那須隊のトリオンモンスター・ガンナー 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
メイがベイルアウトする少し前。
エース以外の全員が放り込まれた西岸でも、熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「メテオラ!」
背後で戦闘音が響くのを聞きつつ、川岸に辿り着いた玲が、堤防にメテオラを撃ち込む。
だが、爆発の威力も範囲もメイに比べれば小さく、堤防に空く穴も小さい。
玲のトリオン能力の評価は『7』。
メイの五分の一以下。
その程度の火力では、そう簡単に水位を下げるほどの大穴は空けられない。
「! 当然、来るわよね……!」
爆発を目印として、この場に何人もの隊員達が現れた。
玉狛第二の三雲と雨取。
二宮隊の犬飼と辻。
遠巻きに影浦隊の北添の姿もある。
彼がいるということは、影浦隊スナイパーの絵馬も狙撃地点についていると見るべきだろう。
恐らく、玉狛第二の二人が、戦いながら彼らをここへ連れてきたのだ。
橋を壊した砲撃を見て、西岸にいた隊員達はこぞって雨取を、基本的に寄られると弱いスナイパーを落としに行ったはず。
その猛攻を雨取の固いシールドと、三雲の防御特化の盾型アタッカー用トリガー『レイガスト』で耐えながら、玲のいる方向に後退してきたといったところか。
堤防にメテオラを撃ち込むことも、恐らく読まれていた。
ラウンド1、ラウンド2の戦いを見れば、三雲が切れ者の類であることはわかる。
おまけに、彼は玲のクラスメイトである小南と同じ玉狛支部所属。
情報を抜かれ、性格と行動を読まれても、なんら不思議は無い。
「アステロイド!」
三雲が玲にシュータースタイルのアステロイドを撃ち込む。
トリオン能力が戦闘員とは思えないほど低い彼のヒョロヒョロ弾など簡単にシールドで防げるが、それに合わせて二宮隊ガンナーの犬飼と、影浦隊ガンナーの北添も玲に向かって射撃を敢行。
しかも、犬飼はガードを辻に任せて、シュータースタイルのハウンドを解禁したフルアタック。
この弾幕から身を守るには、さすがにシールドを二枚使うしかなく、弾トリガーの発動を封じられる。
「旋空弧月!」
「うっ……!?」
だが、そこで合流予定だった熊谷が乱入。
バッグワームを解除しながら、日本刀型トリガー『弧月』専用のオプショントリガー『旋空』の伸びる斬撃で、一番狙いやすい駒である三雲と雨取を狙う。
トリオンモンスターのような一部例外を除けば、ボーダーのノーマルトリガーの中で最高峰の攻撃力を誇る旋空弧月。
三雲が咄嗟にレイガストを構えたものの──
「ぐっ……!?」
「あぅ……!?」
その程度で旋空弧月は止まらず、玉狛第二の二人はレイガストごと斬り裂かれてベイルアウトした。
「「「!」」」
その直後、東岸からもベイルアウトの光が天に登る。
誰がやられたのかを那須隊は瞬時に察してしまい、動揺して動きが鈍る。
「ッ……!」
「玲!?」
そして、当然のごとく、その隙を狙われた。
ただでさえ犬飼と北添、トリオン能力に優れる二人のガンナーの集中狙いを防ぐのに必死になっていた玲の胸を、一発の弾丸が貫く。
影浦隊スナイパー・絵馬ユズルの狙撃だ。
『トリオン供給機関破損。ベイルアウト』
那須隊隊長がベイルアウト。
それを見て逆に正気に戻った他のメンバーが動く。
「チッ……」
今度は玲を撃った絵馬が、狙撃直後の隙を狙われて頭を撃ち抜かれた。
カウンタースナイプ。
スナイパーの死因トップ3に入るだろうメジャーなやられ方。
「那須先輩の仇!」
やったのは、熊谷同様に合流を目指して近くに来ていた茜だ。
そして、これにて茜以外のスナイパーは全滅。
ここから先は、彼女の存在が勝敗を分ける。
