石造りの心臓   作:ウボァー

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僕らの後夜祭アカデミア

 コスプレデュエル大会は終わった。一日がかりのイベントが終わり、日は落ちて暗くなり、人々の熱気は薄まり季節らしい寒さを取り戻していく。

 ほとんどは片付けと新たな準備で忙しなく動いているため温度を気にしていない。しかし、衣装の都合で手伝えない彼女は体を動かしていないためか冷えを感じていた。

 ジェイド・アトラスは彼女の格好を見て疑問を抱く。

 

「アキちゃんはそのままで後夜祭に出るの?」

 

「着替えする時間が取れなくて……」

 

 主席へと与えられたのは《ブラック・ローズ・ドラゴン》のカラーリングに寄せた黒と赤のドレス。

 スタイルを良く見せるために腰をキツく絞っているため動きにくく圧迫感がある。座って休憩はできるが、普段と比べると体力の消耗は多い。

 オシャレとは我慢と切っても切り離せないもの。疲労を表に出すことなく美しさの化粧で隠し、十六夜アキは笑う。

 

「……っていうのは建前。本音はまだ楽しみたいな、って」

 

 気の知れた間柄といえど心の内を曝け出すのは恥ずかしい。ちょっと照れが滲んだ声色で答える。

 

「この時間を見逃したくないの。ひとつも」

 

 身に纏うのは世界に一枚しかないカードをモチーフにした、オーダーメイドの一点もの。かなりの金銭が使われて裁縫されたドレスだが、アカデミアから主席となった生徒へ記念品として贈られる。

 デュエルアカデミアとしては損しかない対応だが、有名になった時にいつか還元してくれるように、と下心はちょっぴり含まれているだろう。

 

 そんな下心を感じさせないほどの輝きを持つ憧れ(ドレス)に、十六夜アキは一目見て惚れ込んでしまった。

 

 ドレス、というのはやはり女子の憧れだ。目にする機会はあるが、日常生活に関わることのない非現実の象徴。

 ……子供の頃に夢見たかわいいお姫様になりたいなんてふわっとした願望が、高校生になってから現実にされるなんて考えもしなかった。

 

「青春に出遅れちゃったぶん、思い出をいっぱい作らないと、ね」

 

 十六夜アキは5歳の頃にサイコデュエリストの力に目覚めた。破壊のために力を振るっていた時期はとても長い。当然、真っ当な学生生活は送れていなかった。

 そんな彼女だったが、ダークシグナーとの戦いという非日常を乗り越える過程で家族と和解し、己の力を制御できるようになって……ようやく人並みの幸せを手に入れられた。

 

「そうだね」

 

 原作の記憶があやふやになっているジェイドだが、彼女が抱えていた苦しみはしっかりと知っている。故にこれ以上深掘りすることはなく、やさしく同意のみで話を終わらせた。

 

 ――何度でも、このドレスを着ていた時の記憶が現実のものだと思い出せるように。そんなささやかな願いを込めて十六夜アキは今日一日を過ごしている。

 

「……それにしてもジャックは二人と一緒におとなしく帰ったのね? 三人全員が見学しても文句は言われなかったと思うけど」

 

 後夜祭に参加できるのはデュエルアカデミア関係者のみ。だが、現キングである不動遊星とその幼馴染ならば特例で許可されるだろうとアキは踏んでいた。

 

「いやぁ……元キングの存在しない権限を振りかざそうとしていた大人気ない弟は知らないなぁ……」

 

 ジャックがコスプレデュエル大会に乱入しようと裏方へ詰め寄っていた昼時の騒ぎを思い出したのか、ジェイドは目を逸らす。

 まあ、遊星とクロウが常に監視していたため迷惑を働いた瞬間に強制連行されていったが。

 

「にしても三人だけって不安だなぁ……夕ご飯をカップラーメンで済まされそうな気がする……」

 

「心配事が母親みたいね」

 

「母親じゃなくてお兄ちゃんですけど? ……心配だなぁ、ジャックは買い置きの数を把握してるぐらいにはハマってるからなぁ……」

 

 否定してすぐに母親みたいな態度をしているのがまるでコントのようで、口元に手を当てて笑う。突然に笑われた理由がよくわからず、ジェイドは少しきょとんとしていた。

 

「いつもより長くアカデミアにいるだけなのに、なんだか不思議な感じね」

 

「だね」

 

 運動部は授業が終わってからの練習で残っている時もある。声を出してのランニングも当然行われているから、夕方を過ぎてなおデュエルアカデミアに人が残るのは初めて、というわけではない。

 この場に満ちている騒がしさはそれとは別のものだ。

 

 迫り来る開催、締め切りという重圧、客商売の体験――この日まで慣れないことをしてきた学生達は全員開放感に体を任せて売れ残ったドリンクを呷る。

 今日あった出来事を振り返り、友人と共通の話題で盛り上がり、時には脱線して。はしゃぎっぷりがとても学生だ。

 

