トロフィーを獲得しました 【夜明けの鐘と花吹雪】   作:白鷺 葵

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【諸注意】
1.書き手はACⅥ勉強中のにわか。
2.あまり深く考えないで書いているため、世界観のすり合わせがふわっとしている。
3.ハーメルンに掲載している拙作『問題だらけで草ァ!!』シリーズ×スパロボシリーズ(00参戦作品のみ)×ACⅥのクロスオーバー。
4.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
5.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
6.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
7.『問題だらけで草ァ!!』はZシリーズ、OE、UX、BX、Vを下地にして混ぜたような架空の世界線となっている
8.オリキャラ多数。
9.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
10.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
11.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
12.原作および登場人物のキャラクター崩壊。
13.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替え
14.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味している

このような作品でよろしければ、どうかよろしくお願いします。

『問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>』はこちら(完結済み)<https://syosetu.org/novel/321938/
『問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>』はこちら(連載中)<https://syosetu.org/novel/327713/



ド修羅場地獄絵図の後始末

 

 グラハム・エーカーの親友――クーゴ・ハガネは、文字通り“各地に親戚縁者がいる”。実際、彼は親戚縁者のツテを借りて仲間たちのために奔走することもあったし、雑談では親戚縁者の話をして周りを盛り上げることもあった。

 そんなクーゴであるが、彼は自分の肉親や直系の血縁者――所謂『家族』に関する話題を極力避ける傾向がある。特にグラハムの前ではそれが顕著だった。多分、孤児であるグラハムに対して気を使っているつもりなのであろう。

 彼は元々日本生まれの日本人。『何らかの事情で軍に所属することを志し、そのために努力や研鑽を重ねた結果、ブリタニア・ユニオン軍の精鋭が集まるMSWAD基地への異動を勝ち取った』という話を聞いている。それに伴い、国籍もアメリカに変更していた。

 

 今この時まで、グラハムは“親友が家族の話を避けていたのは、グラハムに対する気遣いだ”と思っていた。

 だが、今こうして()()()()()()と対峙して、親友の気遣いの方向が真逆だったことに気づいたのだ。

 

 

『何度顔を合わせても驚くわね。アンタ、ちっちゃい頃はいつ死んでもおかしくない子どもだったのに。今じゃあ立派な軍人さんだもんねぇ』

 

『ええ、まあ』

 

『階級は、確か中尉だっけ? 出世したのねー』

 

『出撃して生きて帰ってを繰り返してたら、勝手に階級が上がっただけです』

 

 

 親友の肉親は、憎悪と嫌悪に満ちた眼差しを彼へ向けていた。それに対して、親友は悲しそうな眼をして相手を見つめていた。やりきれないと感じることもあるのか、時折目を伏せ気味になる。

 

 

『でも、死と隣り合わせの職業に就いたわけだし、どのみちいつ死んでもおかしくないのは変わらないわよね』

 

『そうですね。仰る通りです』

 

 

 改めて言う。グラハム・エーカーは孤児である。良くも悪くも、身内や血縁者はいない。物心ついた頃から施設で育ち、里親や養子になることもなく独立し、軍人になった今も独り暮らしだ。

 家族に対して憧れが無いわけではない。“各地に親戚縁者がいる”上で、彼や彼女らと良好な関係を築いているクーゴの境遇を羨まなかったわけでもない。

 

 そんなクーゴは、肉親から一方的な憎悪と嫌悪を向けられている。彼の人柄をよく知るグラハムにとって、彼がここまで一方的に負の感情をぶつけられる理由が分からない。勿論、彼に対して負の感情を容赦なくぶつける女性の気持ちも。

 

 彼女の顔は、性別的な差異を除けば“クーゴと瓜二つ”である。

 実際、クーゴは肉親の話――『自分には双子の姉がいる』という話を零していた。

 頑なに詳細を話さなかったのは、姉弟の仲が良くないのが理由だったのだろう。

 

 

「貴方たちは、空護(クーゴ)のお友達ですか?」

 

「グラハム・エーカーです。貴女の話は、クーゴ中尉から伺っております」

 

「あら。お噂はかねがね伺っておりますわ。ウチの愚弟がご迷惑を……」

 

 

