ゴッズプレイヤー   作:瑠心 詩十夜

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第4話「今後の生活」

 シーラを見送ったあと、熾月はスマホで時間を確認し、表示される時刻から現在の時刻を推定する。この世界の時間が24時間で回っているのかは定かではないが、昼ごろに見た時間と比較して感覚的にはまだ夕刻前だろう。

 時間を認識すると、熾月の意識は既に次にやるべきことに目を向け、すぐに部屋を出ていた。何をするにも、情報が足らなすぎるのだ。

 そのために必要な情報を集める、それがこの街に来て最初の目標となる。

 

(ラノベなら、異世界に来た時点で何らかの能力を授かっててもおかしくない。期待し過ぎは禁物だろうけど、幻想を抱くぐらいはしてもいいよな)

 

 そんな想いを抱きつつ、まず足を運んだのはシーラのもとだ。何かあったら頼れというゲイルの言葉を信じ、シーラを頼ることに。

 人気のある方向を頼りに廊下を進んでいくと、程なくしてエントランスらしき場所に出る。受付の方を見てみると、シーラは冒険者らしき身なりの人の対応をしていた。

 

「シーラさん、いくつか質問したいのですが」

 

 数分ほど待って受付が空いたタイミングを見計らい、彼女の下へ向かうと、声を掛ける。

 

「それじゃあ、こちらに」

 

 彼女に先導され、先ほど通った廊下を戻ると、その半ばほどにある一つの扉に行き着く。シーラが開け放った扉の先には、先程までいた客室とは異なり、簡素な机と向かい合わせのソファがあった。

 わかりやすく言えば応接室だろう。雰囲気は質素で荘厳さはないが、それが返っていい感じになっている。設えられている家具類も見合ったもの故だろう。

 

 扉をくぐると、シーラは熾月に座って待つように伝え、扉の向こうへ消えていった。

 程なくして、お盆にティーセットを載せ戻ってくる。何処かから飲み物を取ってきてくれたようだ。

 部屋の隅にあるテーブルにそれらを置き、手慣れた手付きでティーポットから中身をカップに注ぐ。そして2つを手に席へ。香りから紅茶であろうことは想像ついた。

 

「それで、どのようなことをお聞きしたいのですか?」

 

 彼女が向かい合う位置に座ると、すぐにそう切り出してきた。

 

「こんな事シーラさんがわかるわけもないと思いますが……俺がこの世界に呼ばれた理由はわかりますか?」

「呼ばれた理由、ですか。そうですね……」

 

 率直な質問に、シーラは真剣な表情で考え込む。

 こんな質問を彼女に問いかけたのは、話のきっかけでしかない。もし分かるなら彼女もまたあの時出会った少女の仲間、或いは操られているなど、それに類する人物だということになるだろう。

 

「熾月さんの質問の意図は、あなたがというよりも、この世界に人々が呼ばれる理由が知りたい、ということですよね」

 

 彼女が考え込んでいたのは、熾月の意図を汲むためだ。

 シーラの言葉に熾月は静かに頷いて返す。

 

「正直に申しますと、その理由については私達の間でも謎とされています。いくつかの推測はあるのですが、憶測に過ぎませんから……」

 

 そうだろうな、と熾月は思った。

 あの時会った少女がどのような存在かはわからないが、この世界に住まう人が異世界人を認識するほどに、異世界人が大勢居るこの世界。おそらく一人の手によるものではないことは安易に想像がつく。

 いや或いは、この世界の人すべてが異世界人である可能性さえありそうだ。客室でのゲイルとの会話から、そんな雰囲気さえ感じられたのだから。最も、どれほどの期間この世界に人が呼ばれ続けているのかによって、結果は異なるだろうが。

 

「推測でも構いません。この世界に呼ばれる人の共通点だとか、そういった些細なことでも教えてくれれば……」

 

 続けてそう尋ねる。知ったところで何になる、というのはあるが、知らないよりは知りたい気持ちがあった。

 

「共通点はわかりません。人間もいれば、そうでない方もいますし、当然年齢や性別なども。とにかく誰でもいいからこの世界に集めてる、とさえ言われています」

「誰でもいいから……? そんなはた……いえ、これはだめでしたね」

 

 その言葉に思わず神には不敬になりかねない言葉が出そうになるが、既のところで止めた。

 出かかった言葉からその先を推測したのだろうシーラが、頷いて示す。

 

「お気持ちはわかります。私も含め、この街にいる人は殆どがそうですから……」

 

