那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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13 B級ランク戦・ラウンド4 ②

〈妹ちゃん発見。撃ちますか?〉

〈いや、あの子、意外と回避能力高いで。俺が行くまで待っとき〉

 

 香取襲来の数秒前。

 生駒隊スナイパー『隠岐(おき) 孝二(こうじ)』もまたメイを発見し、チームの司令塔であるシューター『水上(みずかみ) 敏志(さとし)』に通信を入れていた。

 しかし、遊真相手に転げ回りながらもしばらく生き残ったメイの勇姿を確認済みの水上は、隠岐に待ったをかける。

 

(妹ちゃんが動いとるっちゅうことは、またしても他のメンバーは反対側か? だとしたら運悪過ぎやろ)

 

 もしそうだとしたら、さすがに同情する。

 とはいえ、そう見せかけて攻撃を誘っている可能性も大いにある。

 実際、それは結構有効な手だ。

 弱点というのは基本的に悪い方向に働くが、上手く使えば敵の油断を誘う餌として機能するのだから。

 

〈あ、香取ちゃん来ました。妹ちゃんに突撃しましたわ〉

〈ちょうどええ。罠かどうか見極めといてくれ。妹ちゃん撃つ時は、仕留められるて確信した時だけな〉

〈わかっとりますって〉

 

 さて、これで盤面の駒の一つが香取で確定。

 水上は頭の中にマップとレーダーの情報を思い浮かべ、作戦を考えていく。

 

(ウチはイコさんと海があっち岸。隊が綺麗に真っ二つや。他の隊もそうなっとると嬉しいんやけど……)

〈あ、若村くんと三浦くん、那須さんと熊谷さんも発見。どっちも香取ちゃんと妹ちゃんの方に移動中〉

〈マジか〉

 

 ということは、残りの面子から考えて、多分二宮隊も西岸で揃ってるやん。

 訂正、一番運が悪かったのは自分達のようだ。

 水上はため息を一つ吐きながら、早く隠岐と合流するべくスピードを上げた。

 

◆◆◆

 

(トリオンが凄いだかなんだか知らないけど、調子に乗ってんじゃないわよロリ!)

 

 背後からメイへと突撃を開始した香取。

 彼女は機嫌が悪かった。

 ラウンド1でいきなり那須隊に追い抜かれて中位落ち。

 ラウンド2で鈴鳴第一にやられて上位復帰を逃し、ラウンド3ではあの東隊に勝って気分良くふんぞり返っていたのに、聞こえてくる声は「マグレ勝ち」ばっかり。

 確かにその通りだけど、運も実力のうちだろうが!

 香取はイライラした。

 

 その一方で、自分達を追い抜いていった那須隊の躍進はとんでもない。

 完全試合二回に、その後も勝って1位と同ポイントの2位。

 しかも、その大躍進を支えているのは、トリオンが凄いだけのド素人の幼女という話だ。

 なんだそれは? 自分は幼女に負けたのか?

 

 これは香取でなくともイラ立つ。

 C級やB級下位には似たような考えの者達も多い。

 そういうものだと冷静に認識して対策を考える、上位勢の反応が大人過ぎるだけなのだ。

 

 だからといって、さすがに幼女に感情をぶつけることに疑問と罪悪感を抱かないほど、香取はダークサイドに落ちていない。

 気に食わないけど、ぶちのめして気持ち良くなるかというと、そうでもない。

 どうあっても気分が良くならない相性の悪さ。

 そんなモヤモヤを抱えて不調になりながら、それでもそこらの隊員よりは強い香取隊のエースがメイに襲いかかる。

 

〈メイ! 敵襲!〉

「!」

 

 香取の放った拳銃によるアステロイドをシールドでガード。

 咄嗟だったのでバッグワームを解除できず、メインのシールドを使ってしまい、その分ガトリングを出すのが遅れる。

 その隙に香取はグラスホッパーで近づいて、スコーピオンを構えた。

 彼女のポジションはアタッカー寄りのオールラウンダー。

 ここは既に彼女の間合いだ。

 

(取った!)

