トロフィーを獲得しました 【夜明けの鐘と花吹雪】   作:白鷺 葵

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【諸注意】
1.書き手はACⅥ勉強中のにわか。
2.あまり深く考えないで書いているため、世界観のすり合わせがふわっとしている。
3.ハーメルンに掲載している拙作『問題だらけで草ァ!!』シリーズ×スパロボシリーズ(00参戦作品のみ)×ACⅥのクロスオーバー。
4.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
5.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
6.『問題だらけで草ァ!!』シリーズは機動戦士ガンダム00×スーパーロボット大戦シリーズ(00参戦作品メイン)×地球へ...のクロスオーバー作品で、前提としてグラハム×刹那♀要素あり(重要)
7.『問題だらけで草ァ!!』はZシリーズ、OE、UX、BX、Vを下地にして混ぜたような架空の世界線となっている
8.オリキャラ多数。
9.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
10.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
11.オリ主(人外)×エア、ラスティ×621♀が主軸となっている(重要)
12.原作および登場人物のキャラクター崩壊。
13.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替え
14.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味している

このような作品でよろしければ、どうかよろしくお願いします。

『問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>』はこちら(完結済み)<https://syosetu.org/novel/321938/
『問題だらけで草ァ!! -Under the Flag-<2nd Season>』はこちら(連載中)<https://syosetu.org/novel/327713/



ダメみたいですね

 

 Cパルス変異波形のライアンは、未来(さき)の見えない故郷(ルビコン)が大嫌いだった。

 

 同族とは接触することは出来ず、ずっと1人ぼっち。人間たちはルビコンを戦場(リング)にして泥沼のドンパチを繰り返している。疲弊するルビコニアンはじりじりと封鎖機構や星外勢力に押されており、どこからどう見ても風前の灯火だ。こんな場所など捨てて逃げだせば良いだろうに、欲深い人間も、諦めきれない人間も、死に体の惑星に群がっている。

 そんなとき、ライアンは異種族生命体で構成された外宇宙探索部隊と出逢った。彼らがCパルス変異波形に接触を図ったのは、ライアンよりも先に別個体の変異波形――エアとの邂逅を経たのが理由だという。エアはライアンとは真逆の性格のようで、変異波形と人類の共存を夢見る“意識高い系”の女性であった。ライアンは絶対、ああはなれない。

 異種族生命体との邂逅は、人類とルビコンに対して『絶望通り越して無関心』だったライアンには非常に眩しいものだった。ルビコンの外は、可能性で満ち溢れていた。どこの惑星も命の輝きで満ち溢れていた。死に体の――死に逝くだけの惑星なんか比べ物にならないくらい眩くて、綺麗で。それを見せてくれたELS――ミライの瞳も、キラキラ輝いていた。

 

 

(――いいな)

 

 

 ルビコンの外には、ミライのように目を輝かせている命がたくさんある。そう思ったら、ここから飛び出したくなった。

 こんな死に体の惑星に居続けるより、ここではない何処かで爛々と輝く命に触れたかったのだ。

 

 

『――いつか必ず、ルビコンに夜明けを拓いてみせる』

 

 

 “交信するなら、ルビコンの外に飛び出すことを夢見る命が良い”――そんなライアンの希望は、交信相手であるラスティによって粉々に打ち砕かれた。

 奴はライアンとは違い、地元に対する愛が強すぎる男だった。具体的には『敵対している企業勢力に潜入して精鋭部隊に所属し、ルビコニアンの命を摘み取る側に立つのも厭わない』程度には。

 そのくせ、『ルビコンの夜明けを拓く』と奮い立って戦う男でありながら、その決意と同じくらいには現実が見えている。奴はライアン同様、『ルビコンの未来が暗い』ことを十二分に理解していた。

 

 今のこいつは、死にかけの狼。或いは錆びついたロボット。自らの使命と誇りのために、ほぼ『詰み』の状態でも尚、「それでも」と声高らかに咆哮して食い下がっている。ミライが見せてくれたアーカイブにあった格言――『『それでも』と言い続けろ』を体現しているような人間だ。

 

 何度も言うが、ライアンは人間に興味関心はない。ただ、ラスティの在り方は、“異種族の危機を救うために奔走した人間”とよく似ていると思った。

 彼らも例外なく『『それでも』と言い続けた』人々であり、諦めなかった人々だったから。その在り方から目を離すことが出来なかった時点で、存在がバレることは当然だったのだ。

 

 

 

***

 

 

 