 豪奢な着物を身に纏った女性――刃金(はがね)蒼海(あおみ)はグラハムの存在に気づくと、急に取り繕うような猫なで声を出してきた。狙いを定めるかのように細められた瞳に、何とも言えない不快感と悪寒に、思わず後ずさりしてしまった。その姿に既視感を覚えたのは、きっと気のせいではない。

 グラハム・エーカーは軍人だ。階級は中尉。それなりの地位故に“責任や義理を果たす必要が出てくる”ため、その一環として社交界に顔を出すことがある。見合い話を持ち掛けられた経験もあった。一時は尊敬する上司から娘を紹介され、結婚を前提とした“お付き合い”をしていたこともあったが、紆余曲折の末に関係を円満解消している。

 以後もグラハムに近づいてきた女性たちは多々いたし、所謂ハニートラップまがいの行動に走った者もいた。だが、グラハムは空を飛ぶために軍人になった男である。上司の娘との“お付き合い”を解消した一番の理由も“空を飛ぶことに対する憧れや、空に向ける愛を捨てることが出来なかった”ためだ。

 

 故に、()()()()()()のあしらい方に関しては精通している。自分を安売りするつもりはないのは勿論、その程度で撃ち落とされるような人間ではない。

 強いて言うなら、既にグラハムの心は別の相手によって奪われているし、何なら撃ち落とされたので追いかけている真っ最中だ。そもそも彼女以外の相手など、初めから『眼中に無い』のである。

 

 さりげなくボディタッチをしようと試みる蒼海の手を回避し、隣に居る少女とさりげなく手を繋ぐ。

 

 

(――おや?)

 

 

 普段の彼女だったら“顔を真っ赤にして拒絶し反撃する”のに、今回は抵抗が弱弱しい。ちらりと少女の様子を伺うと、彼女は無言のまま不快そうに――或いは不満そうに蒼海の様子を見つめている。

 

 

「そちらの方は?」

 

「…………」

 

「名前も名乗れないの? あらいやだ。お里が知れるわね」

 

 

 少女は沈黙を守り続ける。蒼海は冷ややかな眼差しを彼女へ向けた。

 

 “貴方のような小娘が、彼のような人物に相応しいと思っているの?”――蒼海の目は語っている。それを察したグラハムは苦言を呈そうと口を開きかけたが、少女の横顔を見た途端、言葉は音を成さなかった。少女はその圧力に屈することなく、まっすぐに彼女の目を見返しており、戦場から引くつもりはないらしい。

 少女は長らく沈黙していたが、ゆっくりと口を開く。何かの決意を口に出すように。そしてその決意を、己自身に課そうとしているかのように。噛みしめるような響きを持って、少女は短く言葉を紡いだ。

 

 

「死ぬのが怖くて、恋ができるものか」

 

 

 

*

 

 

 

「なあ、少女! 先程の言葉の意味を詳しく教えてほしいのだが……」

 

「…………何も言ってない」

 

「というより、もう一度言ってくれないか!? 私の聞き間違いでなければ、今、キミは――」

 

「何も言ってない!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「――という訳で、私、正式にイグアスの部下として配属されることになったんですよ!」

 

 

 通信越しに箏の顛末を語るコーデリアは、ふんすふんすと鼻を鳴らした。シグナルレッドの瞳はキラキラと輝いている。

 

 

「これも、悪の組織のみんなのおかげです! 本当にお世話になりました!!」

 

「いやいや。力になれたようで何よりッス。義体もRaDと協賛して改良していく予定なんで、今後もテスター引き受けてくれれば助かるッスね」

 

 

 コーデリアの笑顔につられるようにして、ミライは思わず口元を緩めた。種族柄、或いは文化柄のせいか、異種族交流が上手くいっている図を見ると嬉しくなる。

 嘗ての同族が“宇宙に咲かせた花”の美しさと尊さを思い出すからなのかもしれない。人類とELSが共存することを選んだ証であり、ミライという個体の形成に大きく関わる重要事項故に。

 

 

「あ、あと、お礼になるかどうかは分かりませんけど、レッドガン関係の重要情報を幾つかぶっこ抜いて来ました! 何かの役に立てば幸いです!!」

 

「うーん。素直にお礼を言うべきか、窘めるべきか悩むやーつ!」

 

「他にも、今回協働したレイヴンに悪の組織の医療関連の部署の話をしたんです! 『再生医療を応用した機能回復手術のテスターを募集してる』って! 彼女のビジネスパートナーが興味持ってました!」

