仮面ライダーロア〔新版〕   作:瀝青

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第1話 開演、つまり実現

 四月の豪雨、無人の広場、漆黒の人影。

 その影は人型ではあるものの、竜と騎士を思わせる異様な形貌。雨が連続して黒一色の体表を伝う。

 その影は足元に転がる、灰色の機械をベルトで装着した、もの言わぬ人物を見下ろしているようであった。

 一瞥の後、その影は自らが手にする二つの機械を眺める。それらは倒れた人物が身に付けている機械に近い特徴を有していた。

「開幕、ですね」

 外見に見合わぬ、幼さと妖しさの同居する女性の声で独り言。

 同時に、地面の人物は空中に溶け出し消滅した。灰色の機械だけが地面に残された。

 

 雨音の中を、彼女の穏やかな一瞬の笑い声が進んだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日、醒蕾院(せいらいいん)大学にて。

 文系の学問に特化した大学で、人文学部人類学科に所属する一年生たちが必修の講義を受けようと広い講義室に集まる。

 (あくた)遼也(りょうや)はそのうちの一人だ。

 彼は彼を楽しませる、あらゆる「物語」という概念に、存在に、情熱的かつ偏執的な興味や関心の類いを向けている。この講義に対して真剣であることは当然なのだ。

 黒ずくめの衣服を身に付け、黒い髪を備えた彼は、一種の酷薄さのある貌に備わる黒い瞳で、鋭い目付きで講義の資料を睨みに近い仕草で熟読している。「変身する英雄と怪人退治の類型」。それが今回扱われる内容。

 室内の席は徐々に埋まり、教授である男性が教壇に姿を現し、白板にスクリーンが掛かり、プロジェクターがスライドを投影し、程無くして講義開始。

 講義が始まる直前。真っ直ぐに伸びた白い長髪、晴れ渡った青い瞳、色白の肌、純真さを感じさせる貌を備えて、白ずくめの衣服を纏った、長身の女子学生が講義室に飛び入った。彼女は遼也の隣席に滑り込んで収まった。

「ま、間に合ったぁ……」

 率直に感情を表出させる面。容姿に違わず澄んだ声。

 遼也は彼女を打ち見、しかし興味は示さずそのまま講義に集中。

 教授は導入部を語る。

「今回扱う『変身する英雄と怪人退治の類型』ですが……“仮面ライダー”の原型、と言えば皆さんには伝わりやすいでしょうか」

 遼也はその物語を、とうに知っていた。

 

 《怪人》と呼ばれる悪しき異形の者が、自らが持つ力の真の用途に気付き、英雄に“変身”する物語。

 または、《怪人》に対抗するため、自ら《怪人》若しくは《怪人》に類する英雄に“変身”する物語。

 

 これらの古い物語を基に、“仮面ライダー”という名の英雄たちが、多くの者たちの手で、多くの媒体で創作されている。

「ね、仮面ライダーがこうやって講義で出てくるの、なんだか不思議で面白いよね」

 不意に、遼也の隣、白い髪の女子学生からの小声。無邪気な口調。

 遼也の眉が微かに動いた。

「……貴方の意見には大いに賛同できる」

 彼は彼女への興味が湧いた。それは衝動的な興味であった。

 しかし続く彼の発言は、教授の拡大された声に遮られた。教授が声を向けるマイクの音量が急激に上昇。

「では、これら《怪人》の具体例について……」

「わっ!?」

 白い髪の女子学生もこれには驚く。対して遼也は冷静に教授の方に向き直る。

 教授の表情は行動の意図を読ませるものではない。ただ、何故か遼也と彼の隣の女子学生以外はそれを理解している模様だ。

 

()()()見せた方が伝わりやすいですね」

 

 講義室に奇妙な台詞が反響。

 

 何を言っている? まさか(いにしえ)の物語が事実であるとでも?

