那須隊のトリオンモンスター・ガンナー   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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8 B級ランク戦・ラウンド3 ②

 千佳の砲撃と、遊真の襲撃の少し前。

 

〈オサム、なすを見つけたぞ。他にかげうら先輩っぽいモサモサ頭も見えた〉

〈本当か!?〉

 

 東岸の遊真から送られてきた通信に、修は「運が良い……!」と呟いた。

 大雨の河川敷をステージに選び、敵を分断して、自分達は遊真のグラスホッパーを使って合流する作戦。

 

 最悪、敵チームの何人かを向こう岸に追いやり、こちら側は遊真と合わせて二人が合流できれば良いと思っていた。

 敵エースが少ない方に遊真を送り、修を囮にして遊真が暴れるか、千佳の砲撃で崩して遊真が決めるか。

 どちらかができれば良いという想定。

 地形だけでそれ以上の優位を求めるのは欲張り過ぎだ。

 

 ところが、蓋を開けてみれば修と千佳は同じ西岸の、しかも近いところに転送され、遊真は東岸で敵チームのエースを二人も見つけたという。

 ここで仕掛ければ、エースを二人も向こう岸に閉じ込め、なおかつ自分達は三人揃える。

 いや、それ以上の戦果も充分に狙える状況だ。

 

〈空閑、不意打ちでやれるか?〉

〈かげうら先輩は多分無理だけど、なすならやれると思う。割と隙だらけだし〉

〈よし! じゃあ、那須さんを倒してから、グラスホッパーでこっちに合流してくれ!〉

〈了解〉

 

 そうして、修は遊真にメイの襲撃を頼み、千佳に橋を落とすための砲撃の指示を出した。

 この分断作戦で一番嫌なのは、メイか二宮の大火力で堤防を壊されることだ。

 川の水が抜ければ、敵チームを遮るものは何も無くなる。

 

 希望的観測としては、二宮は絶対的な得意分野である火力で勝るメイを警戒し、那須隊の分断を優先して堤防破壊をやらないかもしれない。

 修が記録映像を見た感想としては、二宮隊と那須隊が全員揃って正面から撃ち合った場合、勝つのは那須隊だ。

 

 メイの銃撃は並のシールドでは防御不能、トリオン強者である二宮のシールドだってどれだけ耐えられるかわからない強力無比な代物であり。

 敵を追い込むのに向いた、ボーダー屈指の精密射撃の使い手までいて。

 更に防御と援護の能力が高い護衛と、不意の一撃を撃ってくるスナイパーまでいるのだから。

  

 逆に部隊がバラバラになった状態なら、メンバー全員がマスタークラスの二宮隊が勝つだろう。

 正面衝突以外ならいくらでもやりようがあるとはいえ、わざわざ相手の勝ち筋を残してまで堤防破壊はやらないはず。

 そんな希望的観測が、唯一の勝ち筋。

 

 だからこそ、ここでメイを倒すことに大きな意味が生まれる。

 本当なら堤防を狙える位置に来たところを千佳の狙撃銃のスコープで見つけるつもりだったが、こうも早く見つけられたのは嬉しい誤算だ。

 

〈行くよ!〉

 

 そして、千佳の砲撃が橋を落とした。

 カウンタースナイプを警戒して、射線の通らない位置から放った壁抜き大砲だ。

 しかし、あまりにも派手なので発射地点がバレバレであり、すぐに敵が集まってくることが予想できるため、千佳は即座に逃走して、近くの修と合流する。

 千佳のシールドと修のレイガストで耐え、遊真が来るまで持ち堪える。

 

〈那須先輩! メイのところに空閑くんが!?〉

〈メイ!?〉

〈メイちゃん!?〉

〈生きてる!?〉

〈な、なんとか……うひゃぁ!?〉

 

 遊真が目の前から消えたと思ったら、背後から斬りかかってきた。

 グラスホッパーを複数枚使った、超速鋭角移動。

 メイは咄嗟に、バッグワームを解除して空いたサブトリガーでドーム状の全周シールドを出してガード。

 トリオン量は正義の法則により、薄く広げたシールドで遊真の攻撃を一発は耐えた。

 

〈メイ! 固定シールド!〉

「あっ! そっか!」

 