 Cパルス変異波形ライアンが交信できた人間――V.Ⅳラスティを一言で言い表すなら『嘘つき狼』である。勿論、彼のエムブレムが“口輪のついた狼”であることも由来の1つだ。誰が彼にこのエムブレムを与えたのかは分からないが、ラスティの心境や立場を絶妙に表していた。

 何度も言うが、奴は故郷・ルビコンが大好きである。ルビコンで生きようと足掻くルビコニアンを愛してやまない。故郷に夜明けを、ルビコニアンに未来を切り拓くためならば、己がどれ程の業を背負うことになろうと、積み上げた屍の血で手を染めることになろうと突き進める程度には愛がキマっていた。

 奴が積み上げてきた屍の中には、所謂“ハニートラップ”も含まれる。何せラスティは顔が良い。古巣や社内外でも『爽やか系好青年イケメン』と評価を得ている。本人もそれを熟知しており、全力を尽くすことを厭わなかった。思考回路を読む限り、古巣の閉塞感や『詰み』の現状を打破するためなら、文字通り()()()()やっていた。

 

 同時進行で複数人を股掛けするのも日常茶飯事。円満に関係を解消するのも、どさくさに紛れて見殺し/手を下すのも、古巣の改善のために引きずり込むのも手慣れたものだ。

 今回の“戦勝会”もその一環。此度の“壁越え”で共闘した独立傭兵・レイヴンと親交を深める――そうしてあわよくば、古巣に引き入れて戦力にするために計画した()()()()()()

 

 

『見極めなければなるまい。かの傭兵が夜明けを齎す翼となるか、滅びを齎す危険因子となるか』

 

『レイヴンはあの悪名高いハンドラー・ウォルターの猟犬だ。リードを奪ってこちらに引き入れるには骨が折れるだろう。……だが、やってみせるさ』

 

 

 企業に隠れて帥叔に連絡を取ったラスティであるが、彼の声のトーンは普段よりも溌溂としていた。帥叔から『何かいいことがあったのか? 機嫌が良いようだが』と言われる程度には。

 

 

『そういえば『壁』のジャガーノートについてなんだが、いつの間に修理を? 報告を聞いた限りでは、アーキバスの“壁越え”実行までに修繕や改造して使えるようになるような状況では無さそうだったのに……』

 

『何を言っているんだ。ベイラムの“壁越え”で破壊されたジャガーノートを修理する余裕なんて、時間的にも物資的にも不可能だぞ』

 

『『えっ』』

 

 

 多少不気味な話題が出てきたが、まあ、それはそれとして。

 

 

『聞いてくれオキーフ! 今日の協働はとても素晴らしいものだったんだ!!』

 

『『主席隊長が任務に興味を示さなかった』と聞いたたときは貧乏くじを引いたと思ったが、今となっては彼に感謝したいくらいだよ。報われることもあるものだな、ホーキンス』

 

 

 企業の同僚たちとの雑談として“レイヴンとの協働”を持ち出したラスティであるが、彼の表情はいつもよりも笑顔が眩しかった。

 奴の話に付き合わされたV.Ⅲが『楽しそうだな』と零し、V.Ⅴの傍に居たせいで巻き込まれたV.Ⅷから『何だか気持ち悪いですね』と言われる程度には。

 尚、V.Ⅷから切って捨てられたことでラスティは正気に戻り、V.Ⅷは慌てた様子のV.Ⅴに窘められている。『気持ち悪い』という言葉がよく効いたらしい。

 

 だが、V.Ⅷのキツイ一言は、ほんの短い時間しか効力を発揮しなかった。何せ、“戦勝会”のアレコレに策を巡らせた結果、ラスティの思考回路はレイヴン一色のお花畑に変貌したからだ。

 

 

『独立傭兵レイヴン……“彼”は一体、どのような姿をしているんだろう? どのような経緯で、『ウォルターの猟犬になる』ことを選んだんだ?』

 

『“彼”はどんな声で喋るんだろう? 好きなアルコールの銘柄は? 煙草は吸うのかな? ――どのような背景を背負って、戦場を飛ぶのだろう?』

 

『あの名義は恐らく本名ではない。……“彼”の本名は、何という名前なんだろう? 何であれきっと、“彼”によく似合う響きの名前なのだろうな』

 

 

 企業関係者の富裕層が使うような洒落た店をピックアップし、そこから“V.Ⅳのラスティ”としてのお気に入りのバーを選択した時の奴の顔や雰囲気と言ったら、本当にお花畑を全力疾走してるような笑顔だった。頭の中は浮かれポンチ。此度の“戦勝会”で顔を会わせるであろうレイヴンへの期待でいっぱいである。