 

「そっちに関しては最の高ッス。本当にありがとう」

 

 

 暫し雑談に興じた後、コーデリアからの交信/報告は終了した。ミライは彼女から受け取った情報を処理していく。

 

 ガリア多重ダムでの戦いは、『解放戦線の依頼を受けたコーデリアと、ベイラムを裏切って解放戦線へ寝返ったレイヴンによって、G4ヴォルタとG5イグアスが撃破された』という形で終結した。後者2名の機体は完膚なきまでに破壊されており、機体の修理に時間がかかるらしい。

 ヴォルタとイグアス機の修理費は、コーデリアの共犯者たる悪の組織――体面の問題があるため、名義は別のものを使った――とレイヴンのビジネスパートナーである“飼い主(ハンドラー)”・ウォルターが支払うことで手打ちにされている。ミシガン曰く、名目は『授業料』とのことだ。

 この一件でコーデリアとイグアスは“仲直りすることが出来た”らしく、紆余曲折の末、彼女の身柄はイグアスが預かることになったと言う。レッドガンでの立ち位置は『G5直属の部下』に落ち着いた。ついでに、イグアスはミシガンとヴォルタから()()()()について色々お叱りを受けているのだとか。

 

 話は変わるが、コーデリアがぶっこ抜いた情報曰く、『ベイラム本社は近々“壁越え”と呼ばれる大規模な作戦を実行しようとしている』らしい。イグアスとヴォルタもこの重要任務にアサインされていたのだが、今回の任務で機体が大破したことが原因で参加の取り消しを余儀なくされていた。

 その他にも、イグアスがコーデリアの身元引受人/コーデリアの直属上司となったこともあり、特殊な研修を受ける羽目に陥ったという。コーデリアは『機体の修理が終わるのが先か、イグアスが研修をパスするのが先か』と語っていた。両方終わらない限り、イグアスは暫く出撃出来ないだろう。

 

 

<…………>

 

「どうかしたッスか? エアちゃん」

 

<……コーデリアの報告を聞いて、『羨ましい』と思っていました>

 

 

 緋色の光がちかりと瞬く。

 心なしか、彼女の《聲》のトーンは低い。

 

 

<彼女の話を聞いていると、“人とコーラルの共存の可能性”に希望を持つことが出来る。未来に思いを馳せることが出来る。……とても心躍る話題であることは事実です>

 

「そうッスね。今のところ、コーデリアちゃんとイグアス()()()()()の交流は順調ッス。人間の善性の尊さに触れることは、共存の第一歩だって俺は思ってるッスからね」

 

<それと同じくらい、思ってしまうんです。『何故、“人と交信できたCパルス変異波形”は、私ではなかったのか』と>

 

 

 つい先程までコーデリアを映し出していたモニターを見つめて、エアは小さく呟いた。その《聲》は、コーデリアに対する羨望と嫉妬を孕んでいる。

 エアは“ミライが一番最初に接触したCパルス変異波形”であり、“接触出来たCパルス変異波形の中では『人類との共存』に対して並々ならぬ理想と志を持っている”人物だ。

 だが、人類との交信を成功させたCパルス変異波形は、“人類とコーラルの共存に対して意識や執着が低い者たち”――コーデリアとライアンであった。

 

 エアがどれ程『人とコーラルの未来』に思いを馳せ、高い理想と志を抱き、情熱を燃やそうとも、彼女が人間との交信を成功させそうな気配はない。今もこうしてミライたちの補助を受けながら交信を試みているようだが、未だに誰からも返事は来ない状態であった。

 彼女が苦心するその横で、理想も志も「難しいことは分かりません!」と言い切ったコーデリアが、交信相手であるイグアスと良好な関係を築く姿に対して、予てから思うところがあったのだろう。高い志など一切持たず、「仲良くできるならその方がいい」という単純な思考回路の持ち主の方が成功している図が成立している。

 

 

(……なんとまあ、皮肉な話ッスね)

 

 

 当人がどれ程高い志を持ち、心血を注いでいたとしても、そのすべてが報われるわけではない。そんなこと、この宇宙で吐いて捨てる程起きている常識だ。

 

 