「ハッ!」
茜が動くと同時に、熊谷も動いた。
B級ランク戦における絶対王者の二宮隊。
彼らが抱える、唯一の致命的な弱点を狙う。
「う、ぁ……」
「あー、ダメだこりゃ」
二宮隊アタッカー『
殆ど熊谷の上位互換と言えるマスタークラスの凄腕剣士だが、彼は女性と目も合わせられないという、疾患レベルの女性恐怖症を抱えている。
さっきも戦場に、玲、熊谷、雨取がいたせいで全く本気を出せず、シールドを張って犬飼の盾になることしかできなかった。
「旋空弧月!」
「ぁ……」
そんな彼なので、当然熊谷の攻撃に対して棒立ちになるしかなく、旋空弧月で斬り裂かれてベイルアウト。
「辻ちゃんの仇〜!」
「ユズルの仇!」
「くっ……!」
そして、今度は熊谷に犬飼と北添の射撃が集中。
あまりトリオン能力に秀でていない彼女は、逆にトリオン能力の高いガンナー二人の集中砲火を食らい、フルガードを叩き割られてベイルアウト。
トドメを刺したのは犬飼だ。
〈茜! 逃げて!〉
〈は、はいぃぃ!〉
オペレーターの小夜子から指示が飛び、当然どこぞの幼女と違って自分が取るべき行動をわかっている茜は全力で逃走。
「追いかけなくていいの、ゾエ?」
「いや〜、ゾエさん女の子には優しいからね〜」
犬飼と北添は、スナイパーを逃がすのもマズいが、茜を追いかけるために目の前の相手に背中を見せたら撃たれると判断し、今度はお互いに牽制の射撃を向けながら移動した。
向かう先は、お互いの隊長がいる東岸だ。
こっちのベイルアウト祭りと時を同じくして、二宮が堤防を破壊したことにより、川の水位が下がって渡れるようになっている。
『東岸と西岸の両方で一気に戦況が動いた!
三雲隊長、雨取隊員、那須隊員、那須隊長、絵馬隊員、辻隊員、熊谷隊員が連続ベイルアウト!
得点は那須隊が4点! その那須隊を二宮隊、影浦隊、玉狛第二がそれぞれ一人ずつ倒して1点です!』
『あー、玉狛第二は露骨に経験不足が出ちゃいましたねぇ。
熊谷隊員の旋空弧月に対して、咄嗟にレイガストで受けるという判断をしてしまった。
熊谷隊員の旋空の技量は決して高くはありませんが、止まってる的が避けもしないのなら、ちゃんと威力の一番高い切っ先を当てて両断できます』
旋空弧月は斬撃を15メートルほどに拡張する技であり、その威力はブレードの先端に行くほど高まる。
切っ先の斬れ味は、メイのシールドすら斬り裂くほどだ。
それを正確に当てるのはとても難易度の高いことなのだが、今回は的が良かった。
『で、玉狛の二人とメイが落ちてから、ドミノ倒しみてぇに一気に崩れたな。
メイがやられたのに気を取られたシスコンが絵馬の狙撃で落ちて、その絵馬を日浦がカウンタースナイプ。
辻は……うん、まあ、相性が悪かった』
さすがの太刀川も、疾患をどうこう言うほど鬼ではなかった。
『で、辻を倒したくまもガンナー二人にやられて脱落。まあ、3点取れば充分過ぎるな』
旋空弧月で玉狛の二人と絶対王者の一角を倒した熊谷大活躍。
その勇姿、子熊を守る母熊のごとし。
『今の一連の攻防をどう思われますか?』
『そうだな。強いて言えば、辻を女だらけの戦場から逃がしてやっても良かったような気はするが……』
『その場合は射撃の圧が減るから那須隊長が生き残って、背中を見せた瞬間に、シールドをくぐり抜けるバイパーで落とされてたでしょうね〜。
その前のタイミングだと、雨取隊員の固いシールドを破るために犬飼隊員のフルアタックが必要で、そうなると代わりにシールドを張る護衛役が必要って判断でしょうし』
『だよなぁ』
結論、辻ちゃんは頑張った。
『多分、こういう状況になるようにメガネ隊長が上手く誘導したんでしょうね。