 シールドはその場から動かせなくなる固定モードで生成することで強度が上がる。

 小夜子に言われてそのことを思い出し、最初の不意打ちを止めたシールドを解除して、全周シールドの内側にクリスタルのような多面体型の固定シールドを生成した。

 

「ホントに固いな」

 

 遊真のスコーピオンが全周シールドを叩き割り、固定シールドすらガリガリと削っていく。

 弾トリガーと違って、ほぼ全トリオンを威力に振っているブレードトリガーの攻撃力は凄まじい。

 メイの固定シールドでも数秒しか保たない。

 

「こんの……!」

 

 メイは次の固定シールドではなく、空いているサブトリガー側のガトリングを生成し、その銃口をシールド越しに遊真へと向けた。

 引き金を引き、削られて耐久力の落ちた自分のシールドをハウンドで叩き割りながら射撃を敢行。

 

「!?」

 

 しかし、遊真は低い身長を活かして、銃口よりも低くしゃがんでそれを避け、メイが自分で割ってしまったシールドの穴からスコーピオンを突き刺してきた。

 

「おわっ!?」

 

 変幻自在が売りのスコーピオンの刀身が伸び、ガトリングを串刺しにしてメイの肩にも突き刺さる。

 左腕が死んだ。

 

「もぎゃ!?」

 

 その勢いで後ろに倒れ、同時に割れたシールドの中に遊真が侵入。

 倒れるメイに向かってスコーピオンを振り下ろし、メイはまたしてもシールドでそれを──

 

「ッ!?」

 

 その瞬間に嫌な予感。

 直感に従って地面をゴロゴロと転がれば、さっきまでメイのいた場所に、地面からスコーピオンの刃が生えてきた。

 

「ほわぁああ!?」

 

 足の裏から地面の下に伸ばしたスコーピオンを、相手の足下から上に向かって伸ばす『もぐら爪(モールクロー)』と呼ばれる技。

 もっとも、ガンナーとしてのお勉強が最優先だったメイは、技の名前など知らないが。

 

「む……」

『おお。避ける避ける。避け方は不様極まりないが、あのレベル相手に生きてられるのは普通にすげぇぞ。妙に勘が良いんだよな、あいつ』

 

 解説席の太刀川がメイを褒めた。

 異様に固いシールドありきとは言え、トップクラスのアタッカー相手に1セットで死なない者は、本職のアタッカーの中でも少ない。

 充分に褒められる成果だ。

 ……とはいえ。

 

「うっ……! フルガード!」

 

 遊真が更に攻める。

 メイを球体状に囲うように無数のグラスホッパーを出現させ、その内側で跳ね回ってスコーピオンを振るう。

 『乱反射(ピンボール)』と呼ばれる技。

 それによって張り直した固定シールドが凄い勢いで削られていく。

 

〈一枚目のシールドが割られたら、二枚目が耐えている間に一枚目を張り直して! それで少しは時間が稼げる!〉

 

 小夜子のアドバイスが頼りになり過ぎる。

 今使っているのはフルガード、つまり二重の固定シールドだ。

 遊真のトリガーが変幻自在のスコーピオンではなく弧月だったら、攻撃力最強のオプショントリガーを使われて終わっていたが、これならまだなんとかなる。

 

(とはいえ……!)

 

 東岸と西岸の両方を必死に支援しながら、小夜子は考える。

 遊真一人ならまだしも、他の隊員が寄ってきたら、さすがに無理だ。耐え切れない。

 そして、この戦法は一切の反撃ができないので、その時が来たら終わりである。

 

(なんとか、それまでの間にメイを逃がす策をひねり出すしかない……!)

 

 最悪、シールドを解除して、メテオラを足下に叩き込んで自爆という手も無くはない。

 実戦に向けて変な癖をつけてほしくないから、本当に最終手段だが。

 

 そもそも勝利だけを目指してそういうことをするなら、最初からメイを捨て駒にして西岸に揃った旧那須隊をメインにした作戦をやっている。

 いくらランク戦という命の危険が無いゲームとはいえ、妹分を見捨てるような戦い方は絶対にしない。

 それが今の那須隊の鉄の掟だ。

 

「!」

 

 と、その時、西岸で二つのベイルアウトの光が天に登った。

 メイは一瞬それに目を奪われてしまい──

 

「よっと」

 

