石造りの心臓   作:ウボァー

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活動報告でもちらっと言っていた通り、時系列的には途中すっぽ抜けちゃうけど書きたくなったので書いたクラッシュタウン編が完成しましたので更新いたします。
全4話を4/19より夕方6時に毎日連続更新します。満足!
連続更新の都合上、普段は次話更新時にまとめてしている感想返信が遅れるかもしれませんがご了承ください。


クラッシュタウン編
この街に入る者、一切の満足を捨てよ


 

石造りの心臓 クラッシュタウン編

第一話

 

この街に入る者、
この街に入る者、
この街に入る者、

一切の満足を捨てよ
一切の満足を捨てよ
一切の満足を捨てよ

 


 

 ジェイドはドタバタと騒がしい音を立てて階段を降りてきたが、咎めるものは誰もいない。

 

「寝過ぎた……!」

 

 疲れているだろうしゆっくりさせてあげようと空気を読んで起こさなかったのだろうが、ジェイドとしては声をかけてもらっても特に問題ないし目を覚ましたら皆がいないのはちょっと寂しい。

 

 ……音がしていない、というのが寂しさをより強めてしまう。無音を紛らわせるために点けたテレビを見ながらかなり遅くなった朝食をとる。コーヒーとトーストをつまんでいたジェイドの耳に、かたん、と音が聞こえてきた。

 音が聞こえてきた場所であるポストを確認すれば、そこには一通の手紙が入っていた。

 

「へー、手紙? 珍しいな」

 

 技術力の発展しているネオドミノシティでは手紙を見る機会は少なくなっている。大体の連絡はすぐに届くしいつでも確認できるメールで事足りるためだ。

 どうやら宛先は自分。誰からなんだろうな、と糊付けされたフタを丁寧に剥がしてめくる。

 

「あっ」

 

 手紙の封を開くと、同封されていただろうカードが床に落ちてしまった。

 

 この世界においてカードとは財産。金銭と同じ扱いをして然るべきものだ。当然なんの変哲もない封筒に入れて送るなんてしてはいけない。現金書留のように他者に開封されていないか確認ができる封筒にするべきだ。

 

 盗まれるかもしれないのに不用心だなあ、誰からなんだろう。何の気なしに拾い上げたそれを見てジェイドの動きは止まった。

 

 一緒に入っていたのは――《ブラッド・ヴォルス》。

 多くの決闘者に使われてきた通常モンスターだが、ジェイドとしては鬼柳がよく使っていたモンスターという印象が強い。

 

「これって……」

 

 ――俺を殺しにこい、ジェイド・アトラス。

 ――クラッシュタウンで待つ。

 

 慌てて確認した手紙に書いてあったのはそれだけ。

 それだけだったが、誰が、何故送ってきたのかは嫌というほどわかった。

 

 デッキを手に自分のDホイールであるレストインピースに跨る。エンジンをふかし、一気に加速。道を走り抜ける一台の黒いDホイールに追いつけるものはいない。

 寄り道はせず、飛び入りでライディングデュエルを挑まれることもなく、彼は真っ直ぐに目的地へと突き進む。

 

「なんで、なんだ」

 

 近付くほどに戸惑いは強まるがハンドル操作を誤ることはなかった。

 もしこの時、彼の横顔を仲間の誰かが見たならば緊急事態だとわかったのだろうが……幸か不幸かすれ違うことはなかった。

 

「なんで私なんだ、鬼柳……!?」

 

 風の中に混ざっていったその疑問に答えられるのは問われた本人だけ。

 

 目指すのは、薄れた記憶のなかでも鮮やかに残るあの街。

 

 ――死を望んだ男が、かつての熱を取り戻す街へ。

 

 

 

 クラッシュタウン――そこは歪な街だった。

 ネオドミノシティの外れ。荒野にぽつんと作られた西部劇を思わせる建物が目立つ街。

 鉱山からDホイールの製造に欠かせないダイン鉱石が掘れると分かってから、腕っぷしを武器に鉱山で生計を立てる男たちが住みついていき自然と作られていった場所だ。そのためガラの悪い輩が多くなり治安は少々悪い。

 

 ネオドミノシティからDホイールで行ける距離だというのに、あまりにも空気感が違う。

 あいつらとは違う、決して染まりはしないと主張し続けているのか。はたまたあの輝かしい街で生きられず、馴染めなかったものたちが流れ着くために異なる世界となってしまったのか。……その答えは定かではない。

 

