那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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17 B級ランク戦・ラウンド5 ②

「旋空弧月」

 

 初手は村上。

 防御不能の必殺技、旋空弧月をぶっ放す。

 

「旋空弧月!」

 

 それに対し、熊谷もまた旋空弧月で迎撃。

 技のキレは月とスッポン。

 しかし、旋空弧月が防御不能の威力を叩き出すのは、あくまでもブレードの先端だけだ。

 なんでもいいからその先端以外を弾けば、旋空弧月は迎撃できる。

 

「スラスター起動(オン)

 

 しかし、今の熊谷ならこれくらいやると学習済みの村上は即座に次の動きに移る。

 レイガストを前面に構え、スラスターで加速してシールドチャージ。

 当たれば跳ね飛ばし、避ければメイを狙える。

 

「シールド!」

 

 熊谷は村上の前に集中シールドを出して突進を止めた。

 だが、村上は即座にシールドとぶつかるレイガストを起点に体を左回転。

 まだ完全には死んでいないスラスターの勢いを乗せた弧月を振るう。

 

「ハッ!」

 

 熊谷はしっかりと両手で握った弧月でそれを受け流す。

 すると、村上は今度はレイガストで殴りにきた。

 シールドで止める。

 レイガストの一部を変形させて穴を開け、そこから弧月による突き。

 見切って受け流す。

 村上と熊谷の斬り合いが始まり──

 

「よっ」

 

 二人が競り合っている間に遊真が動き、メイを狙う。

 

「おらぁ!!」

 

 近づいてくる遊真に、メイは威嚇射撃。

 遊真を近づけまいとするが、胸から生えているレッドバレットが邪魔で、思うようにガトリングを振り回せない。

 ただでさえ、この距離で遊真を捉えるのは難しいのに、この状態では不可能に近い。

 千佳が遭難と引き換えに撃ったのは、決して無駄ではなかった。

 

「ッ!? スコーピオン!」

 

 あえなくガトリングの間合いの内側に入られ、メイはスコーピオンを起動。

 だが、その瞬間、メイの体が空高く打ち上げられた。

 

「へ!?」

『空閑隊員! 那須隊員の足下にグラスホッパーを起動! 天高く打ち上げた!』

『自分のスコーピオンで視界を塞いだ瞬間だったな』

『メイの奴、自分に何が起こったのかわかってなさそう』

 

 緑川の言う通り、メイは突然の浮遊感に理解が追いつかず、混乱して手足をバタつかせていた。

 アタッカーの一瞬の攻防には小夜子が口を挟む暇も無く、トドメの一撃が放たれる。

 

「させない!」

「!」

 

 パイルバンカーでスコーピオンの無い部分(熊谷を巻き込まないために生じた死角)を狙おうとした遊真に弾丸が飛来した。

 狙撃地点に到着した茜の狙撃。

 更に、茜はこっち来るなら来いや! とばかりにライトニングを連射する。

 

『スナイパーが連射か。バッグワームも脱いでるし、セオリーから外れてるな』

『でも、一応ありだと思うよ。茜先輩を仕留めに行ってメイを仕留め損ねたら、遠距離ガトリングで空間ごと薙ぎ払われるし』

 

 よって、遊真は堂々と姿を晒す茜を倒しに行けない。

 とはいえ、射撃の雨の中でも、遊真ならメイを狙い続けることは可能だ。

 

〈メイ! 小さめのウニと全周シールド!〉

〈わ、わかったぁ!〉

 

 だが、茜の稼いだ時間で小夜子のアドバイスが間に合い、メイは防御を固めた。

 空中で固定する場所が無いので固定シールドは使えないが、メイの化け物トリオンなら全周シールドでも充分硬い。

 脆いと言われるスコーピオンも、なんだかんだでスコーピオン同士の打ち合いで壊れないくらいには硬い。

 

「むぅ……」

 

 さすがに、ああして守りを固められると、遊真の攻撃力では即座には突破できない。

 茜の妨害も地味に鬱陶しいし。

 だが、宙を舞う重り付きの球体入りウニを狙うのは遊真だけではない。

 

「旋空──」

 