 

 遼也の予想は、ある意味では的中していた。

 それから先は、日常の場面とは言い難い。

 次の瞬間には、教授の姿は人間のものではなかったためだ。

「我々は、“脚本”に従う傀儡です」

 台詞を吐く教授は溶解して再構築された。

 

 赤色で、虫の外殻に似た身体。

 外殻の上には、白でドリームキャッチャーを想起させる文様が描かれた、黄色の無機質な装甲。

 張り巡らされた白いケーブル。

 蜘蛛の脚に似て、細長い右手の指。

 剥き出し、銀色の人間の歯。

 口の両端には蜘蛛の鋏角。

 口より上の顔面を覆う、ひび割れた装甲。

 左右非対称の人型の怪物。

 

 否、教授のみならず遼也と隣席の彼女という二人を除く、講義室に居る全ての人間が怪物に変異している。学生たちだった怪物はそれぞれが全く同一の姿で、教授だった怪物とは違った外見。

 それらの姿は正に、《怪人》。

 遼也の心は高揚する。生命の危機であるかも知れないこの状況は、彼にとって人生の彩りだった。

 隣の彼女もまた微塵も恐怖を見せずに立ち上がり、付近の学生が変異した怪人の、コバルトブルーの外殻と朽葉色の装甲に触れようと手を伸ばすが──。

「わぁ……! これって──」

 怪人の背から伸びた蜘蛛の脚が机を粉砕。

「貴方の純粋さはよく理解した。手を引け」

 それで状況が動く訳もない。冗談のようなものだ。

 講義室を満たす怪人たちはゆっくりと攻撃の体勢に入っている。

 相変わらず危機感の欠如した態度で周囲を見渡す彼女を連れて、怪人を押し退けて逃走すべきか、と遼也が思案すると。

 轟音と共に赤黒い雷が降り、学生だった怪人たちの大多数が打たれ、痕跡も残さず消える。

「何が起こった……?」

「へ……?」

 困惑する二人の耳に、足音が届く。

 音の源を見ると、アタッシュケースを携えた一人の女性が講義室に入り、優雅に歩を進める場面。

 

 背丈は遼也や白髪の女子学生と同程度の長身。

 足音を立てるのは黒いショートブーツ。

 黒いブラウスと黒いロングのプリーツスカートに浮かび上がる、素晴らしい均衡を保った体型。

 右側が黒、左側が金の、二色に分かれてさらりと伸びた長髪。

 右が赤、左が青の、静かに煌々と輝く竜の如き瞳。

 病的に白い肌。

 少女と大人の女性の印象が入り混じった容貌に、可憐、清廉、妖艶、優美な微笑み。

 遼也と並んで街を歩いていたなら、人々の目には彼の姉か妹のように見えるだろう。彼とは顔立ちに似たものがあった。

 

 遼也も、白い髪の彼女も強烈に懐かしい感覚を味わいながら、その女性に目を奪われる。

 残された怪人たちは突撃するが、床から木の根の如く生じた無数の黒い蛇がその動きを絡め取り、止めた。

 そして女性は二人の方に振り返り、こう告げた。

()()()()()()()()、遼也さん、深冬(みふゆ)さん」

 二人に向けられたその笑顔は包容力に満ちていて、屈託が無い。

「君は──」

 返事に窮する女子学生を横に、遼也の口からは自然と問いの断片が零れる。

 遼也と白い髪の彼女──深冬の脳裏に蘇る、遠く鮮烈な記憶を読み取ったように女性は続ける。

「改めてまして、(ワタクシ)、ルイーザと申します」

 胸に手を当て、綺麗に一礼して名乗る。

「よ、よろしくね……?」

 深冬の律儀な返事にくすりと笑った後、持っていたアタッシュケースの中身を示しながら。

「本日は招待に参りました。忌むべき退屈な日常の物語などではなく、傑作になるべき仮面ライダーの物語、その主演の座に」

 

 収められていたのは二つの機械と三枚の光ディスク。

 機械のうち片方は黒一色、左右非対称の形状。右側には側面に細長い穴のある板が二枚、斜め前に迫り出している。左側には爬虫類の鱗を思わせる鋭角的な部品。

 もう片方は大部分が白く、一部が青く、左右対称の形状。古代ギリシャの劇場を上空から見たような造形で、舞台にあたる円形の部分が上に付いている。

 ディスクは金色で《Crom Cruach》の文字と羊の角をもつ蛇の頭部が描かれた白いもの。

 赤色で《Carnonos》の文字と鹿の角をもつ蛇の頭部が描かれた白いもの。

 白色で《Beira》の文字と烏が描かれた青いもの。

 

 あの物語の類型には、他にも重要な特徴がある。英雄は、特殊な器具を用いて変身するという事。

 彼は親に望みの玩具を買い与えられた子供か、必死に求め続けていたものを手に入れた狂人の笑みを浮かべて言うのだった。

 

「……面白い」

 

