那須隊のトリオンモンスター・ガンナー 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「すぅ……すぅ……」
「寝ちゃった」
「よっぽど悔しかったんだね」
「猫みたいですね」
「こうして静かにしてると、那須先輩にそっくりですよね〜」
遊真に負けた悔しさに加え、姉や熊谷までやられたのが結構堪えたのか、メイはチームの勝利を見届けることなく、唸り疲れて眠ってしまった。
「むにゃ……」
姉に頭を撫でられながら、メイは夢を見る。
昔の夢を。
◆◆◆
「ひぅ……!?」
物心ついた頃のメイは、いつも何かに怯えていた。
いつもいつも理由のわからない嫌な予感がしていて、不安と恐怖に苛まれ、必死に気配を消して生きていた。
一回勇気を出そうと言われて嫌な予感に逆らった結果、出かけた先で恐ろしい
その頃は人気の無い場所に行くのが特に恐ろしく、何故か一番頼りになると思った病弱な姉にベッタリくっついていた。
しかし、一緒にいると姉まで危ないという感覚に苛まれることが頻繁にあり、涙を堪らえて最強の隠密用アイテム・ダンボールを被って一人でやり過ごすことも多々あった。
そんな日々を過ごし、小学校入学が翌年に迫った頃──三門市に異世界の門が開いた。
『こいつらのことは任せてほしい。我々はこの日のためにずっと備えてきた』
「わぁぁ……!」
異世界からの侵略者・ネイバー。
それと戦う組織・ボーダー。
彼らの報道をテレビで見た時、ずっと纏わりついていた嫌な予感が、明確に晴れていくのを感じた。
これだ。
自分もボーダーに入れば、この嫌な予感から解放される。
なんの根拠も無かったが、メイの直感がそう言っていた。
「わたし、ボーダーにはいりたい!」
家族にそう言えば、父も母も姉も困ったような顔をした。
ボーダーに憧れる子供は当時から結構いたので、メイもそんな夢見る幼子の一人だと思われたのだ。
当然、当時六歳の幼児を軍事組織に入れるほど、那須家はぶっ飛んでいない。
しかし、悪くない傾向なんじゃないかとも家族は思った。
いつも何かに怯えてお姉ちゃんにくっついている臆病な子が、見たことも無いほど明るい笑顔を浮かべていたから。
だから、父は言ったのだ。
「ボーダーは悪い怪獣と戦う正義の味方だからね。きっと、メイが強くなれば声をかけてもらえるよ」
「つよく? つよくって、どうするの!?」
「いっぱいお喋りして、いっぱい笑って、いっぱい動いて、いっぱいお友達を作ることさ」
「わかった!」
メイに社交性を身に着けてほしくて言った父の言葉を、幼いメイは真に受けた。
その日から、メイは変わった。
大声でハキハキと喋り、フハハハハ! と笑い、嫌な予感から逃げ回るついでに学校行事から脱走してアチコチを動き回り、よくわからないお友達をいっぱい作った。
きっと、参考資料に悪の組織的なものが出てくるアニメを選んでしまったのが悪かったのだろう。
違う。そうじゃないと父は頭を抱えた。
そして、頭を抱えているうちに、なんと本当にボーダーから声がかかった。
ただし、メイではなく玲に。
トリオン体を使った医療への研究協力。
そんな変な形で玲はボーダーに入隊した。
当然のようにメイは自分も立候補したが、この時点でも八歳の幼児に過ぎない彼女の言葉は受け入れられなかった。
それに、玲の入隊はボーダーのイメージアップを狙った戦略の側面もある。
なのにメイまで入隊させたら「八歳の子供に武器を持たせるのか!」と騒ぐ輩が現れることが簡単に予想できる。
トリオン能力は二十歳を越えると成長が止まり、使って鍛えておかないと、どんどん劣化するという性質のせいで、どうしても十代の若者達を主戦力にせざるを得ず、その時にもボーダーは凄い苦労した。