 二つのグループが利権争いのため互いに決闘者を立てて戦わせ、負けた方を労働力として鉱山送りにする。

 どちらかが諦めるか、完全に潰れるまで終わらない戦いの輪廻がここにはあった。

 

 ――太陽が地平線に沈むまでの間、と決められたデュエルの時間。また一人がデュエルに負けた。逃げようとしたがあえなく捕まり、鉱山へと送られていく。

 

 勝者であるデュエルを終えた彼はいつものように所属するチームの下へと戻るはずだった……が、遠くから聞こえるエンジン音がその足を止めさせた。

 

「きた、のか」

 

 だんだんと近くなり、大きくなり。空耳ではなく現実だと理解した男は笑う。

 

「ようやく……俺を殺してくれる」

 

 彼が浮かべていたのは旧友との再会を楽しみにする、なんて明るいものではない。ぞっとするほどまでに破滅的な笑みだった。

 救済という名の終わりを求める、狂った一人の男がそこにいた。

 

「ハッ、ハァ――」

 

 Dホイールから体へと響く振動が鼓動とシンクロしている。早まる鼓動につられて急ぎ足の大股になったジェイドは彼のデュエルを見物していた男たちを力尽くで押しのけ、手紙の送り主へと声を叩きつけた。

 

「あんなタチの悪い手紙で呼び出して一体どういうつもりなんだ、鬼柳」

 

 白い髪に翡翠の目。犯罪者の証となるマーカーとは縁もゆかりもない善良な人間。手紙が届いてすぐに行動したのだろう、急いで来たことを示す汗がじわりと滲んでいた。

 鬼柳の前にいるのは間違いなくジェイド・アトラスだった。

 

「殺しに……って物騒なこと書いてたけど、あれは本気で言ってるの」

 

 罪の象徴が男を見ている。怒りの炎を抱いている。

 そうだ、それでいい。もっと燃え盛れ、そのまま俺を殺してくれ――故に男は薪をくべた。一切の躊躇なく、己の生に幕を下ろしてもらうために。

 

「――思い出してしまったんだ。俺は死んで当然の存在だってな」

 

 強く強く、握り潰れてしまえといわんばかりに鬼柳は自分の腕を掴む。そこにはかつてダークシグナーの痣があった。現在残っているのは彼が衝動的につけた傷跡だけだ。

 

「デュエルがあんなに好きだったのに、俺の全てだったのに……方法を間違えた。そのせいでお前らを苦しめた。……デュエルが憎い、けど、捨てられなかった。そうして辿り着いたのがこの街だった」

 

 さっさとくたばる筈だったのに、と吐き捨てる。

 

「誰も、誰もだ。50戦……その誰もが、俺を殺せなかった」

 

「だから倒せる決闘者を呼んだって? じゃあなんで、チームサティスファクションの皆じゃなくて私を呼んだ」

 

 ジェイドの記憶が確かならば、クラッシュタウン編の始まりとなる一通の手紙はバーバラから遊星へと送られた。

 鬼柳がこのままだと死んでしまう。衝撃的な言葉を含むため他の誰かに読まれたくないからか、わざわざ英語で書かれた手紙。

 鬼柳京介はチームサティスファクションのリーダーとして有名だ。不動遊星はその一員だった上にキングとなり、さらには地縛神を倒したのだから彼を呼んだのは納得できる。

 

 ……原作と比べるまでもなく、始まりの時点でおかしい。致命的にズレが発生している。

 チームサティスファクションに所属していないジェイドへと、鬼柳が直接呼びかけてくるなんて考えもしなかった。理由を聞くのは当然だ。

 

「お前が巻き込まれただけの被害者だからだよ」

 

 男の発言に迷いはない。それが当然であると言い放った。

 

「シグナーとダークシグナー、その戦いに混ざるはずのない人間だった。ルドガーによって無理やり誘拐されて……生贄にされた。だからお前には権利がある。裁く権利だ」

 

「そこまで大層なものを持ったつもりはないよ」

 

 勝手に握らされた権利を捨てようとするも、鬼柳はそれを許さない。

 

「だって、あいつらはきっと許してしまう。あの時は仕方なかった、地縛神が全部悪いんだ、全ては終わって元に戻ったんだから、ってな。……違うんだ。あれは俺が、俺自身が望んでやったことだ! 全部俺の本音だ! 俺が背負うべき罪だ!!」

 

 死神の慟哭が響く。

 