 ルイーザから彼に、黒い機械と白い二枚の光ディスクが授けられる。

「ふふ……さあ、アナタも。深冬さん」

 不思議そうにケースの中身を眺めていた深冬だが、ルイーザの声で目前の出来事に引き戻された。ルイーザの発言を聞き、彼女の瞳を見据え頷く。

「うん!」

 さながら親の言い付けに従う子。

 深冬の手にも残った方の機械と青い一枚のディスクが。

「使い途はお分かりですね?」

 仮面ライダーの力、その源は往々にしてベルトである。

「ああ」

 遼也が腹部に当てた機械の両端から黒いベルトが伸び、自動的に固定。流暢な英語発音の男性の音声が機械から発せられる。

《Lore Driver!》《On stage.》

 深冬もそれに倣う。倣おうとするが、ベルトは応じない。

「えっと、あれ……?」

 ルイーザは苦笑しながら白と青で彩色された機械を深冬の手から取り、上下を逆にして装着させた。

《Spectcurum Driver!》《On stage.》

 白いベルトが伸びた。

「あ、そっかぁ!」

 晴れやかな表情を浮かべる深冬。

 爛々とした目でディスクと怪人を睨む遼也。

 ルイーザは蛇の拘束から解き放たれた怪人を指して言うのだった。

「さあ、ドライバーに《テイルディスク》を装填、変身し……怪人を──《マリオノープ》を殲滅するのです」

 

 遼也はその《ロアドライバー》に備わる二枚の板に、一枚ずつ小型の光ディスク──《テイルディスク》を装填。テイルディスクに応じた音声。

《Crom Cruach》《Carnonos》

 勇壮に駆け抜けるような曲調のオーケストラが続いて流れる。

「俺の望む“展開”を……!」

 

 深冬は《スペクトクルムドライバー》の円形部分の上に空いた穴にテイルディスクを差し込む。

《Beira》

 浮遊感のあるアンビエント・ミュージックが続いて流れる。

 嬉しそうに彼女は音声を聞いて頷く。

 

 彼がロアドライバーの鱗部分を右側に滑らせると二枚の板が覆われ、代わりに左側に隠されていた画面が現れる。画面には瞳孔が縦に伸びた、白い蛇の眼が表示される。

 彼女がスペクトクルムドライバー下部の段差となった半円を手でなぞると、円形部分が青い烏の翼を映し出す。

 “ドライバー”の作用か、二人の思考には自然とこれらの使い方が浮かんでいた。

 二人は同じ瞬間に、自然とあの二文字熟語を発していた。

 

「変身!」

 彼は毅然とした調子で言った。

「変身っ!」

 彼女はややたどたどしい調子で言った。

 

 遼也と深冬の周囲に現れた、透明な水のような液体が空中で分散、固体化。それは装甲の形状となって、光と共に二人の身体に装着される。

 

《Now Loading……Transform!》

《Neuromancy, Crom Cruach and Carnonos!》

《To the opening and ending, KAMEN RIDER LORE.》

 仮面ライダーロア。それが遼也の“変身”した戦士の名。

 白いアンダースーツ。

 金色と銀色が散りばめられた、爬虫類の鱗を想起させる鋭角的な白い装甲。

 頭部もまた蛇や竜を思わせる。

 頭部には羊と鹿の角を混合させたような形状で、王冠に似て赤く透き通る四本の角。

 銀の口部(クラッシャー)はさながら蛇の牙。

 仮面に刻まれた切れ込みからは赤く、赤加賀智(ホオズキ)の如く光が放たれている。それが眼であった。

 仮面の額に相当する部分には赤く丸い「第三の目(シグナル)」。

 無機質、禍々しさ、英雄性。種々を包括した威容。

 

《Now Loading……Transform!》

《Neuromancy, Beira!》

《Obey your destiny and history, KAMEN RIDER SPECTCURUM.》

 仮面ライダースペクトクルム。それが深冬の“変身”した戦士の名。

 紺色のアンダースーツ。

 薄水色が散りばめられた、流線形を呈する軽量の白い装甲。

 腰には白く長い前垂れ。

 背にはマントのような烏の両翼。

 頭部は鳥類を思わせる。

 鹿や牛の角、枯れ木のような形状で、王冠に似て銀色に輝く五本の角。

 銀の口部(クラッシャー)はさながら嘴。

 烏の翼の如き、コバルトブルーの複眼。

 額には縦長で菱形、青い「第三の目(シグナル)」。

 工業的、神々しさ、神秘性。諸々を包括した勇姿。

 

