那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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2 個人ランク戦

 ランク戦。

 それはボーダー内にて行われている、試合形式の訓練である。

 最も重要なのは階級に直結するチーム戦だが、個人戦も相当に盛り上がっている。

 中には学校の勉強そっちのけで熱中し、単位と引き換えにランキング1位に君臨した剛の者すらいるほどだ。

 

「私が来た!」

 

 そんな個人ランク戦のロビーに、メイは訪れていた。

 ルールは簡単。

 各自がポイントを持ち、勝った方が負けた方からそれを奪う。

 ポイントの高い相手に勝つほど沢山のポイントが貰えて、逆に低い相手だと勝ってもあまり貰えない。

 そして、所持ポイント順にランキングが決定する。

 他にも細々としたルールはあるが、大体はそんな感じだ。

 

「おー!」

 

 仮想空間にて行われている戦いは全てモニターに表示される。

 そこに映る正隊員達のレベルの高さに、メイは目をキラキラさせた。

 

「やっぱり、C級と全然違う!」

「そりゃ訓練生と比べればね」

 

 付き添いで一緒に来た熊谷が苦笑する。

 C級が使えるトリガーは一つ。

 対して、正隊員が使えるトリガーは、メインとサブに四つずつの、合計八つ。

 その組み合わせで多彩な戦術が繰り出され、当然ながらそれを操る隊員の技量も天と地の差。

 メイがトリオン量に任せて踏み越えてきたC級ランク戦とそれ以外は、全くの別世界だ。

 

「あーーー!!」

「「!?」」

 

 と、その時、メイを見て一人の隊員が大声を上げた。

 

「お前! 遊真先輩を倒したチビッ子!」

「チビッ子言うな!」

 

 子供扱いされていたせいで、ボーダー入隊という死活問題をクリアできない日々が続いたメイが噛みついた。

 だが、メイをチビッ子呼ばわりした相手の方も、決して大人とは言えない年齢。

 せいぜい中学生くらいの、幼気な少年だった。

 

「駿くん……!」

 

 熊谷が少年の名前を口にする。

 『緑川(みどりかわ) 駿(しゅん)』。

 A級4位『草壁隊』のアタッカー。

 個人ランク戦においても、マスタークラスと呼ばれる8000点以上のポイントを所持する猛者。

 ボーダーの若き精鋭の一人である。

 

「ちょうどいいや。君、俺とやろうよ。C級と正隊員の違いを教えてあげる」

 

 緑川はメイの存在が面白くなかった。

 彼は先日、空閑遊真に圧倒的な実力差を見せつけられて負けている。

 その遊真にメイは勝った。

 だが、緑川からしてみれば、あれは反則のようなものだ。

 

 遊真VSメイの記録(ログ)は見た。

 絶大なトリオン量に任せた強力な弾丸によるゴリ押し。

 技量はお粗末なのに、武器の性能差で無理矢理押し切る雑な戦い方。

 積み上げられた経験と努力をチートで蹂躙するような光景。

 

 正直、見ていて気持ちの良いものではない。

 だからこそ、彼はこんな新人イビリのような戦いをふっかけた。

 

「やったらー!」

「ちょ!? メイ!? さすがにA級には勝てな……」

「いいじゃん、くま! 別に負けても死ぬわけじゃないし!」

「……まあ、それもそうか」

 

 その一言で、熊谷は止める理由を失った。

 言われてみればその通り。

 負けて学ぶのがランク戦の意義だ。

 

「ま、ハンデはあげるよ。ガンナー有利の距離にしといてあげる」

 

 フィールド:市街地A

 距離:100メートル

 緑川(スコーピオン・9160) VS 那須(アステロイド・4011)

 

『個人ランク戦十本勝負、開始』

「行くよ」

 

 開幕速攻。

 緑川は機動戦用オプショントリガー『グラスホッパー』を起動。

 足元に出現したジャンプ板を踏みしめて、一気にメイとの距離を詰めた。

 

「食らえ!」

 

 対して、メイは遊真戦でも使ったガトリングを出現させ、迫りくる緑川に向かって引き金を引いた。

 超高速アステロイドの雨が緑川に降り注ぐ。

 

「ふん」

 

 緑川は慌てず騒がず、防御用トリガー『シールド』を起動しようとして──

 

「………………は?」

 

 起動する間も無く蜂の巣にされた。

 

『緑川、緊急脱出(ベイルアウト)。1−0、那須リード』

「ッ!?」

 

 緊急脱出(ベイルアウト)システムが発動し、緑川はブースのベッドに転送。

 そこでようやく我に返って、今の現象を冷静に分析した。

 

「……なるほど。アステロイドの設定を弄ってたのか。ああ、くっそ! 油断したぁ!」

 

 今のアステロイドは、遊真との戦いの記録映像で見た時よりも遥かに速かった。

 発射から着弾までのタイムラグがほぼゼロと言えるほどに。

 

