俺に世界の命運がかかってるってマジ?   作:九条空

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古のオタクだから最後で雑になる縦読みが好きなんすよ


Re:

「ドゥ……!」

「え、なに? なんかあった?」

 

 気がつけば、ダイアンズダイナーにいた。

 俺の目の前にはライブラのみんなと、完食済みのハンバーガーセットの残骸がある。

 気づかないうちに飯食ったの、俺? 夢遊病にでもなった?

 

「欲しいものあったら、アタシがなんでも買ってあげるからね……!」

 

 己の病気を疑っていると、なぜかK・Kが涙目で俺に提案した。より困惑する。

 

「え!? なんで!? 俺誕生日だった!?」

「今日を誕生日にしよう」

「なんで!? いいけど!? やったあ!?」

 

 スティーブンがそう言ったので、俺は困惑を極めながらも諸手を挙げた。

 確かに俺は自分の誕生日を知らない。

 皆が今日にしたいというのならまったく異論はないけれど、急に何マジで。今日はケーキの特売セールでもやっているのか?

 

「あれ? さっきまでここにいたお姉さんは帰った?」

 

 配膳のために通りがかったビビアンがそう言うと、皆が慌てた。

 

「あ、ああ、まあね!」

「ドゥはいつ来たの? なんか食べる?」

「それが俺も覚えてねえし、腹も不思議と減ってない」

「……あ、そういやあのお姉さんちょっとドゥに似てたような――」

「しーっ! しーっ!!」

「いや、最初から誰もいませんでしたよ!」

「はあ? じゃあそのハンバーガーセットは誰が食べ――」

「しーっ! しーっ!!」

 

 事情はよくわからなかったが、とにかく俺に知られたくない何かがあるのだということだけは確かだった。

 俺はガキだし、その性質も変わっているので、彼らが俺の耳に入れたくないことが山ほどあるのは理解しているつもりだ。

 自分でも悲しいニュースはできるだけ知らないように気をつけているのだ。落ち込まないように。

 俺はできるだけ耳を遠くするよう心がけた。

 

 気を逸らすために鳴らない口笛を吹いていると、ザップが俺の方にずいと体を乗り出した。

 

「おいお前、ちょっと俺のこと愛してくれ」

 

 突然愛に飢えたザップ、何?

 

「どうした? 彼女全員に振られたのか? 可哀想に、大丈夫だよザップ、お前ならすぐ新しい彼女見つけられるって。見つけない方が世界のためだとは思うけど」

「違ェよ! 俺のことを世界のすべてだと思うくらい愛せ!」

「情熱的じゃん!? その告白台詞なら成功すると思うよ!?」

 

 ザップは瞬間、氷漬けになった。

 チェインが巨大な氷(ザップ)を蹴り、俺の視界の外へと滑らせていった。

 すごい、この光景、星のカービィとかで見たことがある。

 あるいはマリオだ。ノコノコの甲羅が滑ってく時みた~い。壁にぶつかって戻ってくることはなかった。

 

 ザップは視界から消えたが――な、なんだったんだ?

 なんで誰も説明してくれないんだ? PG-12な内容なのか?

 詳細を尋ねたくて仕方がないが、俺は聞き分けのいいガキを心がけている。

 存在しているだけで迷惑をかけているのだ。これ以上は避けたい。

 

 困惑する俺を置いて、皆は張り切っている。

 

「今日はパーティにしましょう!」

「では招待状を作ろう」

「パーティが始まるまで俺と遊びますか。何する? 桃鉄?」

 

 うっかり世界を滅ぼしかけてから、俺が個人的に禁止していた桃鉄を提案してくるレオの挙動もおかしい。

 この手厚い歓迎は本当になんなんだ。俺はこれから死ぬのか?

 アステカの生贄みたいに、神に捧げられて死ぬことが決まったら、生きてる間はたらふく豪華な飯を食えるというヤツ?

 

 無償の厚意、怖い……!

 

 ちなみに、パーティの途中で堕落王フェムトのいつものが始まり、俺以外の全員が出動した。

 寂し~。俺がなにしたってんだよ~。

 

 パーティ会場から出ていくクラウスは、とてつもなく辛そうな顔でこう言った。

 

「すまない、必ず、すぐに戻る……!」

「そ、そんな血反吐吐きそうな顔しないでくれ。俺のことはいいから、とにかく無事で戻ってきてくれよ」

「この命にかえても……!」

「いや命にはかえちゃだめなんだって、わかってる?」

 

 クラウスがこのテンションなのは、彼の真面目さから理解できるが、ザップ以外全員割とこのテンションだったので異様だった。

 ほんとなに? 俺のお誕生日パーティ、知らない間に世界平和がかかってる? HLならなんか全然ありそうだけど?

