ゴッズプレイヤー   作:瑠心 詩十夜

9 / 10
第9話「規格外な精霊少女」

 翌日、熾月はまたボロボロになった服を着替えてから活動を開始した。早起きして最初に行ったのは、ヒルデブラントから教わった型の反復練習だ。運動以外にやれることもなく、やらなければ教わったことを忘れてしまいそうだったからだ。

 その後は講習の受講である。昨日と同様、受けてみた講習は簡単だった。午前中のうちに受ける予定の内容があっけなく終わったほどだ。仕方がないので残りの時間を冒険者講習に当てようと、ヒルデブラントの元を訪れたが彼は不在だった。急遽遠征のクエストを受けたらしい。

 他の担当者から話を聞こうとも思ったが、ヒルデブラントの教え子には教えることはないと断られてしまう始末である。

 

「まさかこんなことになるとは……参ったな」

「仕方がありません。ヒルデブラントさんの教え方は他の方と違いますから……より実践的で、違う教えを取り入れるとヒルデブラントさんの教えた動きができなくなってしまうのです」

 

 他の基本的なことも教われそうなものだが、ヒルデブラントの怒りが怖いらしい。彼の教え子には講習しないという暗黙のルールがあるとか。

 

「いい人だと思ったが、まさかそんな側面があるとはな」

「ええ、怒らせると怖いのは間違いないですから」

 

 苦笑するシーラに熾月もつられて苦笑いだ。仕方がないのでできることをやるしかない。

 

「それじゃ、昨日話していた依頼を斡旋してもらえますか」

「はい、こちらですよ」

 

 そう言って提示されたのは、6枚ほどの羊皮紙。

 それぞれ討伐が2種類、調査が2種類、採取が2種類となっている。ランクFのものしかないのは当然か。

 ちなみに昨日受けていた依頼についてはまだ完了できていない。トラブルのせいで必要数を集めきれていないのだ。

 だが、焦って即日完了する必要はない。ただし、破棄したり受注したまま規定の期日を過ぎるとペナルティとして違約金が要求されるため、気をつける必要がある。薬草採集は半常駐のためか期日自体ないのでそのあたりは安心といえる。

 

「確か5つ達成で昇格だったよな……」

 

 ポツリと呟くと、シーラがまたくすりと笑った。

 

「ふふ、もしくは試験達成でも可能です。ほとんどの人は普通、そちらから昇格するんですよ?」

「あー……試験ってのがあんま好きじゃないんですよね」

「そうですか……」

 

 そんな会話をしながら選ぶ。手にしたのは採取と討伐それぞれ2つずつだ。既に受けている採取も含めればこれで5つ。

 調査を除外したのは、どちらも期日が長い代わりに達成までの期間も長い可能性が高いものだ。遠方への調査もあるため移動時間だけでかなりの時間を要すると思われる。今の熾月の目標は早くランクを上げて稼ぎを増やすことだ。

 

「……期限が短いですね。流石に同時進行は厳しいか」

 

 手にした依頼はどれも期限が3~7日以内。ペナルティを考えればすべてを受けてしまうのは愚策だろう。

 キープしてもらうことも考えたが、これはゲームではない。依頼者は困っているから依頼を出しているのだ。いつでもいい依頼なんて本来はあるはずもないので、聞くまでもない。

 

「じゃあまずは、これとこれ、お願いします」

 

 そう言って受けたのは、採取と討伐をそれぞれ一つずつ。講習で聞いた内容の中にあった情報なので、達成自体は難しくない。

 どちらも街からほど近い場所なので2日もあれば達成できるだろう。その時にまだ残っていれば残りの2つを受ければいい。

 

「はい、ではお願いします。気をつけてくださいね」

「ありがとうございます」

 

 受領印を受け、依頼書を手にその場を後にする。その足でそのまま街の外へ向かった。

 

「さてと……」

 

 街の外に出てしばらくのところで軽いストレッチをこなし、外に広がる平原を見据える。

 

「んじゃまずは依頼を完了させないとな。ミオ、早速だけど範囲探索魔術とかないか?」

「いきなり? 気が早すぎよ」

「早く終わらせてミオから色々教わりたいからな。依頼にかける時間はできるだけ短くしたい」

「……なるほど、理に適ってはいるわね」

 

 熾月の言葉に唸るミオ。彼女としては面倒くさいのでなるべくやりたくないのが本音なのだろう。

 

「やる気があるのはいいことだけど、いい迷惑ね。――《領域探知(エリアサーチ)》」

 

