ゴッズプレイヤー   作:瑠心 詩十夜

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第6話「講習」

 翌日、物足りない朝食の後は早速シーラに声をかけて講習を受けることになった。

 最初の講習は、アイラに告げられた通りディスジアの独自のルール。ゲイルに教わった4つのルールと、それを守るうえで必要な信仰対象とする神がどんな存在なのか。そのあたりの簡単な話を聞いた。

 

 曰く、プレファーゼストに住まう人々はこの世界に存在する神がどんな存在であるのかを見たことがある人はいないらしい。唯一それを知っているのは、この街を立ち上げた当時の長だけだった。

 突如やってきた神を名乗る者から、この町の名前である『プレファーゼスト』を贈られる。

 普通、それを知らされた長はその神の名をメンバーに知らせるであろう筈だ。しかし長はそうしなかったのだという。

 その代わりに長が告げたのは、この世界のルールと、『己の信じるものを信じよ』と言う言葉のみ。

 

 教官から聞いた話はここまでだった。言ってることはほぼゲイルと同じであり、意味がわからない。

 なので、教官に参考にしたいからと信仰する神のことを教えてもらったが……核心となる名前まではわからないままだった。というか、その教官、どうも複数の神を信仰してるっぽかった。

 

 しかし、そんな彼の様子をみて、なんとなく合点がいった部分がある。

 ゲイルや教官、大本を辿ると長の言葉である『己の信じるものを信じよ』という言葉に含まれる意味。

 要約すると「それがどんなものでもいいから信仰しておけ」ということになるのではないかと思ったのだ。

 そう考えると、それを口にすれば不敬に値する可能性があると思っている可能性もあるわけだ。

 

 他の人に聞いても、誰も頑なに神の名を出そうとしない。

 担当であるシーラに直球で投げかけた時でさえ――。

 

「――ごめんなさい!」

 

 そう言って逃げていったくらいだ。

 仕方がないので、熾月は信仰対象を己自身と定めた。『己が信じるものを信じよ』、と言われれば、熾月はほかでもない自分自身をまずは信じる。時と場合によっては、自分を疑うことも大事ではあるが、自分が信じられなければ何も出来ないからだ。

 

 ――そうと決めた瞬間、なんだかスッキリしたような感覚があった。引っかかっていた疑問が解けただけかとその時は思っていたが、後にそれが違っていたことを認識することになる。

 

 その後の休憩時間はそんな感じで過ごしたのだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 探索講習や採取講習なども午前中にさっと受け終えた。内容は本当に基本的なものでそこまで濃いものではなく、ラノベ知識の延長で簡単だったため質問することもなかったのだ。そして午後からは冒険者講習を受けることに。

 

「君が今回の講習者か……ふむ」

 

 シーラに案内された部屋に入ると、中で待機していたらしき男性が近づいてきてものすごく見られた。

 

(ち、ちかい……)

 

 思いがけない事態に硬直してしまう熾月を他所に、男性は熾月の周囲をジロジロと見ながらぐるりと一周する。

 

「なるほど、な。君、熾月くんと言ったね。まずはこれに手を乗せてくれるか」

 

 何を見ていたのかは想像もつかないが、全身をくまなく見たのであろう彼は満足した様子で離れると、すぐにそう告げてきた。

 

「あ、はい……」

 

 言われるがまま熾月は部屋の中に入り、彼が指しているそれに躊躇いなく手を触れる。

 見た感じ冒険者カードを作ったときの石版に近い。ただそこに、カードがあるわけでもなければそもそも置く場所もない。まっさらな部分を中心に、幾何学模様が描かれているだけだった。

 手を触れた瞬間、全身を駆け巡る妙な感覚に再び手を引っ込めるが、やはり一瞬で終わったらしい。

 

「ふむ、やはりそうか。しかし……これは予想外だな」

 

 熾月からは見えない位置をじっと見つめぼやく男性。

 

「あの……?」

「ああすまない。では始めよう。まずは自己紹介からだったね。いきなりあれこれ失礼した。私はヒルデブラント。ブレファーゼストのギルド支部における冒険者講習を引き受けている。今君に行った私のあれこれも、必要なことだから勘違いしないでほしい」

 

 そう言ってヒルデブラントは頭を下げて謝罪の意を示した。

 貴族っぽくもあり騎士っぽくも見える身なりだが、家名を名乗っていないあたり何かあるのだろうか。それとも家名がないのか。

 その容姿は白髪で壮年。表情は凛々しくあり、腰に下げる剣がなければかなりくらいの高い貴族だと勘違いしていただろう。

 

