時は遡る――しかし、これは未来の話であった。
つまり、どうやって俺は過去に飛び、なぜハンバーガーを運んでいたのかという話である。
「世界を滅ぼすために創られたそれらを
堕落王、フェムト。
もうほんの数十秒で世界が滅びてしまってもおかしくないこの瞬間、俺は彼の前で提案していた。
あらゆる奇跡が重なって、俺はこの機会を得ている。最後の大博打だ。
「世界滅亡って題材には飽き飽きだが、かといってその逆ならまだ楽しめるか、と言われると必ずしもそうではない。私はそんなに悪趣味ではないつもりだよ。わざわざ誰かの作品を冒涜しなければ己の価値を証明できないほどガキでもない」
フェムトの返事を聞いて、俺は肩をすくめた。
「あなたのプロファイリングを間違えたか。堕落王は喋った内容が結構記録されてるってのに、いい口説き文句を思いつけなくて申し訳ないね」
フェムトはソファにぐでんと体を預け、彼が右手に持っていたマグカップからはコーヒーがだばだばと零れていった。
彼の後ろに控える2体のオートマタは、それを見ても微動だにしない。
「ま、いい線いってたかもしれないね。今は恐ろしく暇なんだ、もうちょっと聞いてやってもいい」
「それは嬉しい」
世界崩壊寸前の今「恐ろしく暇」と言えるのは彼くらいだろう。
過去の映像や、HLで直に見てきた、生き生きとしたフェムトとはまったく違う姿だった。
いままでのアレらは、最高の思いつきをして、みんなにも見て欲しいと最高にハイになっている堕落王だったのだな。
今の彼は暇つぶしに苦心しているらしい。
そろそろ世界も滅んで、彼のおもしろ自由研究発表を聞いてくれるやつらもいなくなってしまうだろうし、当然ではある。
「じゃ……過去への投資というのはどうだろう。あなたはあんまり暇だ。
プレゼン内容を推敲する時間もない。
俺は適当に思いついたことを言った。
「未来のあなたから、過去のあなたへ、暇つぶしのプレゼント。それならどうだろう」
俺にフェムトの暇つぶしを考えるのは無理だ。
だが、フェムト自身にならばできるだろう。
問題は、結局
「ギリギリ及第点だ」
フェムトは起き上がり、コーヒーを飲もうとしてようやく、中身を一滴残らず床にぶちまけたことに気がついたようである。
依然として、俺に時間はない。
手に持っていたブレスレットを、フェムトに差し出す。
厳重に保管されていたのを、色んな人に協力してもらってなんとか入手したものだ。
フェムトはひょいと指でつまんで、
それに世界を滅ぼす力があるとは思えぬほど、ぞんざいな扱いである。
「あなたと違って、俺は過去の俺の方が優れていると思っている」
時間はないが、俺はさらにプレゼンを続けなければならなかった。
願ったことのある人は多いだろう。「あの頃に戻れたら」と。
あの頃が一番よかった、たとえ不便でも――思い出が美化されてそう思うのかもしれない。
その真偽を確かめることは普通はできない。人は過去には戻れないからだ。
今の俺は、そこに手を伸ばそうとしている。
「凹虎雷魂は過去に行った際、過去の己を
「いいよ、バックアップ保存、可逆圧縮によるデータ送信と変換くらい手間じゃない。役目を終えたら君が消えればいい。トリガーはブレスレットを外した時だ。はい」
カチャリ、と軽い音を立てて、俺の手首にブレスレットが嵌った。
「……こういうのってもうちょっと覚悟させてくれるものでは?」
「もうガンギマリって顔でやって来たのにかい?」
「まあいいか……」
確かに、すでに覚悟は決まっていた。
ここから先の交渉が本番、と思っていたのに拍子抜けである。おまけのように受け入れられてしまった。実際そうなのだろう、彼にとってその程度の改造は。
「君が望む機能はつけてやった。後は過去の僕の暇を吹き飛ばすほどの研究成果、その内容について精査するだけだ」
「うわーっ、流石堕落王仕事が早い」
「うーむ、何を送るか……」
ならば、これからの俺が何をしようと、すべては自暴自棄にならない。
俺には希望がある。
今の俺がどうなろうが、昔の俺の幸せを守るためのことだ、と言い訳できる。
「最後にやり残したことでもやってくるといい。準備が出来たら勝手に起動するから」
「えーっ、俺って自分でタイムマシン起動するタイミングも選べないのかよ。まあいいか……」
「死ぬタイミングは選べるだろ」
「うん、だからまあいいかって……」
確かに、死ぬ覚悟ももう決まっている。
最後にやり残したこと……うーん。
強いて言うなら、この世界の俺はまともに働いたことがない。
無職のまま死ぬのもなんだし、バイトくらいやってみるか――俺は履歴書を書いた。
盗んでないよ(大嘘)