昼食を終えた後、オルガマリーさんは何やら図書室に行く用事があるらしく屋上で別れて一人教室まで戻る
「おー、藤丸。お前も飯の帰りか」
「あぁ、うん、友達と食べた帰り」
「そか」
途中で学食から帰ってきたらしい深崎と一緒に教室に戻っている最中で、教室に入っていく一人の少女が目に入る、風で揺れた深い紫のセミロングがやけに人目を引きつける少女は教室に入ると友人と談笑を始める
「どしたん?」
「いや、あんな子……いたっけ?」
「え? 何言ってんだお前? 委員長だろ」
「え?」
人の顔は結構覚えられる人間であることを自負している俺だが、委員長ってあんな感じじゃなかった気がする。あんな鮮やかな感じじゃなくてもう少し素朴だけど優しさを感じるような人だった気が……なんだろう、自信がなくなってきた
そんなことを考えていると友人と話していた委員長? が俺たちの方に近寄ってくる
「こちらをじっと見て、二人とも私に何か用ですか?」
「委員長、いやな、藤丸が変な事言っててさ」
「変なこと……ですか」
「あぁ、委員長の事を見てあんな子、いたっけってさ。いつも教室で会ってんのにおかしいだろ?」
「……そうですね。藤丸くん、どこか調子でも悪いんですか?」
そう言うと委員長? はずいっと俺の方に顔を近づけてくる、美人と言っても差し支えない彼女が至近距離まで来て少し照れくさい気持ちでまともに思考が出来なりそうだ……と言った所で制服の襟を掴まれて一歩後ろに引っ張られる
「へ?」
「……そろそろ授業よ、教室の前で話しをしてないでさっさと準備したら?」
「……そうですね、そうしましょう」
「お、おう、そうだな」
後ろから聞こえてきたオルガマリーさんの声を聞き、委員長と深崎の二人は教室の中に入っていく。一方でオルガマリーさんに襟を掴まれたままの俺が彼女に視線を向けると、軽いため息を吐いてから手を放してくれた
「私たちもさっさと戻るわよ」
「は、はい」
そう言って俺の横を通り抜けてすたすたと歩いていくオルガマリーさんの背中を少し見つめた後、俺も教室の中に入って授業の準備をして席に座ると程なくして担当の教師が入ってきた
その後、何事もなく午後の授業が終わり、帰りの支度をしているとポケットに入れていたスマホが振動する
ポケットから取り出して画面を見ると六華からのメッセージが来たと表示されていた、こんな時間に珍しいこともあると思いメッセージアプリを起動して詳しい内容を確認する
──お兄ちゃん、今日の放課後って何も用事ないよね?
──特に用事はないよ
──良かった、それなら学校帰りに駅前集合ね
六華からそうメッセージが送られてきた後、ピンが付けられた駅前の地図が送られてくる。どうやらここに来いとの事らしいが、急にどうしたのだろうか……などと考えているとカバンを持った深崎が近寄ってくる
「よう藤丸、今日暇か? 暇なら一緒にゲーセン行かね?」
「悪い深崎、ついさっき予定埋まった、ゲーセンはまた今度な」
「成る程、そんなら俺はさっさと帰ってゲームでもするかね」
誘ってもらって悪いが妹の方がお前よりも数十秒早く、予定を入れてきたんだ。それなら先約優先でゲーセンは後日にしてもらう。筆記用具やらの荷物をまとめ終わったカバンを持ってから教室を出ていこうと思ったのだが、その前に一つ聞いておくことがあった
「そう言えば深崎」
「どした?」
「いや、身体大丈夫かと思ってさ、少し前に入院したじゃん」
「あぁ、あれな。お前も知ってると思うけど身体に疲労が溜まってただけだし問題ねぇよ。栄養も取ってるし、しっかり問題なし」
「そっか、なら良かった」
どうして入院したのかは当事者として知ってはいるがやはり本人の口から大丈夫と言う言葉を聞くのが一番良い、それに本人はマンションで起こった出来事について特に覚えていないようだし二重の意味で安心だ
その後、少しの雑談を終えた俺は深崎と別れて靴箱まで向かって歩いていると小走りでオルガマリーさんが俺の横までやってくると並んで歩き始める
「ねぇ、藤丸。少し話せる?」
「このあと妹と待ち合わせてるんで、あんま長くならないなら大丈夫ですけど」
