不審者がいるという話に何かしらの胸騒ぎを覚えた翌日、若干寝不足気味の身体を動かしてリビングまで向かうと、朝食を作っている母さんとテレビを見ている六華の姿があった
「おはよー」
「あっ、おはようお兄ちゃん」
「おはよう、もうすぐ朝ごはん出来るから顔洗ってきなさい」
「うん、そうする……そう言えば父さんは?」
「朝方まで書いてたみたいで今は泥のように睡眠中」
「なるほど」
リビングに父さんが居ないことに対する回答を聞いた俺は洗面所まで向かう、蛇口のハンドルを動かして冷たい水で顔を洗うと気怠かった身体に少しだけ気合いが入る。一応目は覚めたから濡れた顔をタオルで拭いてリビングまで戻ろうとしたところで窓がコンコンと叩かれた
「?」
何事かと思い窓の方に目を向けると口に丸めた紙を咥えた小鳥が目に入る。とりあえず窓を開けると小鳥か器用に紙を置いて飛んで行ってしまった、恐らくこの丸まっている紙を届けに来てくれたのだろうと思い紙を開いて中を確認する
「えーっと、昼休みに屋上?」
誰がわざわざこんなに面倒な方法を使ったのかわからないが、一応昼休みに屋上に向かってみることにするかなどと考えているとリビングの方から俺を呼ぶ母さんの声が聞こえたため窓を閉めてリビングまで戻る
「随分と遅かったけど、何かあったの?」
「えっと、友達から連絡来ちゃって」
「そう、それじゃあ朝ごはん出来たからちゃちゃっと食べちゃって、六華もね」
「はーい」
自分の定位置に座ると三人で直食を食べ始めると、つけっぱなしだったテレビからニュースが聞こえてきた
『本日明け方、
「怖いこともあるねー」
「ウチからもそんなに離れてないし、気をつけないとね」
「そうだね」
テレビから流れてくるニュースを聞きながら、家族で雑談をしつつ朝食を食べる。それにしても犯人は捜索中ってだけで相当な不安感があるな。もっと物騒な世界を知ってる今でもそう言う方面の恐怖よりも、もしかしたら今日襲われるかも知れないっていう身近な恐怖の方が大きい……正直な所、俺があっち方面の恐怖を詳しく知らないっていうのもあるけど
「……ん?」
「お兄ちゃん、どうかした?」
「あぁ、いや、一瞬知り合いがテレビに映った気がしてさ」
「うそ? 有名人?」
「ううん、普通の大学生……多分気のせいだと思う」
「そっかぁ、ていうかお兄ちゃんに大学生の知り合いとか居たんだ」
「まぁ、少し前に成り行きで」
気のせいって言ってたけど、見間違いじゃなければ画面の端で警官と話をしている宮本さんの姿が見えた気がした。詳しく確認しようにも映像は既に切り替わってるし録画もしてない……仕方がないから後でネットニュースの映像を使って確認しよう
そんな事を考えているうちに、朝食も食べ終え、一度部屋に戻って寝間着に使っているTシャツと半パンから学校の制服に着替えて再びリビングまで戻ると、同じタイミングで六華も靴を履いて学校に向かおうとしてる所だった。俺も靴を履いて出ようとしたところでリビングから母さんが顔を出す
「立香、悪いんだけど今日は途中まで六華を送ってってもらえる?」
「えっ?」
「ほら、さっきのニュースもあるし朝方は人も少ないから一応、ね」
「お母さん、心配しなくても大丈夫だと思うよ?」
「そう言わないで、立香、お願いできる?」
「まぁ、俺は良いけど……」
そう言うと横目で六華の方に目を向ける、少し渋った様子で考えこんでいたがはーっと息を吐いてから母さんに言葉を投げた
「……わかった、けど今日だけだからね。ね! お兄ちゃんも!」
「わかったわかった」
「……仕方ないわね」
「よし! それじゃあ早く行こ?」
そう言うと六華は俺の手を引いて玄関から外に出る
「それじゃ、いってきまーす!」
「行ってきます」
「二人ともいってらっしゃい」
母の言葉を背に二人で通学路を歩いて、学校まで向かう。とりあえず途中までは通学路が一緒な訳だが……どこまで一緒に行けばいいのだろうか、そんなことを考えていると目の前に妹と同じ制服を着た少女が居た
「あ、おはよう六華…………と、六華のお兄さん」
「おはよー、恵理ちゃん」
「おはよう、宇津見さん」
