ウマ娘短編集(ジャンル:純愛・イチャイチャ) 作:のるどすとりーむ
夕暮れ時の川辺。周囲に電灯などは無いため、視界は非常に暗く一緒に来たアヤベを見失ってしまった。辺りをキョロキョロ見回すが、視界に入るのはカップルばかり。くそう。俺が何をしたっていうんだ。
その時、軽く肩を叩かれた。
「こっちよ」
「ああ、ごめん……」
どうやら探していた方向とは逆だったようだ。
「しかし……人が多いわね」
「まあ、お祭りだしね」
「はぐれないように手をつなぐ?なんてね……」
冗談で言ってみた。
「え?……」
アヤベさんが目を見開きながらこちらを見る。
「…………別に、どちらでもいいわよ……」
アヤベはそっぽを向いて言う。声色がいつもとほとんど変わらないため、それがどういうテンションで言っているのか分からない。と、とりあえず手は繋がないかな。
「……」
なぜだろう、少しアヤベさんが不機嫌になった気がする。やっぱり下手な冗談はよくないな。
今日俺達は、とある場所で行われるスカイランタンフェスティバル、いわゆるランタンを空に飛ばすイベントに参加している。なぜそうなったのか、経緯は簡単だ。
─────
「……なにこれ」
「ああ、ランタンフェスティバルのイベントのチラシを貰ったんだよ」
「ランタン……」
「そう、俺も一度見たことあるけどきれいだよ。ちょうど暗い時にやるから星空とランタンが綺麗なんだよ」
「行く」
「え?」
「行く」
─────
という経緯で決まった。
ほんと、アヤベさんは星とふわふわには目がないな。
「……今日は少し曇っているわね……」
見上げると、星空の間に少しの雲が混じっている。
「確かに、でもきっと晴れるよ」
隙間から見える星空からは、ベガが光り輝いている。
「あれ、ベガだね」
アヤベさんから教わって、ある程度星のことについて分かるようになってきた。
「そうね」
「やっぱりベガが一番に輝いている気がするなあ」
「……一等星、だもの」
「君のことも、だよ」
どうやら俺の洒落は通じなかったようだ。
「……ありがと……貴方のおかげよ」
「そんなことはない。俺がやったのはほんの少しだよ」
「……まだ自己評価が低いのね」
「君もでしょ」
「フフ……確かに」
─────
時間になり、ランタンが配られ、それに願い事を書く。
「貴方はなんて書くの?」
キュ、という油性ペンの書く音を耳にしながら正直に言う。
「『アヤベさんが健康でいられますように』って」
「奇遇ね、私も『トレーナーが健康』であることを書くわ……」
「いいの?自分の願いを書かなくても?」
「……いつも貴方は私についてのお願いごとしか書かないじゃない。だから私も貴方についてのお願い事を書くわ。それに、コレが私の願い事よ」
「そっか……」
アヤベさんは優しく微笑む。
─────
「まもなく飛ばしまーす」
係員さんが拡声器でお知らせする。
「せーので飛ばすぞ」
「ええ」
「それでは10秒前です!」
「ああ、そうだ」
「?」
「これからもよろしくね」
「5秒前です!」
アヤベが、少しほほえみながら言う。
「……こちらこそ、よろしく」
「3,2,1!」
「せーのっ」
─────
一斉に飛ばされたランタンは、夜空を埋め尽くす。オレンジ色に照らされたランタンは、どんどん高度を上げていく。映画のワンシーンとも見える幻想的な風景だ。
「きれいね……」
「ああ……」
ここで君の方がきれいだと言ったらどういう反応をするんだろう?
ま、そんなことができる勇気は無いんだけど。
「今日は楽しかったわ……ありがとう」
アヤベさんは回れ右をして、その場を離れようとする。
「まって、ランタンは終わっちゃったけど、まだこれからがあるよ」
「?」
瞬間、空が明るくなる。そのコンマ数秒後にドーンと大きな音が出る。その光は、球状で赤や青。黄色など様々ないろをしている。いわゆる花火だ。
ランタンまつりには花火大会も一緒にやるらしいというのを知った。
「……きれい」
アヤベはつぶやく。
「でしょ?いやー。サプライズで黙っていた甲斐があったなー」
「……本当、貴方は見ていて飽きないわね……ずっと見ていたい気分だわ……」
俺はさっきの花火で得意になり、調子に乗って言う。
「お?それは俺と一緒にいたいってことか?」
まったく話が飛躍してるがそれに気づかない。
「え?……」
瞬間、アヤベさんの顔が赤くなる。花火が打ち上げられているから、それがはっきりと見えてしまう。
「や、やっぱり……今のナシ!」
俺のほうが気恥ずかしくなってきて、撤回する。
「そう…………」
アヤベは下を向いている。怒っているのだろうか?
「(……意気地なし)」
「え?なんて?」
「なんでもない」
いや、明らかに何かを言っていた気がするんだけど……
まったく、冗談が好きな人をトレーナーにすると苦労が多いわね。今日だけでも何回私の心をかき乱すのかしら?……でも嫌だとは感じない。まったくもってもどかしい。どうして私はあと一歩が踏み出せないのかしら……い
っそのことトレーナーほうから来てくれないかな……
一人さみしく思う。眼の前に居る貴方は、まだ私の心を理解していない。それがありがたくも思うし、辛くも思う。どうせならその思いもランタンに飛ばせばよかったわ……
そう思った。