藤丸立香のオカルト的事件簿   作:SoDate

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街に潜む鬼 其之陸

 セシルさんと話をした後、教会で撮った地図の写真を頼りに委員長──坂出さんを探し続けているが目立った情報を得ることも出来なければ、この前のように小鬼と遭遇することもなく、手ごたえを掴むことの出来ないまま気が付けば1週間の時が流れていた

 

「……どうしたもんかな」

 

 そろそろ印のついた場所の残りも少なくなってきた。このまま全てが空振りだった場合、また振り出しに逆戻りだ……何か、新しい情報を手に入れることが出来ないかとベンチにもたれかかりながら考えていると目の前に誰かの気配を感じ顔を動かすと、視界に入ったのは妹の通っている中学の制服を身に纏った知り合いの姿だった

 

「宇津見さん?」

「……どうも」

 

 正直こんな所で会うと思ってなかったのと、完全に嫌われていると思ったからまさか彼女の方からこちらに近づいてくるとは思わなかった。そんなことを考えていると彼女は手に持っていたペットボトルを一本こちらに差し出してくる

 

「……くれるの?」

「わざわざ差し出してるんですから、それ以外の意図はないと思いますけど」

「そ、そうだよね……ありがと」

 

 そう言って彼女からペットボトルを受け取り一口だけ口をつける。ヒヤッとした感覚が喉を通り、頭まで伝わってくると若干ぼうっとしていた意識がハッキリする。そんな俺の様子を見ていたらしい宇津見さんはスタスタとこちらに近づき、隣に腰をかけた

 

「それで、何があったんですか?」

「えっ?」

「なんか悩んでいるみたいだったので……何かあったのかなと」

「あー、いや。実はちょっと探し物……と言うか、探し人をしてるんだけど全然見つからなくてさ」

「探し人……」

 

 俺の言葉を聞き、少しだけ考えこむような表情になった宇津見さんだったが程なくしてこちらへと視線を向け直す

 

「貴方の探してる人って、もしかして同級生か何かですか?」

「……どうしてそう思ったの」

「確証はないです……ただ、学校で近くの高校の生徒が事件に巻き込まれたって噂が流れてきたので」

 

 そっけない態度でそう言った宇津見さんだが、俺には彼女が何かしらの確信をもってこの事を聞いているのだろうと言う事がわかった……だが、ここでそれを聞くよりも話の流れに乗った方がいい気がする

 

「そっか……うん、そうだよ。俺が探してるのはその事件に巻き込まれたって人」

「その人って、亡くなったんじゃないんですか?」

「ご両親は亡くなったみたいなんだけど、一人だけ行方不明なんだって」

「……やけに詳しいですね」

「まぁ……そっち方面に興味ある知り合いが、最近出来たから」

 

 互いに腹の探り合いをしているんだろう感が出てしまっているが、それに関しては宇津見さんも同じだろう。彼女が何処まで知っていて、具体的に何に関わっているのかはわからないが今回ばかりはこのあからさまな探り合いに付き合ってもらう

 

「それで、その探している人は見つかりそうなんですか?」

「いや、それが全然……寧ろ手がかりが無さ過ぎてどうすればいいんだろうって考えてた所」

「……そうですか」

 

 そこからしばらくの間沈黙が続き、これからどうするべきかと考え始めたあたりで宇津見さんが先に言葉を紡いだ

 

「そう言えば私、少し前からバイトを始めたんです」

「急に何の話……って言うか宇津見さんってまだ中学生だよね? アルバイトは駄目じゃない?」

「お給料は貰ってない殆どボランティアみたいなものなので、あくまでもわかりやすいようにバイトって言っただけで」

「成る程……それで、急にバイトを始めた何て話をしてどうかしたの?」

「いえ、そのバイト先が探偵事務所? なのでそこまで案内して差し上げようかと」

「へぇ、探偵事務所……探偵事務所!?」

「うるっさ……えぇ、まぁ本人は探偵やってる自覚が殆どないようですが」

 

 それは果たして探偵事務所と言ってもいいのだろうか……と、それは置いておいて探偵を頼れるのは有り難い

 

「それじゃあ、お願いしてもいい?」

「えぇ、ウチも最近は閑古鳥が鳴いていたので……行きましょう」

 

 そう言うと一足先にベンチを立ち上がった宇津見さんの後を追う形で、俺もベンチから立ち上がって移動を始めた

 

 

 