「待ち合わせ……っていうかあなた妹居たの?」
「えぇ、一つ下の妹が、今は隣町の高校に通ってます」
「隣町、兄妹で一緒の高校選ばなかったのね」
「最初はここにしようと思ってたらしいんですけど、なんかあっちの高校の方が制服が可愛いからってそっち行きました……って、なんか話逸れちゃいましてね」
なんて妹について話しているところで、話がどんどん逸れていっている事に気付いて軌道修正をはかるとオルガマリーさんもそうねと言う表情を浮かべた後、本題を話し始めた
「藤丸、昼休みにちょっかいかけてきた女、アイツには注意しなさい」
「ちょっかいって、もしかして委員長の事ですか? 確かに変な違和感は感じましたけど……もしかしてそれですか?」
「わかってるなら話は早いわ、何が目的でこの学校に潜り込んだのか知らないけど、こんなことするなら碌な奴じゃないだろうし、警戒しといて損はないわ」
「……そうですね、ただでさえ物騒なことが起こってますし」
警戒しておくのに損はないだろう、わざわざそれを忠告しに来てくれたらしいオルガマリーさんはそれだけ言い残すと、すたすたと歩いて行ってしまった。一人取り残された俺も妹との待ち合わせ場所まで向かった
「あっ、お兄ちゃん! こっちこっちー!」
駅に着くと広場のそこそこ目立つところで俺の事を待っていた六華がぶんぶんと手を振ってこっちにアピールしてきた
「六華、それに宇津見さん」
「……どうも」
こっちに頭を下げる宇津見さん、彼女が六華と一緒にいるのは正直意外だった。六華からの連絡だったからてっきり一人だと思ってたからまさか一緒だとは……まぁいいか
「それで、急にどうした? わざわざ駅前でなんて」
「実は、少しだけお兄ちゃんにお願いしたいことがあって」
「相談したいこと?」
「……ねぇ、とりあえずどっか入らない? 流石に外は暑い」
宇津見さんの言葉を聞くと、俺と六華の二人は顔を見合わせてから頷き、近くのファミレスに入り、注文を終えてから改めて話を始める
「それで、お願いって?」
「実は、クラスメイトの子がさ、何日か前から学校に来てなくて」
「クラスメイト?」
「うん、宮塚さんって子」
なるほど、お願いと言うのはその宮塚さん関連の事らしい、何日か学校に来ていないという情報が出たが故に恋愛関係の相談であるという線は消えた……となると、可能性があるのは家族関係のお願いか
「それで、宮塚さんのお姉さんがお兄ちゃんと同じ学校に通ってるんだって」
「……なるほど、俺に宮塚さんって人のお姉ちゃんが来てたら何かあったのか聞いて欲しいって事だよね?」
「そう言うこと! 頼める?」
「それくらいなら全然いいよ」
「よっし! さすがお兄ちゃん!」
笑みを浮かべる六華の事を見ながら、ドリンクバーで持ってきた飲み物を一口飲んだ後、先ほどから会話に入ってくることなく黙っていた宇津見さんの方を見る。彼女も丁度俺の方に視線を向けてきたようで、少し目があうとふいっとそっぽ向かれてしまった
「……あの、宇津美さん?」
「なんですか」
「俺、宇津見さんに何かしちゃった?」
「特に何も」
「あぁ……そう」
困った、全く話が続かない。六華の方を見るとこっちを気にする様子はなく注文したであろうスイーツに舌鼓をうってる。どうしたものかと考えていると、ファミレスの外から何やらぞわっとするような感覚が俺を襲ってきた
「! 今の……」
「宇津見さん?」
「恵理ちゃん、どうかした?」
「あぁ、いや……何でもない、そうだ、私用事あったの思い出したから先に帰るね」
そう言うと宇津見さんはカバンを持って席を立って出ていこうとしたところで、俺の横を通り過ぎる直前で何かをポケットの中に入れてきた
「……夜、電話ください。聞きたいことがあるんで」
「えっ?」
それだけ言い残して、宇津見さんはファミレスから出て行ってしまった。残されたのは俺と六華の二人だけだったけれど六華の方はまだスイーツを食べきっていないからすぐに出るという訳にもいかない……この際だから、時間を潰すがてらに宮塚さんと言う女生徒に付いて聞いておくか