 そのカラクリは弾トリガーの設定変更だろう。

 弾トリガーは威力、弾速、射程にそれぞれエネルギーとなるトリオンを割り振るという仕組みをしている。

 B級に上がったことでそれを弄れるようになり、弾速にかなりのトリオンを割り振ったと見える。

 初見殺しの一種だ。

 

『二本目開始』

「今度は油断しないよ!」

 

 次の一本がスタート。

 今度は敵の弾道を見極めてからなんて悠長なことは考えず、開始直後にシールドを使った。

 緑川の目の前に、六角形をした半透明の盾が現れる。

 

 ボーダーにおいて、いやトリガー使いの戦いにおいて必須と言えるほどに重要なトリガー、シールド。

 C級ランク戦で遊真が負けた理由の半分くらいは、武装は一種類というC級のルールのせいで、このシールドすら使えなかったからだ。

 シールド無しで、雨のように降り注ぐ超高速弾の群れの対処は難しい。

 だが、一度シールドを張れてしまえば、弾速特化の銃撃なんて怖くな──

 

「……へ?」

 

 そんなことを考えていた緑川の体に無数の風穴が空いた。

 

『緑川、緊急脱出(ベイルアウト)。2−0、那須リード』

 

 緊急脱出(ベイルアウト)システムが発動し、緑川はブースのベッドに転送。

 デジャヴ。

 

「は? え? どういうこと?」

 

 緑川は混乱した。

 メイのアステロイドが、緑川のシールドを紙のように貫通し、そのまま緑川本人をも撃ち抜いたのだ。

 彼のシールドは、ほんの僅かな時間を稼ぐことさえできなかった。

 

 あれは弾速特化アステロイドのはずだ。

 そうでなければ、あのスピードは出ない。

 そして、威力、弾速、射程にそれぞれトリオンを割り振らなければならない弾トリガーの性質上、弾速を求めれば威力と射程が犠牲になるはずなのだ。

 

 なのに、メイの弾丸は恐ろしいほどの威力と弾速、更にある程度の射程を両立していた。

 射程は銃本体の恩恵で多少は補われているだろうが、あの威力は説明が──

 

「まさか……!?」

 

 その時、緑川は恐ろしい事実に気づいた。

 つまり、あいつのトリオンは、威力と弾速にあそこまで割り振ってもお釣りが来るほどに膨大ということか?

 奴の正確なトリオン能力の数値を緑川は知らないが、もしそうだとすると……。

 

「チートめぇ……!」

 

 威力も弾速も射程もある銃撃の連射。

 それができれば苦労はしねぇと言いたくなる、ぶっ壊れ性能だ。

 幼い緑川は、敵のあまりの反則っぷりに闘志と反骨心を燃やした。

 絶対一泡吹かせてやると誓って三本目に向かう。

 

『三本目開始』

「グラスホッパー!」

 

 三本目。

 緑川は一本目と同じく、グラスホッパーのジャンプ板を使って飛び跳ねた。

 しかし、今度は最短距離を突っ切るような真似はせず、ジグザグに動いてアステロイドの雨を避ける。

 

(これなら……!)

 

 あの弾速は撃たれた後ならとても避けられないが、引き金が引かれる前に射線から外れることができれば問題無い。

 このまま振り切ってから距離を──

 

「ぬん!」

「ウッソだろ……!?」

 

 メイがもう一つのガトリングを出現させた。

 メインとサブ、両方のトリガーを攻撃に使うフルアタック。

 同時に使えるトリガーはメインとサブで一つずつ、計二つまでなので、これをやるとシールドなどの他のことができなくなるが、遠距離攻撃を持たない緑川相手なら関係無い。

 

「吹っ飛べぇ!」

 

 肩掛け用のスリングで体に固定された二つのガトリングが火を吹いた。

 右のガトリングからはアステロイドの雨。

 左のガトリングからは──

 

「ハウンド!?」

 

 ガンナー用トリガー『ハウンド』。

 相手のトリオン反応を追いかける探知誘導、あるいは視線の先へと誘導される視線誘導によって、曲がる弾丸。

 特殊効果にトリオンを割いている分、アステロイドに比べれば威力が低いが、メイのトリオン量からすれば誤差だ。

 おまけに、

 

「お、遅い……!?」

 

 アステロイドより弾速にトリオンを割り振らない設定にしているのか、メイのハウンドは一般的なガンナーやシューターが使うのと同程度のスピードだった。

 超速超威力のアステロイドと、低速変化球のハウンド。

 それが同時に襲ってきて、緩急で殺される。

 

「ぬわーーー!?」

『緑川、緊急脱出(ベイルアウト)。3−0、那須リード』

 

 緑川、再びのダウン。

 それをロビーで見ていた熊谷が一言。

 

「なんか必殺技みたいになってる……」

 