 自身の間合いまで落ちてきたメイに、村上が狙いを定める。

 レイガストで熊谷の弧月を押さえつけ、最強攻撃力の斬り上げ旋空弧月でメイを──

 

「させるかぁ!」

「!」

 

 熊谷は躊躇なく弧月を手放し、恵まれた高身長と手足の長さを活かして、レイガスト越しに村上の右手首を掴んだ。

 それによって旋空弧月は不発。

 ならばと、村上は右腕を振り回して熊谷の体勢を更に崩して仕留めようとしたが──熊谷は宙を舞って村上の腕に絡みつき、飛びつき腕十字を仕掛けてきた。

 

「!?」

 

 トリオン体のパワーのおかげで地面に倒されることは無かったものの、腕に絡みついてくる熊谷の太ももの感触が、村上の思考を一瞬停止させる。

 

『プ、プロレス技だぁ!?』

『マジかよ!?』

『熊ちゃん先輩やるぅ!』

「ス、スラスター起動(オン)!」

 

 すぐに正気に戻ってブレードモードにチェンジしたレイガストで突くが、集中シールドで勢いを削られ、再生成された弧月の柄頭で防がれた。

 追撃を恐れたのか、熊谷は手と足の力を抜いて飛びつき腕十字を解除し、スラスターの勢いに押される形で離脱。

 

「ッ!?」

 

 だが、吹っ飛ぶ熊谷に、遊真が茜の狙撃を避けながら手裏剣型のスコーピオンを投擲。

 咄嗟にダブル遠隔シールド。

 当然、ブレードトリガーの攻撃力で叩き割られたが──

 

「ぶげっ!?」

 

 手裏剣スコーピオンの勢いが落ちたおかげで、落ちてきたウニが手裏剣を踏み潰した。

 落下の衝撃でウニが悲鳴を上げ、茜の援護射撃が遊真と村上に降り注ぎ、その隙に熊谷とウニが体勢を立て直して第二ラウンド。

 かなり危なっかしいが、それでも一応は時間稼ぎが成立していた。

 

◆◆◆

 

〈ちょっとぉおおお!? これは反則じゃないですか!?〉

〈気持ちはわかるよ……!〉

 

 一方、鈴鳴第一の残る二人、来馬と太一は作戦が根本からひっくり返されたことを嘆きながら、エスクードの防壁の一部に穴を空けて城に侵入。

 村上の援護に向かっていた。

 

〈この日のために、せっかくプールで泳ぎまくったのに!〉

〈いや、あんた殆ど遊んでたでしょ〉

〈砂浜迷彩のバッグワームまで用意したのに!〉

〈それ設定したのも私よ〉

 

 オペーレーターの的確なツッコミが太一を襲う。

 コントのようなやり取りで少しだけ気力が回復した。

 

〈……来馬さん、凄く言いづらいんですけど〉

〈……うん〉

〈この内部構造、やっぱり通路じゃないみたいです。アチコチ隙間はありますけど、正規のルートは多分ありません〉 

〈…………〉

 

 侵入したエスクード城の内部には横に伸びる通路っぽい道があった。

 メイを中心に四角形を描くように一列に展開されたエスクードが何重にも連なっていたのだ。

 しかし、内側と外側を繋ぐ道は、既にアタッカー対決の余波で崩壊した熊谷直通ルート以外存在しない。

 あるのは大工の腕の悪さのせいでガタついてるエスクードの間に生じた隙間だけであり、イチイチそこに体をねじ込んでいては時間がいくらあっても足りない。

 

〈……仕方ない。飛び越えて行くよ! 太一、覚悟を決めて!〉

〈わかりました!〉

 

 エスクードは来馬や太一の火力でも決して壊せなくはない。

 だが、村上との距離を考えると、下手したら工事だけで試合時間かトリオンのどっちかを使い果たすくらいには硬い。

 なら、危険を承知で飛び越えていくしかない。

 

「!」

 

 しかし、危険を承知でと覚悟した通り、早速危険に見つかってしまった。

 エスクードの上を走ってメイと熊谷のところへ向かっていた玲が、エスクードを飛び越えようとした来馬と太一を発見。

 彼らを倒しておかないと村上と合流されて最悪なことになると判断し、方向転換して狩りに行った。

 時間が無い。秒で片付ける。

 