 閑散としていた住宅街から移動をして、宇津見さんと一緒に歩いていると繁華街を抜けてやってきたのは人通りの少ない……と言うよりも寂れていると言った表現の方が似合うビル群、周囲にテナント募集の張り紙が貼ってある通りを進んでいると小規模ビルの前で宇津見さんは足を止めた

 

「ここの2階です、ついてきてください」

 

 彼女の言葉に頷き階段を上がっていくと角に扉が見える

 

「着きましたよ」

「ここが、宇津見さんのバイト先?」

「はい、そこまで緊張するような場所でもないので、どうぞ」

 

 その発言をバイト先にするのは些かどうなんだろうかと思ったが、とりあえずドアノブを回して目の前にある扉を開いた

 

「いらっしゃい恵理ちゃん、今日は少し遅かったね……ってアレ?」

 

 恵理ちゃんに向けた言葉を発しながら現れたのは少し気崩したスーツを着た、大学生くらいの女性だった。後ろ一本で纏められた髪が風に揺られてから少しの間、俺と彼女の間に何とも言えない時間が流れる

 

「あの、先輩。いい加減入ってもらっていいですか? それと所長もそこでボーっとしてないでお客さんの対応お願いします」

「「あ、うん。ごめん」」

 

 この事務所の所長らしい人物と声が被って後、俺が事務所の中に入ると宇津見さんは慣れた様子で奥の方へ引っ込んでしまった

 

「あー、えっと。それじゃあ……とりあえずソファーにどうぞ」

「は、はい」

 

 所長さんに促されてソファーに座ると彼女も対面に腰を掛け、コホンとわざとらしく息を吐いた後改めて言葉を紡ぐ

 

「えっと、キミは恵理ちゃんの知り合いって事で、この事務所には依頼で来たって事でいいんだよね?」

「はい、大体は」

「ふむ、大体……まぁ具体的な事は後で聞くとして、とりあえず自己紹介からさせて貰うね。私はこの事務所──岸波探偵事務所の所長をしている、岸波白野(きしなみ はくの)って言います。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。岸波さん」

「あはは、私が言えた義理じゃないけどあんまり硬くならなくても大丈夫だよ。それで、君の名前は?」

「藤丸です、藤丸立香」

「立香くんか、よし、覚えた。それで立香くんはどうしてウチまで?」

 

 岸波さんからそう問われた俺は、ここに来るまでの経緯を彼女に話す。もちろん魔術やらの事は伏せて、あくまでも事件に巻き込まれて行方不明だったクラスメイトを偶然見かけてと言った感じにだ

 一通りの話を聞き終えた岸波さんは、目を閉じて少し考える様子を見せた後、ゆっくりと目を開いて俺の方へ真っ直ぐ視線を向ける

 

「立香くん、最初に言っておくと私は君に何かしら喋れない事情あるんだろうなって事は何となくわかる。まぁそこに関してはウチみたいな事務所に来る人の半分くらいはそうだし深く聞きはしない……その上で一つ聞かせて、キミは、そのクラスメイトを見つけて何がしたいの?」

「……俺は、俺は彼女に一言お礼が言いたいんです。危ない所を助けてもらったから……一言、彼女にありがとうって、伝えたいんです」

「……そっか」

 

 俺の言葉を、俺の目を真っすぐ見た岸波さんはこくりと頷くと立ち上がり、彼女用のデスクに置かれていたであろう資料を手に取る

 

「実はね、キミが恵理ちゃんと一緒にここに来る前にね。あの子から連絡を貰ってたんだ。ちょっと前に起きた連続惨殺事件の資料を出して置いて欲しいってさ」

 

 その言葉を聞いて驚きの表情を浮かべていたであろう俺の方を見た岸波さんは少し苦笑いの混じった笑みを浮かべて持ってきた資料を俺に差し出す

 

「どうぞ」

「……ありがとうございます」

 

 彼女に感謝の言葉を伝え、差し出された資料に目を通していく。丁寧に一番最初の事件から纏められている情報に目を通していると……この資料があの時、教会でセシルさんに見せて貰ったものよりも詳細に書かれている

 

「あの、岸波さん」

「何かな? どこか読みづらい箇所でもあった?」

「いえ、読みづらいとかは特にないんですけど、事件について随分と詳しい情報が書いてあったので……」

「あぁ、それね。実は警察関係者にウチを贔屓してくれてる人がいてね。今回の一件もその人から調査を頼まれてたんだ。その情報も、半分は独力だけどもう半分は公的権力からの提供情報だね」

 

 なるほど、確かに警察関係者が関わっているのならここまで詳細な情報を集められるのにも納得がいく……と言うか、セシルさん然り、岸波さん然り、警察関係者こういう世界に関与しすぎなんじゃないか? 

