那須隊のトリオンモンスター・ガンナー 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「終わったー!」
「お、終わった……」
「心臓に悪かった……」
ゲートの発生から僅か数時間後、大規模侵攻は終結した。
敵の遠征艇は、とある少年の捨て身の作戦と、多くの隊員達の奮闘によって本国へ強制帰還。
こちらに残されたトリオン兵の残党も討伐が完了した。
なお、終盤になって急にトリオン兵の大部分が那須隊のいる南西部にワラワラと集まり、その全てがメイのガトリングの餌食となった。
千を軽く越える大軍に、既に結構ボロボロとはいえ複数の新型。
それを前に玲や熊谷は顔面蒼白になったが、こと殲滅力に限ればメイの右に出る者は少ない。
尖った性能が上手いこと刺さり、敵軍を全滅させることに成功した。
……通信がやられていたせいで、ちょっと味方を何人か巻き込んでしまったが、全員ベイルアウトができる正隊員だったのでセーフということにしておこう。
この戦いにおける被害は、ボーダーの死者6名、重傷4名。
攫われたと思われる行方不明のC級隊員20名。
民間人の死者0名、重傷11名、軽傷39名。
五方向に散っていたトリオン兵が、終盤だけとはいえ那須隊のところに集中して全滅したおかげで、思ったより被害を抑えられた。
後日──
「え?」
「は?」
「どぅええええええ〜〜〜!?」
「……!? ……!?」
特級戦功 報奨金150万円+1500P
B級12位 那須隊
南西部地区へと大移動した千を越えるトリオン兵の軍勢を殲滅。
被害の軽減に貢献した。
新型撃破数 7
思わぬ臨時収入が手に入った。
メイ一人であれば、雑な攻撃の隙を突かれて、あっさりとやられていただろう。
攻撃力極振りで危なっかしい幼女の子守りを完遂し、那須隊全員で勝ち取った戦果だ。
まあ、それはそれとして味方を撃ったことは許されず、メイだけはガッツリペナルティを食らったそうな。
◆◆◆
時は流れ、大規模侵攻から約十日。
この十日でメイに最低限の教育を施した那須隊は、ついにこの日を迎えた。
チームランク戦こと、B級ランク戦の始まりだ。
「やるぞー! 撃つぞー! 吹っ飛ばすぞー!」
「おー!」
「はしゃいでるわね」
「ですね」
「こういうのが好きな子だから」
作戦室で茜と共に昂っているメイを見て、お姉ちゃん達は微笑ましいとばかりの視線を送った。
……正直、ランク戦に挑むに当たって、メイには不安しかない。
チームランク戦と個人ランク戦は全く違う。
順位の近いチームが三つ巴、四つ巴で戦い。
一人倒せば1ポイント、他のチームを全滅させて最後まで生き残れば追加で2ポイント。
それに前回の順位に比例した初期ポイントを合わせた点数の合計で競い合うのがB級ランク戦だ。
基本的に1チームにつき3〜4人の戦闘員がいるので、一度に10人前後が試合会場の仮想ステージにぶち込まれることになる。
人数が増えれば、途端に戦略は複雑化する。
そして、どれだけトリオン能力が高くても、トリオン体の耐久力や身体能力は変わらない。
不意打ち一発で簡単にやられるのだ。
メイというピーキーな大駒を、どれだけ周りがフォローできるかに勝敗がかかっている。
「それじゃあ、行きましょうか」
「「「「了解!」」」」
◆◆◆
「さあ、ついに始まりました。B級ランク戦新シーズン。
初日・昼の部を実況していきます。嵐山隊オペレーター、綾辻 遥です。
解説席にはウチの嵐山隊長と、ボーダー最強部隊と名高い玉狛第一の小南隊員に来ていただきました」
「よろしく」
「よろしく!」
ランク戦名物の実況解説。
そこにボーダーの顔として名高い嵐山隊の二人に加え、普段は本部にいない最強部隊の一人が座っているということで、結構な注目を集めていた。
「今回の注目はなんと言っても、新メンバーを加え、先日の大規模侵攻で特級戦功を上げた那須隊ですね」
「そうですね。件の新メンバーのことは、俺も大規模侵攻の時に目にしました。色んな意味で目が離せない人物だと思います」
「誤射でベイルアウトさせられた恨みは忘れないわ!」
小南はプクーと頬を膨らませていた。
ちなみに、大規模侵攻の時、彼女と共に誤射で葬られたのは嵐山隊だ。
つまり、現在解説席に座っているのは全員が被害者であり、ある意味では誰よりもメイの脅威をよく知る者達。
もちろん、ちゃんとごめんなさいしに来たので許してはいるが。
「さて、そんな那須隊の最初の相手は、荒船隊と早川隊。
荒船隊は
逆に早川隊はガンナー二人に、オールラウンダーが一人の中距離戦に強い編成。
そして、ここで最も順位の低い早川隊によって対戦ステージが決定されました!