「いきなり出たぁ!?」

「それはそうだよね……!」

 

 機動力に優れる玲はあっという間に距離を詰め、こちらもまた玲を視認した来馬と太一は迎撃。

 

『那須隊長と来馬隊長、別役隊員がエンカウント! 射撃戦が始まったぁ!』

『こりゃ那須が有利だな。もう射程内だ』

 

 充分に近づいた玲は壁の上から通路に降り、ガタついて斜めに生成されたエスクードの裏にピッタリと張り付いて射線を切る。

 これなら来馬の山なりハウンドも届かない。

 メイのトリオンコントロールの未熟さが逆に幸いしていた。

 

通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)

 

 そこで悠々と合成弾を生成。

 エスクードの陰からチラリとハウンドの発射地点を確認し、小夜子に地形支援を貰ってぶっ放す。

 

「『変化貫通弾(コブラ)』」

「「!?」」

 

 アステロイドの威力と、バイパーの変幻自在さを合わせ持った合成弾コブラ。

 それを鳥籠の技術で放ち、来馬と太一を全方位から狙う。

 結構歪とはいえ、大元は小夜子が即席で設計した簡単な地形だ。

 設計者本人による地形支援まで貰っているのだから、エスクードのある前方以外の全てから襲いかかる完璧な鳥籠を決めるのは容易い。

 

「うわっ!?」

「ッ!?」

 

 絶え間無い連射で削り殺されることを恐れて対応の余地を残すべく、二人が使ったのは移動や反撃ができなくなる固定シールドや全周シールド四枚重ねではなく、弾丸の迫ってくる上、左右、後ろを守る四枚の通常シールド。

 しかし、本当に全方位から来る弾丸を防ぐためにはシールドを薄く広げるしかなく、バイパーならともかく、コブラはそれじゃ防げない。

 

『那須隊長のコブラがシールドを食い破り、来馬隊長、別役隊員ベイルアウト! 那須隊が先制点2点!』

『エグいな。これ地の利を握った那須じゃねぇか。エース以外じゃ手がつけられねぇ』

『マップ選択権が意味を成してないね』

 

 マップを書き換えて強引に地の利を奪うという暴挙。

 まさにトリオンの暴力。

 

『このまま那須隊の勝利で終わってしまうのか!?』

『いや、まだわからんぞ。ひっくり返す方法が二つある』

『一つは那須先輩が来る前にアタッカー対決を終わらせること。もう一つは千佳ちゃんの砲撃でエスクード城をぶっ壊すことだね。ただ……』

 

 モニターに映る現在の千佳を見ながら、緑川は苦笑した。

 

〈千佳! 今どんな感じだ!〉

〈ご、ごめん……。全然陸につけない……〉 

 

 開幕直後にメイにレッドバレット狙撃を食らわせた千佳だが、直後にカウンターのメテオラ流星群を食らってしまった。

 それ自体はダブル固定シールドで防いだのだが、小島を消し飛ばすメイオラの雨で海が大いに荒れ、流されないためにアイビスを重しにして海底に沈んでしまったのだ。

 今は頑張って泳いでいるが、陸に辿り着いて狙撃銃を構えられるようになるまで、まだまだかかる。

 

(マズい……!)

 

 その状況に修は冷や汗を流した。

 彼自身はまるで役に立てない。

 まず第一にエスクード城の奥に進めない。

 火力の低い彼がエスクードを壊すのは大変だし、飛び越えようものなら来馬達の二の舞いだ。

 ゆっくりコソコソよじ登るか、ガタつきによって生じている隙間を通れば目立たず先に進めはするものの、それじゃいつまで経っても遊真のところに行けない。

 ワイヤー陣を張れない海も大概だったが、エスクード城も修メタかと言うくらい相性が悪い。

 そうこうしているうちに──

 

「バイパー!」

「「!」」

 

 玲が援護に駆けつけてしまった。

 

