いかにアニメの主人公やそのライバルだからといっても万能ではない、なお話。
居心地悪いだろうから、と一言断りを入れてジェイドが外へ出た少し後。
「キングの二人はまだ立ち直れてないのか?」
「そういうわけじゃなさそうなんだけど……」
クロウとアキが心配するのも無理はない。二人は互いに向かい合うようにして座り、同じカードを手にしていた。
見えるはずだけれども、見えていなかったもの。《バスター・モード》。
「善意だからこそ、クるな」
遊星が呟く。
かつて地縛神の攻撃を受けた瞬間の悪夢を何度も見たように、機皇帝がシンクロキラーたる効果を使う衝撃的な場面を繰り返し夢に見る。
……エースである《スターダスト・ドラゴン》が助けてくれと咆哮をあげるも、成す術なくフィールドから消え、奪われる。
この夢が現実になった時の恐怖で視野が狭くなっていたのは否定しない。一人で考え込んでいたらシンクロを完全に捨てたデュエルをしようと迷走したかもしれない。
だからこそ、ジェイドが機皇帝と戦った事実は己の感情を共有できるかもしれないという喜びを心のどこかに作り出した。
……まあ、その感情はシンクロを使わない【メメント】ではシンクロキラーに恐怖はそこまで無いと気付くことで萎み、質問によりトドメを刺されてどこか遠くに吹き飛んで消滅したのだが。
「毎度毎度思うが、そう簡単にカードを変えて理想のフィールドを作れたら苦労せんわ!」
「だとしても変化が必要なのは事実だろう」
ジャックは憤慨するも、遊星としてはあの発言に対して納得はできる。
……幼い頃からジェイドは拾い集めたカードを遊星だから、ジャックだから、と説明不足かつ無条件な信頼と共に渡してきた。
そのカードがデッキに合わないという訳ではないのだが、特定のシーンでしか使えないようなものもあった。そこを尋ねると「遊星ならきっと使いこなせるから」とやはり理由の足りない答えと笑顔で返される。
昔から優れた決闘者は必要な時にカードを引き込む力がある、と言われる。そう思われていたのは悪い気持ちはしないのだが、あの時渡されたカードで命拾いすることが何度かあった。
ピンポイントな先読み……まるで、未来を知っているようで。考えすぎか、と首を横に振って追い出す。今考えるべきは新たな戦術だ。
シンクロ召喚は一部シンクロ素材の指定などはあるが、ある程度リカバリーが効く。
《バスター・モード》は違う。強化形態を出せるのはデッキからのみであり、もし手札に来てしまったら使い物にならなくなる。
《バスター・モード》を使える状態を確実に作れるのか、そもそもいつ襲いかかるかわからない相手のために常に特化構築のデッキにするリスクは大きい。
「ジェイドが最初に言った方法は対処されやすいだろう。かといって何もしないのは問題外だ」
確かに機皇帝対策にできるが、どれも皆が知っている普通のカード。敵もシンクロキラーへ対策されることはわかっているだろう。
《バスター・モード》により現れるシグナーの竜は人前で使ったことはないため意表を突けるかもしれないが、恐らくそれだけでは足りなくなる。
「誰も知らない新たな力……やはりアクセルシンクロか」
未だ習得できていない未知なる力。相手ターンでのシンクロ召喚、機皇帝の魔の手から逃れつつエースモンスターを出す。
それができれば、きっと。遊星の手に力が入る。
「シンクロに対して無敵だと驕る相手をシンクロモンスターで粉砕する――エンターテインメントとはテンプレートを基礎に成り立つものだ」
なぜか突然ジャックが盛り上げ方のレクチャーを挟んでくる。
「機皇帝を恐れているお前が必要とするのはきっと成功体験だ。劣勢を覆し流れを自分のものに変える。その興奮を機皇帝相手に一度だけでいい、経験してみろ。……機皇帝のプロキシを作ってジェイドに練習相手を頼んでみるのがいいかもしれんな」
「……ありがとう、ジャック」
「フン! 近くにずっと優柔不断なヤツがいたらオレも調子が狂うだけだ!」
感謝の言葉を言われて照れ臭くなったのか、ジャックは遊星と目を合わせぬようそっぽを向き口を尖らせる。
これなら心配いらないな、と見守っていたクロウとアキは胸を撫で下ろす。
「そういえば龍亞と龍可は?」
「カード拾いの謎を突き止めるんだーって、尾行中」
「……ぜってー途中でバレて一緒に帰ってきそうだなあ」
クロウが天井を見上げてこれからなるだろう可能性が高い未来を語る。頭の中でその映像がすぐ再生できたのかアキは微笑んだ。