 何度も言う。ライアンの存在に気づいて色々アクションを取ろうとしていたことすらすっぽ抜ける程度には、ラスティは浮かれていた。交信できているせいで頭の中の思考回路が丸見えになり、その内容に思わずライアンがえずいても聞き逃す程度には、レイヴンとの邂逅が楽しみで楽しみで仕方なかったのだ。

 

 

「き、キミが、あのときの……レイヴン、なのか……!?」

 

【ああ。私がレイヴンだ】

 

 

 ――戦勝会の会場にやって来たのは、全身包帯でぐるぐる巻きの“人型のナニカ”だった。

 

 包帯から除く皮膚には大小様々な傷跡が刻まれている。顔から手足の指の先まで、火傷か裂傷かを判別することすら難しいものばかり。更には、ラスティよりずっと小さく華奢で細すぎる肢体。発声機能も失っていたようで、レイヴンはタブレットを指し示す。コミュニケーションは入力で行っていたらしい。

 こんな状態じゃあ、戦闘中に通信で会話することなど出来るはずがない。レイヴンがメッセージでやり取りをしていた理由をようやく理解したのか、ラスティは酷く狼狽していた。“レイヴンの外見が醜悪なこと”にではなく、“自分が“戦勝会”の会場として選んだ場所に出入りしている人間が、レイヴンの外見を見てどのような反応をするのか”で。

 

 

「うわ、何だあれ!? 化け物か!?」

 

「気持ち悪い……」

 

「何てみすぼらしいのかしら」

 

「あんな体でよくもまあ、外を歩けるものだな」

 

「誰があんな気持ち悪いの呼んだのよ?」

 

「本当にな。酒が不味くなる」

 

 

「――っ……!」

 

【気にする必要は無い。私の外見がみすぼらしく醜悪なことは、私自身がよく知っている】

 

 

 ライアンが予想した通りの反応だ。陰口を叩く利用者に対し、ラスティは怒りを募らせる。だが、レイヴンは淡々とした調子でラスティを諫めた。

 

 

「……すまない。私の配慮が足りないばかりに、キミに不快な思いをさせてしまうとは」

 

【利用者の言うことの方が正しい。私のような廃棄寸前の強化人間が、女としても欠陥品でしかない醜悪な肉塊が、こんな洒落た店に来ること事態が間違いなんだ】

 

「――――」

 

【恥ずかしながら、僚友から“戦勝会”に呼ばれたのが初めてでな。だから嬉しくて、つい浮かれてしまったんだ。報告しなかった私の落ち度であるし、私の自業自得でしかない】

 

 

 ラスティの思考が停止した。言葉に威力も実体もあるわけないのに、レイヴンのタブレットに表示された言葉は全力でラスティの頭をぶん殴って来る。

 言葉だけではない。“レイヴンが晒し物にされて蔑まれている”という現状を作ってしまった原因はラスティである。自責の念と罪悪感が波状攻撃を仕掛けてきた。

 しかも、レイヴンは当然のようにラスティを庇っている。外見を晒し物にされるという状況は非常に辛いことだろうに。しかもレイヴンは女性だ。余計に辛いはず――。

 

 

<ワンアウト>

 

 

 ラスティの思考回路を垂れ流されたライアンは、この状況を一言で例えた。ラスティ自身もそれを強く実感しているのだろう。レイヴンを庇うようにして手を引き、さっさと店を後にした。

 最早手遅れだとは重々理解している。それでも、ラスティはこれ以上レイヴンを好奇の眼に晒したくなかった。これ以上、レイヴン自身に『己が蔑まれることは当然である』と言わせたくなかったのだ。

 

 ラスティは険しい顔のまま、改めて“戦勝会”のプランを練り直す。利用者の外見や背景に対して口出しする人間が少ない店には心当たりがあったのが幸いだった。次の店は、ルビコニアンや独立傭兵が多く利用する大衆酒場である。

 

 少しばかり騒がしいのが玉に瑕だが、この店には外見に特徴が出やすい――義体を使用している者、大きな傷を晒す者、包帯を巻いている者等――も多く出入りしていた。そういう事情もあって、レイヴンの外見を見ても、表立って蔑むような輩はいない。

 先程の店とは違う雰囲気を察したのか、心なしか、レイヴンの纏う雰囲気が柔らかくなる。やはり“晒し物にされて蔑まれている”というのはかなりのストレスになっていたようだ。ラスティも彼女の纏う雰囲気が変わったことに気づいたようで、安堵したように表情を崩した。