 

 必殺を確信しながら香取は突っ込む。

 だが、その時、ようやくバッグワームを解除したメイの口元がニマニマと歪み、

 

〈葉子、警戒〉

〈気をつけて、葉子ちゃん!〉

「!?」

 

 通信による仲間達からの警告。

 ガンナーがこの距離で何を……いや。

 

(そういえば雄太が何か言ってたような……)

 

 先日、ランク戦に出向いた香取隊アタッカー『三浦(みうら) 雄太(ゆうた)』が、このロリについて変な噂を持ち帰ってきた。

 なんだったか。

 イライラしててまともに聞いていなかったが、確かウニがどうたら──

 

「あ!?」

 

 ギリギリのタイミングで思い出して、香取は咄嗟にグラスホッパーで別方向に跳ねて強制的に突撃を中止した。

 直後──メイの全身から無数の刃が生える。

 まるでウニのように四方八方に伸びた刃の群れが、メイの周辺一帯のことごとくを串刺しにした。

 

『うぉおおお!? なんだこれはぁ!? 那須隊員の謎の新技だぁ!』 

『ああ、やっぱりあの変な噂は本当だったんだね。メイナードがスコーピオンでウニになったとかいうやつ』

『……もうちょっと可愛いのを期待してたのに。メイちゃんにはウニじゃなくて針ネズミとかの方が似合うわよ絶対』

 

 体のどこからでも出せる変幻自在の刃、宿敵遊真の使っていたスコーピオン。

 トリオン量に応じて強度を保ったまま伸ばせる長さが変わるそれを、メイはウニのように全方位に向けて伸ばしたのだ。

 

 射程距離は脅威の20メートルちょっと。

 適当に針から針を伸ばして半径20メートルの空間全てを串刺しにしているので、細かい狙いやコントロールは一切不要。

 欠点は隣に味方がいると絶対に使えないことだが、そもそも保護者の不在時をどうにかできる護身用トリガーが欲しかっただけなので何の問題も無い。

 

「な、何よそれ……!?」

「あれ!?」

 

 スコーピオンを解除したメイは、香取があの遊真すら倒した必殺技を避けているのを見てビックリ仰天した。

 奈良坂達との特訓の成果を出したかったのが半分、これを決めたかったのが半分で、わざわざ机の下から出る許可を姉達に貰ったのに、これでやられたらとんだ笑い話だ。

 メイは慌ててガトリングを生成し、それを見てハッとした香取は、グラスホッパーで跳ねて銃口の先から逃れる。

 

「チッ!」

 

 そのまま銃撃戦に移行。

 グラスホッパーを持っていてこの距離なら、なんとか避け切れるし接近の隙もある。

 だが、あのウニの攻略法が咄嗟には浮かんでこない。

 それを思いつかないことには、接近=無駄死にだ。

 

〈葉子ちゃん!〉

〈葉子!〉

〈! あんた達!〉

 

 と、そこで香取隊の仲間達、三浦とガンナーの『若村(わかむら) 麓郎(ろくろう)』が合流。

 あまり頼りにはならない仲間達だが、これで3対1。

 どんなにトリオン量が凄くてもトリオン体の強度は変わらないのだから、三方向から攻めれば必ず隙が──

 

「「「!?」」」

 

 そう考えた瞬間──大量のバイパーが建物の上を越える山なりの軌道で飛んできた。

 そのままバイパーは全方位に拡散し、前後左右上下の全てから香取隊の三人を襲う。

 威力は低いが弾数特化の変化弾の雨を前に、三人はシールドで身を守ることしかできない。

 

〈メイ、薙ぎ払って〉

〈了解! 姉ちゃん!〉

 

 そうして足を止めた三人に、メイのガトリングが火を拭く。

 引き金を引きながら横一文字にガトリングを一閃。

 雑に空間を薙ぎ払った大量の弾丸が三人のシールドを突き破り、本人達をも蜂の巣にする。

 

「くっそ……!」

『『『戦闘体活動限界。ベイルアウト』』』

『決まったぁ! 那須隊長のバイパーによる全方位攻撃、通称『鳥籠』を防ぐために足を止めた香取隊全員を、那須隊員のガトリングが纏めて薙ぎ払う! 姉妹による息ピッタリの連携!』

『あれはキツいよ。実際に食らった僕が言うんだから間違い無い』

『確かに、しっかり決まればA級でも対処が難しいでしょうね。まさに必殺技』

 

