俺が入ったマンションの中は、思った以上に綺麗な印象を受けた。掃除はしっかりと行き届いているしゴミがマンションの隅に溜まっているという訳でもない……けど
「ビックリするくらい人の気配がないなぁ」
人の気配というか、人が生活しているって感じがない
「……とりあえず、深崎の事探さないと」
マンションのどこに居るのかわからないけど……深崎のやつ、どこに行ったとか手がかりの一つでも残してくれてればよかったけどそんな事をしてくれてるとも思えないし
「とりあえず2階から順番に回っていくしかないか」
エレベーターを使って2階まで上がる、ざっと見た作りは色々あるマンションとそんなに変わんないように見える。エレベーターを出て廊下に足を踏み出すとマンションに入る時に感じた奇妙な感覚が一層強くなる
「ざっと見た感じ、ここにもいないのか。もしかして部屋の中に入ったりしてないだろうな」
今も身体中を走ってる気持ちの悪い感覚で思考が上手く纏まらないし少しずつ身体が重くなっていっている気がする……それに、いつまでたっても廊下の端につかない
「201、202、203、301……確かに進んでる、進んでる筈なのに進んでない、なんなんだ一体」
同じ数字が延々と続く廊下を見ながら歩き続けていると締まりきっていたはずの扉に少しだけ隙間が開いてる
「あれ?」
代わり映えのしなかった風景の中で唐突に現れた違和感、普通なら気に留めないレベルの変化だったけどそれでも今の俺には不思議と引っかかって見えた
「もしかして、ここに入ったりしてないだろうな」
正直入るのは怖いけど一応確認しないと駄目だよな
「よし……入るぞ俺、勇気を出せ」
僅かに開いた扉に手をかけた瞬間、バチリと強めの静電気を受けたような痛みを感じ一歩後ろに下がる。その痛みを感じた少し後、部屋の向こうから足音が聞こえ僅かに開かれていた扉は完全に開かれる
よかった、人が住んでたと安堵できれば良かったが中から出てきたのはおおよそ人とは言えない人型のナニカ。出てきたナニカははっきりと見えた腕の関節は西洋人形みたいになってて、それを見てるだけで心の底から恐怖が沸き上がってくる。けど、怖くても深崎の事を聞かないと
「あ……あの……俺、友達を探してて──」
俺が話を聞こうと声をかけた直後、目の前のナニカはこっちにゆっくりと手を伸ばしてきた。身体を少し動かすたびに身体の節々からドロドロに溶けた肉がべチャリと落ちる
言葉を発することが出来ないのかどうかはわからないがゆっくりと手を伸ばしこっちに近づいてきた、相手が一歩足をこちらに向かってくるたび俺の足は恐怖で一歩ずつ後ろに下がる。そのままじりじりと後ろに追いやられ廊下に設置されてる手すりに背中が当たり、悲鳴を上げるにも恐怖で言葉が出ない、次に何をされるのか、得体の知れない恐怖で心が満たされた瞬間、目の前のナニカの頭が吹き飛ぶ
「え──」
何が起こったのか理解できないでいる俺の耳に聞こえてきたのはカツカツという靴音、頭の中が真っ白なままだったが音のなっている方に視線を向けるとそこに立っていたのは白髪の女性、顔立ち的に日本人じゃないみたいだけど
「あなた、大丈夫?」
「あ──は、はい。大丈夫です」
「そ、それならさっさとここから立ち去る事ね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……何かしら」
それだけ言うと目の前の女性が立ち去ろうとするのを止める。こちらに向けて少し不機嫌そうに目を向けてくる。少し気圧されそうになるけどこっちにはこっちの事情があるから引くわけにはいかない
「ここで何が起こってるのか、知ってるんですよね。だから……教えてください!」
「貴方には関係のないことよ」
「関係あります! 俺より先に友達がこのマンションに入って……どこに居るのかわからないんです。だから俺が探さないと」
「それ、本当に貴方がやらないといけないことなの?」
「俺がって……当たり前じゃないですか! アイツは俺の友達で──」
「だから、それは貴方のやらなければいけないことなのかと聞いてるの。さっきの貴方が襲われたみたいにその友達も襲われて死んでるかも知れない……それなのに、探す必要ある」
確かに、もしさっきのアレが深崎の事を襲ってたら、もう殺されてるかも知れない。もしそうだったら……俺はアイツの死体を見ることになるかも知れないし、下手したら殺人容疑で疑われるかもしれない。けど──
「──探す必要は、あります。俺の自己満足でも……俺は友達を見捨てたくないんです」
「……呆れた」
こちらの返答を聞いた彼女は、こちらに向けてバカを見るような視線を向けた後。息を吐いてからこっちに戻ってきた
「まぁいいわ。友達を探すんなら私に力を貸しなさい」
「力を……貸す?」
「えぇ、私がこのマンションに来たのはとある物を回収するため。貴方、それに付き合いなさい。その代わり私に協力する、悪い条件じゃないでしょ」
確かに、悪い条件じゃない。目の前にいる女性の目的が何なのかはまだわからないけれど、それでも深崎を探すのに協力してくれるんなら助かる
「分かりました……協力します」
「そ、それなら精々足を引っ張らないよう心掛けなさい」
「わ、わかりました。えっと──」
「……オルガマリーよ、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア」
「──よろしくお願いします、オルガマリーさん」
「それで、貴方の名前は?」
「えっと、藤丸です。藤丸立香」
俺が自分の名前を伝えた後、オルガマリーさんは踵を返して階段の方まで向かっていった
「早く行くわよ、藤丸」
「は、はい」
オルガマリーさんが何を取りに来たのかわからないが、少なくとも今は信じていいんだと思う。そう言い聞かせながら、俺も彼女の後を追いかけた