 

 俺が望んで開催されたパーティではないが、間違いなく俺のためのパーティだった。

 その気持ちは嬉しく、突如開催された理由はわからずとも、精一杯楽しもうと思っていたのにこれだ。

 やっぱ前世の行いが悪かったんかな……それに関しては、オムニアの天秤とかいうものやらされてる時点で償ってんだと思ってたんだけど……。

 

 俺はハッとして、丸まりかけていた背中を伸ばした。

 いけない、落ち込んではならないという当たり前のことを忘れかけていた。

 

 特に今、ライブラが世界を救うために戦っているのだとすれば、天秤の影響は彼らにダイレクトに向かう可能性がある。

 彼らの失敗が世界の崩壊に直結するのだとしたら――俺の気分の落ち込みは、彼らを害することに成りうる。

 

 その考え自体が俺を不安にさせ、心臓がちょっとキュッとした。やばい、負のスパイラルに陥りそうだ。

 今日の皆がいつもと違っていたから、俺も調子を狂わされているらしい。

 

 俺の目の前に、マグカップに入ったホットミルクが置かれた。ギルベルトである。

 俺は少し安心した。彼はいつも通りだ。そして俺はひとりぼっちではない。

 

「不安なことがございますか?」

「言うと不安になりそうだからやめとく」

 

 ギルベルトは「言いたくなったら、いつでも」と言って微笑んだ。

 スマートだ。格好いい。俺もいつかこういうジェントルマンになりたい。

 そんな彼だから、言いたくなった瞬間は、ものすごく早くにやってきた。

 

「スティーブンに頼んで、俺の拷問の記録を見せてもらった」

 

 どんな拷問をされてきたかは、俺自身が覚えている。

 しかし、それをどのように記録されてきたのかは知らない。

 

「どういう拷問なら平気なのか、確認して安心するために。俺は心構えをしなきゃならない。苦手を避け、できたら克服しなきゃね」

 

 あの研究所では、俺の機嫌を脳波で測定し、世界の均衡は良いニュースと悪いニュースの数で把握していたらしい。

 

 どんな拷問でも平気だ、と楽観できればその方がよかった。

 だが、俺にだって少しばかり不安になる時がある。

 それは大抵、俺の身に何も起きていない時なのだ。

 俺はきっと肉体的な拷問には強いが、精神的なものにはとんと弱い。

 

 俺の心を最も揺さぶれた拷問は、『俺の目の前で研究員を殺すこと』だったらしい。

 なるほど、と納得する。

 

 当時の俺は「なんで!? 事故!? 仲間割れ!?」と困惑しビビり散らすことしかしてなかったが、もっと察しが良ければ危うかった。

 つまり、俺のために人が死んだ、と感じていたらもっと()()()()を出してしまっていただろうということだ。やっぱアイツ拷問が下手すぎる、才能なくてよかった。そして俺が状況を読めないアホでよかった。

 

 その方向性で攻めていたら、もしかしたら世界の崩壊に成功する日がやってきていたのかもしれない。

 研究員をホイホイ殺せるほどの財力がなかったことは幸いだった。裏切り者の粛清ついで、というコスパ重視でなければ行われなかった拷問だったのだろう。

 これもその時の俺が知っていたらもっと大変だったはずだ――つまり、俺を助けようとしていた人が、俺のために死んだという事実は。

 

 事態の発覚を恐れ、迂闊に研究所の外の人間に手を出さなかったことも、俺にとっては助かった。

 

 俺のせいで人が死んだら、大規模森林火災くらいは起こしてしまうかもしれない。

 俺だっていつもメンタルが安定しているわけではないのだ。

 

「自分の弱点を把握して覚悟してたつもりだったが――お誕生日会を全員欠席されるという()()は、思いのほか響く」

「私がおりますよ」

 

 ギルベルトは、やはりスマートなジェントルだった。

 俺は意地を張るのをやめて、大人しく背中を丸めた。

 

「オムニアの天秤の力でみんなを手助けできたら、みんなも早く事態を解決できて、俺のためにもなるんだろう。でも、誰もいないお誕生日会で楽しい気持ちになるのは、俺が嫌なんだ。みんながいなくても、どうでもいいみたいで」