「ああいえ、大丈夫です……少し驚きはしましたが。もう知ってるかと思いますが、俺は十六夜 熾月といいます。本日はよろしくお願いします」

 

 日本人らしく、熾月も挨拶を返す。

 

「うむ。それではまずは君にいくつか質問をしよう。前の世界で、実践経験はあるか? 或いは、武器を扱った経験は?」

「実践経験はありません。剣とか槍とか、齧り程度に振れたり、そういうのを使う書物を読み漁る程度ですね……偏った知識ですが」

 

 冒険者講習なのだから、そうした質問は当然だろう。熾月は特段そういう経験はない。

 学校の授業の中で学んだことがある程度だが、それで知れる戦い方などたかが知れている。護身として扱えるかすら怪しいレベルだ。そうした本を読んだり触れたりしていたのは、たまたま趣味で知識が必要だったからというだけである。

 

「なるほど……ならば魔法はどうかね?」

「いえ……俺がいた元の世界は、魔法というものは架空の存在です。この世界に来てもう何度か魔法を目にしていますので、元の世界の技術では魔法は認識できていなかったんだな、という感覚になったくらいですね……」

 

 彼の質問に一瞬悩んだ。この世界では魔法は普通だが、元の世界では魔法は存在するものではないとされているのだ。だが考えるまでもなかった。現実にその目で見てきているのだ。

 

「ふむ……つまり、魔法は使えるかはわからぬ、ということで間違いはないのだな?」

「はい。そもそも魔法がどういったものなのか、原理的にも理解していないと思います」

 

 そう答えると、ヒルデブラントは静かに頷いた。

 

「ならば、一から……いや、お主の場合は、こうするほうが早いだろうな。少々、手を貸していただいても?」

 

 そう言って、ヒルデブラントは右手を差し出してきた。

 頷いて熾月もそれに倣い、彼の右手をとる。

 すると、僅かの間をおいて、あの感覚が手を伝って全身を駆け巡った。

 

「っ!?」

 

 慌てて彼の手を振り払いつつ手を引っ込めるが、その感覚は今までとは違い体に残り続けた。

 

(なんだこれ……体が熱い……!?)

 

 石版に手を触れた時の、全身を何かが駆け巡る感覚。それは熱ささえ感じるほどのもので、どうすることも出来ない熾月は、その場に蹲りただその感覚に耐えるしかなかった。

 

 しばらくそうしていると、その感覚はようやく落ち着いてくる。

 

「っ、はー……はー……」

 

 知らず息も止めていたらしく、肩で呼吸することになった。

 床に手をつき、滴るほどに全身からかいている汗に驚く。

 

「あの、今のは……」

「そこまで過剰に反応を見せる者は初めて見たよ。何、私の魔力を少しばかり熾月くんに送ったのだ」

 

 特段心配した様子を見せることもない彼は、あっけらかんとそう言ってのけた。

 

(つまり、今の感覚は魔力が駆け巡る感覚、ということか……?)

 

 少し時間をおいたことで、体が慣れたのか熱さはなくなったが、やはり違和感は残る。

 石版に振れた時のようなあの感覚が、未だに駆け巡っているような。幻肢痛に似た感覚だろうかとも考えるが、それとも違う気がしている。

 

「魔法はイメージの具現だ。今感じていたその感覚を頼りに、何かを構築してみるといい」

 

 そう言いながらヒルデブラントは、真似てみろと言わんばかりに、見せた手のひらの上で炎を宿らせる。

 彼に倣い、熾月もイメージしつつ、先程の感覚を動かすイメージで手のひらに具現化させようと試みる――。

 

「――駄目ですね」

 

 しばらくそうして感覚と格闘していたが、しかし一向に出来なかった。何かが手のひらに集まり、抜けていく感覚だけがある。イメージ力が足りないのだろうか。だが、目の前に参考対象がいる。イメージ力が足りなくても、補完はできていたはずだ。何故達成出来ていない筈なのに手応えがあるのか。不思議に思いながらも、その謎はわからないままになった。

 

「……ふむ、君ならばできるかと思っていたが、致し方あるまい。基本的な戦闘術を教えるとしよう」

 

 最初からそんなものなかったかのように手の上の炎を霧散させる。その後彼は部屋の隅に立てかけられた小ぶりな剣を手に取り、手渡して来た。

 受け取ってみると、見た目から想像できる以上の重さがあることがわかる。しかし小振りな為なのか熾月にとっては丁度いいくらいの重さだった。無理なく振回せそうである。

 