「ほ、ほんとに変身しちゃった……!」

 変身した深冬──スペクトクルムは自らの肢体を見て、手に触れて、忙しなく驚いていた。

 変身した遼也──ロアは冷静に拳を作り、学生が変異した怪人に向かって構え、仮面の下で不敵に笑む。

「『仮面ライダーロア』、開幕ですね」

 ルイーザは掌を打ち合わせる間隔がやや空いた拍手を送る。

 駆け、拳を突き出すロアに窓から射す光が当たり、装甲を輝かせた。さながら絵画に収められた場面。

「ハッ!」

 殴られた怪人は他の個体を巻き込んで後方まで吹き飛ばされるが、代わりに教授が変異した怪人が他の元学生と、口から銀色で金属的な糸を放つ。

 身体が軽やかに最低限の動作を取り、ロアは回避に成功した。

「おりゃあっ!」

 遅れてスペクトクルムが前に出て飛び蹴り。初対面である事実を感じさせない二人の連携する様は、長年共に在った戦友のよう。

「やった当たったぁ!」

 喜んで飛び跳ねるスペクトクルムの幼い仕草に笑い声を溢すロア。

「喜ぶには早い。勝利を飾らなければ」

 四方を囲む怪人。ロアは相手の出方を伺う。スペクトクルムは思い出したかのように叫んだ。

「そうだ武器! 武器ないのルイーザ!?」

「そうですね……アナタ方が望むのであれば既に、と言っておきましょうか」

「ほう……?」

「分かった! 来い、武器っ!」

 空中に出現した透明な液体が、角に似て捻れた赤い二本の剣──ブラッディコルヌコピアとなってロアの手に、身の丈程の柄を備え両口の角張った銀色の槌──ソルスティスセプターとなってスペクトクルムの手に。

「成程、豊饒の角を剣と成すとは」

 武器の細部を確かめるロアは鉤爪で斬り掛かる元学生を視界に認めると、片方のブラッディコルヌコピアを投げた。突き刺さった剣を蹴りで更に深く叩き込む。そして怪人は爆散。続けて赤い刃で一度に三体の怪人を裂き、討伐。

 スペクトクルムが振り下ろしたソルスティスセプターが怪人の脳天に当たる部分に直撃、怪人が爆散。

 残るは教授だった怪人のみ。

 傍観者であったルイーザは満足気に頷き、言葉を送った。

「ああ、大切なことをお伝えしなければ……記録された神話、伝説、伝承、物語を織りなす存在──それらの模倣たる力が仮面ライダーを、新たな物語を形作るのです。怪人も同様ですが、ね」

 

 仮面ライダーと怪人は同源の力を宿す。

 変身に用いた《テイルディスク》に神々や怪物が記録されているのであれば、怪人──マリオノープも然り。

 

 学生たちだった怪人にはオオツチグモ科の蜘蛛──所謂タランチュラに近い体毛が生え、能の衣装を連想させる装飾があしらわれていた。オオツチグモの由来は妖怪である土蜘蛛。故にツチグモ・マリオノープとでも名付けるべき怪人だったのだろう。

 では教授だった怪人は? 蜘蛛の特徴を持つ点はツチグモ・マリオノープと同様。配色は赤・黄・白。装甲に見られる模様はドリームキャッチャー。ラコタ族に伝わる蜘蛛の神、イクトミ──さしずめイクトミ・マリオノープといった所か。

 

 ロアが推理した刹那のうちにイクトミ・マリオノープは窓に体当たり、糸を巧みに利用して外へ。

「ッ、追うぞ!」

「え、あっ、うん!」

 両者が武器を手放すと、それらは出現した時と同様に液体と化して消えた。

 ロアは躊躇う事なく飛び降りた。一切傷を受けず着地に成功。

「とっ飛んで、る……うわあっ!?」

 スペクトクルムは翼を広げて飛び、半ば墜落に近い形で舞い降りた。

 

 戦いの舞台はコンクリートと木々、水盤が配置された大学敷地内の広場に移動。映像作品の撮影が行われる現場のように広場は無人。如何なる理由か、有利な状況。

 二人はイクトミ・マリオノープの姿を捉える。が、敵は糸で縦横無尽に複雑に絡み合う巨大な蜘蛛の巣を組み上げ、巣の上層に陣取った。

 ロアは見渡して、臆せずに。

「丁度良い。試す時だ」

「必殺技だね! せっかくだから一緒に!」

「ああ……!」

 ロアドライバーの鱗の部分を押し込む。音声が告げる。

《End roll, Crom Cruach and Carnonos!》

 スペクトクルムドライバーの円形部分を押し込む。音声が告げる。

《End roll, Beira!》

 ロアは赤黒い光の奔流を纏って跳躍、スペクトクルムが青く輝く水流を纏って飛翔。

《RIDER KICK!》

《RIDER KICK!》

 蜘蛛の巣を突破して空へ。勢いは衰えず赤と青の力が必殺の一撃となって怪人へ。

「ハァッ!!」

「はあああっ!!」

 爆発は蜘蛛の巣を巻き込んで拡大し、二人が地面に降り立った。

 ロアに変身している遼也の笑み、スペクトクルムに変身している深冬の得意気な表情が容易に読み取れるようだった。

 

