石造りの心臓   作:ウボァー

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日常編その2
兄と取材と満足と


 兄弟コーデとは。

 おそろの格好をすることである。説明終わり。

 

 地縛神の件が終わってからジャックがくれたロングコートは彼が着ているものとほぼ同じデザインだ。肩の鋲が無いから、横に座っている人が居眠りなどでこちらへもたれかかっても刺さる心配がない安心仕様。

 

 私が自分で服を選ぶ時はよく黒や灰色を着ているからその色に揃えるかと思ったが、このロングコートで暗い色になるとダークキングを思い出すからやめたのかもしれない。

 ……まあライダースーツは自分で黒色のものを選んだので、ライディングデュエルの時だけ私は見た目のみダークキングになっちゃうのだけども。

 

 この服、不思議なことにハンガーにかけると普通なのに、袖を通すと即座に遊戯王的針金入りコートに変化する。

 カードと同じく謎素材で作られた、決闘者の放つ何かに影響されてピシッとシワひとつなく伸びた白いロングコートを着る。

 

 これからするのは真面目な話だ。決闘に挑む格好としてジェイドが好んで着ているそれを纏い、気持ちを引き締める。

 

「皆揃ってる?」

 

「ああ。クラッシュタウンであったことについて詳しく話してもらうぞ」

 

 遊星に連れられ階段を降り、ガレージの中にはいつもの面々。

 ……と、右手に筆記具左手にボイスレコーダー、取材の準備万端ウキウキワクワク記者なカーリー渚がいた。

 

「……え、なんでカーリーさんまで?」

 

「どうやら牛尾から教えてもらったらしくてな。……昨日の今日なのにここまで来るとは流石に思わなかったぞ」

 

 額に手を当て、ため息混じりにジャックが答える。

 

「治安が改善したってことを知らせるにはやっぱりコレが一番! 荒んだ街に颯爽と現れた救世主なんて特ダネ、逃すわけにはいかないんだから!」

 

 セキュリティの仕事は主に犯罪者を捕まえること。復興の手伝いではない。パトロールもしているが、それでもクラッシュタウンがあの惨状だったのを見るに目が行き届いていない場所はある。

 牛尾さんと共にやってきたセキュリティは復興の人手に必要だろうから、とクラッシュタウンにいた人々が叩けば埃の出る存在と知りながら捕まえなかった。あそこにいた住人の逮捕へ踏み切ってしまうと、復興できないほどのダメージを街が背負い、治安が再び悪化してしまうとわかっていたからだ。

 

 クラッシュタウン――現サティスファクションタウンの鉱山から採掘されるダイン鉱石はDホイールに必要不可欠。派閥争いなどせず真面目に仕事を続ければ復興は間違いなく完遂できる。

 そこへカーリー渚経由での治安改善発表記事が出ればあの街が健全な決闘者で賑わい、二度とロットンが起こしたような事件は起きないだろう。

 

 善意による行動をしてくれたのはありがたい。

 が……よりにもよって彼女は元ダークシグナーである。クラッシュタウンの鬼柳のあれこれと関係してくるからすごく困る。

 

 どうしようと悩む間にも話は進んでいく。

 

「それで、当事者である鬼柳さんにも取材したいのだけど……ジェイドさん、大丈夫かしら?」

 

 カーリー渚からの提案で視線がジェイドに集まる。……全員こちらの事情がわからないからこそここで聞こうとしているのだ。この状況では断れそうにない。

 仕方ないか、と電話をかける。

 

「もしもし鬼柳?」

 

『はいもしもし……ってジェイドか? どうかしたのか』

 

 ワンコールもたたない間に電話に出るのは件の人物、鬼柳京介。

 

「いやその……クラッシュタウンの一件を記事にしたいって記者が来てて」

 

 沈黙することたっぷり5秒。

 

『ハァ!?!!!?』

 

 音割れするほどの大声が鬼柳の口から発せられた。思わず耳元から電話を離す。

 

『早すぎる、というかまず誰が言い出してるんだそんなこと! アレを記事になんてできるわけないだろ追い返せ!』

 

「カーリー渚さんって人。鬼柳にはそうだな、ハチドリって言えば分かる?」

 

『カーリー、ハチドリ……あー!? マジか、あの、あー……』

 

 電話越しの声がだんだん小さくなる。ネオドミノシティにいる記者の中で、まさかの元ダークシグナー繋がりがある記者が来るなんて思いもしなかったからだ。

 

『やめとけ、あの頃のことにも触れるんだぞ』

 

「皆も揃っててね……今ここで話すしかなさそうなんだよね」

 

『…………』

 

 鬼柳は死んだ時にデッキを持っていなかったから【インフェルニティ】が与えられた。

 カーリーはダークシグナーになったことでデュエルにそこまで向いていない【占い魔女】が【フォーチュンレディ】に変化させられた。

 地縛神から解放された人々のデッキに闇のカードは残っていない。例外なのはデッキを持っていなかった鬼柳だけだ。

 