 呆れながら苦言を呈しつつも、意識を集中させるためか、目を瞑って両手を前に突き出す。魔術名だろう、その言葉を紡いだ瞬間、彼女を中心として何かが辺り一帯に広がる感覚があった。

 

(いまのは……)

 

 感じたことのない不思議な感覚だった。気配が広がるとでも言えばいいのか。今まで気配と言えば感じたとしても漠然としたものだったが、こうまで明確に感じたことはなかった。

 

「10時の方向に複数の気配ね。目的の対象かはわからないけど」

「おっけー、ありがとな」

「はぁ。まぁいいわ」

 

 熾月の軽い口調に呆れた様子のミオ。そんな彼女の様子に一方の熾月は困惑するが、意味もわからないので気にしないことにした。

 ミオの案内のもと、目的の方向に向かう。十数分進んだ距離にその姿はあった。

 

「あれか……レッサーラット」

 

 視線の先には、呑気に木の実を齧る複数のネズミに似たげっ歯類。運が良かったらしく、受注依頼の討伐対象だ。

 中型犬サイズであることを除けば可愛げがある。時折周辺を見ているのは警戒しているつもりなのだろう。

 しかし、『レッサー』という名の通り、こいつらは普通のラットと比較して知能が劣っている。死角から物音にだけ気をつけて近づくだけで、素手で捕まえられてしまうくらいには。流石に音や視界に入れば逃げはする。しかし、おバカなので逃げ方も下手なのだ。どれくらい下手かと言うと――。

 

「ふっ……!」

 

 ――茂みに身を潜めながら、適当に拾った小石を拾い上げ、レッサーラット目掛けて投げつける。

 

「ちゅっ!? ちゅちゅちゅっ!」

 

 が、その石はレッサーラットに当たることはない。石が当たったのはレッサーラットが集まっていた位置よりは更に奥まった位置の地面だ。

 

「よしっ……!」

 

 もちろん、外したわけではない。

 驚いたレッサーラットは、石が落ちた方向とは逆に――つまり熾月の目の前に逃げ出してくる。逃げるレッサーラットが自分から飛び込んでくるので、倒すのが簡単になるというわけだ。

 しかし、全てのレッサーラットがその方向に逃げるため、一度に全てに対処するのは難しい。

 

(まとめて倒せればいいが、まずは確実に1匹倒す……!)

 

 そのまま、レッサーラットたちが近づくのを待った。

 

「はっ!」

 

 タイミングを見計らって、向かってきたレッサーラット目掛けて剣を横に振る。狙いは先頭の1匹だ。

 レッサーラットたちはさらに驚き、熾月から逃げようと散らばるが、熾月の剣は先頭のレッサーラットとその直後にいた1匹の合計2匹を切り裂いた。

 

「次……!」

 

 逃げたレッサーラットの方向を見ると、まだいくつかが視認できる。熾月は素早く狙いを定めて追いかけた。

 

「ミオ、そっちを頼む!」

「はぁ、精霊使いが荒いわね!」

 

 追いかけながらミオに頼むと、ミオが熾月の横から飛び去る。どうやら反対側に逃げたレッサーラットを倒してくれるらしい。

 熾月はさらに力を込めて速く走り、レッサーラットに迫る。レッサーラットは逃げ足も遅いのだ。

 

「はぁ!」

 

 走りながら大きく振り下ろす。

 

「ちゅううっ!」

 

 切り裂かれたレッサーラットが悲痛な声を上げる。その後は動かなくなり、一撃で絶命したようだ。

 

「よし、これで3匹」

 

 倒したレッサーラットを確認し、ミオが向かった方向に目を向ける。彼女もきっと逃げた2匹を仕留めてくれるだろう。

 熾月は、先に倒した2匹の状態が悪くなる前にやるべきことを進めようと、元の場所へ戻った。

 その場に放置していた2匹も回収し、合わせて3匹の解体作業を始める。

 どんな生物でも立派な素材になるのだ。講習で習った解体を実践し、討伐証明となる素材や使えそうな素材を取り出した。

 

 レッサーラットは、知能が低いために魔力の影響を受けていないラットよりも扱いにくい。その影響を受けた動物は、性質が大きく変わってしまうのだ。

 ラットの場合、魔獣化すると他の魔獣とと少し異なった変化が起きる。

 普通、肉体が肥大し知能が低下し凶暴化するが、レッサーラットは肉体の肥大化と知能の低下だけで、凶暴化はしない。力はあるが、もともと臆病な性格に拍車をかけているのか己よりも大きい存在からすぐに逃げ出す。それも、身を隠すでもなくただバカ正直に真っ直ぐに。

