那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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5 B級ランク戦・ラウンド2

 B級上位。

 それは魔境である。

 

 本来ならA級にいるはずの部隊二つが隊務規定違反で降格し。

 その2チームがA級昇格のチャンスを掴めるはずの地位を独占してしまったせいで蓋をされ。

 結果、A級にいてもなんらおかしくない強者どもが押し込められて潰し合うことになった蠱毒の中。

 それがB級上位。

 

「よし。それじゃあ、作戦会議を始めるぞ」

 

 そんなB級上位の一角。

 暫定6位『東隊』が、次の試合に向けた会議を始めた。

 

「次の対戦相手は弓場隊と王子隊、そして中位から上がってきた那須隊だ。お前達はどう見る?」

「やっぱ、なんと言っても那須さんの妹ですよ! 妹! なんなんだよ、あのメテオラ!」

「あれは対策無しで当たっちゃダメなタイプだと思います」

 

 隊長の質問に、隊員であり教え子でもある小荒井と奥寺が答える。

 あれはもう、自分達の知ってるメテオラじゃない。

 絨毯爆撃とか、そういう感じのあれだ。

 

「なら、どんな対策を考える?」

「とりあえず、絶対に向こうの得意な形で戦っちゃダメですね。その形に持ち込まれた時点で負けくらいに思わないと」

「だなー。つっても、次のステージ選択権持ってるの那須隊だろ? 100%地の利を握って得意を押しつけてくるぜ?」

「そうなんだよな……」

 

 二人は頭を悩ませる。

 ラウンド1では、あれだけ転送運が悪かったのに、終わってみればメイ一人で8対0対0の完全試合だ。

 そんなチートに地の利まで握られる。

 ちょっと、良い対抗策が浮かんでこない。

 

「ふむ。なら、少し視点を変えてみよう。彼女の弱点はなんだ?」

「弱点かー……」

「普通のフィールドだったら、東さんの狙撃一択なんですけど……」

 

 荒船隊のスナイパー二人はメイのメテオラで吹き飛ばされたが、あれはあくまでもショッピングモールという特殊なステージのせいで、通常ではあり得ない距離にまでスナイパーが寄ってきていたからだ。

 本来のスナイパーの射程、数百メートルの距離を開ければ、あの絨毯爆撃もさすがに届かない。

 とはいえ、ステージ選択権のあるチームが、そんなわかりやすい弱点を残してくれるとは思えない。

 

「それ以外となると、やっぱり奇襲でしょうか?」

「ああ。それも正解の一つだな」

 

 正面から勝てない相手は意表を突いて倒す。

 王道である。

 

「では、那須妹に奇襲を通すにはどうすれば良い?」

「……まず第一に、他のメンバーが護衛についたら相当キツいですね。特に熊谷先輩は防御と援護に限ればかなりのレベルですし」

「那須先輩だってヤベーだろ。ボーダー屈指の精密射撃と、あの化け物火力を一度に相手にするとか……考えたくねぇ」

「なら、合流される前の序盤で勝負をかけたいな」

「多分、隠れやすいフィールドとか選んでくるぞ? そんな中で那須隊をピンポイントに見つけられるのかよ?」

「難しい。けど、やるしか無いだろ」

「……ま、そうだよな」

 

 二人は覚悟を決めた顔になった。

 

「まあ、待て。そう結論を急ぐな。他のアプローチも考えておいた方が良い。合流する前に叩く一択だと、いざ合流を許した時に何をして良いかわからなくなるぞ」

「それに、何も自分達だけで何とかしようとする必要は無いわ。特に今回は四つ巴だしね」

「……はい」

「……うす」

 

 隊長とオペレーターの人見に言われ、二人はもう一度顔を突き合わせて考えた。

 

「近づけば、弓場さんなら勝てると思うか?」

「いや、相性が悪いと思う。それに緑川との個人戦のログは見ただろ」

「メテオラだけじゃなくて、アステロイドまで反則だもんなぁ。ぶっ壊れ性能も大概にしろって感じだぜ」

 

