呼ばれる戦闘用の仮の肉体へと置き換わる。

 

 その姿はC級時代とは一変していた。

 飾り気の無いジャージのようだった訓練生の制服と違い、那須隊の隊服である襟ぐりの広く開いたSFちっくなボディスーツに。

 

「どうだ!」

「……うん。可愛いよ。可愛いんだけど……」

「襟ぐりのあたりは変えましょう」

「そうだね。犯罪臭が凄い」

「メスガキ感が……」

「なぬっ!?」

 

 メイの隊服姿は満場一致で否定された。

 いや、似合ってはいる。似合ってはいるのだ。

 ただ、元気系ポニーテールという髪型も相まって、大きく露出された鎖骨周辺とうなじがやたらえっちく見えてしまい、十歳にさせる格好ではないという結論に達した。

 

 結果、メイの隊服はお姉ちゃん四人によって改造され、首周りの布を増やした上で、更に謎のマフラーが追加された。

 ヒラヒラしててカッケェ! と、本人からは好評だった。

 

「……一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったね、玲」

「そうね。くまちゃん……」

 

 バッサバッサと背中に伸びたマフラーをはためかせるメイを見て、玲と熊谷が感慨深そうに呟いた。

 メイが最年少のボーダー隊員となり、那須隊に入るまで色々あった。

 

 まず大前提として、玲とメイの両親は、メイのボーダー入隊を快く思っていない。

 当然だ。

 異世界からの侵略者と戦う組織に、十歳の我が子を入れたいと思う親はいない。

 十五歳で入隊した玲の時だって色々あったのだから。

 

 それでも、ずっと昔からボーダーに入りたいと言い続けていたメイの言葉を両親を受け入れたのは、キッカケがあったから。

 

 少し前に、市街地に開いたイレギュラー(ゲート)

 本来ならボーダーの誘導装置により、避難の完了した警戒区域にしか発生しないはずの異世界の門。

 そこから現れる侵略者『近界民(ネイバー)』の手先『トリオン兵』。

 

 そのトリオン兵がメイのすぐ近くに現れ、彼女を襲った。

 幸い、すぐ傍に玲がいたため即座に倒せたが、安全だと思われていた市街地で危険に晒されたことに変わりは無い。

 その時、メイは言ったのだ。

 

『ほら見ろ! 安全なところにいたって、襲われる時は襲われるんだ! だったら、私は抗う力が欲しい!』

 

 襲われた直後だというのに、なんとも豪胆な発言だった。

 しかし、一応筋は通っている。

 もう一つの選択肢として、門が開くのはこの三門市だけ(と思われている)ので、苦渋の決断で玲と分かれて引っ越すという手もあったが……。

 

『姉ちゃんと別れたら、私は死ぬぅ!』

 

 メイは地面に転がって手足をバタつかせながらそんなことを言って、全力で抵抗した。

 両親としても、メイと違って病弱であり、ボーダーの技術が無ければ日常生活に支障が出てしまう玲を一人にするというのは、選びたくなかった選択肢だ。

 結局、メイはそのまま両親を押し切ってボーダー入隊を勝ち取り、ガッツポーズを決めた。

 

 そして、ボーダー入隊試験の日──

 

『ト、トリオン……37!?』

 

 とんでもない爆弾が炸裂した。

 ネイバーとの戦いに必須の兵器『トリガー』。

 それを扱うための力、見えざる内臓『トリオン器官』より生成される生体エネルギー『トリオン』。

 メイはその力が飛び抜けていた。

 

 ボーダーにおけるトリオン能力の平均は、選りすぐりを集めた戦闘員ですら『5〜7』程度。

 少し前までボーダー最高値のトリオン量を誇っていた男ですら『14』。

 それを思えば『37』という数値がどれだけぶっ飛んでいるかわかるだろう。

 

 同時に入隊したもう一人と並んで、高いトリオン能力を持つ人間をつけ狙うネイバーに狙われない方がおかしい数値。

 それを知った時、玲は全身から血の気が引いた。

 まさか可愛い妹が、そんな綱渡りの人生を送っていたなんて思いもしなかった。

 ボーダーに入りたいと再三に渡って言っていたメイの言葉を、もっと早く、もっと真剣に聞き届けるべきだったと後悔した。

 

 だが、そんな綱渡りもここまでだ。

 ボーダーの正隊員に与えられるトリガーは、訓練生用とは比較にならないほど強く、何より、やられた時に即座に基地まで逃げられる緊急脱出システムが搭載されている。

 これを持っている者の生存率は跳ね上がる。

 そして、

 

「私が守るわ。絶対に」

 

 同じ部隊にいれば、すぐ近くで守れる。

 

「私は、お姉ちゃんだもの」

 

 玲の目はメラメラと燃えていた。

 そんな彼女の肩に、熊谷が優しく手を置く。

 

「『私が』じゃなくて、『私達が』でしょ」

「……うん。ありがとう、くまちゃん」

 

 支えてくれる熊谷。

 メイの傍でワチャワチャしている茜と小夜子。

 皆がメイのことで悩み、受け入れ、守ると言ってくれた。

 頼れる仲間達に、心からの感謝を。

 

「さて、それじゃあ早速、メイのトリガーセットを決めて、本格的な訓練を始めましょうか。忙しくなるわよ」

「「「了解!」」」

「! 了解!」

 

 プロっぽいやり取りに交ざれるのが嬉しくて、メイは満面の笑みを浮かべる。

 この笑顔が失われることなどあってはならない。

 那須隊のお姉ちゃん達四人は、改めて必ず守るという決意を固めた。

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