砲撃で居場所がバレた雨取隊員に敵が群がり、一番弱い自分達を餌に、雨取隊員の固いシールドで耐えながら全員那須隊のところに引っ張っていって、割と綺麗に戦力が拮抗した状況を作った。
もしも、二人がもうちょっと耐えた上で、空閑隊員が即行で仕事を終えて駆けつけられていれば、敵エース二人を隔離した上で玉狛第二が勢揃い、なおかつ空閑隊員が乱戦の中で奇襲できるという最高の状況でしたから』
『え、マジで? あのメガネ、そこまで考えてんの?』
『ふっふっふ。ウチのメガネくんはくせ者なので』
迅はドヤ顔を決めた。
『とはいえ、最後の最後に自分達の実力の部分で計算ミスをやらかしました。
今の自分達にできる最善の行動はしたと思います。
ただ、最善でも足りないくらい地力の差があっただけで』
迅の厳しいお言葉。
だが、事実だ。
見て見ぬふりをしたままでは先に進めない。
(頑張れよ、メガネくん)
挫折を経験したメガネ──三雲修に、実力派エリートは心の中でエールを送った。
『さあ、寄られると弱いスナイパーの日浦隊員は雲隠れ。
犬飼隊員と北添隊員は、互いを牽制しながらエース対決が勃発中の東岸へ向かいました』
『こっちは、メイがちょっとでも生き残ったのが効いてるな』
『那須隊員が即座に落とされていれば、バッグワームで隠れていた空閑隊員のところに影浦隊長が来ることも無く、二宮隊長も落ちたのが那須隊員だと知ることは無く、状況は今と一変していたでしょうね』
『迅、お前からしても意外か?』
『どうかな〜』
未来を見る副作用を持つ男は、微妙な顔で返事を濁した。
『さあ、東岸のエース対決にサポートの名手達が参戦! 日浦隊員もこっそりと東岸に渡って新たな狙撃地点に到着! 2対2対1対1となり、単独で乱戦の渦中にいる空閑隊員は苦しいか!』
エース対決は白熱していた。
スナイパー二人がどこにいるかわからない時は、狙撃を感知できる副作用を持つ影浦が優勢。
不利な水浸しのフィールドから二人を追い立てて高台に移動し、おまけに二宮の片腕と遊真の片足を奪った。
スナイパーの位置が割れてからは、フルアタックを解禁した二宮が優勢。
二人は防戦一方でジワジワと削られていった。
それから少し時間が経ち、犬飼と北添が合流。
姿をくらました茜がどこにいるかもわからなくなり、再び影浦以外が不意の一撃を警戒して攻め手が緩む。
そんな状況で一番有利なのは、現在の間合いである中距離戦で一番強い二宮隊。
『建物で射線を限定し、犬飼隊員に守りを任せ、二宮隊長のフルアタックが再び解禁! 弾丸の雨が降る! 影浦隊と空閑隊員は押され気味だ!』
『やばいな。ゾエが撃ち返す余裕すら殆どねぇぞ』
どこぞの幼女の頭の悪いガトリング掃射と違い、一発一発が確かな意味を持って放たれる、美しさすら感じる弾丸の雨。
それが敵対者達を容赦なく削る。
特に厳しいのは援護の無い遊真。
どんどん被弾が増えていき、ゲームオーバーが刻一刻と近づいてくる。
〈絶対に迂闊に撃っちゃダメだよ!〉
〈実質、全員がマスタークラスの上澄み。ただでさえ大雨のせいで視界が悪いんだから、逃げ切りも視野に入れて消極的にいこう〉
〈わ、わかってます!〉
〈うぐぅぅぅぅぅぅ……!!〉
〈よしよし。いい子いい子〉
那須隊で唯一生き残り、リアルタイムで移動し続ける戦場を追いかけて、狙撃のチャンスを待ち続けている茜に、作戦室の熊谷と小夜子が絶対に逸るなと念を押し。
疲れている姉のためにリクライニングチェアをモニターの近くに運んできたり、水を持ってきたりとチョロチョロ動き回っていたメイは。
とうとうやることが無くなって、悔しさを直視せざるを得なくなり、姉や仲間達に迷惑をかけないように静かに唸り続けて、玲によしよしと頭を撫でられていた。聖母。
そんな那須隊をよそに、戦況は動く。
「!」
『空閑隊員、仕掛けた!』