 緑川ですら避けるのに苦労したアステロイドの連射。

 発射から着弾までのタイムラグがほぼ無く、おまけに生半可なシールドは紙のように貫通する。

 フルアタックを許せば更にやばい。

 どこの『ぼくがかんがえたさいきょうのとりがー』だ。

 

「じゃあ、王子隊はどうだ? あの機動力で多方面から攻めたら切り崩せないか?」

「割と行けそうな気がするな。序盤に王子隊が妹さんとぶつかって落としてくれると最高なんだが」

「さすがに、それは高望みし過ぎじゃね?」

「そうだな。王子隊が攻めてるところに俺達も乱入して、更に多方面から切り込むくらいが現実的か。上手く二隊をぶつけるには──」

 

 二人の話し合いは熱中し、時折助言をしてやれば、どんどんアイディアが出てきた。

 その姿を見て、隊長にして今は指導者に専念している男──かつてのA級1位部隊を率いた始まりの狙撃手(スナイパー)(あずま) 春秋(はるあき)』は満足そうに頷いた。

 

◆◆◆

 

「B級ランク戦二日目・昼の部の時間だ。

 実況は私、冬島隊の真木理沙。

 解説は三輪隊の奈良坂、影浦隊の北添でお送りする」

「よろしく頼む」

「どもども~」

 

 怖いと有名な『真木(まき) 理沙(りさ)』。

 ボーダーNo.2スナイパー『奈良坂(ならさか) (とおる)』。

 マスコット系ヘビーガンナーの『北添(きたぞえ) (ひろ)』。

 それが本日のメンバーだった。

 

「今回の注目は、やはりラウンド1で大爆笑なことをやらかした那須隊、というよりメイだな。

 ちなみに、本人は『撃たれて必死になって、確実に倒さなきゃと思って周りが見えなくなってました』と供述している。

 従兄妹としてどう思う、奈良坂?」

「完全に経験不足が目立っていますね。頭が痛いです」

 

 奈良坂は頭痛を堪えるような顔になった。

 それを見て、真木は静かに笑う。

 

「ありゃ? 真木ちゃん、妹ちゃんのこと名前呼び? 反省の内容も知ってるみたいだし、仲良いの?」

「ええ。姉経由で少し接点がありまして。懐いてくるバカな犬みたいで可愛いんです」

「バカな犬……」

「わかる」

「奈良坂くん?」

 

 そんな会話に、北添は何やら得体の知れない危機感を覚えた。

 

「そんなメイだが、今回も似たような展開になると思うか?」

「いえ、可能性は低いと思います。前回の完全試合は運と事故みたいなものです。

 たまたまメイ──那須隊員の近くに荒船隊長と早川隊が出てきて、たまたまスナイパー二人の狙撃を回避できたから、ああいう形になった。

 あんなお粗末な隠れ方をしている時点で、那須隊員が自分からアクションを起こして勝てるイメージが浮かばない」

「確かに、あれは頭隠して尻隠さずの典型みたいで笑えたな」

「辛辣〜」

 

 北添は困ったように苦笑した。

 どうしよう、この二人。

 小学生をボロッカスに言うことに躊躇が無い。

 

「とはいえ、那須隊員は扱いづらいだけで強力な駒であることに変わりは無い。

 あとはチームがどれだけ欠点を埋め、上手く運用できるかだ」

「そうですね。特に今回はステージ選択権も那須隊にあります。戦略次第で面白い展開になりそうです」

 

 多少のフォローをしたところで、時間が来た。

 

「ここで対戦ステージが決定だ。ステージは『森A』」

「およ? 珍しいのが来たね」

「木々が生い茂っているせいで、スナイパーの射線が通りづらいステージですね。あと、建造物が無いから道らしい道が無い。どう見る?」

「那須隊員との合流を最優先にするつもりではないでしょうか? スナイパーが狙いづらく、わかりやすい道が無いため移動経路を読まれる可能性も低いので」

「あ〜、なるほど〜」

 