 そして両者のドライバーから光が発され、二枚ずつ同じ《Tsuchigumo》の文字が刻まれたテイルディスクと《Iktomi》の文字が刻まれたテイルディスクが生成され、ベルト左側に装着された薄いケースに自ずと収まる。

 

「これからの活躍に期待していますよ」

 何時の間にか広場に現れ、戦いの結果を見届けていたルイーザ。

 赤黒く瞬く稲妻と共に、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 一人分、目撃者の視線があった。

 しかし、自身もまた見られる側である、という事実を彼女が知る由もない。

 

 

 

 

 

 

「始まったね」

 優しく、真っ直ぐ耳に届くような女性の声が大規模な廃工場に響く。

 

 明らかにこの工場が現役であった頃に稼働していたものとは思えない機械。その中に入った鉛色の気体。

 倉庫で見かける類の、無骨な金属の棚に収められた雑多な本。小説、絵本、詩集、戯曲、漫画、学術書。物語の本だけでも『蜘蛛の糸』、『赤ずきん』、『白鯨』、『インスマスの影』、『鏡の国のアリス』、『古事記』等々。

 

 人間の女性の姿を持つ者が五人。

 否、六人。

 

 空中に赤黒い電流が走った直後、二階へ続く階段の上に二色の髪、オッドアイの彼女が──ルイーザが。

「只今戻りました」

 ルイーザは他の五人が居る一階へ。

 

「ああ、ルイーザ……これから彼はもっと……幸せになるんだね……」

 先程の「始まったね」という声の主。

 二メートルに迫る長身で、この場に居る者の中では最も背が高い。その身体には白いトレンチコート、白い長袖のスウェットシャツ、白いタイトなジーンズ、白い革靴。

 ボーイッシュ、マニッシュですっきりとしたショートヘアは純白。

 アルカイックスマイルを崩さない中性的な顔立ちで、線の細い少年の顔にも見える。対照的に身体の輪郭はめりはりがあり、身長も相俟って芸術的だった。

 ルイーザ以上に色白で、瞼を閉じていたなら棺桶の中に横たわっていても違和感を抱かせない。

 しかし、蛇の瞳孔が刻まれた、青銅の青緑色を宿す瞳が何やら魔力や妖力とでも形容すべき不可思議な様相を演出していた。

 

「ええ、(ワタクシ)の役目ですから」

 ルイーザの応答。

 

「いやァ昂ってまいりましたねェ!」

 天を仰ぎ、両腕を広げてソファーから立ち上がる一人。

 一見すると鷹揚、友好的な印象を与えるが、一種の危険性を感じさせる容色。

 砕ける波に似て青白い瞳。

 黒みがかった紺色のメッシュとオリーヴ色のインナーカラーが入った、肩まで伸びた柔らかな銀髪。

 ルイーザに比べると背は低いが、百七十センチ近く。

 黒い縦セーター、右側にスリットのある黒いロングスカート、黒いタイツ、黒いローファー。

 青い宝石が埋め込まれ、魚類の鱗と鰭を模した銀色の指輪、腕輪、首飾り、耳飾り。

 

「あァ、オレもだぜフォーマラウタ! これが『仮面ライダーロア』の本番だと思うとよォ……!」

 荒っぽい口調で言う声。

 活発そうな印象の内に獰猛さ、可憐さを持った顔付き。

 物騒な光を見せる灰色の瞳。

 毛先が紫色に染まった、薄墨色でウルフカットのミディアムヘア。

 六人の中で二番目に身長が低い。

 白いワイシャツと灰色のパンツスーツを着崩し、ローヒールのパンプスを履いている。

 

「ウフフ、フフフッ……メルヴィレア、あなた様もでしょうッ!?」

 銀髪の彼女──フォーマラウタは五人から離れた窓際に立ち『動物園仮説SF傑作選』なる文庫本を読んでいた女性──メルヴィレアに呼び掛け。

 

