20XX/07/17(日) 0:00
階段を上がり、声の聞こえた場所が何処なのかを見回すと右からカタカタと音が聞こえてくる。そちらに向かって駆け出そうとしたところで腕を掴まれる
「落ち着きなさい、藤丸」
「……落ち着けません、急がないとアイツが──」
「もし、それが罠だったらどうするの?」
「罠?」
「えぇ、もしあの人形擬きが殺した相手の声帯を模倣できるとしたら?」
「それは……」
「こういう場所では常に最悪の状況を考えて行動しなさい」
確かに、オルガマリーさんが言ったことも正しいと思う、ホラー映画とかゲームでも迂闊な行動をすると死ぬって事が結構多いし、人の声を真似する化け物が出てくることだってある
けど、それでもこの状況で深崎の事を見捨てるなんてこと俺には出来ない。手遅れだって確率の方が高いとしても、少しでも生きてる確率があるなら俺はその確率を信じたい
「すみません、オルガマリーさん。死んでるかも知れないのはわかってるけど、それでも俺は助けに行こうと思います」
「……そう、それなら精々死なないようにすることね」
それだけ言うとオルガマリーさんは掴んでいた俺の腕を離す、彼女が何を考えているかはわからないけどここでお別れって事なんだろう
「オルガマリーさん、ありがとうございました」
彼女に対して頭を下げた後、近くに設置されていた消火器を手に取ってから再び歩き出す。今までの階で感じていた繰り返すような感覚を感じることのないまま真っ直ぐ進んでいると、奥の壁にもたれかかっている深崎の姿が目に入る。少し遠目に見てもかなり血を流してるのがわかった
「深崎、大丈夫か!?」
近づいて声をかけるけど反応は薄い、この出血じゃいつまで持つかわからないから早く病院まで連れて行かないといけない。深崎の事を抱えようとした瞬間、僅かに目を開いた
「っ、大丈夫か? 俺がわかるか?」
「──後、ろ──」
深崎からその言葉を聞いた直後、背中に今まで感じた事のない激痛が走る。あまりの痛みに顔を歪ませながら後ろに視線を向けると人形擬きが一体、そして人形擬きの指先には血がべったりと付着している。その血液が誰のものなのか葉考えなくてもわかる
無機質な動きで腕を振り上げた人形擬きを見た瞬間、近くに置いていた消火器を投げつける。自分が感じている痛みと消火器の重さの所為で思うように投げることはできなかったが投げつけられた異物に反応した人形は消火器を思い切り叩きつけ、中からガスが吹き出る
「深崎、逃げるぞ」
消火器の煙が煙幕の役割を果たしているうちに深崎を背負ってその場から移動を始める。人形擬きは煙が充満してる間は微動だにしていなかったが少しずつ煙が晴れると同時に動き始め、周囲を確認する
「急がないと……」
出来るだけ急いでその場から離れる為に動いていると、廊下の半分まで行ったところで目の前の部屋の扉が開き後ろにいる人形擬きとはまた別の人形が出てくる。その人形はギチギチという音と共にこちらへ顔を向けてきた人形は、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる
この場所から逃げようにも後ろにいた人形もこちらへ向けて歩いてきている、退路を断たれ確実に近づいてきている自分の死を実感し、心臓の鼓動が早くなっていく
ふと、右腕にバチリと言う痛みが走る。その瞬間感じたのは今までせき止められていた何かが正常に流れる感覚。錆びついた水道管を回し水が流れるように、不思議なものが身体の中を巡っている
痛みを感じた右腕に目を向けると、浮かび上がっていたのは淡い緑の光を放つ回路のような痣。そして、本質的にこの痣の使い方を俺は理解していた。今からする行為に必要なものが何なのか、どうすればいいのか
「
脳内で映し出すのに必要なものを自分に置き換えていく。近くに出来ていた血だまり、そこに反射している人形を写し取り、自分自身を射影機であると置き換え、出力する