「後夜祭ってロックバンドとかもするんだ?」

 

「みたいね……」

 

 そしてそれ以上に先生たちがはしゃいでいる。どこにあったのかよくわからないエレキギターやらドラムやら、音楽の授業お馴染みのリコーダーやトライアングルまで引っ張り出している。……なんの曲が演奏されるのかさっぱりわからない。

 

 それぞれの理由からデュエルアカデミアのことをよく知らない二人は見るもの全てが新鮮で、どこかおかしいものばっかりで。

 準備をする人を見てあれはなんだろう、これはなんだろう、と疑問形の会話が弾んでいた。

 

『……あーあー、マイクテスマイクテス』

 

「――あ、そろそろ始まるっぽい!」

 

 スピーカーから声が響く。皆の視線がステージに集まっていく。

 

『ただ今より、後夜祭を始めまーす!』

 

 前置きは特にない開催宣言。早く始まらないかと願っていた全校生徒の歓声が出迎える。

 

『まずは――』

 

 始まるのは学生バンドや先生バンド、ミスコンだの女装コンだの、テンション高く皆が楽しめたらオールオッケーなテンプレ気味のプログラム。

 学校のイベントとしてやりたい放題していい時間、というのはとても貴重だ。どれもが内輪ネタのノリで、一週間後には何をしてたかをはっきり覚えられないような出来事だろうけど……きっと、青春にはこのぐらいがちょうどいい。

 

『それでは毎年恒例、先生生徒対抗デュエル大会の時間だぁー!!』

 

「いえーい!」

 

「待ってましたぁー!」

 

 盛り上がりのまま司会役の放送部員が高らかに宣言すると同時、ばーん! とステージにライトが当てられる。

 

「え、え、何?」

 

 恒例、と言われてもデュエルアカデミアのこれまでを知らないジェイドは困惑していた。

 とりあえず情報を、と目をやった壇上にはハイトマンがマイクを手に簡単な説明をしている。

 

「おっほん。先生生徒対抗デュエル大会などと長ったらしい名前ですが、試験とはまるで全然関係ない、親睦を深めるためのデュエルです。成績に影響することはないので安心して勝ちを譲りなさい」

 

 うそつけー! 生徒勝ち越しで単位よこせー! などとヤジが飛ぶが、本心からではなく馬鹿馬鹿しさを含んだボケなのが声色からわかる。

 

『さーてそれではトップバッターは』

 

 司会はハイトマン先生がどこからともなく取り出した二つの箱からくじを引く。片方は生徒、もう片方には先生と書かれていて何を決めるためのものかがとてもわかりやすい。

 

『――主席、十六夜アキー!』

 

 司会が人混みの方へ……十六夜アキがいる方へと手を伸ばす。その後を追うようにライトが向けられ、眩しくて咄嗟に二人とも顔を隠す。

 

『それでは対する先生ですが……えー、臨時講師希望の星、ジェイド・アトラス! 匿名の校長先生から、臨時から常勤に是非ともなってほしいとのことですがそのあたりの予定いかがでしょうか』

 

「時間が作れないのでお断りしまーす!」

 

 口に手を添えてマイクに負けない大きな声のお返事。そんなー、とどこからともなく校長の声がして学生たちの笑いを誘う。

 

「ううん……流石デュエルアカデミア、こんなこともするんだ……」

 

 突然の出来事に対応しつつ、ジェイドはちょっと困っていた。

 

「コスプレ衣装をもう一度着てジャックっぽいデッキを使った方がいいのか?」

 

 この空気感では真面目なものよりショー的なデュエルが求められているのだろうと判断し提案したが、アキは首を横に振る。

 

「【メメント】でお願い。私だって決闘者なのよ? 遊星に負けてられないわ」

 

 そこにいたのは可憐な乙女ではなく、黒薔薇の魔女……いいや、肩書きなど関係ない一人の決闘者。

 

「そっか、そうだね。……よしっ、元気もりもりメメント・モリ!」

 

 進むごとに人の波が割れていく。二人並んでステージへと上がる。

 仲良く横並びになっているのは途中まで。壇上に上がった後に別れ、ステージの端と端へ移動し対峙する。

 

『麗しき黒薔薇の魔女と冥骸の王! 果たして勝つのはどちらだー!?』

 

「「デュエル!」」

 

 先攻を取ったのは十六夜アキ。

 

「私のターン、ドロー! ――フィールド魔法、《ブラック・ガーデン》を発動!」

 

 ざわざわと広がる茨がステージを覆い、隙間なく敷き詰められた様はまるで暗緑のカーペットのよう。

 このフィールド魔法を初手で使う……とても嫌な予感がしてジェイドの背筋が少しぞくりとする。

 

「チューナーモンスター、《夜薔薇の騎士(ナイトローズナイト)》を守備表示で召喚!」

 