ステージは『市街地D』!」
ランク戦のルールとして、対戦ステージは最も順位の低いチームが選べる。
今回選ばれたのは、市街地D。
中央に巨大なショッピングモールがあり、屋内戦が起こりやすいステージ。
「これはわかりやすくスナイパー対策ですね。
荒船隊は全員が、那須隊にも日浦隊員というスナイパーがいます。
敵の半分がスナイパーで、しかも自分達の隊にはスナイパーがいないんですから、対策しない理由の方が少ない」
嵐山がお手本のような解説をした。
屋内戦が起こりやすいということは、射程が命のスナイパーの強みが大きく削られるということ。
これで四人もの隊員が機能不全だ。
『B級ランク戦、転送開始』
「さあ、転送完了! 各隊員は一定の距離をおいてスタートです! ……っと、これは!」
◆◆◆
トリオンによって作られた仮想ステージに、三部隊10名が転送完了。
『マップ『市街地D』! 天候『雨』!』
フィールド全体に雨が降っていた。
視界が悪く、スナイパーはことさらやりづらい。
徹底的なスナイパー対策。
そして、各隊員の転送位置なのだが……メイだけ敵陣のど真ん中であった。
〈〈〈〈うわぁ……〉〉〉〉
「バッグワーム起動!」
那須隊はイマイチ状況の悲惨さをわかっていないメイ以外の全員が頭を抱え、そのメイだけはのほほんとした様子で、事前に教えられた通り隠密用トリガー『バッグワーム』を起動。
やっぱり、このマントカッケェとテンションを上げた。
〈転送位置、最悪ですね……〉
オペレーターの小夜子がどんよりとした声で言う。
メイはマップ中央のショッピングモールに一人。
全方位を敵に囲まれ、残る三人は全員が、北、南、東の一番端。
メイとの合流どころか、他の誰と合流するにも時間がかかる。
その間に敵は動くだろう。
この地形と天候では、屋外での狙撃戦でポイントを稼ぐのは絶望的。
なら、全員が最も広い屋内の戦場であるショッピングモールを目指す可能性が高く、そこに放り込まれたメイは逃げることすらままならない。
およそ、考え得る限り最悪のパターンであった。
〈とりあえず、メイは私かくまちゃんが駆けつけるまで、物陰か何かで隠れていて〉
〈えー〉
〈えー、じゃありません。あと、誰かに見つかっちゃった場合、安易なフルアタックだけは絶対にやめて。
いつでもシールドを出せるようにしながら、片側のトリガーだけで戦うこと〉
〈はーい……〉
玲がお姉ちゃん力を発揮しながら指示を出し、その間にも三人はバッグワームを使いながらショッピングモールを目指す。
それを見て、早川隊もバッグワームを起動。
全員がレーダーから消えた。
『おっと! 序盤から全員バッグワーム! あまり見ない展開となりました!』
『全員スナイパーの荒船隊はバッグワームが基本装備。つまり那須隊と早川隊は、自分達以外のレーダー反応=荒船隊以外のチームと推測できてしまいますからね』
『那須隊は自分達が盛大にバラけてるのを知られたくなかったんでしょ』
『そうして那須隊がバッグワームを使うと、消去法でレーダーに映るのは早川隊だけ。さすがに自分達だけがレーダーに映るというのは、あまり歓迎できない。袋叩きにされますから』
序盤から全員でかくれんぼ。
そして、悲しきかな転送運。
那須隊が集結するより前に、敵がショッピングモール内に入ってきてしまった。
『転送運の良かった早川隊、順調に全員が合流しつつショッピングモールへ。