『きらわれたくない。ひとりになりたくない』
「龍亞、何か言った?」
「え、特に何も……」
二人は今世界七不思議に数えてもいいほどのミステリーを真剣に追っている途中なのだ。余計なことや嘘は言わない。
「多分精霊じゃない、んだよね? なのに声がした……もしかしてオバケ、とか?」
龍亞は実際に姿形のあるオバケを見たことがあるしデュエルをしたこともある。けど、時間帯とか場所があの時と違うから断言はできない。首を捻りながら龍可が聞いた謎の声の正体について考える。
「うーん……悪い気配はしないし、もし悪い幽霊なら精霊達が黙ってないと思うし。空耳かなあ」
オカルトなことに対して敏感な龍可がセーフ判定なら大丈夫だろう。そうだよね、と納得した二人は会話をやめて問題のジェイドの動きを注視し――。
『ふたたびひとにつかわれたいとのぞむものは、ここに』
「あ、カード拾ってた!」
二人で会話していた時に行動が終わっていたのだろう。どこにあったカードかは分からないが、確かにジェイドはカードを手にしていた。
どこにあったのか見たかったなー、まだ粘ってみる? と相談しながら双子はコソコソ接近を開始した。
元気もりもりメメント・モリ(困惑)。
ジェイドは手にしたカードを確認し、非常に困っていた。《サイキック・リフレクター》。なるほど《バスター・モード》を話題にしたからってワケねハハハ。
「いやおかしいでしょなんでこの時代にあるの」
前世の記憶を全部保持できていないジェイドだが、流石にこのカードが今あったらおかしいのは分かる。どうしてここに? 自力で脱出を?
振り向けば慌てて隠れる緑髪が二つ。龍亞と龍可だ。自分を迎えに来たのかもしれない。
カードを持っているところを見られている可能性は高いが、どんなカードかまでは分からないはずだ。なんとかしてごまかそう。デッキケースの中にしまう。
このカードを誰かが落としたとする場合、候補はアンチノミーか? 《
アンチノミーは遊星を助けることを目的としているので、アクセルシンクロを教えつつ《バスター・モード》とシンクロ召喚に便利な《サイキック・リフレクター》も、はあるかもしれない。だとしてもこんなところで落とすだろうか? 明確な答えは出ない。
「二人とも変な姿勢でいるのつらいだろうから出てきてもいいよー」
隠れているつもりだが隠れきれていない二人に向かいジェイドは真っ直ぐ、迷いなく声をかけた。ちらりと見えていた緑色の結んだ髪がびくっ、と大きく揺れる。……数秒後、観念したようで建物の影からひょっこり出てきた。
「もしかして最初からわかってた?」
「そこはノーコメントで」
「それがもう答えじゃんかよー」
ジェイドを真ん中に、龍亞と龍可は両脇を挟むように並ぶ。あの事をきっかけに皆の仲が悪くなってしまったらどうしよう、という二人の不安はジェイドの声の調子や顔色がいつも通りに戻ったのを確認し綺麗さっぱりなくなった。
散歩による気分転換……というより己のカード拾いについての謎が増えた事でそちらに頭を使い、結果として機皇帝対策についての悩みが軽くなったのだが、二人がそこまで気付けるはずがない。
「それにさ! ね、ね、カード拾ってたでしょ! 見せて!」
期待でキラキラと光る目には悪いが、未来のカードを見せてしまったら幼い二人が原作以上にイリアステルに狙われる可能性が高まる可能性がある。
「ないしょ」
ジェイドは人差し指を口に軽く当て、イタズラっぽく笑った。
「――ジェイド、デュエルをしよう」
両手を双子に繋がれて帰ってきたポッポタイム、遊星はガレージの前で待っていた。
何かしらの答えを見つけたのか、これからデュエルの中で探すのかは分からないが、挑まれたのならば応えるのが礼儀。
「うん。いいよ」
特に理由は聞かずあっさりと受け入れる。あいてをこばむようなことをしてきらわれたくない。
「「デュエル!!」」
起動したデュエルディスクが先攻を取ったのはどちらかを示す。
――今回のデュエル、先攻は遊星だ。
「俺の先攻! ドロー! 魔法カード《調律》を発動! デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加え、デッキの上から手札に加えたチューナーのレベルの数だけカードを墓地に送る」
墓地に送られた中にはモンスターカード、《ロードランナー》。
