「ヒッキーまたね!ゆきのん喜んでくれるといいね!!」
八幡「おう。…由比ヶ浜。ありがとな」
そう言ってこちらに背を向けて帰っていくヒッキーをあたしは見送った。
卒業してからもう4年も経とうとしている。
高校卒業と同時期にヒッキーはゆきのんと付き合った。
大好きな友達であるゆきのんが幸せそうにしている姿を見てあたしも嬉しかった。
でも、同時にそれを認めるのが苦痛だった。
今日もそう。ゆきのんへ何を贈るか決めきれないというヒッキーを連れて買い物に来ていたけどずっとヒッキーは贈り物を選ぶのに真剣で、あたしは横からたまに口を挟む程度しか出来なかった。
まあ邪魔をしたい訳じゃないからいいんだけどあまりにもあたしが空気になってて凄く妬けた。
『由比ヶ浜がいてくれて助かった。持つべきものはガハマさんだな』
昔ヒッキーが冗談のように言ってた言葉。
ねえヒッキー。あれから何年か経ったけどさ。
あたしは友達だなんて1度も思ったことは無かったよ。ヒッキーに出会ってから、ヒッキーのことを知ってからずっとずっとヒッキーは友達なんかじゃなくてあたしの想い人だった。
変わってしまったこともあるかもだけど変わらないことの方があたしもヒッキーも多いよ。
もう午後6時なのにまだまだ明るく暗くなる気配のない空の下、じんわりと汗が滲み蝉の声がうるさく感じる。日が傾き真赤な太陽が道を照らし陽炎が揺れる帰り道。ヒッキーが去っていく姿を見えなくなるまでぼーっと見送っていく。本当に小さくなって見えなくなるまで見ていた。
ずっと好きだったよ。ヒッキーのこと。
今も、今も。
不意に吹いた風があたしの髪を撫でるように通り過ぎていく。
きっとこれからもあたしは忘れることが出来ないんだと思う。
ヒッキーと出会った日から今日までヒッキーと過ごした日々を。
だんだん見えなくなる影に小さく呟いた。
「好き。好きなんだよ」
あれから少し時が経って夜空をぼーっと眺めていると星が流れてた。あ、流星群ってやつだ!と嬉しくなって、必死にお願い事をした。
『ヒッキーとずっと傍に入れますように』
叶うはずないあたしの願い。でもそれでも諦めなんて付かなくて。
ただ流れる星にそう願った。
雨降り。今日の気分は最悪だ。
ただでさえ言うことを聞かない自分の髪を何とかまとめたと思っていたら突然の通り雨に全て流された。傘もない中でとりあえず雨宿りして止むのを待つかと公園の遊具に避難する。
ツイてないなと泣きそうになりながら入ろうとすると、
八幡「……うっす」
ツイてないな。あたしは。
こんなぐちゃぐちゃの髪、メイクも落ちてるかも。見られたくないのに、でもヒッキーに会えて嬉しいって感じてしまう。あー。たまらなく好きなんだあたしは。
こっち見ないでね!とヒッキーに言うと慌てたように背を向けてくれる。その背中がどこか愛おしくてあたしの背中を預けてみる。
ビクッとしたあと少しして
八幡「…あのな、そういうこと他のやつにしてたら勘違いされるぞ」
なんて言うから
「べ、別に誰にでもしてるわけじゃないし!ていうかヒッキー意識しすぎ!キモイ!」
八幡「えぇ…理不尽ヶ浜ちゃんかよ」
それでもくっついた背中を無理に離したりしないでそのまま2人で座って雨が止むのを待つ。
座ってる間あたしの心臓はドキドキが止まらなくて、それをヒッキーに知られちゃうんじゃないかって不安だった。でも背中越しに感じる温かさと意外と男の子って感じの大きな背中に不思議と気分は悪くなかった。
てかこれだけくっついてたら流石にドキドキしてるのはバレてると思う。
まだ知らない事だらけの背中と背中を合わせて聞こえてきた音。
あたしも大概だけどヒッキーもドキドキしてるみたい。嬉しい。顔がにやけてくる。
あたしの方がキモイじゃん。
そう考えると壊れちゃうくらい熱かった。
ヒッキーがぽつりと呟いた。
八幡「雪ノ下と別れようと思う」
なんのことか分からなかった。
ヒッキーがゆきのんと別れる?
なんで?どうして?