 

 

「仕切り直しだな。詫びも兼ねて、私が全部奢ろう。何でも好きなものを頼むといい」

 

【申し訳ない。私には、食事を行うための機能が備わっていないんだ】

 

 

 メニュー表を差し出したラスティは、レイヴンの言葉によって凍り付く。その際、彼の手からメニュー表が落下した。2人の間には沈黙が広がるのに、利用客の発する音が賑やかに響く。

 

 

<ツーアウト>

 

 

 ライアンが現状を一言で表したが、相変わらずラスティの耳に《聲》が届くことは無かった。と言うか、そもそも眼中に無いのだろう。

 暫し黙っていたラスティは、大きく深呼吸を繰り返す。密偵として積み重ねた手練手管(けいけんそく)を引っ張り出し、どうにか現状を打破しようと試みていた。

 そんなラスティの横顔を見ていたレイヴンは暫し考えた後、タブレットにメッセージを表示させる。

 

 

【どうやら私は、キミに対して沢山我が儘を言ってしまったらしい。無理をさせてしまって申し訳無かった】

 

「い、いや、そんなことは……」

 

【キミは、ウォルターのことが嫌いだろう】

 

 

 ――レイヴンの言葉は、ラスティにとって1番柔らかいところを抉った。

 

 彼がレイヴンに興味を示した理由の一端であり、“レイヴンを利用しよう”と思い至った要因の1つ。彼女の存在を知ったときに抱いていた悪意の断片。それを投げ捨ててしまうくらいに彼女に焦がれた“()()()ラスティ”にとっては、葬り去りたいと思った黒歴史そのものだ。“戦勝会”のプランニングをする頃には、頭の片隅にも残っていなかったのに。

 自分自身の黒歴史――或いは悪意を読み取られてしまうとは思わなかった。同時に、そんな黒歴史が今、ラスティにとって最大の地雷として爆発する/ラスティ自身を強襲してくるとは予想していなかった。愕然とするラスティを置き去りにして、レイヴンのタブレットにメッセージが表示される。

 

 

【私を“戦勝会”に誘ったのは、私を通じてウォルターへ“何か”を働きかけるため。或いは、私の力を使って『貴方の望む“何か”をさせる』ため。私を“戦勝会”に誘い、こうして『良くしよう』と必死になるのは、善意からじゃないことには気づいていたよ】

 

 

 全文が表示されるまでの時間が、やけに長い。

 ラスティは呼吸を止めて、タブレットの文字を見つめる。

 

 

【でも、いいんだ。そんなことは】

 

「え」

 

【私はキミと飛べたことが嬉しかったし、凄く楽しかった。そんなキミに何かを返したいと思っていたんだ。それもあって“戦勝会”に参加したのだけれど、結局キミを困らせてしまったな】

 

「いや、あの、待ってくれ」

 

 

 ラスティが言い訳をするよりも、レイヴンのタブレットに文字が表示される方が断然早かった。

 

 

【好きでもない相手のために優しくするのは苦痛だったろう。私はもう帰るから安心してくれ。二度とキミの前に姿を晒すことは無いと約束しよう】

 

<――スリーアウト、チェンジ>

 

 

 これはひどい。

 べらぼうにひどい。

 とにかくひどいったらない。

 

 ラスティが『老若男女を篭絡してきた密偵である』と言われたところで、この現状を目の当たりにした場合、誰がその言葉を信じてくれるだろうか。ライアン自身もちょっと信じられない。

 

 だって今、こいつが『やらかした』度合いがあまりにも多すぎる。ついでに、その報いによるダメージも大きすぎた。

 初動でここまでの大事故が発生するとか、“ミライたちと封鎖機構の初顔合わせ”並みに収拾のつかないことになっているではないか。

 

 

「待ってくれ、レイヴン」

 

 

 だが、ラスティは咄嗟にレイヴンを引き留めた。そのまま、包帯と傷に塗れた強化人間の手を包み込むようにして握りしめる。その手つきを見て何を思ったのか、レイヴンは黙ってされるがままになっていた。

 ラスティとレイヴンは顔を上げ、互いに見つめ合う。言わなければならないことは沢山あった。だが、それを言葉にするには、ラスティの立場はあまりにも複雑である。脳内の思考回路を読み取ってしまったライアンに肉体があったら、今頃眉間の皴が癖になっていただろう。

 レイヴンはラスティの手を撫でる。視線をタブレットに向けたことを察したラスティは、おずおずと彼女の手を離した。レイヴンは淡々とした様子を崩すことなくタブレットに文字を入力していく。【言いたくないなら、言えないのなら、無理しなくていい。何も言わなくても構わない】――それは、何処までも相手を慮るものだった。