夜薔薇の騎士(ナイトローズナイト)

星3/守1000

 

「《ブラック・ガーデン》の効果により召喚・特殊召喚されたモンスターの攻撃力は半分となり、その後相手フィールドに《ローズ・トークン》が特殊召喚される」

 

 騎士の足に絡まった茨が力を吸い取り、ジェイド側のフィールドへ一輪の赤い薔薇の花が顔を出す。

 

《ローズ・トークン》

星2/攻800

 

 OCGと違い戦闘で破壊されず、また攻撃宣言を行う事もできない効果を持つトークンは黒薔薇の魔女の狙いを知ってか知らずか、ただゆらゆらと葉を揺らしていた。

 

「召喚に成功した《夜薔薇の騎士(ナイトローズナイト)》の効果で手札から《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚」

 

《ローンファイア・ブロッサム》

星3/守1400

 

『《ブラック・ガーデン》によりジェイドのフィールドへまたまた《ローズ・トークン》が特殊召喚されていくー!』

 

 この恐ろしき庭のトークン生成効果にターン1なんてものはない。モンスターを出せば出すほどトークンも増えていく。

 

「ここで《ローンファイア・ブロッサム》……まさか」

 

「《ローンファイア・ブロッサム》を自身の効果でリリースし、デッキから《ギガプラント》を特殊召喚!」

 

《ギガプラント》

星6/守1200

 

 花火玉のような花が弾けて呼び出される植物族モンスターにレベルの縛りはない。芽生えるのはデュアルモンスター。

 既に通常召喚権は使っているためこのターン中に再召喚するのは不可能だが、それを補える装備魔法が存在する。

 

「《ギガプラント》に《スーペルヴィス》を装備! 《スーペルヴィス》を装備したデュアルモンスターはもう一度召喚された状態として扱える。よって《ギガプラント》の効果を発動し、墓地の《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚!」

 

 決闘者の指示に従い巨大な触腕を大地に突き刺し、墓地からモンスターを引き上げる。フィールドには低レベルのチューナーモンスターと、植物族のチューナー以外のモンスターが揃った。

 

「レベル3の《ローンファイア・ブロッサム》にレベル3の《夜薔薇の騎士(ナイトローズナイト)》をチューニング!」

 

◎◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎

3+
3=
6

 

「――聖なる森に潜みし、苛烈なる棘の女王よ! 無知の代償を与えるべく今こそ姿を現せ! シンクロ召喚! 現れよ、《ヘル・ブランブル》!」

 

《ヘル・ブランブル》

星6/守1800

 

「カードを1枚セットしターンエンド」

 

 先攻1ターン目にて、十六夜アキは1回の通常召喚、3回の特殊召喚、1回のシンクロ召喚をした。その数だけ《ローズ・トークン》がわさわさうごうごとジェイドのフィールドに芽生えている。

 その数は5体。ちょうどモンスターゾーンの数と同じだ。

 

「モンスターの召喚を中心に展開を始める【メメント】対策として考えた通常召喚封じ――いかがかしら」

 

「みんな嫌がらせが上手くなってジェイド先生は泣きそうだよ。色んな意味で」

 

 モンスターを召喚するにあたり邪魔な《ローズ・トークン》は自爆特攻ができず、《ブラック・ガーデン》があるため攻撃力による解決は困難。

 自身のフィールドのモンスターを破壊・リリースできるカードを入れていないデッキの場合、ここから何もできずに沈んでいくだろう。

 

 観客の一部はこの盤面を自分に置き換えて想像してしまったのか応援の声が少し弱くなっている。恐ろしきかな黒薔薇の魔女。

 

 リンク召喚があれば存分にトークンを利用できたのだろうが、残念ながらエクストラデッキにリンクモンスターのリの字は無い。……いやこの時代にリンク召喚があったらとんでもないことなので無くてよかった。

 

 正確には上級モンスターのアドバンス召喚が可能なので通常召喚が全て封じられているわけではないが、突破方法が限られているのに変わりはない。

 

「あら、それは打つ手立てがないってこと?」

 

「まさか。何もできずに終わるなんて恥ずかしいことは起きないよ」

 

 その発言は既に突破方法は手の中にあると宣言するも同然。アキの表情に少し焦りが混ざる。

 

「それじゃ、反撃といこうか!」

 

 デュエルを楽しんでいると一目でわかる笑みを浮かべ、ジェイド・アトラスはデッキからカードを引いた。




なんか突然出てきた肩書きの冥骸の王ですが、コスプレデュエル大会乱入未遂元キングが「俺がキングならば兄も王を名乗るべきだ! そう、例えば――」と、お兄ちゃんとお揃いのものが欲しい!な発言をしており……。
ジャック考案の肩書きを聞いて記憶に残っていた司会役の子がそのまま使っちゃいましたとさ。

攻撃力3000のドラゴンをエースにする男の感情はなんぼ重くしてもええですからね。
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