メイは雑誌取材なども予定されている玲の妹。
世間に発信される可能性の高い幼女入隊など認められるはずがない。
入隊するなら今が最善と叫びまくる直感に従ってメイはダダをこねたが、ダメなものはダメだった。
結局どうにもならないまま、更に時間は流れる。
姉が戦闘力を手に入れたことで大分嫌な予感が軽減し、それでもへばりつくように完全には消えてくれないまま二年が経過。
その日、メイは直感に従って、出勤しようとする玲にしばらく纏わりついた。
すると、市街地にイレギュラーゲートが出現。
中から出てきたトリオン兵は玲が瞬殺したものの、安全だと思われていた市街地にネイバーが出てきたという事実は変わらず。
「ほら見ろ! 安全なところにいたって、襲われる時は襲われるんだ! だったら、私は抗う力が欲しい!」
チャンスと見て、メイは全力で声を上げた。
彼女ももう十歳。
多少は考えてものを言う力が備わっている。
そうして、ようやくメイは両親の説得(ゴリ押し)に成功し、ボーダーへの入隊を果たした。
早く早くと急かしてくる直感に従い、自分にできる最高速度でB級へ昇格。
結果、嫌な予感は昔と比べ物にならないほど薄くなり、メイは姉やその仲間達との楽しい日々を過ごしている。
◆◆◆
「んにゅ……」
「あ、起きた」
やがて、メイは目を覚ました。
目に映るのは、優しげな目をした姉と仲間達。
過去の夢は急速に薄れ、思い出されるのは白髪の少年に何もできずにやられた悔しい気持ち。
「姉ちゃん! 皆!」
「何?」
メイは燃えていた。
生まれてからずっと感じていた嫌な予感の抑圧から解放され、今の彼女は過去最高にハッチャケている。
「鍛え直してください!」
今の目標はランク戦での勝利。
生まれて初めて、なんの不安も無く熱中できる最高のゲーム。
自分もボーダーに入れば、この嫌な予感から解放される。
なんの根拠も無かったが、メイの直感はしっかりと当たった。
〈
・超危機回避
自分及び自分に最も近い者達に危機が訪れる時、それを嫌な予感として感知し、どうすればそれを避けられるのかを感覚的に知ることができる。
ただし、あくまでも『嫌な予感がする。こうした方が良いような気がする』と猛烈に感じるだけなので、具体的に何が起こるかはさっぱりわからず、実行に失敗すれば普通にアウト。
高すぎるトリオン能力のせいで、生まれてからずっとトリオン兵につけ狙われ、それを猛烈に嫌な予感として常時感じて、不安と恐怖に苛まれていた。
ぶっちゃけ精神を病んでもおかしくないレベルだったので、その大部分から解放された今は盛大にハッチャケている。
あれに比べたらC級どもの嫉妬の視線なんて無いも同然。
ただ、数年後に落ち着いた年齢になったら、黒歴史としてもだえ苦しむかも。
そこまではサイドエフェクトも感知してくれない。
自分に最も近い者達という範囲もとても狭く、家族と那須隊だけ。
大規模侵攻の時は、あそこで自分が戦えなければ茜がいなくなるということを本能的に察知していた。
また、ランク戦は命の危険が無い遊び(メイにとっては)なので、サイドエフェクトも『あいつ妙に勘が良いんだよな』程度に劣化。
実際に危機が迫ってくるまで発動しないのと、本人の説明が下手なせいで診断が上手くいかず『サイドエフェクトだと思うよ。多分』くらいにしかボーダーは把握できていない。
・ダンボール
常にトリオン兵のレーダーの盲点となる場所に設置される最強の隠密用装備。
お巡りさんや市民の皆さんの目をごまかすこともできる。
家族から離れた場所で使用されるため、メイという餌に釣られて現れたトリオン兵が玲を狙うことも無い。