(お袋殿は、どんな気持ちで『戦争根絶』の理想を掲げて戦ってたんだろう)

 

 

 ミライの脳裏によぎるのは、嘗て養母(はは)が所属していた秘密結社【ソレスタルビーイング】。創設者はイオリア・シュヘンベルグと外宇宙から来訪したミュウたちだ。イオリアはミュウと接触したことから“異種生命体との接触”を予期し、それに備えて人類を統一させることを目指して件の団体を創設した。

 ソレスタルビーイングが掲げた『戦争根絶』という理念は、イオリアの最終目標――“人類が外宇宙に存在する異種族と接触し、共存共栄する未来を掴む”ための下準備である。“戦争を根絶するために、あらゆる理由で戦闘行為を行う/続ける各方面に対して武力介入を行う”という行動指針は、当時かなり騒ぎになったそうだ。

 構成員に選ばれた者たちの多くが、テロや戦争で心身共に傷ついた過去の持ち主ばかり。養母(はは)の場合は“テロリストに洗脳されて少年兵に仕立て上げられ、家族や故郷を自分の手で破壊させられた”過去があった。それを自分の有責だと重く受け止めた彼女は、争いを終わらせる存在になることを目指してガンダムマイスターとなったという。

 

 養父(ちち)曰く、当時の人々は『大きな矛盾を抱える酔狂な団体』だと思っていたらしい。尚、養父(ちち)養父(ちち)の関係者の中には『ソレスタルビーイングに所属する人間たちの行く末に暗雲が立ち込めていることを察し、そのことを憂いていた』者もいると聞いた。養父(ちち)は何も言わなかったが、多分、彼も()()()()の人間だったのだろう。

 彼は“養母(はは)に一目惚れをキメて突っ込んでいった男”だ。“養母(はは)と交流を重ね、彼女の正体がソレスタルビーイングのガンダムマイスターであることを知っても尚、彼女に愛を手向け続ける道を選んだ”漢なのだ。グランドマザー『テラ』の玩具にされ、自我崩壊一歩手前まで追い込まれても尚“養母(はは)の無事を祈り、彼女が生きる未来を望み続けていた”のだから。

 

 第3者から見れば、夫婦――当時の2人は恋人同士だった――揃って荒唐無稽なことをしていたように見えるだろう。

 更に言えば、当人たちは“自分の愛が報われるか否か”なんて概算度外視していたから、余計『狂気的な人間』のように見えたのかもしれない。

 

 ――だとしても。

 

 

『あの戦乱で、私は多くのものを失った。元通りにならなかった出来事(ものごと)は沢山あった』

 

『だが、そのおかげで、得難い仲間や戦友(とも)ができた』

 

『燃えるように恋焦がれ、流星のように駆け抜けた果てに愛が芽吹き、花咲く未来を手に入れた』

 

『――いつかキミも、そんな相手と巡り合う日が来るさ』

 

 

 そう言って力強く微笑んだ養父の顔を、覚えている。

 養母が咲かせた花と同じ色の瞳の中で爆ぜた輝きは、今この瞬間も色褪せない。

 

 

「大丈夫ッスよ、エアちゃん」

 

 

 ミライは緋色の光を両手で包み込み、微笑む。

 

 

「エアちゃんが頑張ってるの、俺、ちゃんと知ってるッス。そうやって頑張るキミの手助けをしたくて、俺はここにいるんスよ」

 

<ミライ……。ですが、未だに私は、誰とも――>

 

「今はまだ、エアちゃんの“運命の相手”がルビコンにいないだけッス。もしくは、“運命の相手”がそう成り得るまでの条件を満たしてないだけッスよ」

 

 

 実際、コーデリアがイグアスと交信できたのは“第4世代の強化人間であるイグアスが、ひょんなことから大量のコーラルを浴びた”出来事がトリガーだった。

 交信の鍵となる要素――“第4世代までの強化人間”や“多量のコーラルを摂取した”という条件を満たした後から、イグアスはコーデリアの《聲》を認識できるようになったという。

 それは彼女と別行動しているライアンにも言えることだ。ライアンと交信できてしまった人物も、丁度“イグアスと同じ戦場に居合わせ、多量のコーラルを浴びた”人物とのことだ。

 