 王子が後方理解者面でうんうんと頷き、加古が「必殺技」のところに力を入れながら目をキラーンとさせた。

 

『今の戦いのポイントはどこだったのでしょう?』

『もちろん、メイナードがしっかり保護者到着までの時間を稼いだことだね。

 あのウニスコーピオンはカトリーヌを倒せこそしなかったけど、あれのおかげで攻撃を躊躇させて時間稼ぎという一番大事な仕事をやり切った。

 それだけで値千金の大戦果だよ』

 

 遊真戦での敗北を糧とし、しっかり成長を証明した形だ。

 やはり未熟が極まっていると、その分、伸び代も凄い。

 

『あのウニ、可愛くなかったけれど、情報も出回っていない完全な初見だったら、香取ちゃんを倒すところまで行ったかもしれないわね。

 それくらい強力な技よ。可愛くなかったけれど』

 

 よほど針ネズミを期待していたのか、不満げに頬を膨らませた加古がぶーたれる。

 ちなみに、ウニスコーピオンの情報の発信源は、個人ランク戦で戦ったライバル達にソレトナーク話した遊真である。

 遊真にそんな指示を出したのは当然……。

 メガネ、お前ホントそういうとこだぞ(褒め言葉)

 

『さてさて! 初戦でまさかの香取隊が全滅! 那須隊が3点を獲得し、ここで他の戦場にも動きが!

 那須隊と香取隊の戦闘を見守っていた隠岐隊員に水上隊員が合流!

 西岸では生駒隊長と二宮隊長、犬飼隊員がバッタリ出くわしました!』

〈タスケテ〉

〈こらアカンわ〉

 

 生駒隊隊長、No.6アタッカー『生駒(いこま) 達人(たつひと)』。

 ボーダー屈指の旋空弧月の使い手として名高い強者だが、さすがに護衛付きの二宮相手に一人はキツ過ぎる。

 大ピンチだ。

 

〈海ぃ! 急げやぁ!〉

〈急いでたら辻先輩に見つかっちゃいました! 日浦ちゃんがこっちにいたら、多分そっちにもバレてます!〉

〈アホー!〉

 

 生駒隊最後の一人『南沢(みなみさわ) (かい)』のギャグみたいな失態に、オペレーターの『細井(ほそい) 真織(まおり)』がツッコミを入れる。

 こっちもダメみたいですね。

 

〈どないします?〉

〈妹ちゃんを西岸に引っ張ってって二宮さんを退治してもらう。……と言いたいとこやけど、このまま三人揃ったらメテオラ流星群でゲームセットやろなぁ。二宮隊はともかく、ウチは耐えれる気ぃせんわ〉

 

 せっかくの二宮に対して相性の良い駒だが、それ以上に困る展開がある。

 まったく、同じ岸に転送されて潰し合ってくれるのを遠巻きに誘導できたらベストだったのに、何事も思い通りにはいかないものだ。

 

〈しゃーない。妹ちゃんだけチャッチャと倒して、イコさん助けに行くで〉

〈了解〉

 

 そうして、生駒隊の指揮官は自分と隠岐だけでメイを討伐することを決めた。

 使える大駒は無く、時間も殆ど無い。

 六枚落ちといったところか。

 

「ま、ギリなんとかなるやろ」

 

 それでも、ボーダー屈指の指し手の脳裏には勝ち筋が浮かんでいた。




・『迂闊な新技披露を殺す魔法(ソレトナーク)
B級魔法使いオッサムの新技。
魔法少女カトリーヌが上手く踊ってくれなかったせいで不発に終わったが、ちょっとは足止めできて、保護者が完全に合流する前に怖いお兄さんが二人揃えたので、全くの無駄打ちではない。
メガネ、お前ホントそういうとこだぞ(褒め言葉)


・お姉ちゃん達の思惑
特訓の成果を見せたい! とメイが言ったので、自分達がそこそこ近づいてからなら良いよと、単独行動の許可を出した。
茜離脱までの間に今までの一番を取ろうとかも無いので、勝利よりメイの成長が最優先。
これが遠征部隊出発後の戦いとかに活きてくる(さすがに、そこまでは書けないと思うけど)
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