荒船隊も合流が必要無い部隊の特性を活かし、迅速にモール内に辿り着いた。
一方、運勢最悪の那須隊は、合流までまだまだかかりそうだ』
『……チビッ子はともかく、玲ちゃんが可哀想になってきたわ』
玲のクラスメイトでもある小南が、さすがに同情の声を漏らした。
「あっ!」
「げっ」
『あっと! ここで荒船隊長と早川隊が鉢合わせた! 通路での遭遇事故です!』
『モールは大きいとはいえ、マップ全体に比べれば小さいですからね。加えて全員バッグワーム。こういうことも起こります』
荒船と早川隊の戦闘開始。
狙撃も剣もマスタークラス、武闘派狙撃手・荒船哲次が暴れる。
『荒船隊長VS早川隊の戦いは、早川隊が優勢! マスタークラスとはいえ、さすがに3対1は厳しいか!』
『荒船さん、なんか鈍ってない?』
『まあ、今の荒船はスナイパーメインだからなぁ』
小南からの手厳しい評価。
加えて、射線の通らない場所で遭遇してしまったせいで、仲間のスナイパー二人からの援護も難しい。
早川隊もそれはわかっているので、思い切り良く攻める。
数、地形、状況、それらの要素が個々の実力差を埋めていた。
「チッ!」
『荒船隊長が後退! 押し込まれたか!』
『いや、釣りね』
『押されるふりをして、仲間の狙撃地点に誘導するつもりですね。さすが荒船だ』
言葉の足りない小南の解説を嵐山がフォロー。
二人の解説通り、荒船は押されるふり、というか実際に押されているので、後退しながら早川隊を誘導する。
しかし、この移動が思わぬ展開を呼んだ。
「むむ?」
『おっと! 逃げた場所の近くに那須隊員だ!』
『こっちも偶然の遭遇でしょうね』
なんと、荒船はメイの隠れている場所の近くに早川隊を連れてきた。
四人はお互いの相手で必死。
少なくとも、メイにはそう見えた。
つまり、
(ぎょふのり!)
漁夫の利。
覚えたばかりの言葉を嬉しそうに思い浮かべながら、メイはガトリングの銃口を四人に向けた。
「ファイア!」
「「「「ッ!?」」」」
アステロイドの雨の不意打ちが四人に襲いかかる。
A級の緑川ですら、放たれてからの防御は叶わなかった攻撃だ。
避ける暇もシールドを張る暇も無く、四人は仲良く蜂の巣となってベイルアウトした。
『那須隊員、一挙に4得点! 凄まじい漁夫の利を得た! というか、弾速が速すぎる!』
『災い転じてというやつですね。あれが不意打ちで飛んできたら、A級でも対処は難しいかもしれません』
『むきー! 反則アステロイド!』
自身の弟子である遊真を仕留めた攻撃に、小南が気炎を上げた。
同時に、超高速アステロイドが初見だった観客席に動揺が走る。
「フッ、決まった。って、おわっ!?」
『半崎隊員、穂刈隊員が那須隊員を狙撃!』
荒船隊の残った二人が、派手にガトリングをぶっ放して目立ったメイを狙撃した。
うっかりバッグワームを着たまま攻撃してドヤ顔を決めていたメイは、シールドを出すこともできない。
しかし、
『おお、よく躱しましたね。完全に不意を打たれていたように見えましたが』
メイは持ち前の動物的直感によって回避を成功させていた。
ただ、本当にギリギリだし無傷でもない。
頭を狙った狙撃は転がって避けたものの、もう一発の狙撃で片足がやられた。
マジモンの命の危機に比べると、虫の報せの精度が低い。
「こんにゃろー!」