 具体例を挙げて、「焦らなくとも、慌てなくとも大丈夫」とミライはエアへ言い聞かせる。根気強く語り掛け続けていたら、緋色のきらめきが明るさを帯びたような気がした。

 その様子を見て、ミライは口元を緩ませる。養父(ちち)が『愛する人(刹那)が笑っているのを見ると嬉しくなる』と常々語っていたことを思い出したが、本当にその通りだった。

 

 

<ありがとうございます、ミライ>

 

「どーいたしまして!」

 

<……どうしました?>

 

「『好きな人が笑ってくれると嬉しいなあ』って、改めて思っただけッス」

 

 

 にしし、と、ミライは目を細めた。エアは暫しきょとんとするかのように緋色のきらめきを瞬かせたが、ややあって、彼女は小さく笑った。それに気づいたミライが、今度はエアに問いかける。

 

 

「どうかしたんスか? エアちゃん」

 

<え、ええと、その……>

 

 

 エアは暫し言い淀んでいたが、意を決したように言葉を続ける。

 このとき――どうしてか分からないが――、彼女の《聲》が酷くゆっくり《聴こえた》ような気がした。

 

 

<つい先程――コーデリアの話をしていた貴方の顔を見ていたとき、もやもやとした不快感を感じていたのです。ですが、今のミライの顔を見たら解消されました>

 

 

『あの頃、私は“一方的な片思い”だと思っていたんだ。彼女に愛を伝えることが出来るなら、それだけで充分だった。成就するか否かなど、二の次三の次だと思っていたのだよ』

 

『そんなとき、()()()が私に粉をかけてきた現場に刹那も居合わせてね。私個人としては()()()に靡くことは無いから特段気にしていなかったのだが……ふふ』

 

『ああ、すまない。当時のことを思い出すと、嬉しくてな。――今でも鮮明に思い出せるんだ。何せあれは、『私と刹那は“両思いなのだ”と明確に意識した』瞬間だったのでね!』

 

 

『死ぬのが怖くて、恋ができるものか』

 

 

 いつか養父(ちち)から聞いた話が脳裏を過る。彼の脳量子波/思念波越しに《視聴き》した当時の光景、或いは養母(はは)の言葉が響き渡る。

 

 心臓を鷲掴みにされるような感覚とは、きっとこういうことを言うのだろう。

 きっと一生、ミライはこのことを忘れられないのだろうな――なんて、そんなことを考えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 物心ついた頃から、故郷には理不尽が蔓延していた。

 この惑星は“常にかすめ取られ、踏み躙られる”のが当たり前だった。

 奪われてばかりで荒んだ人々の心は、段々と疲弊していく。

 

 大人も子供も飢えに苦しんでいた。消耗品のように使い潰されていた。今日を生きることで手一杯、明日なんてものが来るかも分からない。

 

 

『お前には申し訳ないとは思っている。だが、ウチには余裕がないんだ』

 

『お前の顔と体は金になる。私ら家族のために、()()()のために、出来ることをやっておくれ』

 

()()()なら、この窮状を変えてくれる。それを成すだけの力と才能があるんだ』

 

 

 今は亡き両親の言葉は第3者からすれば立派な『理不尽』であるし、両親のことを『毒親』と呼んで嫌悪するのだと思う。だが、両親がそうなってしまった原因をよく知っているが故に、自分は2人を恨むことは出来なかった。

 ()()()の才能の素晴らしさを、自分はよく知っていた。ACやMTの操縦も何なくこなし、多くのルビコニアンの心を惹きつける才能の持ち主だった。人格だって優れていたし、仲間たちから慕われていた。自分など、到底足元にも及ばない。唯一勝ち越せたのは、ACやMT、及び素の戦闘技能くらいだ。

 

 ――けれど、()()()()()()()()()

 

 ルビコニアンと言えど、一枚岩ではない。()()()のことを邪魔だと思っていた奴らもいたし、『自分たちが生き残るためなら、文字通り“何でもする”』者もいる。

 ()()()()()()()()()()()()()のは、その2つが結託した果てに起きた最悪の事象だった。両親を始めとした人々は()()()の喪失を嘆いていたし、自分もそうだった。

 かすめ取られ、踏み躙られ続けたルビコニアンたちにとって、()()()は新しいシンボルになりかけていたのだ。誰も彼もが()()()に縋っていた。喪失を嘆いた理由も、その1つ。

 

 