色々と考えてみたけど答えなんて分からなくて、ついヒッキーに強く当たってしまった。
どうしてゆきのんを傷つけるの、どうして別れるなんて言うのって。
ポツポツと語るヒッキーの声は低く暗い声で、終始自分が悪かったと卑下したものだった。
話を聞いてみてわかったが、ヒッキー達はあまり上手くいってなかったみたい。
そうなる前にあたしに相談して欲しかったんだけどこればっかりはタラレバってやつだ。
その後も二人で話をして時間を潰す。
ヒッキーは最後までゆきのんのことを考えていたことが凄く伝わってきてあたしは途中から何も言えなかった。
少しすると雨が上がって遠くの方で虹が出ていた。とはいえ季節は夏なので蒸し暑い感じで今更ながら自分の汗がベタベタしてないか気になった。
ヒッキーは立ち上がって一瞬こっちを見てすぐに後ろを向いた。
不思議がっていると、タオルかなにか巻いておいた方がいいって。
ヒッキーのエッチ…。
ヒッキーが帰っていった後、あたしは背伸びをしながら今の出来事を思い出して嬉しさと恥ずかしさで悶えそうになった。
雨の引いた空は太陽が次は自分の番だとばかりにギラギラと照りつけてくる。
あたしは決めた。もう友達のままじゃ終われないや。
夜、電話をかけた。
相手はゆきのん。
久しぶりに話したゆきのんの声は聞いたことがないくらい低く震えていた。
そこでヒッキーから別れ話をされたと初めて聞かされた。
いや、ヒッキー流石にアクション早すぎだし!!ってつっこむ余裕もないほど暗い雰囲気が漂い、ただゆきのんと事務的に会話を繋ぐ。
しばらくしてあたしは切り出すことにした。
「ゆきのん。ゆきのんに言わなきゃ行けないことがあるの。あたし…あたしやっぱりヒッキーが好き。この気持ちには嘘つけない!今度ヒッキーに会った時に告白する!…と思う。えへへ……。あたしってサイテーだよね…。」
雪乃『……そう。……………………彼は嘘つきね。』
「え、それってどういう…」
雪乃『由比ヶ浜さん。あなたはあなたの思う通りに行動なさい。もちろん私の彼氏を奪い取るようなものなのだから貴方は最低よ。…なんて、そもそも卒業の時に抜け駆けした様なものなのだから私も最低ね。ねえ由比ヶ浜さん。あなたにお願いしたいことがあるの。私の代わりに彼を幸せにしてあげてくれないかしら?私ではどうも上手く出来なかったみたいなの』
最後の方は声が震えていた。泣いてるんだ…。
そりゃそうだ。さっき別れたばかりでこんなこと言われて感情がぐちゃぐちゃになってるに違いない。それでもあたしと、ヒッキーのためにこんなに優しく託そうとしてくれたんだ。
「ゆきのん。ごめん。でもあたし絶対に頑張るから。何がなんでも絶対ヒッキーのこと幸せにするから」
これは誓い。サイテーなあたしがゆきのんにできる唯一の誓い。
雪乃『えぇ、お願いするわ』
ゆきのんの声がやけに耳に残った。
数日経ってヒッキーのことを呼び出してみた。
バッチリとメイクとコーデをキメて100点のあたしをヒッキーに見てもらおうと呼び出したのだ。
場所はららぽーと。デートだと張り切ってたのにヒッキーは相変わらず時間ギリギリに来た。
まあでも服装は凄くオシャレで眼鏡をかけた姿は正直あたしの中のあたしが叫びたくなるほどどストライクだった。小町ちゃんがコーデしてくれたのかな?
一日中ヒッキーと遊びまくった!
いつも通りやる気なさそうにしながらもあたしの行きたいところに付き合ってくれて、最後まで楽しめた。
時間を見ると午後8時。もうこんな時間だったんだ。ヒッキーが家まで送ってくれると言ってくれたからそれに甘えて2人で歩く。
あたしの家の前で、じゃあなと言って帰るヒッキーの背中を見送る。
ヒッキーは楽しかったのかな?
ヒッキーは今日のことどう思ったんだろう。
ヒッキーもデートだと思ってくれてたのかな?
何故だか泣きそうになりながらぼんやりと去っていくヒッキーを見ていると不意にヒッキーがこちらを振り返り、少ししたあとこちらに歩いてくる。
「ど、どうしたのヒッk
突然の事であたしは文字通り固まってしまった。
だってヒッキーにキスされるなんて思わなかったから。
時間が止まったみたいに周りの音も無くて
なのに意識は目の前のヒッキーに釘付けで…。
熱い。熱さを感じる唇にどうしていいか分からなくて、だんだんとヒッキーの心音が聞こえてくる気がしておかしくなりそうだ。
八幡『由比ヶ浜…俺はお前が好きだ』
ほんとうにどうにかなってしまいそう。
「え、えへへ。びっくりしちゃった。いきなりなんて…ずるいよ。ヒッキーあたしも」
あたしもヒッキーのことがずっとずっとずっと…。
何となくキャラ崩壊してる気もするが気にしてはいけない。
あとマジでこの話のヒッキーがクソ男だということには気づいてはいけない。
[参考資料]
由比ヶ浜結衣 22歳 県外の大学に進学
比企谷八幡 22歳 県外の大学に進学
メモ : 第1話と同じ世界線である。由比ヶ浜結衣は雪ノ下雪乃と比企谷八幡に対し気まずさを感じていた。デートの際の比企谷八幡の服装等は比企谷八幡が個人で考えて着てきている。ちなみに徹夜するくらい悩んでいたらしい。なんと今回の件小町ノータッチ
作者メモ : 文面にかけてないだけで比企谷八幡と由比ヶ浜結衣は頻繁にやり取りをしているし、雪ノ下雪乃へのプレゼント選びの際には既に由比ヶ浜結衣に心が移りかけていたとする。ヒッキー超クソ男じゃね?っべーわ。戸部っちサイテーだな。