俺はオルガマリーさんと二人でエレベーターではなく階段で3階へと上がっていく
「あの、オルガマリーさん。どうして階段なんですか?」
「なんでって、エレベーター使うより階段の方が早いでしょ。それよりさっさと行くわよ」
「は、はい」
階段を上がって3階に到着するがマンションから見える風景には変わりない。代わり映えのしない景色を見て俺が息を吐いている場所から少し離れた場所、そこの壁に手を当てていたオルガマリーさんは閉じていた目を開いて息を吐く
「ここでもないか」
「ここでもないって、一体何を探してるんですか?」
「工房よ、貴方には関係ない……と言っても納得はしないでしょうね」
「いや、別にそう言う訳じゃ──」
オルガマリーさんの言ったことに対して否定の言葉を口にしようと思ったが、彼女から話を聞くことが出来るのならこのマンションが何なのか、何が起こっているのかを知る事が出来るかも知れない
「──そうですね、説明してもらえるんなら有難いです」
「それじゃあ、あまり時間をかけられないし手短に済ませるわ」
3階から4階に上がる階段を上りながら、オルガマリーさんは話を始める
「藤丸、貴方は魔術師の存在を信じる?」
「魔術師? 魔法使いの事ですか」
「魔法使いじゃなくて魔術師、貴方みたいな普通の人間にはよくわからないでしょうけど……それで、信じるの? 信じないの?」
「そもそも魔術? と魔法の違いがわかんないんですけど、今の状況的に信じざる得ない感じです」
「……まぁ、今はそれで十分か」
階段を上がっていたオルガマリーさんは一度足を止めた後、マンションの壁をなぞる。彼女がなぞった場所は刃物も使っていないのに削れていく
「それが、魔術ですか?」
「こんなもの魔術って呼べるほどのものでもないわ。ただ魔術回路に魔力を流しただけ」
「魔術回路って、何ですか?」
「色々説明すれば楽なんでしょうけど、今は気にしなくていい。重要なのはこのマンションが一人の魔術師によって作られた巨大な結界だってこと」
「巨大な……結界」
「えぇ、それで私が探しているのはその結界を作った魔術師の工房よ」
「工房?」
「魔術師が魔術の研究をするための場所……貴方のわかりやすいように言うと研究所って所かしら」
成る程、さっきから色々と専門用語が飛び出しまくっててよくわかってない所も多いけどとりあえずオルガマリーさんの探しているものが何なのかはわかった
「じゃあ、さっきのここでもないってのは工房の事を言ってたんですね」
あれ? けど魔術師の研究所って言うなら俺の事を襲ってきたあの人形擬きも魔術師の研究成果って事になるんじゃないか?
「あの、さっき俺を襲った人形擬きもこのマンションを結界にしたのと同じ魔術師が作った奴なんですよね?」
「えぇ」
「じゃあ、このマンションそのものが魔術師の工房って事になるんじゃないんですか?」
「一般人にしては中々の着眼点だけど答えは否よ、魔術師の工房になってるのはあくまでもこのマンションの一室であってこのマンションそのものが工房って訳じゃない」
「なら、あの人形擬きは一体……」
「この結界を張った魔術師が作った護衛用の人形……警備員みたいなものかしら」
成る程、それじゃああの人形自体はそこまで重要なモノじゃないって事なのだろう。そんなことを話していうちに気が付けば4階までやって来ていた
「4階、着きましたね」
「軽く探るから藤丸は周りを見ておいて。万が一の事もあるだろうし」
「わかりました」
オルガマリーさんは3階と同じように壁に手を当てて目を閉じる。彼女が工房を探している間、俺は先ほど見たいな人形擬きがこちらに向かっていないか確認するために廊下の左右に目を向ける
廊下を見始めてから異変が無かったのは最初だけ、少し時間が経つと左右の部屋の扉が開き中からあの人形擬きが現れる
「! 来ました、左右の部屋から1体ずつの全部で6体」
「了解。こっちも工房を見つけたわ、右側一番奥の部屋」
「右側の一番奥って、目の前に思いっきりアレがいるんですけど、どうするんですか?」
「そんなの決まってるでしょ──」
何変なことを聞いてるんだとでも言わんばかりの視線をこちらに向けてきたオルガマリーさんは手で自分の足を触る。すると彼女の足には緑色の光と共に電子回路のような模様が浮かび上がる
「──正面突破よ」
その言葉を言った直後、オルガマリーさんは俺の首元を掴んでその場から駆け出した。俺の事を襲ってきた人形擬きは殺気とは違う走るゾンビのような動きでこちらに襲い掛かってきた
「うわぁっ!?」
「この程度で狼狽えない!」
「いやそうは言っても──オルガマリーさん前!」
「!」
目の前から襲い掛かろうと下人形に対して、彼女は指を向けると。そこから放たれた黒色の弾丸が人形に直撃し動かなくなる
「速度上げるから、舌噛まないようにね」
背後から掴みかかろうとした人形を踏み台にして彼女はマンションの一番奥へ向けて駆ける。人形を振り切り、一番奥の壁に振れた瞬間。目の前の景色が歪む
「「えっ?」」
まるでRPGのワープマスを触ったように目の前の景色は歪んでいき、気が付けば俺達は4階の入り口まで戻されていた
「これって、空間置換? でもあの感覚、置き換えられたって言うよりも歪められた?」
「今、何が起こったんですか……さっきのは一体」
「何をされたのかは私にもわからない。けど今は一度退くわよ」
「は、はい、わかりました。そう言えば深崎は──!!」
4階から離れて別の階に移動しようとした瞬間。上の階から男の悲鳴が聞こえてくる。その声は間違いなく深崎の声、それが聞こえてきた瞬間。俺は反射的にその場から駆け出していた
「ちょっと、藤丸──あぁ、もう!」
背後からオルガマリーさんがこちらを呼び掛けてきたが、今はその声で止まることはできない。その後すぐに怒りと呆れが混ざったような彼女の声が聞こえた後、階段を上がる音が一つから二つになった