那須隊のトリオンモンスター・ガンナー 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
遊真にわからされた翌日。
いつもは週二回開催されているB級ランク戦だが、諸々の都合で定休日が挟まって、次の戦いまで一週間空いた。
その一週間で、メイは自らを鍛え直すことに決めた。
「ううううう……! 透も古寺も嫌いだぁ!」
「うぇ!? あの、その……!?」
「いつもの癇癪だ。まともに取り合わなくていい」
本日の教官は従兄妹のお兄ちゃんである奈良坂。
スナイパーの合同訓練の一つ、捕捉&掩蔽訓練。
レーダーの情報無しで他の隊員を見つけて撃つ、及び見つかって撃たれないように隠れる。
それを参考に、仮想ステージの中で奈良坂と茜と古寺(奈良坂の弟子で茜の兄弟子)からひたすら隠れ続けるという訓練を行った。
撃たれる度にダメなところを体で教わり、改善点を口で教わり、違う場所から再スタート。
もちろん、ちょっと頑張った程度で欺けるほど、No.2スナイパーとその弟子達は甘くない。
なので、教えた部分が改善されていれば、見つけても即座には撃たないという配慮をしていたのだが、それを差し引いても最高記録は五分程度。
毎回五分以内に見つかり、撃たれ、叱られ、再スタートの無限ループ。
そりゃ癇癪の一つも起こすというものだ。
これが命の危険のある実戦であれば、サイドエフェクトによって忍者も真っ青な隠れ身の術を繰り出せていたかもしれないが、訓練ではそうもいかない。
では、今習っていることが実戦ではサイドエフェクトに役割を全部食われていらない子になるのかというと、そうでもない。
超危機回避はあくまでも危機の訪れと対処法を教えてくれるものであり、実行するのはメイ自身。
本人のスペックが上がればミスが減り、より良い選択肢を掴み取れるようになる。
ボーダーに入り、トリガーを手に入れたことで、危機の大部分を自力で退けられるようになったように。
「というか、俺と章平は嫌いなのに日浦はいいのか?」
「私が茜を嫌いになるわけない!」
「でへへ……」
「チッ」
「弟子相手に舌打ちする奈良坂先輩、初めて見た……!?」
古寺は驚愕した。
「そろそろ時間だ。今日のところは終わりだな」
「二度と頼むかぁ!」
「本当にそれで良いのか?」
「…………………………明日もよろしくお願いします」
「よろしい」
苦み走った顔で頭を下げたメイを見て、自分より茜に懐きやがってという若干面白くない気持ちを飲み込んで、優しく頭を撫でた。
彼とて妹のような相手の成長は嬉しい。
「くま、次お願い!」
「え? いや、凄い頑張ったし、今日はもう休んでも……」
「ダメ! 早く空閑にリベンジしたい!」
遊真はボーダーのトップランカー達に匹敵するアタッカー。
当然、熊谷より遥かに強い。
だから、まずは熊谷相手に近接戦闘で一回でもいいから勝つ。
それが今のメイの目標の一つだった。
◆◆◆
「テレポータ……」
「旋空弧月!」
「あばっ!?」
那須隊の作戦室に戻ってきたメイは、対遊真を想定して、使えそうなトリガーを片っ端から試していた。
今回試したのは、視線の先に瞬間移動するオプショントリガー『テレポーター』。
瞬間移動が弱いわけない! と安直に思ったメイだったが、想像以上に使いづらい。
「ああああ! 何これぇ!」
「だから言ったでしょ。あんまり人気が無いトリガーだって」
テレポーターの弱点その1は燃費の悪さ。
これはトリオンモンスターであるメイには関係無いが、その他の弱点は大問題だった。
弱点その2、発動までのタイムラグと、再使用までのインターバル。
この二つの隙は、長距離を瞬間移動しようとするほど大きくなる。
2~3mくらいなら0.5秒くらいだが、30m以上では数秒も必要だ。
そんな短い距離を飛んだところでアタッカー相手だと即行で距離を詰められるし、長距離を飛ぶために数秒も待っていたら斬られるだけ。
結論、このトリガー使えねぇ!
少なくともメイの技量では使いこなせない。
何せ、彼女の技術の評価数値は『2』。
玉狛支部の五歳児と同値なのだから。
「今のところ、一番マシだったのは……」
〈やっぱり、エスクードですね。使いこなせてはいませんけど〉
今の時間の保護者である熊谷と小夜子がそんなことを話し合う。
防御用トリガー『エスクード』。
発動すると、地面から頑丈な壁が迫り出してくるトリガー。
これもトリオンの燃費が悪くて不人気なのだが、メイのトリオン量ならフィールド全体をエスクードの森に変えることも可能。
ただし、技術の問題につき、イマイチ思い通りの場所と大きさに生成できないので、咄嗟の時の護身用トリガーとしては心許ない。
戦略としては強いのだが……。
「次!」
次は宿敵遊真が使っていたグラスホッパーに手を出してみた。
「ぶげっ!?」
全く制御できずに、顔面から天井に突っ込んだ。
まあ、グラスホッパーを使いこなせる奴は正隊員でも少ないから……。
「次!」
次は同じトリオンモンスターである千佳が使っていたアイビスを手に取る。
地形を変えるほどの一撃は豪快で楽しかったが、狙撃銃を扱えるほどの技量がメイには無い。
全然思った場所に飛ばず、模擬戦を頼んだ熊谷にはあっさり避けられて近づかれてやられた。
威力は凄いが、当たらなければトリオン体にダメージは通らない。
数撃ちゃ当たるガトリングがどれだけメイに合っているか再確認した。
「次!」
ガトリングを振り回せない距離でも撃てるシュータースタイルで放つ弾。
コントロールがムズい!
キューブの生成、分割、設定、やることが多くて発射が滅茶苦茶遅いし、上手く狙うのも銃より難しくて、自分で自分を蜂の巣にしてしまった。
「ぬわぁあああああ!」
トリガーは奥が深い。
最初に使おうとして即行で挫折したバイパー(機関砲)もそうだったが、使いこなすにはメイは幼すぎるし、経験があまりにも足りない。
あと五年か、せめて二年もあればボーダー最強を狙えるポテンシャルがあるのだが、現時点ではトリオンが多いだけの子供だ。
「諦めないぃ!」
それでもメイは試行錯誤を続けた。
頑張ること自体はとても良いことである。
「お?」
〈あれ? これ意外と良い感じじゃないですか?〉
そして、最後の最後に引き当てた。
現時点の技量で雑に使っても強いトリガーを。
「くま!」
「よし、やろうか」
始まる、何度目になるかわからない熊谷との模擬戦。
結果は──
『戦闘体活動限界。熊谷ダウン』
「や、やったーーーーー!」
近接戦闘で熊谷に勝利。
十本勝負の最後の一本だけだったが、確かにメイの牙が熊谷に届いた。
〈どうでした?〉
「……知ってても結構厄介。初見なら、もしかするとマスタークラスのアタッカーでも倒せるかも」
〈痛い目を見た甲斐がありましたね〉
次の試合の切り札になるかもしれないものが思わぬところで手に入り、ニヤリと笑う熊谷と小夜子。
この時の二人は知らなかった。
翌日、メイが意気揚々と遊真へのリベンジを果たしに一人で玉狛支部に突撃し、せっかくの切り札を即行でバラしてしまうことを……。
奈良坂→たまに会う従兄妹
茜→しょっちゅう家でミーティングしてて、その間トリオン兵から守ってくれた人
茜の方に懐くのもやむなし。