 そう言って寂しそうな表情を見せるシーラ。

 彼女もまたこの世界に飛ばされ、元の世界に何らかの思いがあるのだろう。

 

「なので、推測されてるのは、信者を増やすためだとか、力あるものを封じるためだとか言われているんです」

「信者はともかく、力ある者……? 共通点はないんじゃ?」

 

 告げられた推論には、疑問点があった。

 前者はおそらく、この世界独自のルールが所以だ。神を敬うことを絶対のルールとしている以上、推論ではなく確論とも言っていい。だが、『力ある者』というのは気になった。先の言葉を返すような発言なのだ。

 

「確証はありませんし、力のない人も大勢いるので、共通点ではないのです。ただ、元々力を持っていた人が多いのは事実です。それに、元の世界にはなかったのにこちらの世界に来たら潜在能力に目覚めた、という話もないわけではないのです」

 

(まんま転生モノラノベじゃねーかよ……)

 

 彼女の言葉に熾月は、内心でそう思いつつ、苦笑せずにはいられなかった。

 

「そうですか……シーラさんは?」

 

 誰でも、それこそ自身もまた異世界人だと告げる彼女にも、何らかの能力があるのだろうか。

 少なからず熾月もラノベに魅せられた一人の人間であり、元の世界では異世界への憧れや、己自身もそうした力に目覚めたいという思いはあった。

 異世界への飛ばされ方も一つだが、来て早々に死にかけたというのもあり、慎重になっていたが、可能性を言われてしまえば期待せずにはいられなくなっていたのだ。

 

「私は特に。元の世界でも、似たような仕事をしていたのでこうして受付の係をしています。あまり期待をされると後悔されるだけですよ。この話を聞いてもしかしたらと無謀なことにも挑戦する方は数多く見てきましたが……実際に望んで覚醒できた方はごく少数ですし、あってもこれまでの生活が劇的に変わるような変化は得られませんから」

 

 そう言う彼女の表情は、どこか悔しそうだった。

 彼女自身もその一人であり、そして同時に、受付嬢という立場からそうした人たちの挑戦と挫折を目の当たりにしてきたのだ。

 

「何かに挑むことを止めたりはしませんが、ご自身の命だけは大切になさってください。昨日今日会ったばかりの人でも、そういう形の別れは寂しいですから……」

 

 切実な言葉。どれほど長くここにいるかは熾月には分からないが、シーラはそういう人を多く見てきたのだ。

 

「忠告、ありがとうございます」

 

 熾月は、そんな彼女の思いを素直に受け止め、頷く。

 用意された紅茶を手にして一口。ふぅ、と一息つく。紅茶の風味が口に広がる。しかし熾月は別に紅茶通ではないので味がいいかどうかはわからない。少なくとも美味しくは感じる、その程度だ。

 

「俺みたいな人って、この後どうされる方が多いんですか?」

 

 カップをソーサーに置きつつ、次の質問に移る。ゲイルの話を考えれば、当然行き着く問題だ。

 

「人それぞれですよ」

 

 熾月の質問に即答しつつ、彼女は立ち上がって部屋の隅に置かれている本棚へと向かう。

 

「この街も、元々は何もない場所に飛ばされた数人の異世界人によって作られた小さな集落が発展して出来た街だったそうです。なので、探してみるとやれることはたくさんあるんですよ」

 

 本棚の前でそう話しながら、目的の本を見つけたのかそれを取る。そしてページをいくつかめくって目的のページを開きつつ、戻ってローテーブルに置いた。

 

(何だこの文字。知らないはずなのに、読める……?)

 

 開かれたページは、一つのイラストと、読めないはずなのに読むことができる文字で、ブレファーゼストの当時の様子が記されている。

 

「あの、この文字は?」

 

 異世界人が大勢集うというこの街。普通に会話できていたから気にも留めていなかったが、考えても見ると当然行き着く問題である。住む地域が異なれば、文化も異なってくるのが人という存在。方言が存在するくらいだ。言葉はもちろん、文字や日常的に使うジェスチャーですら意思疎通が取れるか怪しい。

 だというのに、ここに来て会話に困った記憶もなければ、初めて遭遇する文字は何故か読める。気にならないはずがなかった。

 

「ああ、驚きますよね。これも謎に包まれているんです。私も最初は戸惑いました。文字を知らないはずなのに、この世界の文字が読めるし、書ける……不思議な経験ですよ」

 