 だが一方で、大型化しているため食欲も旺盛であり、生態系を脅かしたり畑を荒らされたりなどの被害の可能性もある。故に放っておくこともできない。そんな存在なのだ。

 

 魔獣化の違いについて理由は解明されていないらしいが、生物的に小動物などの弱い個体はこの傾向が強いことは知られている。

 もしかしたら、肉体が小さいために受ける影響もその分限られているのかもしれない。

 

 解体作業を進める熾月の横に、2匹のレッサーラットの死体がドサリと落ちた。

 

「あー、重い! 拾いに来てくれても良かったんじゃないの?」

「すまん、ありがとな」

 

 声の方を振り向くと、疲れた様子のミオがいた。どうやら運ぶのに苦労したようだ。手のひらサイズのミオが、中型犬サイズのレッサーラットを2匹も運ぶとは思っていなかったが、どうにか運んできたようだ。

 熾月はそれらも手元に引き寄せ、追加で解体作業を行う。

 

「よく運べたな?」

「まあ、この程度の重さならなんとかね……」

 

 ミオの言葉に苦笑しながら、解体作業を進める。会話をしながら、数十分で解体を終えた。

 取れた素材は、魔獣から必ず取れる魔石、レッサーラットの毛皮、レッサーラットの歯だ。

 歯が討伐証明として持ち帰る素材で、毛皮は使い道があり需要がある。

 残った肉などの不要部分は廃棄となる。レッサーラットは食用として不味すぎるし、爪なども小さすぎて用途がないのだ。

 必要な素材は冒険者バッグに入れ、残った素材は地面にまとめて置いた。

 放置しても少量なら問題ないが、適切に処理してほしいというのがギルドの意向だ。適切でない処理をなされているなどで連帯責任で処理依頼が出されることもある。

 熾月には処理手段がないが、ミオなら出来るのではと思い、頼むことにした。

 

「すまんがミオ、これ焼却してくれ」

「ま、しょうがないわね。――《発火(イグニッション)》」

 

 ミオの呪文で、小さな火花が彼女の指先から放たれる。

 火力が不足していると思われたが、その効果は予想以上だった。

 瞬く間に全体が燃え上がり、すぐに炭化していく。

 

「小さな火種だったのに……すごいな」

「そうね、魔術はイメージの力が大きいの。小さな火でも強力な想像力と計算力があれば、こんなこともできるわ」

「……それってつまり、お前がランクの高い魔術を使ったら一国を滅ぼせるんじゃないのか?」

「一国どころか、大陸を消せるかもしれないわね」

「た、大陸!?」

 

 ミオの言葉に驚く熾月。大陸を消せる魔導士は、熾月が知る限りでは非常に強力なチートキャラだと感じた。

 

(俺、すでにチート人生を歩んでる……?)

 

 そう思わざるを得ないほどの衝撃。彼女が神だと自称しても信じられるレベルだ。

 最初は精霊という自称すら怪しんでいたが、現時点で既に人間としては規格外の能力を見せられている。

 

「ええ、禁術に相当する魔術よ。使うのは命がけだから、よっぽどのことがない限り使わないわ」

「あ、当たり前だ!」

 

 そんな魔術を使われたら巻き込まれる側は大変だ。一国どころか大陸を消滅させる魔術に巻き込まれでもしたら、生きて帰ることなど不可能だろう。

 

「なんて言ったかしら……超級とか帝級ではないことは確かだけど」

「超級? 帝級……?」

 

 ミオが自分の言ったことを呟きながら考え込む。聞き覚えのない単語に気になる熾月。

 しかし、ミオは完全に自分の世界に入っており、答えは期待できそうにない。

 

 しばらくは休憩を兼ねて眼の前で燃え続けるレッサーラットの残骸を眺めるしかなさそうだ。

 

「あと5匹。ミオ、見つけられる?」

「そうねぇ……」

 

 完全に燃え尽きたことを確認して立ち上がると、次の獲物を探し始める。

 流石に自分の世界から戻ってきてるだろうと声をかけてみれば、熾月の言葉に返事があった。

 そのことに安堵しつつ、彼女の様子を見ているとミオが再び探索魔術を使った。広がるミオの魔力の気配が再び感じられる。

 

「この辺にはいなさそうね。場所を変えたほうがいいわ」

「そうか……それなら、薬草を探しながら移動しよう」

 

 道すがらでイアル草や、魔力回復ポーションの素材となる《アギク草》を集めながら移動する。

 そして向かった先で、ミオの探索魔術を使い、残りのレッサーラットの素材も集めきるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。