俺がどうしてもダイアンズダイナーに行きたいと駄々をこねたので、各々治療を経たのち集合となった。
ほとんど貸し切り状態である。
ほとんど、であって決して貸し切りではない。
これから結構世界的な機密っぽい内容を話すかもしれないが、大丈夫だろうか。まあいいか。
「うますぎる……! 生きててよかった……!」
「大げさなお姉さんだな~。まあウチのはうまいけど」
運ばれて来たハンバーガーセットを頬張り、俺は涙した。
それを見たビビアンは呆れた様子であったが、俺はサムズアップをした。
ビビアンは肩をすくめただけだが、キッチンでマスターがサムズアップを返してくれた。
「いや~いい冥土の土産になった」
ハンバーガーを食べ終え、残りのポテトをゆっくりつまみながら呟くと、レオが尋ねる。
「なんで死ぬ気なんすか」
「そりゃここがHLだから」
「あ~」
レオは気の抜けた返事をした。
ここがHLだから、常に死んでしまうかもしれないことを考えていたところで「あ~」で済む。
さて、さすがにそろそろ真面目な話をしなければならないだろう。
「もう一度自己紹介しておく? どうも、終焉の書に記載された42の世界崩壊幇助器具の一つ、オムニアの天秤の適合者だ。ドゥとでも呼んでくれ」
自己紹介を終えた俺は、続いて本題に入ろうとする。
「で、みんななんで俺が急にデカくなったかって聞きたいわけよな。そのためにはもういっこ紹介しなければならないものがある」
俺は右手を上げ、袖をめくった。
手首のブレスレットを見せ、俺は言った。
「ご紹介しよう。終焉の書に記載された42の世界崩壊幇助器具の一つ、
「2/42がここにあって世界滅びてないのすごいっスね」
「ね~」
「ね~じゃねんだよアホ! ンな危ねェもん盗んできてんじゃねえ!」
のんきに会話を続けたレオとは異なり、ザップは俺にブチギレた。
俺は心外だ、という表情を作った。
「盗んでないよ」
「バカが、そりゃすでに存在が確認されてて、適切な機関で超厳戒態勢で保管されてんだよ! 盗んでなかったらなんなんだボケ!」
「ドゥの言うことは真実だ。凹虎雷魂は未だ正しく保管されている」
「はァ?」
俺が凹虎雷魂を見せた瞬間にスマホを取り出し電話をかけ始めたスティーブンは、確認を終えたのか通話を終了しながらそう言った。
「レプリカですか?」
「いや、本物」
ツェッドの問いには俺が答える。
「凹虎雷魂がどうやって世界を滅ぼすか説明しよう。これは終天圧縮時計と似た系統の器具だ」
「時を操る?」
「いい線いってる」
チェインの回答を褒めた。
こうして目の前に、さっきまでよりも随分成長した俺がいることで、その推測はすぐに立てられる。
どうして俺がでかくなったのか、という理由はこうだ。
「これを使うと過去に飛べる。普通にタイムマシン。それだけ」
なぜ俺が一瞬にして成長したのか。それは時をさかのぼってここに来たからだ。
「それだけで世界が崩壊するんスか?」
「タイムパラドクス」
レオの疑問には、クラウスが答えた。
それで正解だったので、特に訂正することもない。
「うん。過去になかったものが現れることにより、未来が変わる。その時点で、俺がやってきた未来の世界は再現不可能になり、あの世界は
凹虎雷魂をつけたのと反対の指で、ブレスレットをくるくる回す。
今にも外れてしまいそうなほどに緩いが、そのほうが好都合だ。
いざというとき、これをすぐに外せないのは困る。
なんでもないことを言う口調で、俺はつづけた。
「俺、世界滅ぼしてきちゃった」
ザップが大きな口を開けて俺を指さしたが、何か言葉を発する前に、隣のスティーブンがザップの口を押えた。英断だ。
俺は冷静さを保ったまま、解説を続ける。
「凹虎雷魂が悪質なのは、こうして無限に増える可能性があること。俺が持ち込んだのは、俺のいた世界、未来の凹虎雷魂だ。過去を変えようとして、この時代にタイムトリッパーが来るたびに、この世界に凹虎雷魂が増える。世界を崩壊させる手段が増える。鼠算みたいで最悪だね」
「犯人がほざきやがっ……」
スティーブンの手のひらを躱したザップが少し喋ったが、次はツェッドに羽交い絞めにされた。
そのうえでスティーブンに口の部分を氷漬けにされることで黙らされている。凍傷とか大丈夫なのか。
「この凹虎雷魂は、後でここのと同じように厳重保管してね、世界を滅ぼしたくないのなら」
「今できない理由は?」
「
世界崩壊幇助器具がそのへんをほっつき歩いていることなど、大した世界の危機じゃない。
事実、俺がライブラに保護されてから数か月、世界は滅びなかった。
まあちょっと危うい瞬間は何度かあったが、大事なのは結果である。
そして俺がこれだけデカくなる間にも、俺のせいで世界が滅ぶことはなかった。
「そうまでしてこの時代にやって来た理由を、お聞かせ願えますか」
「ダイアンズダイナーのハンバーガーが食べたかったから、って言ったら?」
「あなたの世界では、もう食べられなかったというのですか」
クラウスに敬語を使われ、ちょっと悲しい気持ちになる。
だがすぐにそれを忘れた。俺は悲しい気持ちになってはいけないからだ。
あまりいい気分になっても本当はいけない。その理由は――まあいいだろう。
「世界一つ滅ぼしてでも、救いたい世界があったからここに来た」
俺はポテトをひとつつまんで、口の中に放り込んだ。
バイト先で提供されていたものとは異なり、今度のポテトは揚げたてサクサクである。
最後の晩餐は、やっぱりダイアンズダイナーがいい。