これ以上は我慢し続けても削られて死ぬだけだと判断した遊真が二宮に特攻。
その直後、影浦も突撃を開始した。
北添が影浦を援護し、犬飼が二宮と盾となり──
『あぁっと! 空閑隊員、方向転換!』
「「!?」」
遊真が向かう先を変えた。
グラスホッパーを使い、特攻の対象を二宮から北添に切り替える。
誰を倒しても1点。
ゆえに、フェイントを挟んでから、残った中ではまだマシな相手に狙いを定めた。
「うわわ!?」
迫る遊真に対して北添が選んだ行動は──もう自分は助からないと見て、影浦の正面に遠隔ダブルシールド。
トリオン強者である北添の二重の盾が、二宮のフルアタックに少しだけ耐え、その間に影浦は前進した。
「ここ!」
茜もまた、ここを勝負所と見定めて狙撃を敢行。
狙いはシールド二つを出してしまって無防備の北添。
「させるか」
だが、遊真も自分がスナイパーだったらそうすると瞬時に判断し、横取りされる前に仕留めるべく、最速の遠距離攻撃を実行。
柄頭を平らにしたスコーピオンを、グラスホッパーで射出した。
メイを仕留めたパイルバンカーもどき。
それが茜の狙撃よりも早く、北添の胸を貫く。
「何それぇ……」
メイと似たような感想を呟きながら、北添がベイルアウト。
「まだ!」
「チッ……」
ここで茜の追撃。
大雨の中で当てるために、狙撃銃の中で唯一連射性能のある弾速特化の『ライトニング』を装備していたのが幸いした。
あのパイルバンカーもどきは、トリガー二つを使ったフルアタックだ。
メイの戦いを見ていた小夜子からその情報は聞いており、だからこそ茜は奇抜な攻撃にそこまで驚かず、冷静に最適解を選べた。
「ッ!?」
それでも、まだ遊真の方が一枚上手。
茜の狙撃を避けて生存。
だが、完全には避け切れずに片足を膝上から失う。
〈逃げて、茜ちゃん!〉
〈は、はい!〉
玲の言葉に脊髄反射で従い、茜は逃走を開始。
「逃がしたか」
遊真は無表情ながら、どことなく悔しそうな様子でそう呟いた。
右足は茜の狙撃で持っていかれ、もう片方も影浦にバッサリやられた上に太ももまで二宮に削られ、両足ともにスコーピオンで義足を作っても意味が無いほどボロボロ。
これでは、いくらグラスホッパーがあっても、茜を追えない。
「らぁあああああ!!」
一方、残りの三人。
北添のダブルシールドがあった数瞬の間に己の間合いにまで近づいた影浦が、スコーピオンのフルアタック、マンティスを起動。
スコーピオンとは思えないほど伸びる変幻自在の刃で、二宮を守る犬飼のシールドを避けるような形でマンティスがしなる。
そして、まるで蛇のように犬飼の首に絡みついて斬った。
「あらら。でも──」
ウチの勝ちだ。
そう言い残して、犬飼がベイルアウト。
「くっそ……!」
犬飼を仕留めている間に、瞬時にバックステップを決めた二宮のところまではマンティスが届かない。
そして、マンティスはスコーピオン二つを繋げるフルアタックだ。
出している間、他のトリガーは使えない。
「アステロイド」
「ぐっ……!」
二宮の弾速特化アステロイドに蜂の巣にされ、影浦がベイルアウト。
文字通り、あと一歩及ばなかった。
「フッ!」
「むっ……!」
そこで遊真のパイルバンカーもどきが二宮に向かって射出された。
どこから来るかわからない狙撃と、マンティスの射程圏内にまで近づいてきた影浦に意識を割いていた二宮にとって、捨て身のダブルシールドを出して脱落が確定していた北添を巡る攻防はさすがに視界の外だ。
メイに対して使ったのを目撃した時も、遠目だったのでグラスホッパーで助走をつけて加速した強烈な一撃にしか見えなかった。
つまり、まだパイルバンカーもどきは──二宮に対して
「ぬっ……!?」
弾トリガーよりも遥かに威力の高いブレードトリガーが、咄嗟に張った二宮のシールドをぶち破った。