「許してほしいなんて望んじゃいない。だから、俺を殺すのはお前じゃないとダメなんだ! ジェイド・アトラス!」

 

「…………っ」

 

 闇よりもさらに暗い光を宿した目が真っ直ぐに翡翠を貫く。

 

「明日だ。明日、ここで待つ。俺はラモングループに雇われてここにいる。お前はマルコムグループの方へ行け」

 

「話を聞いて、鬼柳」

 

「日が落ちるまでに来なかったら……俺はここでデュエルと共に腐っていくだけだ」

 

 もうこれ以上話す気はないのか背を向け、街の中へと帰っていく。夕暮れ空の下、歪な世界へと溶け込んでいく。

 

「鬼柳っ……自己満足ですらない、自己陶酔で死ぬなんて許せると思ってるのか!」

 

 返事はない。戻ってくるはずもない。

 彼の心は闇に根付いてしまっている。言葉をいくら重ねても引き剥がすことはできない。

 変えられるのは、デュエルだけだ。

 

「ふざけるなよ、鬼柳……」

 

 苛立ち、焦り、怒り……そして渇き。からからになった口で、Dホイールに乗ってから全く水分をとっていなかったとようやく気付いた。

 疲れ切った顔で酒場へと踏み入れたジェイドは鬼柳を変えるにはどうすればいいか悩んで、原作をなぞれば多少は改善できるだろうと踏んで注文する。

 

「はぁ…………マスター、ミルク一つ」

 

「あぁ? 舐めてんのか小僧」

 

 注文通りのドリンクがガン! と乱暴にカウンターへ叩きつけられる。それが合図なのか、酒場にいたマーカー付きの三人がジェイドへ絡んでくる。

 

「オイオイ、Dホイールなんかに乗ってきちゃってよォ」

 

「えらいハリキリボーイがやって来たじゃねえか」

 

「この街の流儀を知らないおこちゃまが何のようだ? 俺たちが丁寧に教えてやるよ」

 

 アルコール混じりの口臭と馬鹿にした口調が両脇から流れ込んでくる。

 丁寧に付き合うのも馬鹿馬鹿しい、話す気はないと示すように冷えたミルクを口にする。

 

「あのイカれた死にたがりがどうなろうとニイちゃんには関係ないだろ? さっさと尻尾巻いて帰りな」

 

 ぎゃはははは、ちげえねえや、と嘲笑の大合唱。

 酔っ払いの言葉をまともに受け取るのは不毛だとわかってはいる。いるのだが……さっきまでの鬼柳との会話で溜まっていた怒りが噴き出るには十分すぎた。

 頭の中でぷちんとキレた音がした。

 

「――雑魚がいくら群れようと勝てやしないから口だけは上手くなりました、って自己紹介? だとしたらとてもわかりやすいね、はなまる満点あげちゃうよ」

 

「っ……んだとぉ!?」

 

「鬼柳直々に対戦相手に指名されてるんだよこっちは。それをわかって馬鹿にしてるってことは、あんたらよっぽど強いんだろうね? なのに50戦が終わっても出なかったってことは……マルコムグループは臆病者しかいないらしい!」

 

 ははは、と笑う。ジェイドが発しているのは決して仲間へ向けることのない、よくない感情を含んだ笑いだ。

 

 ここに弟はいない。仲間もいない。頼れるお兄ちゃんをする必要性はない。

 いるのは一人の決闘者だ。

 怒りを原動力に動き出してしまった決闘者だ。

 

「ふざけんな! 表出ろてめぇ!」

 

 荒くれに肩を掴まれ、生意気な小僧は倒されるはずだった。

 

「え、な、がぁっ!?」

 

 気付けば倒されていたのは男の方だった。ジェイドは背に乗り体重をかけた状態で床に押さえつけ反抗を封じる。

 

 ジェイドはチームサティスファクションには入らなかったが、面倒ごとに巻き込まれた経験はある。

 親しい友人を人質にしてデュエルを有利に運んでやろう、と攫われた結果――相手チームを物理的にボコして帰ってきた。救出に向かおうとしていたチームサティスファクションが混乱するスピード感でその時の誘拐事件は解決した。

 

 そもそもサテライトですくすく育つためには邪魔な敵をぶちのめせる程度の腕っぷしは必須技能だ。普段は使う機会がないサテライト仕込みの喧嘩殺法は彼の体に染み込んでいる。

 

「……で、誰がおこちゃまだって?」

 

 ゆらりと立ち上がって問いかける。

 騒がしいはずの酒場はたった一人の挙動によって支配されつつあった。

 