『ルビコンに夜明けを拓いてみせる』

 

 

 ()()()は口癖のようにそう言っていた。その言葉に、多くの人々が希望を見た。嘗てルビコンの自由を守るために立ち上がった解放戦線の祖と類似の――けれど新たな英雄のシンボルとして、()()()に縋りついていた。

 

 縋る先を失くしたルビコニアンが意気消沈したのは当然のことだ。そんな人々に対して思うところが無いわけじゃない。()()()の志を継いで立ち上がっても、それを成せるだけの力を持つ人間が『()()()()誰もいない』という現状に対して思うところが無いわけじゃない。

 それでも諦められなかったのは、自分も()()()と同じように『故郷を愛している』からだ。この惑星(ほし)に生きるルビコニアンとして、生きる権利を求めて戦う()()()を傍で見つめていたからだ。常に理不尽に踏み躙られ、脅かされる日々を過ごすことが当たり前になった現状を変えたかったからだ。

 

 

『この会社の人間は、『“大切なもの”の価値を証明するためには、“より速く、より高く、空を翔る”必要がある』のだと知っている。……それを理想に掲げているんだ。文字通り、『そのためならば、命さえを燃やせる人間たち』が集まっているのだろう。その動力源となるのは、理想、情熱、希望、恋慕、矜持、狂気――ひいては、愛』

 

『キミの眼には、それが足りない』

 

『――違うな。あるとしても、何らかの理由で不完全燃焼を起こしている。或いは、今にも燃え尽きてしまいそうなのか……』

 

 

 ――それでも、現状に疲弊していたのも事実なのだ。

 

 灰に塗れた警句を唱えたところで、現状は何も変わらない。今日も何処かでルビコニアンは搾取され、踏み躙られる理不尽が当たり前に横行している。企業の連中は自らの利益のために“ルビコニアンへの理不尽”を是としているし、封鎖機構は粛々とルビコンの封鎖を行うために圧をかけてくる。

 それに対抗するために、自分も文字通り()()()やった。企業を利用し、企業の狗として飼い殺されることを許容し、同胞を手にかけ続けた。情報を引き出すために多くの企業関係者と懇意になり、“本来の居場所”のために彼や彼女らの死を黙認することもあった。時には、自らの手で彼や彼女の息の根を止めたこともある。

 己の心が錆びついてきていることは、既に知っていた。それでも諦められなかった。積み上げてきた犠牲のために、この惑星で生きる人々のために、『ルビコンに夜明けを拓く』という理想を掲げた()()()と自分のために、我武者羅になって駆け抜けてきた。「それでも」と言い続け、食い下がって来たのだ。

 

 

「独立傭兵レイヴン、か」

 

 

 “本来の居場所”から齎された情報を眺める。映し出されたデータは、多重ダムでレッドガンの精鋭を叩き潰す軽量2脚のAC――クロスアライズの暴れっぷりだ。

 レイヴンの僚機たるメリノエも実力はあるし活躍しているのだが、総合的な部分で分析すると、多重ダム防衛が成功した理由は“レイヴンの強さ”であろう。

 

 “本来の居場所”に属する人々は、件の傭兵の強さに目を留めた者もいるようだ。かくいう自分も、この傭兵に対して興味関心を抱いている。

 

 

『俺はもう、“飼い主(ハンドラー)の猟犬”としての役目を果たすことは出来ない』

 

『“飼い主(ハンドラー)”のこともそうだが、“きょうだい”が心配だ』

 

『……“飼い主(あのひと)”の元に残された、最後のひとり。俺の“きょうだい”』

 

『――会ってみたかったな』

 

 

 脳裏によぎるのは、とある猟犬が遺した今際の言葉。

 握りしめたのは、とある猟犬を看取った際に手にした彼の形見。

 旧世代の強化人間の脳に埋め込まれていた、コーラルデバイスを加工したアクセサリ。

 

 

『――そうか。キミはまだ、“運命の相手”と出逢えていないのか』

 

『まあ、人類の寿命は大体100年程度。機動兵器のパイロットはもう少し短いのだとしても、悲観する必要はあるまいよ。――いつかキミも、そんな相手と巡り合う日が来るさ!』

 

 

 ――そうして、眩い笑みを浮かべて笑う、奇妙な青年の姿であった。

 

 

 

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