B級最強の男にスコーピオンが突き刺さり……しかし、シールドが勢いを減衰させた隙に体を捻ったことで、肩が吹き飛ぶだけの結果に終わる。
「終わりだ」
そして、反撃のアステロイドが足を失った遊真を蜂の巣にした。
玉狛第二の最後の一人がベイルアウト。
『警告。トリオン漏出甚大』
「チッ……!」
消し飛んだ肩の傷口から大量のトリオンが煙となって噴き出す。
いくら莫大なトリオン量を持つ二宮とはいえ、決して無視できない消耗だ。
恐らく、次に大技を使えばトリオン漏出過多でベイルアウトする。
「あと一人……!」
だが、その一人が撃ってこない。
最後に残った那須隊スナイパーは、二宮と自分しか残っていないという事実に「どぅわあああ……!」と小さく悲鳴を上げながら逃げている。
「チッ……!」
戦うことを選んでくれれば、今の状態でも蜂の巣にできたものを。
二宮はホゾを噛みながら茜を追いかけることを諦め、少しでもトリオンの漏出を抑えるために、そこらへんの民家に入ってタンスを開け、中をあさって包帯の代わりになりそうな布を探し始めた。
トリオン供給機関に近い場所をやられたせいで、トリオンの漏出が中々止まらない。
『マスタークラス揃い踏みの大乱戦も決着! 北添隊員、犬飼隊員、影浦隊長、空閑隊員がベイルアウト!
これで得点は那須隊が4点、二宮隊が3点、影浦隊と玉狛第二が2点となりました!』
『さすがに日浦一人じゃマスタークラス五人相手に点は取れなかったが、それでも那須隊が勝ってるのか』
『逃げを選択したのが早かったおかげですね。日浦隊員が二宮隊長に倒されて生存点まで持っていかれたら逆転されていました』
『二宮なら、あの状態でも居場所の割れてるスナイパーくらい楽勝だからな』
ボーダーNo.1シューターにして、太刀川に次ぐ個人総合2位の男は伊達ではない。
茜と比べたら、手負いの獅子とウサギくらい差があるだろう。
絶対に正面から戦ってはいけない。
『日浦隊員はバッグワームを使って完全に雲隠れの構え。二宮隊長も射線の通らない建物の中で治療中』
『タンスをあさってるところとか、火事場泥棒みたいだったな』
言ってやるな。
『静かな展開となりました。この間に、先ほどの戦いの解説をお願いできますか?』
『転換点は間違いなく空閑のフェイント特攻だな。二宮を狙うと見せかけてゾエに突撃した。
中距離戦じゃ二宮隊が圧倒してた以上、空閑が落ちれば火力が影浦隊に集中して、二宮隊の一人勝ちだ。
だからこそ、影浦隊はこれに乗るしかなかった』
『影浦隊長が突撃して、北添隊員が遠隔シールドって流れは事前に決めてたんでしょうね。
滅茶苦茶タイミングがシビアだから、中々やれなかっただけで』
タイミングをミスれば影浦も北添も無駄死に。
いくら攻撃的な影浦隊でも、さすがに慎重になる。
『結果的に空閑のフェイントに引っかかる形になったが、それは二宮隊も同じで、ほんの一瞬だけカゲへの弾幕が薄くなった。仕掛けどころとしちゃ間違ってなかっただろ』
『その一瞬を見逃さず、北添隊員の遠隔シールドを盾に、影浦隊長はマンティスの間合いまで接近。
二宮隊長の盾になった犬飼隊員を倒しましたが、華麗なバックステップを決めた二宮隊長には刃が届きませんでした』
二宮流バックステップ。
あとで彼と仲が良いA級の女性隊長あたりがネタにしそうだ。
『で、マンティス使って無防備になったカゲを二宮が撃破。弾散らしてたから、避けるのも無理だったな』
『その攻防の裏で、北添隊員を狙った空閑隊員と日浦隊員の攻防がありました』
『俺、カゲの方見てたからそっち見てないんだが、何があったんだ?』
『日浦隊員が北添隊員を狙撃して、やられる前に空閑隊員が二宮隊長にやったスコーピオン射出をやったね』