「まずはそれを思うように振ってみなさい」

 

 彼の言葉に頷き、鞘から剣を抜くと、適当な場所に鞘を置いて両手でそれらしく構える。自身の周囲には動きを阻むものはない。

 教官のいない方向を向いてまずは大きく振りかぶる。その後、全身で勢いをつけながら大きく振り下ろしてみた。

 重量のある棒。それを振り下ろす感覚に近く、うっかり剣が床に刺さる、ということもなかった。

 その後今度は横に大きく振るってみる。意思に反して体が振り回されそうになるが気合で堪えた。

 

「ふむ、筋は悪くないな。だが、敵はそんな隙だらけの攻撃を待ってはくれないぞ」

 

 言われながら直接矯正される。

 そうして、ヒルデブラントの動きやアドバイスも交えた指導のもと、熾月は自身の動きを最適化していく。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「うむ、それだけ動ければこの街周辺の魔物くらいには対応できよう」

 

 気がつけば、窓から差し込む日差しはだいぶ傾いていた。時間で言えば2~3時間といったところか。太陽の位置を見れば概ね15~16時ほどだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 軽く一礼しながらお礼を告げつつ、剣を拾った鞘に納めてヒルデブラントに返す。ヒルデブラントはそれを受け取りつつ、静かに頷いて教壇へと戻った。

 

「さて、もう一度これに触れてみてくれないか。再測定する」

(それ、測定機だったのか……)

 

 その事実に軽く苦笑しつつ軽く頷き、その石版に改めて触れる。

 

(あれほど不快だったあの感覚が心地よく感じる……)

 

 やはり何かが体を駆け巡る感覚はあるが、それが魔力が巡っているだけだと理解したからなのか、不快だとは思わなくなっていた。寧ろ、不思議なことに心地よささえある。その理由まではわからないが。

 程なくするとその感覚も落ち着いた。一瞬振れただけでも登録や測定は出来ていたが、本当に一瞬らしい。魔力が体を流れる感覚は一瞬。つまり、その一瞬で測定や登録のための読み取りが行われているのだろう。元の世界では考えられないほど高性能である。

 

「ふむ、先程の反応が嘘のようだな。魔力が流れる感覚に慣れたのは良いことだ」

 

 面白がる様子もなく、淡々とそう告げながら、ヒルデブラントは2枚の羊皮紙を見せてくれた。

 

「君の身体能力に少し変化があった。これが1回目、これが2回目だ。比較するといい」

 

 言われた通り、見せられた羊皮紙を見比べる。ゲームではよく見かけるSTRやINTといったステータス表示の横に、ランクと思わしき文字が書かれていた。1回目の測定結果は次のようになっている。

 

 STR:F+

 INT:E+

 VIT:F

 AGI:F+

 DEX:E-

 

「それぞれの意味はわかるかね?」

「一応……ですが認識の違いがあっても困るので、教えていただいてもいいですか?」

「ふむ、勉強熱心なのは良いことだ。いいだろう」

 

 彼の話を聞いて知識とすり合わせるが、やはりその認識に間違いはない。

 STRが筋力、INTが知力、VITが体力、AGIが敏捷力、DEXが技力。オンラインゲームでありがちなステータスの意味そのままだ。ではランクはというと、どうやらある程度の基準があるらしく、その基準に基づいた区分けらしい。

 もっと高度な測定器を使えばわかりやすい数値も出せるそうだが、この街にはそのような高度な機器はないとのこと。一般的な非冒険者は全てのランクがFとなるらしく、体の成長度合いなど様々な要因で決定づけられるそうだ。いわゆる簡易測定でしかないので、大雑把な指標でしかないが、このステータスを上げていけば様々な場面で有利に運べるようになる。

 2回目の測定結果はVITがF+に、DEXがEになっていた。

 

「君は人よりも優れた部分が多くあるようだな。冒険者といても良い素質だろう。今後が楽しみだ。当然だが、鍛錬を怠ればその測定値も下がる。精進すると良い」

 

 最後にそう告げられ、ヒルデブラントによるその日の講習は終了した。

 

「……鍛錬か」

 

 普段学業以外で運動するようなことがなかった熾月だが、一般的な指標と比較すれば割とステータスが高く見える。他の冒険者のステータスがわからないのでその点は注意が必要だろう。だが、ヒルデブラントも言っていたし、自信は持ってもいいのかもしれない。

 

「……よし」

 

 今後の展開を思い、思わず顔が綻ぶが、気合を入れ直す。

 ヒルデブラントの教えや忠告を胸に次なる目標を定めるのだった。

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