妹を見て安心した後に俺を見てうげっと言う表情を浮かべたのは、妹の中学からの同級生であり親友でもある
「今日は、二人一緒なんですね」
「あぁ、うん。今朝のニュースがあったからね」
「あぁ、例の変死体の……朝なんだからそんな気にしなくてもよさそうなのに」
「恵理ちゃんもそう思うよねー、まったくお母さんも心配性なんだから」
「あっはは……」
まったくと言った表情を浮かべる六華に対して宇津見さんは少し困ったような表情を浮かべる、それが少し気にはなったけれど、それは横に置いてからスマホを取り出して時間を確認する
「まだ時間に余裕あるけど、どうする? 一応もう少し送っていこうか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫、恵理ちゃんとも会えたから、後は二人で行くよ」
「そっか、わかった。それじゃあ宇津見さん。一応、妹の事よろしくね」
「……わかりました、それじゃ」
宇津見さんには若干そっけない感じで返事されてしまったがまぁ二人でいるのなら大丈夫だろう。二人と別れた俺は、自分の通っている学校へ向けて通学路を歩き出した
学校に登校してからは特に変わったこともなくあっという間に昼休み、朝の呼び出しに従って屋上まで向かうとそこにはオルガマリーさんが待っていた。彼女はこちらに目を向けるとずんずんと進んで俺の前の前までやって来た
「遅い」
「……これでも早く来たんですけど」
「それでもよ……けど、今回はまぁいいわ」
そう言ったオルガマリーさんは日陰に腰をかけると手に持ったビニール袋から焼きそばパンを取り出して食べ始める。その姿が妙に珍しくてジーっと見てしまっていると彼女はムスっとした表情をこちらに向けてきた
「……何よ」
「いや、えっと、なんかオルガマリーさんがそう言うの食べてるのって珍しいなと思って」
「別に良いでしょ、日本に来て初めて食べたけど……その、美味しかったんだから」
「……そうですね」
「な、何を笑ってるのよ!」
「笑ってないですよ」
そう言いながら俺もオルガマリーさんの隣に座って、手に持っていた弁当を食べ始める
「貴方は、購買じゃないのね」
「普段は購買の方が多いんですけど、今回は母さんが作ってくれたんで弁当ですね」
「……そう、いいお母さまなのね」
「そうですね、怒ると怖いですけど」
苦笑い気味にそう言うとオルガマリーさんは少し悲しそうだけど、羨ましそうな笑みを浮かべて再び焼きそばパンを食べ始める
「そう言えば、今日はなんであんな呼び出し方したんですか?」
「あぁ、少し伝えないといけないことがあってね、連絡しようにも私、貴方の電話番号知らないし」
「……俺、住所教えましたっけ?」
「弓束に聞いたら教えてくれたわ、今回の件に関しては伝えておかないとって彼女も思ってたらしいから」
成る程、理解はしたけど出来れば理解したくなかったな
そんなことを考えても仕方ないので住所云々の件は横に置いておく、学校で伝えればいいのにわざわざ朝方にあんなメッセージを寄越すくらいだからよほど緊急の要件なのだろう
「それで、伝えないといけないことって何ですか?」
「……藤丸、アンタも今朝報道されてたニュース見たわよね」
「えっと、変死体云々って奴ですか?」
「そう、それよ」
焼きそばパンを食べ終わったらしいオルガマリーさんは包み紙をビニール袋にしまってからもう一つ焼きそばパンを取り出してそれを食べ始める
「あの事件、何があっても関わらないようにしなさい」
「関わらないようにって……そりゃ関わりませんけど、何でそんなことを?」
「今朝の変死体、やったのは人間じゃない……死徒よ」
「死徒?」
また聞いたことのない単語が出てきた、それに関して俺が知らない事を承知していたらしいオルガマリーさんはゆっくりと死徒と言う存在について話を始める
「アンタの知ってる風に言うなら吸血鬼よ」
「吸血鬼、ですか」
「えぇ、吸血種の中でも後天的にその存在になったモノ。簡単に言うと血を吸われて吸血鬼になった存在よ。映画とかでもよくあるでしょ」
「吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になる……って奴ですか?」
「その通り、どうして死徒がこの街に入ったのか、詳しい事はわからないけどあの事件を起こしてる存在はソレで確定だって弓束も言ってたわ」
そこから、オルガマリーさんによる今回の事件の全容……ではないけれど大雑把な内容を聞くことが出来た
彼女曰く今回の事件はこの街に入り込んだ死徒が引き起こしたもので、今回報道された事件以外にも被害者は出ており、狗道さんの判断と、オルガマリーさんが所属してる組織の日本支部? みたいな所が警察に緘口令をしいて事件そのものが漏れないようにしていたらしい
「オルガマリーさんの所属してる魔術協会って、そんな力を持ってるんですか?」
「政治とかそう言うのにある程度干渉するくらいの権力はある……だけど日本の組織とは交流が疎遠だから詳しい事は知らないわ。弓束に聞こうにも教えてくれないだろうし、それで話の続きだけど────」
二つ目の焼きそばパンを食べ終えたオルガマリーさんは、新たに取り出した三つ目の焼きそばパンを食べ始めながら話を続けた
そうして緘口令をしいて外……具体的に言うと俺たちみたいな一般人に漏れないようにしながら警察が捜査をしていたのだが手がかりを掴むことが出来ないまま今回の事件が起こってしまった。そしてタイミングが悪い事に朝方でも比較的人通りの多い所でご遺体が見つかってしまった、それ故に目撃者が多すぎて隠蔽することも出来ずに報道することになったらしい
「なんか、ドロドロしてますね」
「この世界、所詮そんなもんよ。アンタたちで言う所のファンタジーみたいに見えるだろうけど実際の所、魔術は学問だしこっち側でも権力争いなんてしょっちゅう……ホント、嫌になるわ」
「やけに実感籠ってますね」
「……私、時計塔の君主であるアニムスフィアの次期当主なの。だから嫌でもそう言うのに関わらなきゃいけないわけ」
「……なるほど」
なんか、時計塔とか君主とかがなんなのかはさっぱりだけどオルガマリーさんが偉い家の出身でそう言うのに苦労しているってのは理解できた
「まぁ、それはどうでもいいのよ、今は」
「どうでもいいんですか?」
「どうでもよくないけどどうでもいいの! 今重要なのは、死体が朝方に発見されたってこと!」
「朝方にって、何か問題があるんですか?」
「……藤丸、吸血鬼の弱点を言って見なさい」
「えっと、十字架とかにんにくに弱い、心臓を杭で打たれると死ぬ、それと朝日を浴びると灰になる……後は流水もダメなんでしたっけ?」
俺がそう言うとオルガマリーさんは軽く頷いてから言葉を続ける
「そうね、じゃあ次は朝方に死体が見つかったこと、それの何がまずいのかを考えてみなさい」
「朝方に…………」
聞いた話だと今回の事件でご遺体が見つかったのは日が昇り始める朝の四、五時頃。それで今までのご遺体が見つかった時間は大体深夜の一時から三時の間、今までが偶然そうだったから今回も偶々なのではないか……そう考えていたところで、かなり前に呼んだネット小説の内容が頭に浮かぶ、吸血鬼を主題にした小説とかでよくある設定だ、元々日光に当たると灰になってしまう吸血鬼が力を付けて日光を克服する話
「まさか、日光を克服したって事ですか?」
「……半分正解、正確には日光に対する耐性が出来つつあるんじゃないかって事。そうなったら大惨事よ……なんせ暗がりには一切近づけなくなるんだから」
「……」
オルガマリーさんの言葉を聞き、俺は背筋が寒くなっていくような感覚を感じた。現代において昔から伝え聞かされていた吸血鬼事件が発生し、それを起こしている犯人は本物のバケモノ。そしてソレは弱点である日光への耐性を得つつある
「だから藤丸、何があっても絶対に今回の事件には首を突っ込まないで、そして……仮に死徒に遭遇したとしても、すぐに逃げなさい」
「…………わかりました」
オルガマリーさんにそう言葉を返すが、正直まともに思考出来ている気がしない…………だって、この街に潜んでいる存在の脅威を聞いた俺の腕は、自然と震えてしまっているのだから