 北添のゆるっとした声のおかげで、解説を聞いている訓練生達の耳に、内容がするっと入っていった。

 大型マスコットのゾエさんは伊達ではない。

 

「さあ、各部隊転送完了。マップ『森A』。天候は『霧』だ」

 

◆◆◆

 

「森で霧かぁ。ナスレイめ。可愛い顔して、嫌なところ突いてくるなぁ」

 

 暫定5位『王子隊』の隊長、王子一彰は、敵の狙いを一瞬にして看破して苦笑した。

 

〈王子〉

〈うん。わかってるよ、クラウチ。これは無理だ〉

 

 森に薄っすらと漂う霧。

 周辺は普通に見渡せるが、100メートルも離れれば何も見えない。

 

〈この霧の中でじっとされたら、メイナードを早期発見はできない〉

 

 メイの早期発見からの撃破。

 これができれば最善。

 王子隊の機動力の高さ、敵の位置や移動経路を割り出す分析力、更にメイの潜伏能力の低さを考えれば、充分に狙える戦果だった。

 しかし、この視界の悪さでは、それも叶わない。

 なお、彼の独特のネーミングセンスについては、いつものことである。

 

〈サラマンダーでも撃ってみるかい?〉

〈十中八九バッグワームで隠れている相手に、視線誘導もできない状況でどうやって当てろと?〉

 

 王子の冗談に、チームメイトは律儀に返してきた。

 

〈どうしますか、王子先輩! 森だと移動経路を読むこともできません!〉

〈そうだね、カシオ。仕方ない、ここは部隊の合流優先でいこう。

 で、そのままレーダーに映ってる敵に狙いを定めて獲りに行く。

 せっかく合流しやすいマップを選んでくれたんだ。

 那須隊が何か仕掛けてくる前に、獲れるポイントを獲れるだけ獲るよ。

 常にあれが横から不意打ちしてくる可能性を忘れずにね〉

〈〈了解!〉〉

 

◆◆◆

 

外岡(とのおか)ァ! どうだ! なんか見えるか!?〉

〈いや、さすがにこれは……。スナイパーにとって悪夢みたいなステージですね〉

〈那須隊にも日浦先輩がいるのに……〉

〈経験不足の後輩を優先してやる先輩心かもな。もしくは何かしら仕掛けがあんのか〉

 

 一方、暫定4位『弓場隊』も地形と天候に頭を悩ませていた。

 

〈レーダーから消えてんのは、ウチの外岡以外だと五人だ。一人は東さんだとして、残る四人は全員那須隊だろうな〉

〈徹底的な潜伏と合流狙いでしょうか?〉

〈だろうね。那須隊は急戦を仕掛けるより、合流して一塊になった方が100%強いし〉

〈どうする、弓場?〉

 

 問いかけられ、隊長である弓場は即座に結論を出した。

 

〈那須隊を探しても無駄だ。だったら、見えてる連中をヤるぞぉ!〉

〈〈〈了解!〉〉〉

 

 弓場隊の結論もまた王子隊と同じ。

 那須隊をフリーにするのは嫌な予感しかしないが、見つける算段がつかないのなら仕方ない。

 そう割り切って、タイマン最強と呼ばれる男の率いる部隊は動き出した。

 

◆◆◆

 

〈マズいな……〉

 

 そして、最もこのフィールドに危機感を抱いているのは、この男。

 ボーダー屈指の戦術眼を持つ、東春秋だった。

 

〈ですよね〉

〈予想通りとはいえ、これじゃどうあがいても那須隊の合流を止められないっすよ〉

〈確かに、それも問題だが……〉

 

 そこまで口にした瞬間、それ(・・)は始まった。

 

〈ッ!? 奥寺、小荒井! 走れ!〉

〈〈え?〉〉

 

 そして──霧のベールに覆われた空から『流星』が降り注いだ。




射程:5→9
特殊戦術:1→3
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