「なぁ、六華。よかったらその宮塚さんって人について教えてくれないか」
「いいけど、急にどうしての? もしかしてナンパでもしようとしてる?」
「いやそう言うんじゃなくて、姉妹なら容姿とか似てるだろうし、探すにも苗字以外情報がないってのは少しな」
「あぁ、そう言うこと。ちょっとまってね……あった、はいこれ」
六華が見せてきたのはスマートフォンの画面、そこには六華と宇津見さん、それと茶色い髪をサイドテールにした生徒が写っていた
「これが、宮塚さん」
「この茶髪の子か?」
「うん」
六華からスマホを受け取り改めて宮塚さんの姿を確認する……なんだろう、直接会ったことはない筈だが記憶のどこかに引っかかりを覚える
「どしたの?」
「いや、なんというか……見た事があるような気がして」
「ホント? 街のどっかですれ違ったとか?」
「いや、そう言うんじゃなくてもっとこう、日常的に」
頭の片隅に残っている違和感がぬぐえないまま、うんうんと唸っていると六華はスイーツを食べ終えたらしくレシートを持って席を立つ
「ごちそうさまでした、それじゃお兄ちゃん。私たちも帰ろ」
「……そうだな」
あまり考えこんでも仕方がない、自分の中に変な違和感は残ったままだが一旦考えるのはやめて家に帰ろう
「そうだ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「奢って?」
「駄目、割り勘な」
「えー、お兄ちゃんのケチ!」
「なんとでも言うがいいさ」
お会計はしっかりと兄妹で割り勘しました、宇津見さんは律儀に自分の分のお会計を置いてったんだ、妹だけ奢られる等許してたまるか
その日の夜、夕食やらお風呂やらを終えて自室に戻ってきた俺はいつも通り魔術の鍛錬を終えると、ファミレスで宇津見さんに言われたことを思い出し制服のポケットを探ると、出てきたのは綺麗に四つ折りされた紙。それを開くと中には綺麗な字で携帯番号が書かれていた
「なんとも倒錯的な渡し方を……」
正直、あの子の事が本当によくわからん
けど、電話をしないで変な感じになるのも嫌だったからスマホに番号を入力してから通話ボタンを押すと、数コールの後、電話の向こう側から宇津見さんの声が聞こえてきた
『……もしもし』
「もしもし、宇津見さん?」
『あぁ、藤丸先輩。先程はどうも』
あの時の少し突き放した感じではなく多少ぶっきらぼうだが普通の感じで話してくれる宇津見さんに安堵感を覚えつつ、彼女に対して言葉を返す
「気にしなくていいよ、それよりどうしたの? あんな感じで番号渡して聞きたいことがあるって……もしかして六華に内緒なこと?」
『まぁ、そうですね。六華には聞かれちゃ駄目な話です』
通話の向こうから聞こえてきたのは肯定
「……そっか」
『戸惑ったりしないんですね』
「まぁ、うん、ここ最近色んなことに巻き込まれ過ぎて……変に慣れちゃって」
魔術やら霊脈やら、魔眼やら、わけのわからないことがばっかりで今日だけでも吸血鬼とか更にわからないことが増えた結果、なんか非日常に対する慣れみたいなのが俺の中で生まれ始めた
「だから、何て言うかな……変な勘みたいな感じで、あんな渡し方された時点でなんか察した」
俺がそう言うと電話越しでも宇津見さんの雰囲気が変わったのがわかる
『そうですか、それなら話が早いです』
一拍置いた後、宇津見さんは俺に問いかける
『貴方は、何者ですか?』
「何者……か、そうだね、俺は六華の兄さんだよ」
『そんなことわかってます』
わかってはいたけど、俺の答えは外れだったらしい。そうなるともう一つの方が宇津見さんの本当に聞きたいことかと考えていると、電話越しの彼女は言葉を続ける
『私が聞きたいのは、そう言う事じゃない……先輩、貴方は一体、何と関わってるんですか?』
「……少し、長い話になるけど大丈夫?」
『はい、問題ないです』