 超速アステロイドと低速ハウンドの変速フルアタック。

 これは別に狙って開発したわけじゃない。

 ハウンドは速すぎると上手く曲がってくれないから、弾速にトリオンを割り振れなかっただけだ。

 そんなショッパイ理由でできた技が必殺技になるとか、恐ろしきかなトリオンの暴力。

 

「まだまだぁー!」

『四本目開始』

 

 それでも緑川は諦めない。

 今度は開始直後に建物の中に隠れてみる。

 あの威力なら障害物なんて豆腐のように粉砕するだろうが、視界が遮られれば狙いがつけられない。

 隠密用トリガー『バッグワーム』も起動して、ハウンドの誘導探知からも逃れる。

 これで……。

 

「おりゃー!」

「はぁあああああああ!?」

 

 メイは構わずフルアタック。

 緑川が逃げ込んだと思われる場所を片っ端から消し飛ばした。

 

『緑川、緊急脱出(ベイルアウト)。4−0、那須リード』

「どうしろと!?」

 

 緑川は緊急脱出用のベッドの上でジタバタと暴れた。

 どうしよう。攻略法が思いつかない。

 いや、仲間の協力があれば余裕だとは思うのだが、自分の手持ちのカードではどうにもならない。

 

 スコーピオン。

 そもそも近づけないので振るうチャンスが無い。

 

 グラスホッパー。

 逃げるのに有効だが、変速フルアタックは避け切れない。

 

 シールド。

 紙切れのように貫通される。

 

 バッグワーム。

 隠れた場所ごと消し飛ばされる。

 

「ぬわぁあああああ!?」

 

 緑川は奇声を上げながら頭を抱えた。

 それでも先輩の意地で戦い続け、試行錯誤して攻略法を探してみたが……。

 

『十本勝負終了。10-0。勝者、那須 命』

「よっしゃー!」

「くっそぉおおおお!!」

 

 ロビーに帰ってきたメイは拳を天高く突き上げて勝利のスタンディングをし、緑川は膝をついて項垂れた。

 ひとえに相性が悪かった。

 あとは緑川が設定してしまった距離というハンデだ。

 せめて、もう少し近くから始まっていれば、まだなんとかできる余地があったかもしれない。

 

「なんなんだ、あれ……!?」

「ば、化け物かよ……!?」

「アハハ……ホントに勝っちゃった……」

 

 観戦していたC級達がマップ兵器もかくやとばかりの火力を見せつけた小学四年生に畏怖の眼差しを送り、熊谷は乾いた笑みを浮かべた。

 そして、

 

「へぇ」

「面白いのが入ってきたな」

 

 B級以上の正隊員達、その中でも腕に覚えのある者達は、自分ならあれをどう攻略するか考えながらニヤリと笑った。

 

「フハハハハハ! 死にたい奴はかかってこーい!」

「ちょっと、メイ! あんまり調子に……」

「お、いいね! いいね! イキの良い新人は大歓迎だ!」

「た、太刀川さん……!?」

 

 その時、ランク戦ロビーに、単位を犠牲にして莫大なポイントを稼いだ男が降臨した。

 バトルジャンキーである彼は、小学生に容赦なく戦いを挑み。

 

「むーーーー!」

「ハッハッハ! まあ、B級上りたてじゃこんなもんよ! トリオン任せのゴリ押しだけじゃなくて、ちゃんと技と戦略も学べよチビッ子」

「チビッ子言うなー!」

 

 むくれるメイの頭をポンポンと叩きながら、太刀川はケラケラと笑った。

 ゴリ押しだけで無双できるほど、ボーダーは甘くない。




那須(なす) (めい)

PROFILE(プロフィール)

ポジション:銃手(ガンナー)
年齢:10歳
誕生日:8月15日
身長:142cm
血液型:O型
星座:ぺんぎん座
職業:小学生
好きなもの:姉、仲間、自由

FAMILY(ファミリー)
父、母、姉(那須 玲)

PARAMETR(パラメーター)

 トリオン:37
 攻撃:22
 防御・援護:3
 機動:4
 技術:2
 射程:5
 指揮:0
 特殊戦術:1
 TOTAL:74

〈トリガーセット〉

・メイン
アステロイド(機関砲)
メテオラ(機関砲)
FREE TRIGGER
シールド

・サブ
ハウンド(機関砲)
バイパー(機関砲)
バッグワーム
シールド

※あくまでも現時点。成長に伴って変更する可能性大。

SIDE EFFECT(サイドエフェクト)
???

ちっちゃいヘビーガンナー。
姉とは似ても似つかない、ガトリングだらけの頭の悪いゴリ押しスタイル。
だが、本人は「これが素人トリオン強者の最適解」とドヤ顔を決めている。
昔からやたらと勘が鋭く、そのおかげで自身をつけ狙うトリオン兵の隙間をスルリスルリと縫って生き残ってこれた。
性格はボーダーでは珍しいほどに年相応のクソガキ。
きっと、これから何度も痛い目を見て成長してくれることでしょう。
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