 次の瞬間、遊真がボロボロになった一枚目の固定シールドに対して、真っ直ぐにスコーピオンを突き刺した。

 更にその手に持つスコーピオンの形状を釘のように変更。

 先端を鋭く、柄頭を平らに。

 

「!?」

 

 そして、ピンボールに使っていたグラスホッパーを一瞬にして全て消し、出力を集中させたグラスホッパーのジャンプ版を、スコーピオンの柄頭の後ろに出現させた。

 グラスホッパーの加速機構によって、釘スコーピオンが強烈な勢いで押し出される。

 

 パイルバンカーのごとくスコーピオンを射出する変則フルアタック。

 それがピンボールでボロボロになった一枚目のシールドをぶち抜き。

 無傷の二枚目までぶち抜き。

 そのままの勢いでメイの薄い胸をもぶち抜いた。

 

「なっ……!?」

〈なっ……!?〉

「〈なんじゃそりゃぁあああ!?〉」

『トリオン供給機関破損。ベイルアウト』

 

 メイと小夜子の悲鳴が重なる。

 結局、遊真に傷一つ付けられないまま、自爆する暇もなくメイはベイルアウト。

 作戦室のベイルアウト用ベッドに転送されて、その上で感情のままに「むぎゃーーー!」と叫びながらゴロゴロと転げ回った。

 

『那須隊員もベイルアウト! 最強火力の点取り屋が脱落!』

『あんなお粗末な隠密行動したのが悪かったな』

『要訓練ですね〜』

 

 あとで奈良坂お兄ちゃんに鍛え直してもらいなさい。

 メイを知る観客達は全員がそう思った。

 

『さて、未熟者は倒したが、ちょいとばかり手間取り過ぎたな』

〈遊真くん、ごめん! 修くん達、落とされちゃった!〉

〈あちゃー〉

 

 玉狛第二のオペレーター『宇佐美(うさみ) (しおり)』からそんな通信が入り、遊真は苦笑した。

 さっきのベイルアウトの光は、どうやら修と千佳だったらしい。

 さすがに、遊真抜きで渡り合えるほど、B級上位は甘くなかったようだ。

 

「おー……」

 

 そして、修達だけでなく、西岸からはさっきからベイルアウトの光がバンバン打ち上がっている。

 遊真がモタモタしている間に、向こうは決着がつきそうな勢いだ。

 

「よぉ。さっきの見てたぜ? 中々良い動きじゃねぇか」

 

 しかも、奇襲一発で終わらせるつもりが、予想外に時間をかけてしまった上に、戦闘中にメイが叫びまくったせいで、遊真の方も厄介な敵を呼び寄せてしまった。

 獣のように鋭い眼光を隠しもせず、牙を剥き出しにして笑う、ボサボサ頭の男。

 影浦隊隊長にして、ボーダー屈指のアタッカー『影浦(かげうら) 雅人(まさと)』。

 

「「!」」

 

 更に、堤防の方で轟音が聞こえてきた。

 トリオンモンスターどもには及ばないが、普通のトリガー使いと比べれば強烈過ぎるメテオラの炸裂音。

 

 どう考えても二宮隊隊長、No.1シューター『二宮(にのみや) 匡貴(まさたか)』の仕業だろう。

 あっちもメイが飛ぶのを見ていたのか、もう躊躇う必要は無いとばかりに堤防破壊を実行した。

 というか、

 

「なんだ。やばいの全員こっちにいたのか」

 

 遊真、メイ、影浦、二宮。

 各隊で一番やばいエースが、綺麗に全員東岸に隔離されていたらしい。

 面白い転送運もあったものだ。

 

「やれやれ。作戦が滅茶苦茶だ」

 

 そう言いつつ、遊真の頭は、この強敵どもをどうやって倒してやろうかと冷静に回転を始め、その口元には薄っすらと微笑みが浮かんでいた。




わからされた。

なお、最強の護身術として名高い固定シールド+メテオラですが。
原作最終ラウンドにおいて、二宮さんが弓場さんをアステロイドでぶち抜く時に、わざわざ全周シールドを解除して撃ってるので、この作品では『シールドで自分を囲ってしまうと、その外側にキューブを生成できない』と解釈します。
やるなら撃った直後にシールドを張るとか、修が風間さんにやったみたいに、自分でシールドに穴を空けてそこから叩き込むとかですね。
遊真クラスを相手にそんな隙があるかと言われると……うん……。
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