小町『この曲なんでしょー!!!!』   作:卯月御餅

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1話です。楽しんでもらえると幸いです!


第1話 『雪ノ下雪乃』

 

 

「………さよ…ンッ、いえ、今までありがとう比企谷君」

 

私は目の前の彼に精一杯の平常心でそう言った。

言いかけていた言葉をこれでは無いと咄嗟に止めたため、少し咳き込みそうになったけれどきちんと伝えられたと思う。

もう少し話していたい、そう思い何か話を振ろうとするのが自分の中の引き出しには何も入っていない。

そもそも人と話すことが無いのだが、それに輪をかけて彼の先程の言葉でどうやら私は動揺してしまっているようだ。頭が真っ白になるとはよく言ったもので現に今の私は何一つ脳が伝達を送っていないのか身動きすら取れないでいる。

先程詰まりながらも彼に向けて言葉を発せたのは奇跡だったのかもしれない。

 

少し訂正すると今の自分の引き出しの中には何も入っていないと言ったが実はそうでは無い。

あるにはあるのだ。

だけどどの言葉も今彼に伝えてしまうと彼を困らせてしまうそんな言葉ばかり。

今になって実感する。

私は比企谷八幡がどうしようもなく好きで愛していたんだと。

 

八幡『雪ノ下…俺と別れて欲しい。他に好きな奴が出来たんだ』

 

未だにショックからか、ふわふわした脳内に響き続ける言葉。ついさっき彼から告げられた言葉。

別れて欲しい?他に好きな女ができた?

彼は何を言ってるのかしら?

なんて…薄々気づいていた。

彼の心が自分から離れていっていることに。

高校卒業とともに付き合い始めて4年。

長いようで短かった2人の時間。決して会話が多かったわけではないけれどとても充実してとても幸せだった。

きっと相手は由比ヶ浜さんだろう。

彼女なら比企谷八幡を幸せにしてくれる。

これは確信できる。私から離れていくのに、彼がいなくなってしまうのに、それでも彼が幸せになることが確信できた事が嬉しく、そんな彼の幸せを願っている自分がいる。

そう。彼女の事はよく知っているからこそ託せると考えてしまう。そんな自分がたまらなく嫌になる。

 

「そう…なのね。相手は由比ヶ浜さんかしら?彼女ずっと貴方のこと慕っていたものね。大方相談相手にでもなってくれていたのかしら?貴方の事だから逆に相談に乗っていてもおかしくないわね」

 

違う。こんな言葉を言いたいんじゃない。

彼に伝えたいのはこんなのじゃない。

 

「とても楽しかったわ。貴方が彼女の元に行くと聞いた時は少々驚いたけれど彼女なら貴方に寄り添ってくれるし良くしてくれると思うわ。私みたいな女の数少ない友達になってくれた心の綺麗な子だもの」

 

違うの。そんな辛そうな表情をしないで。

私が言いたいのは…、貴方が少しでも気負わないで欲しいだけなの。

 

「確かに驚きはしたけれど特段貴方が謝ることでもないと思うのだけれど、私は平気だと言っているのだしそれ以上に何か言うことがある?それともあれかしら貴方は私が未練がましく縋り付くと思ったのかしら?大丈夫よ。そんなことはしないし、それは貴方の妄想よ。妄想谷君」

 

平気だと、大丈夫だと伝えようとしただけなのにこの忌々しい口からはこんな言葉しか出てこない。素直に話すことすら出来ない。本当にごめんなさい。。。

 

 

あれから数分?数十分?分からないけれどそれくらい経った。その間も私の口からは本音なんてひとつも出ない、ただうだうだとよく回る口に嫌気がさす。

彼は困った顔をしながらそれでもいつものように返してくれる。こんな可愛げもないような私の言葉に暖かい言葉で返してくれる。

 