「不安なのはわかる。でも、だからといって何もしないのも違う」

 

『そこまで言えるなら、きっかけになりそうなことの目星がついてるのか』

 

「なんとなくは。多分鬼柳の話では戻らないと思う」

 

 ダークシグナーとなっていたカーリーにジャックは告白をしている。思い出すきっかけとなるならそこだろう。そうジャックも考えているからこそ二人の距離を詰めようとしていない。

 

『はー……やるしかねぇのか。電話をスピーカーモードにしとけ』

 

「はいはい」

 

 ぽち、と設定を変更し電話をテーブルの上に置く。

 

「取り敢えずオッケーは貰えた」

 

「良かった! それじゃ早速お願いします……あ、口調とかそこまでかしこまらなくていいですからね!」

 

 お仕事モードのカーリーが電話に向けて丁寧に話しかける。

 当事者の話を聞くために皆が口をつぐむ中、電話越しに鬼柳は語り出した。

 

『どこから話すべきか……そうだな、あれは――俺がダークシグナーの罪を思い出した時から始まる』

 

「鬼柳!?」

 

「へ? ちょ、ちょっと待って? 覚えてる……の?」

 

 遊星が驚くのは当然だろう。彼らがクラッシュタウンへ駆けつけた時の鬼柳はリーダーとして三人が認めていた当時の姿そのもので、罪に苦しむそぶりは一つも見せていなかった。

 そして彼の言葉にカーリーも困惑する。彼女が一向に思い出す気配のないダークシグナーの記憶を、彼は確かに思い出したと言った。

 

「それっていつから……」

 

『地縛神を倒してからそう経ってねえよ。蘇ってから俺の手元にあったのはずっと【インフェルニティ】だった。アンタはどうか知らねぇが、俺はデッキの影響があると思ってる』

 

「……デッキか」

 

 ジャックは不安そうにカーリーを見つめる。占いのために使われていた魔法使いが闇に染まった姿を知るが故に。

 

『いくら元に戻ったとしても、デュエルで皆を傷つけたのは事実だ。罪は裁かれないといけない。思い出してしまってから、それが俺の全てになった』

 

「そんなこと、俺たちは望んでいない」

 

「相談してくれれば力になれたものを」

 

「俺たちの仲だってのに水臭いじゃねえか」

 

『お前らがそう言うのが目に見えていたから俺はネオドミノシティから離れた。そうして辿り着いたのがクラッシュタウンだった』

 

 デュエルの勝敗が明日の生に直結する場所。まさしく鬼柳が望んでいた街だった。

 そこで勝った。勝ち続けてしまった。誰も彼の連勝を止められなかった。

 

『どの決闘者も相手にならなかった。だからジェイドを呼んだんだ。シグナーとダークシグナーの戦いに巻き込まれた被害者だったあいつなら、俺を裁いてくれると信じて』

 

「鬼柳」

 

『遊星、お前はもしかしてあの手紙が遠回しなSOSだとでも思ってたのか? 違う。文章そのままだ。俺はジェイドにデュエルで殺して欲しかったんだよ』

 

「鬼柳……」

 

 ……遊星が鬼柳しか言えなくなってしまった。どうしよう。話の流れを可能な範囲で明るい方向へ持っていくためにジェイドは口を挟む。

 

「皆も読んだだろうけど、あの手紙を見て飛び出してきてさ。いや本当に連絡何もしてなくてごめんなさい」

 

「仕方ねえよ。あんなもん見たら俺だってそうするぜ」

 

「無事に帰ってきたからよかったけど、もう二度としないで欲しいわ……」

 

「そーそー、龍可がすっごく心配してたんだぜ」

 

「龍亞もおんなじぐらい心配してたでしょ」

 

 頭を下げ謝罪する彼に仲間達は許しを与える。

 

『いい仲間じゃねえか。大事にしろよジェイド』

 

「……うん」

 

 かつての行いがあるからこそ、失うことがないようにと鬼柳は念押しする。

 

『手紙を出してそう日が経たずにお前は来た。その姿を見て俺は安心しちまった。ようやくだ、これで終われる、ってな』

 

「鬼柳」

 

「本気で死ぬつもりだってすぐに分かったよ。止めろとかふざけるなって何度言っても話を聞いてくれなかったし、命を大事にしない言動がすごく……その」

 

 思い出すと恥ずかしくなる。どこを向いても誰かと目が合いそうなので顔を下に向けるしかない。テーブルの上で転がされた電話に視線を固定しジェイドは呟く。

 

「……ちょっとキレちゃって」

 

『アレはちょっとでいいのか?』

 

 闇に身を落としていた時期だが彼の怒り混じりの声はきちんと聞こえていた死神から食い気味のツッコミが飛んでくる。

 

「流れで酒場の人達に八つ当たりしちゃって……ヤケデュエルもして……」

 

「ええー? そんなことするように見えないけどなぁ」

 