時間にして数秒。出力が終了すると同時に目の前に現れたのは人の形をした影、近づいてくる人形擬きと同じ背格好のソレは本物とは違う機敏な動作で人形擬きまで接敵し、胴体を貫き消滅する
胴体を貫かれた人形擬きも、影が消滅すると同時にガタガタと音を立ててその場に崩れていく。まだ人形擬きが出てくる可能性もあるけれどひとまず道は作れた、深崎の事を背負い直した俺は疲労で重くなった身体を引きずりながらエレベーターの前までやって来る
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ボタンを押してその場にへたり込むとエレベーターが来るのを待つ。各階層のボタンが一つ一つ点灯していくのを見ながら消えそうになっている意識を必死に繋ぎとめているとポーンと言う音と共にエレベーターの扉が開いた
「動か、ないと……」
深崎を背負い直してから動こうとしたところで身体に力が入らず体勢を崩しながら意識が少しずつ闇に染まっていく、自分にはどうしようも出来ない感覚を味わっていると、誰かに身体を支えられる
「ただの一般人かと思ったら土壇場で魔術を行使、ホント呆れるわ」
たったの数時間なのに、やけに聞き覚えのある声を耳に受けながら俺の意識は完全に闇へと落ちた
20XX/07/17(日) 1:30
僅かな痛みと共に目を覚ますと、視界に映ったのはマンションのエントランスだった、身体には包帯が巻かれており少し離れた場所には深崎も寝かされている。顔色は見つけた時よりも僅かながらマシになっており止血もされている
「目、覚めたのね」
「オルガマリーさん、どうして……」
「別に、ただそっちの方が都合よさそうだから助けただけ」
「都合が良さそう?」
「別に気にする必要ないわ、ただ私が貸しを作っただけ。それより藤丸、貴方何者? 魔術師なのに一般人を装って……目的はなに?」
俺が、魔術師? オルガマリーさんは一体何を言っているのだろう
「何言ってるんですか? 俺は魔術なんて──」
使っていない、そう答えようとしたが記憶の中の俺は確かに魔術を使っている、そしてその魔術の使い方も今の俺にははっきりと認識できているし、使えることが自然であると思える
それなのにどうして今までそうなっていなかったのか、それは少し考えれたら理解できた
「……オルガマリーさん、俺は魔術師じゃないです」
「魔術師じゃないなら、貴方はなに?」
「普通の、どこにでもいる一般人です。少なくともそう思ってました」
俺がそう言うとオルガマリーさんは怪訝な表情を浮かべてこちらに視線を向けてくる。それはどういう事なのか説明しろとこちらに投げかけているものだった
「俺、小さい頃は影と遊んでたんです」
「影?」
彼女の言葉に頷いてから、俺はさっきと同じように魔術を起動させた。視界に映った一匹の虫に対象を絞り先ほどと同じように影を作り出すと、その影は俺の周りをくるくると飛び回り始めた
「これは、投影魔術? いや違う……影を操る魔術? そんなの聞いた事ない」
俺の近くを飛び回っていた影を消すと、彼女は再び俺の方を見る
「小さい頃は、さっきみたいに自分で影を作って一人で遊んでたんです……けど、いつ頃からかすっかり忘れてて──」
「何もかも忘れて普通に過ごしてたって事?」
「……はい」
俺の話を聞き終えたオルガマリーさんはため息を吐いてから頭を抱えてしまっていたが軽く頬を叩いてから改めてこっちに視線を向けてくる
「色々と言いたいことあるけど、貴方の力を使えば私も少しは楽できそうだし。また私に手を貸しなさい」
「その前に深崎を病院に連れて行かないと、アイツ出血が酷くて──」
「それは後回しよ、どっちみち外には出られなくなってるみたいだしね」
「えっ?」
あまりに突拍子もない事を言われた俺の頭は、再び真っ白になってしまった
藤丸の使った魔術がどういったものなのか、それとこの世界の藤丸立香については活動報告に記載しておきます
よろしければ軽く目を通したうえで、あぁこんな感じで行くのねと思っていただければと思います