『ここで那須隊長が到着! 那須隊が四人揃いました!』

『もう一つの勝ち筋が消えた。相当辛いぞこりゃ』

 

 玲のフルアタックバイパーによる鳥籠が遊真と村上を襲う。

 全方位攻撃で動きを制限したところにメイのガトリング。

 那須隊の必殺戦法。

 だが、さすがはエース二人と言うべきか、メイがレッドバレットによるデバフを受けていることもあって、香取隊のように即座に落ちたりはしない。

 

「旋空弧月!」

「チッ」

「くっ……!」

 

 だが、今回の行動制限役は玲だけではない。

 片手両足を失いながらもまだ生きている熊谷が、逃げ道を塞ぐ旋空弧月を放つ。

 

「えい!」

 

 更に茜もライトニングを連射連射連射ァ!

 確実に弾幕の圧が増し、逃げ場がみるみる消えていく。

 そして──

 

「くそっ……!」 

 

 メイのアステロイドでレイガストをガラスのように叩き割られ、村上が散った。

 

『村上隊員ベイルアウト! No.4アタッカーが討ち取られた!』

『レイガストの硬い防御が売りの鋼に、防御貫通は相性が悪過ぎるな……。こうなる前に仕留めなきゃならなかった』

 

 村上の剣の師匠である荒船が解説席で眉間にシワを寄せた。

 

「むねん」

『続いて空閑隊員もベイルアウト! これで4対0対0! 鈴鳴第一は全滅し、玉狛第二はあと二人! 全員揃えばA級部隊に匹敵すると言わしめた強さを存分に見せつける展開だ!』

『あの二人がこんな簡単にやられるとか……。本当に那須隊は絶対に合流させちゃダメだね』

 

 村上が落ちたことで集中攻撃を受け、遊真も脱落。

 ボーダー屈指のアタッカー二人を圧倒する那須隊の理不尽さに会場がザワつく。

 

(これが那須隊の本当の強さ……!)

 

 前回、極限まで運が良くても勝てなかったチームの一つ。

 新戦術を身につけて急成長しようと、チームとしての伸び代を大きく残しているのは向こうも同じで、差は縮まるどころか更に開いた。

 修に至っては何もできずに完封だ。

 海と築城で二重に作戦が狂った。

 せめてエスクード城を使ってくるとわかっていれば……。

 

(完敗だ……!)

 

 ここからできることと言えば、千佳を隠してタイムアップ狙いくらいだろう。

 メテオラ流星群にすら耐えうる千佳なら、海の底にでも引きこもれば、まずやられることは無い。

 

 だが、それでも那須隊は4点、自分達は無得点。

 修達の目的は近界(ネイバーフッド)への遠征部隊に選ばれるB級2位以上だ。

 向こうの世界に消えた千佳の兄や友達を探すため、先の大規模侵攻を退けるのと引き換えにアフトクラトルに行ってしまった遊真の相棒との再会のため。

 ()()()()()遊真のためにも、一刻も早く遠征部隊に選ばれたかった。

 だが、実力差という残酷な壁を越えることが──

 

「!?」

 

 その時──海の方角から、極大の砲撃がエスクード城に撃ち込まれた。

 

「おわっ!?」

「どうわぁああああ!?」

「これは……!」

 

 直線上にある全てのエスクードをぶち抜き、砲撃は那須隊のすぐ近くに着弾する。

 レーダー頼りの適当撃ちだったため当たりはしなかったが、戦慄するには充分過ぎる。

 

『ここで雨取隊員が陸地に帰還! 大砲をエスクード城に叩き込む!』

『城攻めだー!』

『……那須隊に向けて撃ったな。とうとう吹っ切れたのか』

 

 人を撃てないと思われていた千佳が、明確に那須隊目掛けてアイビスを構える。

 それに誰よりも驚愕したのは修だ。

 

〈千佳!?〉

〈修くん──私、やるよ〉

 

 もう一人のトリオンモンスターが、覚悟を決めて覚醒する。

 海から始まり、城が生えてきた混沌のラウンド5。

 その最後を締めくくる、怪獣大決戦の幕が上がった。




村上「ムチムチだった……!」(敗因)
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