 もう慣れましたけど、と彼女は笑って見せる。受付嬢をやっていれば、事務作業など文字に触れる機械はごまんとあるだろう。慣れないわけがない。

 

「そうですか……」

 

 気になるが、謎に包まれているというのなら彼女にはわからないだろう。この件に関しては一旦頭の片隅にでも入れておくかなどと思いつつ、改めて先程の彼女の言葉を思い出す。

 

 シーラの話から察するに、実際できることはたくさんあるのだろう。異世界人が多く飛ばされてくるというこの街。軽く考えただけでも、衣食住に関わる仕事が思いつく。

 しかし、熾月の元の世界ではそのような仕事以外にもたくさんの仕事があった。熾月自身、そうした仕事に携わっていたのだ。電気が使われていないことを考えても、この世界ではその知識や技術は活かすことが出来ない。

 

「俺は元いた世界だと、かなり特殊な事をしていたので……そのスキルを活かせる仕事はなさそうですね」

「特殊なこと、というと……?」

「電気、というものはご存知ですか?」

 

 シーラの疑問に、まず大前提であるその存在を伺う。だが、彼女の反応は熾月にとっては予想もしないものだった。

 

「ええ、もちろん知っていますよ。この街には電気を作る設備がないので通っていませんが……この世界には電気を作る設備もありますし、それを用いて高度文明を築いている地域もあるそうですね。魔力を代替エネルギーとして活用しているところもあるそうですけど――」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 彼女の話があまりにも発展しすぎてついていけなくなり、思わず慌てて半立になりながら手を振って止めた。

 電気がある地域があるどころか、魔力を電気の代替エネルギーとしている。その言葉に、熾月の元の世界よりも高度文明が存在する可能性さえ考えざるを得なくなってしまったのだ。

 

「電気や魔法による機械文明が、この世界にはあると……?」

「ええ」

 

 率直な質問にシーラは頷く。しかし、考えてみればおかしな話でもない。

 この街は、多くの異世界人から成り立つ街だと言っていた。己以外のこの世界の人が低文明の時代の人間に限る、ということ自体がそもそもの誤りなのだ。この世界の外がどうなってるのか、熾月には知る方法はない。仮に、熾月のいる元の世界だけが存在するとしよう。その場合でも、長い時間熾月の世界から人々が来続けていれば、元々あったこの地の文明とかけあわせて飛躍的な進化を遂げる可能性だってありえるわけだ。

 だが、その仮定はおそらく外れている。なぜなら、熾月の世界には俗に言う亜人族と称される、人と人以外の生物を足したような人間は存在しないのだから。

 

「……一つ確認します。この世界に飛ばされてくるのは、人間だけですか?」

「いいえ。人間じゃない存在もいますし、人間とそうではない存在の中間もいます。そうですね、驚いた例で言うなら、龍や精霊などもいますし、中には神を名乗る者が飛ばされてきたこともありましたね」

 

 これで確定した。彼女の言いぶりから異世界人の神は自称っぽいが、龍や精霊といった存在は、熾月の世界にはいない。つまり、異世界は多数存在する。しかも、神に定められたルールが存在する以上、神だって実在するのだろう。であれば、ある意味多数存在する異世界の技術が集うこの世界の文明は、非常に高度である可能性がある。

 しかし、わかったところで、何になるという話だ。少なくともこの街は、電気もない低文明。流通の関係からそうしたアイテムがあってもおかしくはない、程度のものだろう。

 そうなれば、やはり熾月自身の技術を活かす場所はないと言える。

 

「わかりました。シーラさん、お忙しいところありがとうございました」

 

 考えをまとめ、シーラにお礼を告げてそれ以上の質問がない意を示す。

 

「いえ、大丈夫です。仮とはいえ、私はあなたの担当ですから。今後のこと、決まりましたか?」

 

 彼女の寛大さに感謝しつつ、その言葉にはかぶりを振って否定する。

 

「もう少し、他の方とも話してみたいと思います」

「そうですか、わかりました」

 

 そういって彼女は立ち上がると、開かれた本を閉じるだけで、扉の方へと向かい始める。

 その間に残った紅茶を一息で飲み干した。

 

「あなたの今後、お祈りしますね」

 

 そう言って扉を開けてくれた。

 

「ありがとうございます」

 

 再度感謝を述べ、部屋をあとにする。

 背後で扉が閉まると、熾月は軽く深呼吸した。

 

「よし」

 

 そして軽く気合を入れ直し、人が集まる宿のエントランス部分へと足を向けた。

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