「こ、こいつが勝手に! 俺は何も関係ねえ!」

 

「お前が最初に言い出したんだろうが!」

 

「……あー、こんな実力行使せずともデュエルしろ、って言えば済んだ話なんだけどなぁ」

 

 話題の中心になっている男は目を逸らし申し訳なさそうに頭を掻く。

 なお、表面上は怒りが消えて落ち着いたように見えるが真実はこんなところで八つ当たりするのみっともないな、である。抱いた思いは消えてなどいない。

 

「本当に強いのかを認められないだけなんでしょ、ならさっさと始めよう」

 

 外に出るよう誘い、突発的に始められたデュエルは三対一の特殊ルール。

 互いに最初のターンは攻撃できないとしても《火縄光線銃士》を攻撃表示で残すのはよろしくない……まあ、守備表示だったとしても問題はなかったが。

 

 伏せカード無し。手札誘発無し。

 そんな相手に【メメント】は止めらない。妨害はなく、理想的なフィールドを作りあげることに成功する。

 

「《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》特殊召喚!」

 

「攻撃力5000だぁ!?」

 

「攻撃宣言時、墓地の《メメント・フラクチャー・ダンス》を除外して効果発動! 相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000ダウンする!」

 

《火縄光線銃士》

攻1600→600

 

「俺を倒したところで残り二人が仇を取って――」

 

「いいや、これで終わりだ! 自分フィールドに他のモンスターが存在しない時、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は全体攻撃が可能となる! 行け!」

 

 骨の竜が三人を薙ぎ払う。

 

「ワンターンスリーキル……こいつはすげぇ」

 

 苛烈、猛烈、激烈。これまでの決闘者とは一味も二味も違うデュエルはマルコムが惚れ込むのに文句なしの一戦だった。

 

「アンタがこれ以上ないぐらい強いってのはよくわかった! で、何が欲しい? 金か?」

 

「雇われる報酬……考えてなかったなあ。ま、大金とかじゃないから安心してよ」

 

「そ、そうか。ところでニイちゃん……あいつと知り合いなのかい」

 

 先ほどまでの大暴れを見ていたからか、おっかなびっくりな態度で問われる。

 

「知り合い? まあ、そうだね」

 

 二人の話を聞いていた女性が突然会話に入り込む。

 

「そんな! 友人がこの街に囚われたままなんて……でも、デュエルで勝ったら鉱山に送られてしまう……」

 

「そうなんですよね、どうしたらいいんでしょうね?」

 

 バーバラは鬼柳の排除を目的として動いている。遊星を呼ぶ前になんでか来た知らない男を利用しようと、心配する心優しい女性を装いつつ増えた邪魔者をどう消すか画策しているのだろう。

 ジェイドの予想は当たり、耳元で時間が空いたら店の裏手に来るように、と囁かれる。

 悪女め……と出かかった言葉を腹の中へと流し込むために残っているミルクをぐいっと飲み干す。

 

「命を投げ捨てるなんて絶対に許さないからな、鬼柳」

 

 メメント・モリ――死を思え。

 いつか来る終わりを考え、限りある今を生きよう。

 転生や蘇生などあり得ない奇跡によって命を繋げた彼に対して、鬼柳の発言はジェイドの地雷をぶち抜いた。

 

 冗談だろうと本気だろうと、死にたいって言葉は口にしていいものではない。

 

「覚悟してろよ……」

 

 ジェイドの戦意が高まる一方でデッキの中のエースモンスターは怒気を感じ取ってあわあわしていた。

 

 激おこな人の子……ちょっと普段とキャラめっちゃ違うね……。トゲトゲしかった頃の弟くんみたいになってない? いや弟くんより酷いわ。子供の頃にこの姿を見てかっこいいと思ったから影響受けちゃったとか? 意外なところで似たもの同士だった?

 

 いつもの言おうよ……無理? そんな気分じゃない?

 ……きょ、今日も元気もりもりメメント・モリ!(鉄の意志と鋼の強さ)




注意!
ミルクでも貰おうかはクラッシュタウン編のセリフではありません。ジェイドは勘違いしてます。

ジェイドのブチギレにはある程度条件があり、精神的地雷を踏み抜いたり周囲に守るべきものがない場合のみお兄ちゃんは鬼いちゃんとなります。こわいね。

え? 守るべき対象に《ヒドゥン・ナイト-フック-》しようとする奴が? ……うん!


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