さっきから昔の事を思い出す。それは走馬灯のように沢山の思い出が物凄い速さで通り過ぎていく。ここに由比ヶ浜さんがいたら走馬灯だと死んでしまうでしょって訂正してあげれたのに。

 

進学先が他県になってしまった彼と付き合ってからしばらく経った日に突然携帯が鳴り出した。番号を確認すると彼のもの。何かあったのだろうかとすぐに電話に出ると、

少し酔っ払った声の彼が電話越しに『少し声が聞きたくなった。好きな女の声が』なんて言うものだから嬉しさと気恥しさと愛おしさで愛情というものを再確認した。

酔っ払ってかけた電話が彼からの初電話なんてもっとムードとかあるでしょうと呆れたのだが、それでもかけてきてくれた。私を必要としてくれたことにとても幸せを感じていた。

 

あの頃の私と今の私何も変わってないはずなのにどうしてなんだろう。

どれだけ離れていてもどんなに会えなくても

気持ちが変わらないからここにいるのに。

彼だけ変わってしまった。いや、きっと私の何かが彼の中の私を変えてしまったんだ。

 

もう随分彼と話し込んでいたみたいだ。

まだ冬では無いとはいえ肌寒くなってきた。

本当は彼に言いたい。

例え別れることになったとしても私の事は覚えていてと。貴方を好きになった雪ノ下雪乃を忘れないでいてと。

…なんて、これから幸せになりに行く人に言う言葉じゃないわね。願わくば私がそばにいたかったのだけれど彼が先に進むと言うなら、、、

 

「話が長くなったわね。彼女を待たせているんでしょ?早く行きなさい。あの子は私の親友で大事な子だから。絶対に泣かせたりしないこと。」

 

私みたいに。泣かせたりしないこと。

まだ受け入れられなくて涙なんて出ていないけれど。

 

「元気で」

 

少しは優しく言えただろうか。

 

彼は涙ひとつ流さない私を見て少しほっとした表情をしている。きっと彼の事だから罪悪感があり、そして私が泣いてしまわないか本気で心配していたんだろう。でもそんなの急に言われたって受け入れられるわけないじゃない。涙なんて出るわけないじゃない。

そこまで察せるほどやはり彼は鋭くは無いみたいね。『ありがとう。悪い…』なんて、相変わらず暢気ね。そこも大好きよ。

 

去っていく彼を見つめながら思い出すのは、

付き合う前の彼。

私が両親や姉とのいざこざで疲弊しきっていた時に助言するわけでも慰めるわけでもなく、

淡々と話しかけてきて、両親や姉にならなくてもいい。どれだけ無様だろうがお前はお前だ。素のままのお前が、1番お前らしくていい。なんて、意味のわからないことばかり言って、そっと私の涙を拭いたくせに。

その言葉に救われて私の中の世界観が、全て変わったのに。聴こえる全てに色をつけたくせに。

 

ふと見上げると木々の隙間に名前も知らない実がなっていて、まだ青いのに枯れそうになっていて、それが未熟なままだった私みたいで、この育ちきっていない彼への愛みたいで、それなのに終わりが来てしまって。

手を伸ばしてこの思いが終わったんだと握りつぶした。

大丈夫。私は覚えている。大丈夫。私は大丈夫。

 

「比企谷八幡!!」

 

驚いたように彼が振り向く、

 

今すぐに抱きしめて
!

私がいれば何もいらないと
、そう言ってもう離さないで
!

なんて…嘘よ

 

「さよなら」

 




さあなんの曲でしょうね。ちなみに私は大好きな曲です。

[参考資料]

雪ノ下雪乃 22歳 都内の大学に進学
比企谷八幡 22歳 県外の大学に進学

メモ : 雪ノ下雪乃は比企谷八幡と交際時より約4年に渡り変化無し。比企谷八幡は態度が軟化。4年の中で徐々に雪ノ下雪乃に甘えたりカッコつけたりと本人の中で雪ノ下雪乃に好かれようと努力を積み重ねていた。
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