俺に世界の命運がかかってるってマジ?   作:九条空

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血界戦線の二次創作少なすぎるのどうして


死に方を聞くな

 気がつけば、俺は花を見つめていた。

 それは白い花で、地面から生えている、生きた花だ。

 コンクリートの隙間から生えてきているので、いわゆる雑草というやつなのかもしれない。

 

 それはともかく、俺は誰だ?

 

 そんでここはどこ、と思考が続いたことで、状況をざっくり把握した。

 俺は記憶喪失だ。参ったなこりゃ。

 

 周りを見渡しても、ここがどこかわからない――ということは、意外になかった。

 霧に包まれる街。無数の摩天楼。道行く異形たち。

 俺はここに覚えがある――異界と現世が交差する街、ヘルサレムズ・ロット。

 

 それを知っているのは、俺が転生者だからだ。

 この世界のことをかつて、漫画で読んだことがある。

 

 きょろきょろと周りを再び見渡して、視界にショーウィンドウを見つけたので近づく。

 大きなガラスはピカピカに磨かれ、俺の姿を反射した。

 

 白いワンピースだけを身にまとったその子は、間違いなく美少女だった。

 透き通るような白い髪に、血のような赤い瞳。

 典型的なアルビノというやつで、俺の好みからは若干外れる。

 同じ白いワンピースなら、俺はどちらかといえば麦わら帽子被ってひまわり畑の中に現れる、ひと夏の思い出を少年に与えるタイプの美少女の方が好みだ。

 今俺が成っている美少女は、ミステリアス系ではあるけど、少年と一緒に遊んで思い出を作ってくれるというよりは、少年に追々助けを求めてくる厄ネタ持ってきそうなタイプだ。

 

 今着ているこれは白いワンピースというよりは、どっちかというと手術着とか、そういうのに近いような気がする。

 なんだか嫌な予感がするな。

 嫌な予感を感じさせる一つの要因として、俺は裸足なのだ。

 

 靴が履けないような足の形状をしているというわけでなく、靴を履かないで良いほど足の裏が硬いというわけでもない。

 足は汚れ、石や砂利を踏んでできたのであろういくつかの擦り傷から、わずかに血がにじんでいる。

 これに気づいてからそういえば足が痛いことに気がついた。

 記憶失ってるというドデカ問題と比べると、微々たる問題過ぎた。

 

 着の身着のまま、どっかから逃げてきたんかなこれ。

 記憶失ってるのもそういうなんか、ヤバイやつかな。

 知り合いっぽいやつが話しかけてきたら、いちばんに逃げなきゃいけないのかもしれない。

 

 まあなんにせよ、記憶を取り戻すのが先決――いや、そんなことないな。

 思い出してもいいことなさそう。ヤバイ状況であることを理解して、心臓がキュッてなるだけかも。

 だとすれば、俺がやることはたったひとつ。観光だ!

 

 あの漫画で見た街、ヘルサレムズ・ロットを己の足で歩き放題だぜ!

 しかもマジもんの素足で! イエイイエイ!

 

 俺の特技はポジティブシンキングだった。

 意気揚々と歩きだす俺に、一人の青年が話しかけてきた。

 

「あの、なにかお困りですか」

 

 振り返ればそこには、鍛え抜かれているだろう細身のシルエット。

 その皮膚は人間のものとは異なり、水中生物のそれを思わせた。

 ツェッド・オブライエン。俺の知る血界戦線の登場人物だ。いきなりかよ。

 

「いえ、ぜんぜんこまってないです。おきになさらず」

「そうでしたか。ですが、足を怪我しているようなので……」

 

 親切かよ。

 

「ただのいえでしょうじょなので、おきになさらず」

 

 俺はぺこりと頭を下げ、くるりと身をひるがえし、彼のいない方へと歩き出した。

 

 怖いので振り返らない。

 彼の挙動から言って、俺のことを知っているわけではなさそうだった。

 ミーハーな気持ちから、登場人物とお話ししてみたいという思いがないわけではないが、しかし彼は秘密結社ライブラの一員だ。

 

 世界を守る組織で日々戦っているのである。

 俺の経験則からいって、そういうやつの近くにいると、いろいろやばいことに巻き込まれるのだ。

 もうすでに記憶喪失アルビノ少女をやっている時点でやばいことに巻き込まれているとか言ってはいけない。

 真実は時に人を傷つける。考えない方がいいこともあろう。

 

 今歩いている場所は大通りだ。

 いくら危険なHLと言えど、流石にここで即死トラップが発動することはないだろう――と高をくくっていた俺の目の前の店舗が爆発四散した。

 

「あ……ぶない、ですよ」

「これはこれは、ごしんせつに、どうも」

 

 首元を引っ張られて、俺は突如ぶち破られたショーケースのガラス片を被らずに済んだ。

 それよりも、ぶち破られたガラスから現れた、足元キャタピラの異界人に轢かれずに済んだ、という方が大きい。

 その場に立っていたら間違いなく死んでいたことだろう。

 異界人は一人ではなく、大小さまざまな異界人を引き連れ、何かを書かれたプレートをもって、声高に叫びながらまっすぐ進んでいった。あらゆる建物を破壊しながら。

 俺は未だに首根っこを掴んでいるツェッドを見上げながら、彼の言葉を聞いた。

 

「クライスナー・ガラドナ合意へのデモ行進ですね。毎年このくらいの時期になると派手にやるんです。言わずもがな人肉食愛好家たちなので、近づかない方が良いでしょう」

 

 デモ行進という割には随分暴力的だったが、これもHLの日常ということか。

 それから俺が近づいたわけではない。デモ行進の方が近づいてきたのだ。

 行進というのならせめて道を行ってほしいものだな。道を作るな。

 

「すみません。後をつけたのは、やはり心配だったので。他の街ならば、家出をするにも事情があることでしょうし、むやみに首を突っ込むべきではないと承知しています。あるいは警察に任せるべきとも。ですがここはHLだ。幼い少女がひとり歩きするには、あまりに危険すぎる」

 

 いいやつかよ。

 

「けいさつや、いえにつきださないなら、ぜんぜん、ついてきてもらってかまわないんですけど」

「わかりました。約束しましょう」

「おお。とてもはなしのわかるひとだ」

 

 俺が逃げ出したりしないと思ってくれたようで、ツェッドは首根っこをようやく離してくれた。

 

「ツェッドと言います。ツェッド・オブライエンです。あなたは?」

「うーん、じゃあ、ドゥとよんでください。ツェッドさん」

 

 記憶喪失なので当然、己の名前を知らない。

 ジェーン・ドゥ(身元不明者)からとってドゥ――ちょっと安直すぎたか。

 

「治療をしてもいいですか?」

「え、ぜんぜんげんきなので、おきになさらず」

「小さな傷を侮らない方が良い。ここから破傷風になることもあります」

「かんぜんにせいろんだ。まけたぜ」

 

 ちなみに俺はロリのため、舌がいまいち回っていない。

 活舌がよかろうと、彼に舌戦で勝つことは難しそうだ。俺は正論パンチに弱いぞ。

 

「ツェッドさんは、なにしてるひとですか」

 

 公園で足を洗われた後、ツェッドがハンカチを裂いて俺の足に結んでくれている。

 

「では、仕事の一部を見せましょうか」

 

 えっ、ここで秘密結社ライブラの仕事を!?

 ライブラについての情報は非常に高値で取引されているという話だった気がするが、そんなもん知らされても困るぜ!




書くのが難しいからだよ(思い知った)
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