 まぁそれに関しては一旦頭の片隅に置いておいて、改めて資料をに目を通しながら事件の発生した場所が何処なのかを確認していく。そうやって改めて目を通したから坂出さん達の家族が犠牲になった事件より前と坂出さんが犠牲になった後で事件の発生する場所が異なっている。彼女たち家族が犠牲者になる前はある種の規則性ががあったし、事件が起こったのだって基本は夜……けれど、坂出さん達一家が犠牲になり、彼女が人ならざるモノへと変貌してから規則性はなくなり、代わりに通り魔的に襲われる人が増えた

 

「……!」

 

 こうして資料に目を通していると、犯人が死徒ではなく俺を襲ったあのバケモノたち────小鬼になって以降、事件の発生した場所を示している赤い点が一定区間内でしか起こっていない事に気付く

 

「何かわかった?」

「えっと、確実にそうって訳じゃないですけど……」

「そっか、それで、これからどうするの?」

「とりあえず、手を貸してくれそうな知り合いに声をかけてみます……それでも断られたら……まぁ、何とかします」

「随分とアバウトそうだけど、ホントに大丈夫?」

「……多分」

 

 自信なさげにそう言うと、岸波さんは噴き出したように笑う

 

「あっははははは、そこは大丈夫って断言してこそカッコいい男だぜ。立香くん」

 

 そうは言われたものの、実際に手を貸してくれるかわからない以上どうしようもない。とりあえず覚えられるだけの情報を頭の中に叩き込んでから探偵事務所を後にする

 

「さてと、とりあえず宮本さんに連絡してみるか」

 

 どちらかと言えばオルガマリーさん側に近いがどちらにも属していないであろう宮本さんを頼るのが良い気がする……それに、あの人なら何だかんだ言いつつ手を貸してくれる……筈だ。

 手を貸してくれなかったら、まぁ一人で頑張ろう。スマホを取り出して宮本さんの番号を呼び出しながら岸波さんの事務所を後にした

 

 

↗↙

 

 

 藤丸くんが事務所を出て行ったのを見送ってから程なくして、奥に引っ込んでいた恵理ちゃんが姿を見せた

 

「あれ、先輩はもう帰ったんですか?」

「うん。確証はないけど何か察したみたい。案外察しが良いみたいだね、彼」

「そうですかね……」

「うん、察しがいいよ。だってあの資料をざっと見ただけで何処に鬼が潜んでるかおおよその当たりをつけたんだから……それか、何処か別の場所で他にも事件の資料を見ていたか。まぁなんにせよ私たちに出来るのはここまでかな」

「えっ、先輩に協力しないんですか?」

 

 恵理ちゃんは驚いたように私の方を見てくる。なんだ、てっきり知り合いがこちら側に関わったからそれを見かねてって思ってたんだけど、単純にこの子が立香くんの事をそこまで悪く思ってないだけか

 

「流石にこれ以上は協力しないし出来ないよ。流石の私も自分の命が惜しいしね」

「少し以外です、所長って案外お人好しのイメージがあったので」

「お人好しでも、ある程度の線引きをしないと魔術使いはやってられないよ……仮に何でもかんでも手を伸ばして助けようとするのはお人好しが居たとしても、それはお人好しなんじゃなくて人として決定的な何かがぶっ壊れちゃってる異常者だね」

 

 もしかしたら、世の中には一人くらいそんな異常者が居るのかも知れないけど、私には関係のない話だ……けど

 

「もし彼の事が気になるなら、恵理ちゃんが見ててあげれば?」

「私が……ですか」

「うん、恵理ちゃんだって多少なれど荒事が出来るし、事務所の仕事だって基本的にはないからね」

「すみません、少し用事が出来たので……失礼します」

 

 私の言葉を聞いた恵理ちゃんは、出入り口の方まで向かうとそのままこちらに頭を下げて出て行った

 

「やれやれ、アレもまた青春かなぁ……ホント、お姉さん羨ましいよ」

 

 なんて考えた所で、誰に聞かせてるって訳でもないけどね

 

「さてと、それじゃあ私も少し出てこようかな」

 

 直接的な助力はしないし、明確な協力はしないけど……せっかくウチを訪ねてきてくれたお客さんだ。多少のサービスをするくらいなら罰も当たらないでしょ

 ソファから立ち上がった私もまた、二人の後を追うように事務所を出た

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