 

 

「……ありがとう、レイヴン。……話を続けても?」

 

【ああ】

 

 

 許可を得たラスティは、言葉を慎重に選びながら口を開く。

 

 

「……確かに私は、キミや、キミの“飼い主(ハンドラー)”に対して、悪意や下心を持って近づいた。失礼な話になるが、キミのことを舐めていた。そのことに対しては本当に反省しているし、申し訳ないと思っているし、そんな自分自身を恥じている。『そんなことを考えていた自分自身を抹消したい』と思うくらいには。――だから、すまなかった」

 

【気にしていない】

 

「私が気にするんだ。とても大事なことだから」

 

 

 レイヴンは相変わらず、黙ってラスティの言葉に耳を傾けている。

 彼を責めもせず、非難もせず、彼の真意を受け止めようとしていた。

 

 

「キミと一緒に飛んだとき、とても楽しかった。あれ程人生で心躍ったのは、ずっと久しぶりのことだったから。背中を預けて一緒に飛べる相手がいるという事実が嬉しかったんだ。もっとずっと、一緒に飛びたいと思った。『キミと共に夜明けの空を翔ることができたら、どれ程素晴らしいことなのだろう』と」

 

 

 ラスティは真っすぐレイヴンを見つめる。

 

 

「もっと、キミのことを知りたいと思った。また一緒に飛ぶ機会が欲しいと思った。……私が、()()()()()()、『この縁を終わらせたくない』と思ったんだ」

 

【そうか】

 

「……だから、そんな悲しいことを、言わないでくれ。……言わせたのが私であることは重々承知しているし、そんなことを言わせた私が悪いことは分かっているのだが……」

 

【それは、またこうして『直接会ってもいい』ということ?】

 

 

 レイヴンのタブレットに文字が表示された。ラスティは首を縦にぶんぶん振る。

 それを見たレイヴンは安心したように表情を緩めた。纏う雰囲気も緩んだように思う。

 

 

【それなら良かった。私もキミと直接会えたのは、とても嬉しかったから】

 

 

 その文字を全て読み終えて、ようやくラスティは緊張を解くことが出来たらしい。ほんの一瞬情けない顔を覗かせた後、安堵の息を吐きながら力なく微笑む。

 ラスティの段取りは見事に狂ってしまったが、『焦がれる相手と親交を深める』という当初の目的を果たすことは出来そうだ。本当に何よりである。

 店の雰囲気――和気藹々とした騒ぎ声――に影響されたようで、2人は楽しく談笑していた。方向性は違うかもしれないが、互いの望み通り、少しづつ距離を近づけていく。

 

 独り飲食に興じることになったラスティであったが、何を思ったか、意を決したような調子で――けれどそれをレイヴンには悟られないように気取りながら、口を開いた。

 

 

「なあ、レイヴン。キミの名義は本名ではないだろう?」

 

【ああ】

 

「――キミの本名を教えてくれないか?」

 

 

 レイヴンは暫し沈黙した後、タブレットに文字を映し出す。

 そこに並んだ羅列は【C4-621】。強化人間の世代と製造番号だ。

 

 目を丸くしてタブレットとレイヴンを見比べるラスティに、レイヴンはメッセージを続ける。

 

 

【強化人間の手術を受けた際、その副作用で記憶障害を発症した。ウォルターに引き取られる以前の記憶は、名前も含んで何一つ残っていないんだ。申し訳ない】

 

「……そうか。すまない。変なことを聞いてしまったな」

 

 

 和気藹々とした空気は急激に萎びた。何とも言い難い沈黙がこの場を支配する。

 それを打破するように鳴り響いたのは、レイヴンの持っていたタブレットだ。

 メッセージの送り主は彼女の“飼い主(ハンドラー)”。“戦勝会”の終わりを告げるタイムリミットだ。

 

 

【そろそろ戻らなければならない。それじゃあ、また】

 

「あ、ああ。……またこうして会えたら――或いは、飛べたらいいな。楽しみにしているよ」

 

【私も、その機会を楽しみにしてる】

 

 

 その会話と共に、レイヴンは店を去っていった。ラスティはぼんやりとした様子でレイヴンの背中を見送る。“戦勝会”の顛末を見届けたライアンは、淡々とした調子で評価を告げた。

 

 

<――論外>

 

「待て。ちょっと待ってくれ! キミには聞きたいことが――!!」

 

 

 

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