「《ジャンク・シンクロン》を召喚し、効果で墓地の《ロードランナー》を守備表示で特殊召喚! また、自分の墓地からモンスターが特殊召喚されたことで《ドッペル・ウォリアー》を手札から特殊召喚する!」
《ジャンク・シンクロン》
星3/守500
《ロードランナー》
星1/守300
《ドッペル・ウォリアー》
星2/守800
「ウッジャンクドッペル」
オレンジの可愛らしい機械戦士により墓地から呼び出されたピンクの鳥に、手札から飛び出した黒づくめの兵士。
ジェイドの前世の記憶によるトラウマが首を絞められたようなか細い声で発せられた……が、幸運なことに皆には聞こえなかったようだ。
「レベル1の《ロードランナー》とレベル2の《ドッペル・ウォリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング! ――疾風の使者に鋼の願いが集う時、その願いは鉄壁の盾となる! 光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れよ、《ジャンク・ガードナー》!」
《ジャンク・ガードナー》
星6/守2600
遊星がまずシンクロ召喚したのは全身を緑色の装甲で覆った戦士。
相手ターンにも使用することが可能な表示形式を変更できる効果を持ち、攻撃を止めることに特化したまさしくガードナーの名に相応しい効果を持つシンクロモンスターだ。
「シンクロ素材として《ドッペル・ウォリアー》が墓地へ送られた場合、自分フィールドに《ドッペル・トークン》2体を攻撃表示で特殊召喚する」
《ドッペル・トークン》
星1/攻400
《ドッペル・トークン》
星1/攻400
シンクロの光が消えた後にフィールドに残る影――ドッペルゲンガー。もう一人の自分。世界には同じ顔の人間が三人はいる、という説に基づくのか2体のトークンが出現。
モンスターを増やしたが攻撃表示のまま残しては攻撃のいい的になってしまう。いくら攻撃を防ぐための《ジャンク・ガードナー》がいるとはいえ、遊星がこんな中途半端に展開を終わらせるはずがない。
「フィールドの《ドッペル・トークン》1体を除外し、手札から《異次元の精霊》を特殊召喚!」
《異次元の精霊》
星1/守100
ジェイドの信頼を裏切らないように特殊召喚された天使はチューナーモンスター。
《ドッペル・トークン》はトークンであるため、除外されてしまえば消えてしまう。故にフィールドに残るモンスターの合計レベルは変わらない。
目先の弱点である攻撃表示のトークンを新たなシンクロモンスターにするべく、遊星は再び口上を述べる。
「レベル1の《ドッペル・トークン》に、レベル1《異次元の精霊》をチューニング! ――集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光さす道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》!」
《フォーミュラ・シンクロン》
星2/守1500
二度目のシンクロ召喚で姿を見せたのはレーシングカーに腕と足をつけたような、まさしくスピードの世界で生きる者であると主張するシンクロモンスターにしてチューナーモンスター。
「シンクロチューナー……つまり、シンクロでありチューナーでもあるということ!?」
「遊星め、いつあんなカードを手に入れたのだ」
シンクロチューナー。それはアクセルシンクロの要となるモンスター。シンクロ全盛期なこの時代だがシンクロチューナーは一切見なかったので、未来人な謎の
「《フォーミュラ・シンクロン》の効果を発動しデッキから1枚ドロー! カードを2枚セットし、ターンエンドだ」
フィールドにいるモンスターのレベルの合計は8。シンクロチューナーを使っての更なるシンクロ召喚はせず、守備を固めて遊星はターンを終えた。
……あれ、アクセルシンクロって相手ターンにシンクロ召喚することを指すんだっけ? ライディングデュエル限定? 《フォーミュラ・シンクロン》の相手ターンシンクロ効果ってこっちの世界にあったのだろうか? その辺りの記憶もあやふや。
自分の手札を見る。……初動が1枚しかない。気のせいなのだろうが、自分はこの世界に馴染まないモノだと言われているような気がしないでもない。
「まあ、なんとかするしかないか」
始まってしまったデュエルに待ったは存在しないのだから。
初動がたくさん入れてあるはずなのに全然手札に来ないのはよくあること。