『ああ、そっちでも使ってたのか。つーか、あいつ面白いトリガーの使い方するな』
ウズウズするねぇ、と呟きながらバトルジャンキーが笑う。
大学の課題が溜まっていることなど頭から消えていた。
『そのスコーピオン射出が二宮隊長にも炸裂し、シールドを破って大ダメージを与えました』
『太刀川さんと同じく、二宮隊長も北添隊員を仕留めた一撃を見れてなかったんでしょうね〜。何せ、目の前に影浦隊長が迫ってきてたわけですから』
影浦という迫力のある大駒に救われた形だ。
『致命傷には届かなかったものの、二宮隊長はかなりのトリオンを失い、最後に残った日浦隊員の追跡を諦めました』
『このダメージが無かったら、今頃、隠れてそうな場所を片っ端からメテオラで爆撃する二宮との地獄の鬼ごっこが始まってたんじゃないか?』
『もしそうなっていたとしても、逃げ切れる可能性が半々くらいはあったと思いますよ〜。
空閑隊員を仕留め損ねたと見た瞬間に逃走を始めたのが良かった。
足を失っていたとはいえ、グラスホッパーを使えば発射地点の読めてる狙撃くらいは躱せますし、モタモタしてたら二宮隊長にもろとも狩られるところでした』
仮に勝ったのが影浦の方でも同じ結果になっていただろう。
瞬時にそれを悟り、茜に撤退命令を下した聖母が冴えていた。
『ここでタイムアップ! 最終結果4対3対2対2! 那須隊の勝利です!』
『肝心の那須姉妹がほぼ何もできずに落とされたが、それを無駄にしないように奮闘した、くまと日浦が偉かったな』
作戦室に帰ってきた茜は、極度の緊張からの解放で腰を抜かし、直後に熊谷と小夜子に胴上げされた。
玲は唸り疲れて眠ったメイの頭を膝の上に乗せて猫のように撫でながら、仲間達に感謝と祝福の言葉をかける。
『その那須姉妹のやられ方も無駄死にじゃありませんでした。
妹の方は狙ったわけじゃないでしょうが、空閑隊員を足止めしてエース同士の鉢合わせを誘発し。
お姉さんの方は絵馬隊員に撃たせて位置を特定。それが日浦隊員のカウンタースナイプと逃げ切りに繋がりましたね』
『さっき迅が言ってたが、空閑の奇襲が綺麗に決まってりゃ、あいつは即行で他のエースがいない西岸に来て暴れてた。
犬飼と北添に狙われてた那須を落としておきたくなる絵馬の気持ちもわかる。
あそこにいたのはメイが抜けた那須隊ってより、旧那須隊のフルメンバーだからな』
まあ、あの時点では茜が西岸にいるかどうかはわからなかったのだが。
だからこそ、絵馬も賭けの気持ちで狙撃に踏み切ったのかもしれない。
『俺が指示出す立場だったら、メイが空閑に見つかった時点で間に合わねぇって見切りつけて、残りの三人の合流を優先するが、まあ、あいつらはしないだろうな。
小学生を捨て駒にするような作戦を立てる奴らじゃないし、どんな状況でも必ず妹分を守るだろ。
今の那須隊はそういうチームだ』
『玉狛第二はそれも読んでた感じですね。だからこそ、こんな作戦を立てた』
敵の弱点を徹底的に狙い撃つ。
良い意味でいやらしいし、えげつない。
思考回路がまだ戦士じゃなくて一般人に近いC級達はドン引きしていたが。
『玉狛第二の作戦自体は、ぶっちゃけ大成功でした。転送運もこれ以上無いほど良かった。
それでも負けた。
B級上位の壁はそれくらい厚くて、圧倒的に地力の差があったから。
メガネ隊長達には、そこんところを自覚して、力の差を覆す手段を用意して帰ってきてほしいですね』
『えらく期待してんなぁ』
『玉狛支部の大事な後輩達ですからね〜』
この戦いで、那須隊は二宮隊と点数を並べて1位と同率に。
玉狛第二は中位に降格。
メイは奈良坂に怒られて再教育と相なった。
9000字越え……。( ゚д゚)ポカーン
なんで主人公がベイルアウトしてからの話が一番長いんだよ……。