 精悍かつ凛然とした貌。

 藍白(あいじろ)の髪は、低い位置で長いポニーテールに。顔面の左側を隠す臙脂色(えんじいろ)のメッシュが入った前髪。

 涅色(くりいろ)の右目。顔面の左側に垂れる前髪から僅かに覗くアイヴォリーの左目。

 百八十センチ近くの長身。

 黒いレザーで統一された、キャスケットにフィンガーレスグローブ、ぴったりとしたノースリーヴのトップス、コルセットと一体化したような形状のハイウエストのショートパンツ。タイツに包まれた太腿。

 

「……そう思い込んでいればいいわ」

 メルヴィレアは答えた直後に沈黙。

「あらァ……」

「毎度の事ながらノリがワリィな。で、ルイーザ、プロトロアドライバー……改め《コーデックスドライバー》は次どいつに渡すんだよ?」

 灰色の彼女は大型の装置に接続された、ロアドライバーに酷似した灰色の端末を指す。

 

 同時に、メルヴィレアがコーデックスドライバーを凝視。

 視線はすぐ本に戻された。

 

「戦いをお望みですね、セイズさん。本編が開幕した以上、必要性は低下しましたが……コーデックスドライバーに存在する余地は活用すべきです」

 灰色の彼女──セイズに肯定的回答。

「ハハッ、楽しみにしてるぜ」

 

「早速“脚本”を変えることになりそうだね」

 パイプ椅子に掛けた一人が、抑揚の欠けた調子で。

 端正だが無表情な面持ち。

 濃い褐色の肌。

 生気が乏しい緑色の瞳。

 橙色のメッシュが走った暗緑色の髪は、頭の左側でサイドテールに。

 六人のうちで最も小柄で、百六十センチ程。

 丈の短い緑のパーカー、腹部の辺りまで覆うハイウエストの黒いスパッツ、赤色と紫色のスニーカー。

 

「まあ、ボクは従うだけなんだけど」

 緑色の彼女はそう続けた。

「よろしくお願いしますね、スルクさん」

 

「救けなきゃ……」

 会話の流れを破って真っ白な彼女が呟く。アルカイックスマイルのまま。

「救うべきお方を見つけられたのですか、ソテイラさん」

 真っ白な彼女──ソテイラは首肯。

「うん……ワタシ、あのコを幸せにしてあげたいな」

「あのコ? ッてああ、戦いをつッ立って見てたあの明らかに肝の小せェアマか? いいンじゃねえか、お前に言わせりゃ“救い”甲斐がありそうだし。戦えるヤツは多ければ多い程オモシレェからな」

「ええ、ええ! あの目撃者にも光をッ!」

 セイズとフォーマラウタも賛同。

 

「見ものですね。果たしてあのお方が“救済”に耐えうる役者なのか……」

 ルイーザは妖しく笑った。

「遼也さん、アナタも、(ワタクシ)が必ず──」

 転じた表情に、暗い陰は存在しない。

 瞳の光も、曙光に似て赫々(かくかく)と。

 それは物語を予感させた。





(あくた)遼也(りょうや)/仮面ライダーロア
種族:人間
性別:男性
年齢:18歳
職業・身分など:醒蕾院(せいらいいん)大学人文学部人類学科の一年生
身長:175cm
体重:57kg
誕生日:9月6日
好きなもの:面白いモノ
嫌いなもの:つまらないモノ

本作の主人公。

物語に異様な程の関心を向け、面白いモノを求め、自らの人生という物語の脚色を試みる男性。神話、伝説、伝承の類にも造詣がある。
ロアドライバーを渡してきたルイーザについては何かを知っていたらしく、彼女の記憶を持っている様子だった。


凍霧(いてぎり)深冬(みふゆ)/仮面ライダースペクトクルム
性別:女性
年齢:18歳
職業・身分など:醒蕾院大学人文学部人類学科の一年生
身長:174cm
体重:56kg
スリーサイズ:B92/W58/H86
誕生日:2月2日
好きな食べ物:クレープ
苦手なこと:運動、家事全般

本作のヒロイン。

年齢に見合わない純粋さ、幼さを持った女性。
遼也と同様に、ルイーザとは何らかの関わりがある模様。



タイトルの通り、『仮面ライダーロア』(https://syosetu.org/novel/288025/)のリブートにあたる作品です。お気に入り、読了報告、感想、評価などいただけると幸いです。次回もよろしくお願いします。
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