宇津見さんの言葉を聞いてから、俺は俺自身に何があったのかを話した。人喰いマンションと噂になっていた場所に友人と肝試しに行ったこと、そこで今まで知らなかった非日常と遭遇し、オルガマリーさんと出会った事、そして彼女と行動を共にしているうちに俺も魔術を使えるようになったこと、そしてこの土地の管理者から事情を聞き、今日の昼休みにこの街で何が起こっているのかを聞いた事
『……なるほど、そう言うことですか』
「うん、成り行きで巻き込まれて……今は自衛程度なら出来るようになった」
『成る程、だから少し前に会った時と感じが違ったんだ、納得した』
とりあえず納得してくれたなら良かった
「宇津見さんが聞きたいのってこれの事?」
『うん、けど良かった。先輩の身体が乗っ取られてるとかじゃなくて』
「……そんな事、あるの?」
『あるらしいよ、起きるのは本当に稀だけどね』
安心した様子でそう言っている宇津見さんだが、彼女の聞きたいことが終わったのなら今度はこっちが訊く番だ
「その様子だと、宇津見さんもそっち側だった?」
『……うん』
返ってきた言葉は、肯定。そしてこちらが何かを言うよりも早く、彼女は自身の話を続けた
『私の家……と言うかお母さんの実家がね、元を辿れば高名な陰陽師だったんだって。それで私はそれの跡継ぎ……って言っても今は普通の家だし私は普通の高校生だけど』
「そうなんだ」
『うん、だから跡を継げとか言われてる訳じゃないんだけど、個人的には継ぐのもアリかなって思ってる』
その後、宇津見さんから少しだけ詳しく話を聞いたが、彼女の家自体はどこかの組織に属しているというわけではないらしい。彼女のお母さんの実家も既に没落しているし、魔術とかそう言う方面に関係することも今の今までなかった
けれど宇津見さんは才能の塊だったらしく、幼い頃から良くないモノとか、そう言うのが見える体質だったらしい。見えるだけなら見えない振りをしたりすればいいが、彼女の場合はそう言ったものが見えるだけでなく引き寄せる体質だった……ファミレスから急に帰ったのもそう言ったものを引き寄せてしまったかららしい
『それで、おばあちゃんが身を守る術みたいなのを小さい頃から教えてくれてるんだ』
「そっか、なんか少しだけ似てる気がする」
『……そうだね』
俺の場合は偶然からそう言ったモノに関わって、彼女の場合はそう言ったモノが近くに遭って。俺にとってのオルガマリーさんは彼女にとってのおばあさんで、境遇は違っても俺と宇津見さんが置かれている状況は少しだけ、似ている気がした
『まぁ、こっちの世界では私の方が少しだけ先輩だから……何かあったら遠慮なく頼ってよ』
「……そうだね、そうなったら遠慮なく頼らせてもらおうかな」
その言葉を最後に、俺は宇津見さんとの通話を終え、溶けるようにベッドへと倒れこんだ
「……なんか、世間は広いんだか狭いんだかわかんねぇ」
身近には存在しないと思っていた非日常が、自分の思っているよりも近くに存在している事に驚くと同時に、自分と似た境遇でも、自分よりも遥かに長い年月をこの、表と裏の狭間で過ごした少女が居るという事実に────
「……安心、しちまったんだよな」
それが、どうしようもなく情けなかった。そんな感情を抱えたままの俺がまともな思考などできる筈もなく、考えれば考えるほどバラバラになっていく思考を纏めること諦め、俺は布団に潜り込む形で眠りについた
=簡易キャラ紹介=
・宇津見 恵理
藤丸六華の同級生で、組織に属していない野良の陰陽師。幼い頃から様々なモノを見ることの出来る眼を持っており、それを引き寄せる体質であった。
それを危ぶんだ祖母は自分の身を守れるようにと様々な術を彼女に教え、幼い頃から現在の立香に近い境遇に身を置いてる。魔術が使えるように纏う雰囲気の変わった立香を最初は警戒していたが、真相がわかってからは僅かながら彼に親近感を覚えている
【作者より】
評価バーに色が付いたこと、そしてランキングに掲載され様々な人の目に留まったこと
この二つに対して読者の皆様に対する感謝を、この場でさせて頂きます
本当に嬉しいです、ありがとうございます
拙い文で申し訳ありませんが、これからものんびりと投稿を続けていきますので見守っていただけると幸いです
そだて