撃たれて怒ったメイは、狙撃の飛んできた地点に向けてガトリングを乱射。
しかし、威力と弾速にかなりのトリオンを振っているため、さすがにスナイパーの距離までは届かない。
アステロイドが虚しく宙に溶ける。
〈メイ! メテオラを使って! そっちなら届く!〉
「あ! そっか!」
小夜子からのアドバイスに従い、メイはガトリングの弾種を変更。
炸裂弾を装填し、同時に姉のアドバイスも思い出してバッグワームを解除。
広げたシールドで、追撃の狙撃を防いだ。
〈固いな。シールド〉
〈ダルいっすわ〉
本来、薄く広げたシールドでは防げないはずの狙撃手用トリガー『イーグレット』の弾丸を二発もあっさりと防ぐメイのシールドを見て、荒船隊の二人は顔をしかめた。
これ以上の追撃は危険と見て、スナイパーの基本に従い、即座にその場から離れようとしたところで、
「食らえー!」
「「!?」」
メイのメテオラガトリングが火を吹いた。
アステロイドに比べれば射程にトリオンを割り振った設定。
加えて、ガンナー用トリガー『メテオラ』は着弾すると爆発を起こし、広範囲を薙ぎ払う炸裂弾だ。
メイの絶大なトリオン能力で撃ち出されたメテオラの連射は──二人のスナイパーが隠れていた場所を、ショッピングモールごと消し飛ばした。
「人型ネイバーかよ……!?」
「デジャヴっすわ……」
大規模侵攻の時に似たようなやられ方をした二人は、大爆発に飲み込まれてベイルアウト。
そして、
「うぉおおおおおおお!!」
〈ちょ!? メイ! もう終わったから!〉
メテオラの爆発に紛れてしまったせいでベイルアウトを見逃し、メイはガトリングを撃ち続けた。
小夜子が慌てて止めたが、僅かに遅く……。
「わっ!?」
「えぇ!?」
「どぅええええええ!?」
ようやくショッピングモールに辿り着いた仲間達が被弾。
ショッピングモールは更地となり、那須隊三人はフレンドリーファイアでベイルアウトした。
『…………しょ、衝撃の決着! 生存点2ポイントを含め、全てのポイントを那須隊が独占! 一挙8得点で初戦大勝利です!』
『いやぁ、これを大勝利と呼んでいいんでしょうか……』
『あのチビッ子、またやったーーー!!』
たった一人で敵味方を全滅。
同日に起こったもう一つのチームの完全試合と共に、ある意味でランク戦の伝説となった。
〈メイ、戻ったら、もう一度しっかりお勉強しましょうか〉
「ひぇ!?」
この戦いの結果、那須隊は暫定7位に急上昇し、未熟極まりない幼女を抱えたまま、B級上位に殴り込みをかけることとなった。
茜ちゃんの通う三門第二中学校方面(太刀川さんがワンオペしてた基地東部)のトリオン兵の大半が、メイという誘蛾灯に群がってガトリングの餌食になったので、そっち方面の被害者が激減してます。
それでも20人のトリガー使いを捕獲できたので作戦成功ですが。
そして、原作では両親に引っ越しを命じられた茜ちゃんは、この世界線では同じ中学校の被害者が少ない上に、小学生の後輩を残して去れないという理由で両親を説得するので、さすがに小学生を見捨てて自分だけ逃げろとは両親も言えず、茜ちゃんの脱退は無しになります。
人間ドラマ書くのが大変そう過ぎて投げたとも言う。
今回は女の子達に楽しそうにワチャワチャしててほしいんだ(純粋な目)
・メイの攻撃力
パラメータの数値としては22。
これがどのくらいかと言うと、ランバネイン以上。