 

 オムニアの天秤としての生活はそこそこ長くなってきた。

 俺はいつでも気分よくいる方法をかなりの数知っているし、そうでなくとも平常心を保つ技術はなかなかのものだ、と自負している。

 

 けれど今は、知っているどの方法も使いたくなかった。悲しいことを、悲しいと思いたかった。

 世界よりも自分を優先するなど、ヒーローとしてはあるまじき行為だろう。

 でも俺、ヒーローになったつもりはないし、どっちかといえばヒーローの足を引っ張る足枷みたいなもんだ。

 

「俺って悪い子なんだろうか」

 

 幸せなままに死ぬ方法を考えた方が、間違いなく世界のためだ。

 それをやっていない俺は、悪人だろうか。

 やらない理由をみんなに求めている時点で、俺は優しい彼らに漬け込んでいる。

 

 さて、弱音を吐くのはここまでだ。

 慣れないもんで、無駄に話が長くなってしまった。

 俺はいつもの笑顔でギルベルトを振り返った。

 

「生まれて初めてネガティブになっちゃった、忘れてくれ――」

「忘れられるかァーッ!」

 

 振り返ったらギルベルトがレオになっていた。

 しかも泣いている。K・Kは目元にハンカチをあて、クラウスは背中を向けていたが小刻みに震えていた。

 俺は叫んだ。

 

「キャアーッ! いつから聞いてた!?」

「どんばのばべぼばばべふぼ……!」

「ごめんなんて!?」

 

 レオの涙声は一言も聞き取れなかった。

 

「BBQ……! 遊園地……! 水族館……!」

「K・Kが娯楽の種類しか喋れなくなっちゃった!」

 

 新手の感染症!? ボキャブラリーが失われるキノコでも食べた!?

 慌てているのは俺だけで、誰も気にしていないのが怖いんだけど!?

 

「いやそんなことよりみんな怪我してないのか!? 病院行ったのか!?」

「全員無傷です」

「すごいな! よかった!!」

「約束しましたから」

 

 ツェッドの言葉に偽りはなさそうだ。皆服こそ汚れてはいるものの、誰も血にまみれていない。返り血さえも浴びずに帰ってきたようだ。

 あの堕落王が引き起こしたイベントをノーミスクリアとは、おみそれする。

 

 俺の落ち込みの影響が行ってしまったかもしれない、というのは杞憂に終わったらしい。

 ここにも聞こえるほど外でドッカンドッカン大騒ぎが行われていたので、皆大怪我して帰ってくることを覚悟していたにもかかわらず。

 

「明日も誕生日にしよう。書類は任せろ」

「誕生日が2日に渡るヒューマーっているの!? 無茶するなよスティーブン!」

「映画館……! ピクニック……!」

「どぼぼぼぼ……!」

 

 と思ったけど俺ってヒューマーではない!? いけんの!? 俺が混乱しそうだから1日でいいけど!? 相変わらずK・Kはエンタメしか喋ってないし!? レオは濁点しか言ってないし!?

 ハテナを飛ばしていると、俺の頭をザップが鷲積みにした。

 

「おい、続きやんぞ」

 

 ザップの言葉に、俺は笑顔で「うん」と答えようとして――皆にザップから引き剥がされた。

 チェイン、レオ、ツェッドが俺とザップを遮る壁になった。

 

「ドゥに近づくな猿」

「触らないでほしいっす、ハレンチが伝染る」

「今日ばかりはドゥの視界に入らないようにしてください、できれば僕たちの視界にも」

「なんか今日みんなザップに厳しくない!?」

 

 さっきまで泣いてたレオが一気に正気を取り戻している。

 先程の事件で何かやらかしたのだろうか。

 その疑問には、スティーブンが答えてくれた。

 

「いつも通りだろう」

「……。そうかもォ……」

 

 思い返せば、いつもこんなもんだった気がしてきた。

 

 クラウスの震えが止まり、喋れるようになるまでには、1時間以上かかった。

 

 それから、パーティには異界産の蟹が山ほど出た。

 なんか最近大量発生したらしい。大変だね。おいしいから処理には困らなさそうだ。

 数日後のザップは安いからと食いすぎて異界蟹アレルギーになっていた。南無三。

 

 なにはともあれ、初めてのお誕生日パーティは楽しかった。

 

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