子供のころ、よく人には見えないものが見えるなんて話を聞いたことがある
俺もどちらかと言えば幽霊とか、そう言うのが見える側だったらしくて父さんと母さんからよく誰もいない場所で独り言を言っていた……らしいけど、そんな小さい頃の話覚えてないし、いまいち実感も湧かない
まぁ、そう言う霊感も大きくなるうちになくなっていくみたいで今じゃそう言うのは全然見えないし、見たいとも思わないけど
「きりーつ、気を付け、礼」
ふと、小さい頃は幽霊が見えたなぁなんてことを考えていたら気が付けばホームルームも終わりの時間、委員長の声で周りが立ち上がるのを見た俺も急いで立ち上がって頭を下げる
『さようなら』
「全員、気を付けて帰れよー」
担任の先生はあっけらかんとした様子で手を軽く振るとそそくさと教室から出て行った。それを確認すると周りのクラスメイト達も帰りの準備を始める中、俺は一人席に座り直して胸をなでおろしていると、クラスメイトの深崎亮太がケラケラと笑いながらこっちにやってきた
「よっ、藤丸。随分ボーっとしてたみたいだな」
「笑いごとじゃないって、ホントに焦ったわ」
「後ろから見てたぞー、ワンテンポ遅れたと思ったら慌てて立ち上がるお前の姿。いやー、面白かった」
「お前な……」
俺がジトっとした目を向けると深崎は軽くすまないって様子を見せてからわざとらしく息を吐く
「ところで藤丸さんや、君。オカ板とか見る?」
「オカ板……まぁ、偶に──」
「そうかそうか! 流石は俺の友! そんじゃさっそく本題なんだけど」
オーバーリアクション気味に肩を組んできた深崎は手に持っていたスマホの画面を俺に見せてきた、画面に映っていたのは先ほど話題に出たオカ板に立てられたスレッドの一つ、タイトルは──
「人喰いマンション?」
「あぁ、この街にあるマンションについてまとめられてる奴なんだよ」
「あんま言いたくないけど、胡散臭くないか?」
「そんなことないって、実際見に行って書かれてる場所にマンションあるのは確認済みだし」
「マンションがあっても実際に人を喰う訳じゃないんだろ? 実際に人が喰われる所を見たわけじゃあるまいし」
「それはそうだけどよぉ、こういう話聞くと確かめたくなんね?」
まぁ、確かにどっちかと言ったら気にはなる。というかこの話をしたという事は
「まさか、一緒に確かめに行こうぜとか言わないだろうな」
「察しが良くて助かるぜ、一人で行って検証とかすんのは大変だろ? だから一緒に行こうぜって誘いに来たわけよ」
「…………そう言う所って、大体立ち入り禁止になってるだろ」
「そこは問題ナッシング、見に行ったときその手の看板ないの確認済みだし」
「じゃあ人住んでんじゃん、普通に入っちゃ駄目でしょ」
「二時間くらい張り込んだけど、人の気配殆どなかったぜ」
呆れるくらいの行動力だ
「なぁ頼むよ! あとでなんか奢るから!」
「……仕方ないな、俺も少し気になってたし」
「よっしゃ!」
「それで、いつ行く?」
「土曜の夜でどうよ、次の日休みだし」
「オッケー、そんじゃ何を持っていくとか決めながら帰ろうぜ」
「そうだな」
学生カバンを手に持ち立ち上がり、深崎と一緒に教室を出て家路につく
「そうだ深崎」
「どした?」
「お前の財布が枯れるレベルで奢ってもらうから覚悟しとけよ」
「……お手柔らかに頼むわ」
俺の言葉を聞いて、顔に冷や汗を滴らせている深崎を少し見てからアイツを置き去りにして歩き始める。俺は、何でもない日常って感じがするけどこの時間が一番好きだ
20XX/07/16(土) 22:00
それから時間は進み土曜日の夜、カバンの中に一応の懐中電灯とモバイルバッテリー、それにお清め用の塩とペットボトルの水を放り込んでから家を出る。両親と双子の姉には友達の家に泊まりに行くと言っているため変に止められることはない
約束した時間は22:30でまだ時間はあるが早めに着くに越したことはないだろう。これから向かうことをメッセージアプリで深崎に伝えてから家を出る。アイツも同じ考えだったらしくすぐに返信が来た
『俺の方はもうそろそろ着くぞ、お前も早くなー』
「了解っと、少し急ごう」
先に着くならあんまり待たせるのも駄目だろうと考え、カバンを背負ってから家の端に置いてあった自転車を出して走らせる。俺の家から目的地のマンションまで徒歩だったら大体30分くらいかかるがこれを使うならその半分くらいで着くはず
いつもより力を込めてペダルを回していると少し離れた所にあったマンションが徐々にその姿を見せる、最初は何処にでもある普通のマンションと言った印象だったけど近づけば近づくほど、肌にピリピリとした感覚が走り始める
「その手の噂が流れるだけあって、流石の雰囲気だなぁ」
マンション近くにあった駐輪場に自転車を止めて待ち合わせ場所まで向かうと、そこにあったのは深崎が普段から使ってるスポーツバッグだけで肝心の本人の姿がない
「深崎の奴、いないじゃん……とりあえず着いたって事だけ伝えるか」
メッセージアプリを起動する為にスマホの電源を入れると件の深崎から何通かメッセージが送られてきていた
『先着いたから約束の場所にいんぞー』
『お前待ってたら人入ってくの見えた』
『入れんのかどうか確認行ってくるわ』
「深崎のやつ、先に入っちまったのか……荷物置きっぱなしは流石に不用心すぎるだろ」
あまりの不用心さに驚きつつ、深崎が先に入っているのならここで待つより中に入って合流した方がいいだろう
『俺も今着いたからそっち向かうわ』
それだけメッセージを入れてからスポーツバッグを担いてマンションの方まで向かう。自分の荷物も含めたらかなりの量になったが置きっぱなしにして盗まれたら別の問題が発生しそうだから仕方ない
「それにしても、デカいなぁ」
入り口前までやってきてマンションの大きさを改めて実感する。大体最上階までで8階くらいまではありそうなその物件を見上げてから、改めて中に入ろうとした瞬間感じたのは身体全部を舐められたような奇妙な感覚
「っ!? もしかしてホントにそう言う系の奴が出る?」
今まで感じた事のない未知の恐怖に怯えつつ、マンションの中へと足を踏み入れた