ウマ娘短編集(ジャンル:純愛・イチャイチャ) 作:のるどすとりーむ
春の陽気に片足を突っ込んだような、今の季節。朝は寒いが、昼になればあたたかくて快適になる。そんな日であるから、デスクワークが進まないのだろうか。先程からほとんどが進捗が遅い。更に少し眠くなってきた。ここは一度仮眠をとって、スッキリしてから仕事をしたほうが効率はいいだろうな。
そう思うや否や、机に突っ伏すようにして目を閉じる。すぐに意識はまどろみの中に溶けてゆき、机の硬さなどは気にならない。
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「トレーナー君、失礼するよ」
トレーナー室に入る。今度のレースについての相談を、と思ったのだが、視界の端に机にフセているトレーナー君を見つける。
「……すぅ……」
寝息を立てている。どうやら仮眠を取っているようだ。起こすのも野暮だし、暫く待っていることにする。
私が羽織っていたカーディガンを、トレーナー君の肩にかける。最近暖かくなったとはいえ、まだ冬の季節だ。風邪を引かれたら大変だ。
……でももしかしたら風邪で働きすぎなトレーナー君を休ませることができるかもしれないとも思えてしまう。
まあ、それは流石に強硬手段が過ぎるか。
読みかけの文庫本を取り出し、トレーナーくんの向かいの椅子に座る。……トレーナー君が起きた時に驚かそうとかは微塵も思っていない。本当だ。なるべく音を立てないように、ページを捲る。
いつもよりも静寂なトレーナー室であるせいか、全然内容が入ってこない。これではツルマルツヨシからお薦めされて借りているのに意味がない。少し前のページに栞を挟んで、本を閉じる。さて、暇になってしまった。トレーナー室以外の場所に移動することも考えたが、今は他の場所に用事はない。
しかし、トレーナー君は本当に気持ちよさそうに寝ているな。親戚の子供が、疲れ果ててぐっすり寝ている顔とそっくりだ。……いやいや、トレーナー君を親戚の子供とそっくりだなんて、トレーナー君に失礼だな。今のは考えなかったことにしよう。
……でもトレーナー君はある種そういうところはあると思う。なんというか、子供っぽい?いや、無邪気というか、純粋というか、そういうところだろう。私の思想に本気で共感してくれたし、私と隣でいつも一緒に笑ってくれる。彼のようなトレーナーに出会えた私は幸せ者だな。
……そういえばトレーナー君は私をどう思っているのだろうか?まだ成人していない未熟な子供?それとも時間をともにする大切な仲間?どれにしたって、私は構わない。でも、正直本音を言うのであれば……
いけない。私は何を考えているんだ。
少し体が熱く感じるので、席を立つ。そのまま机を半周して、トレーナー君の横に立つ。
まだ起きる気配はない。まったく、こちらは君のことについていろいろ悩んでいるというのに、困ったものだ。……困ったのであれば少しくらいいたずらをして仕返しても問題は無いはずだ。
私の心に、少しだけ黒い感情が生まれた。
「フフ……」
思わず声を少し出して笑ってしまう。そうだ、ちょっとだけ悪戯を仕掛けてみよう。
手始めに、トレーナー君の頬を指でつつく。起きる気配はまだない。 ツンツン、とつつく回数を増やしてもやはり変わらない。
こうなったら、トウカイテイオーが言っていた悪戯を試してみるか。彼女曰く、「トレーナーが寝ている時に、耳をふーって息をかけると、すごく驚くんだ!」って笑いながら言っていた。
それをするために前かがみになり、顔を耳元に近づける。
「……んっ……」
やろうとするが、どうも息を吹きかけられるきがしない。お陰で耳元で変な声を出してしまった。……起きていないから変な誤解を招くようにはなっていないはずだ。
暫く粘ってやってみようとするが、やはり無理った。諦めて顔を離す。
再びトレーナー君の眼の前の席に戻る。
また暇になってしまった。仕方なく壁掛け時計に目をやる。カチ、カチと秒針を刻む音がかすかにする。
「んん……」
トレーナー君が声をだす。
「……ああ……今何時?ってルドルフ!?」
私の姿を見るなりとても驚いた表情をみせる。その純粋な表情がまたなんとも可愛らしい。
「やあ、おはよう」
「ああ、来ていれば起こしてくれても良かったのに……」
「いや、君をわざわざ起こすような用事でもないからね」
「そっか……これルドルフの?」
トレーナー君がカーディガンを持ち上げる。
「ああ、そうだ」
「ありがとう。……洗って返すから少し時間をくれる?」
「いや、それには及ばないよ」
「でもほら、アラサーのおっさんの匂いとかついているかもしれないし……」
トレーナー君が不安そうな表情をみせる。
「私は気にしないよ」
「俺が気になるの!……3日くらいくれればクリーニングで返せるかな」
「……わかった、じゃあお願いするよ」
せっかく、トレーナー君のいい匂いがついてると思っていたのだが……少し残念だ。
「あ、そうそう。寝ている時に変な声がした気がするんだけど……君以外に誰か来た人って居る?」
「……いないよ」
……まさかあのときの声が聞かれていたとは……少し恥ずかしいな。
「ん?ルドルフ?顔赤いけど大丈夫?保健室行く?」
「いや、大丈夫だ……」
「そう?ならいいけど……」
気づいていなかったが、顔が紅潮していたようだ。
トレーナー君はコーヒーを淹れるのか、ポットのある棚に向かう。
「あ、そうだ」
「?」
トレーナー君が何かを思い出したかのようにこちらに振り返る。
「今度はルドルフが寝ている時に俺が悪戯するからね」
「!?」