 ブルーノが見てきたジェイドは温和なお人よしだ。初対面かつ不審者のように見えた自分へ、Dホイールを好きなように弄ってもいいと許した優しい男と、話の中で怒りに燃え暴れている男の姿が全く一致しない。

 

「いや、ジェイドはやると決めたら暴力も辞さないぞ」

 

「遊星!?」

 

 ジェイドの顔が跳ね上がる。援護射撃かと思ったら背中を撃たれた。なんで。

 

「誘拐された時に相手チーム全員ノして何事もなかった感じで帰ってきたのは流石にビビったよな」

 

「クロウ!?」

 

 追加エピソードで追い打ちをかけられる。どうして。

 

「子供の頃からそんな感じだったぞ。懐が広いが故に敵として認識されると終わりだ。守るための戦いになるから何でもするしこちらが何を言っても止まらん」

 

「ジャック!?」

 

 トドメを刺すかのように傷口へ丁寧に塩を塗り込んできた。幼少期からの保証というオマケ付きだ。フォアザチームの精神を発揮するのは絶対にこの時ではないだろうジャック・アトラス。

 

『安心しとけ、誰かが側にいる限りマジ切れしたジェイドを見る事はねえよ。多分な』

 

 鬼柳のフォローも完璧ではない。最後のとってつけた多分が余計な仕事をしている。

 

「え、えー……? ジェイドってそうだったの……?」

 

 チームサティスファクション全員からのお墨付きをもらってブルーノの頭の中に混乱が広がっていく。あと治安が最底辺だった時のサテライト事情を詳しく知らないシティ育ちも混乱している。

 

「これまで知らなかったんだけど昔からそう思われてたの!?」

 

「そういう面もあるよな、とは」

 

「流石のお兄ちゃんって感じだったぜ」

 

「別に何があったとしてもジェイドはジェイドなのだから変わらんだろう」

 

「変わるよ? 衝撃の真実で結構ショック受けてるよ?」

 

 クラッシュタウンのことと全然関係ない箇所で泣きそうになるとは思わなかった。気分はまさしくこの裏切り者ー、な時の鬼柳。

 

「本題に入る前から情報量……情報量が多い……!」

 

 カーリーは手が動いてはいるが明かされていく情報が濃すぎるためか全部を処理できず頭からぷすぷす煙が出ていた。

 

「いや無理して全部今日聞く必要はないし、予定空いてる日とかに改めても」

 

「いいえ、記憶も情報も鮮度が命だもの。上手いことまとめるわ! 文字の力を駆使すれば結構誤魔化しが効くもの」

 

「プロの仕事だ……」

 

 感動するところはそこでいいのだろうか。そんなツッコミをするものはいない。今日も元気もりもりメメント・モリ!(純粋な感心)

 

『んで、どこまで話してたっけ?』

 

「私がマルコムの方につくまでのとこからのはず。えーと――」

 

 クラッシュタウンで起きたことを少しぼやかしつつも誤解が起きない程度に説明する。

 バーバラから持ちかけられた爆弾混乱中に連れ去り計画とか、鬼柳とのデュエルでの妨害貫通とか、バーバラによる妨害(物理)とか、鉱山脱出とか、爆弾とか、理不尽ルールタッグデュエルとか、爆弾(2回目)とか。妙に多いな爆弾。

 

 ……あとは遊星による鬼柳発言カウントが多分凄いことになってるなとか。これを気にしているのは私だけだろうけど。

 

 そんなこんなツッコミどころも多かった話を通しで聞いたカーリーさんからの総括としては。

 

「悪はいつの世もそれを上回る力によって倒されるのね……」

 

「そんな歴史は繰り返すみたいに言わなくても」

 

 ジェイドの声は聞こえていないのか、手帳と睨めっこするカーリーは悩みの声をあげる。

 

「うう〜……、これ、すぐ記事にしても迷惑かけるだけかも……」

 

『まだ復興中だからな。人が集まっても住むところが無え』

 

 ロットンがスイッチ一つで起爆させた街中に仕込まれていた爆弾の量はとんでもなかった。建物が半壊・崩壊する威力の爆弾を複数使われて死者が出なかったのが奇跡と言えるほどに。

 現在は壊れた建物から使えそうな木材を流用して住民達の住まいを修復するのに精一杯で、外部の人間を受け入れることはできない。

 

 伝説のチームサティスファクションのリーダーが町長をしている!? なんて記事で注目を集めても、受け入れ態勢が整っていないため逆効果になってしまうだろう。

 

「長期取材ってことにして、記事を出すのは復興終わってからにしますね」

 

『……そうしてくれると助かる』

 

 ダークシグナーの記憶についても聞かれそうだ、と察したのか鬼柳の返事が少し遅れた。ありがとうございましたと電話を切り、カーリーは思い出したように手帳の一ページをちぎる。

 

「あっジェイドさんこれ、私の仕事用の連絡先! 長期取材確定ってことで、また話を聞くことになるだろうから登録しておいてください!」

 

「あ、はい」

 

 くしゃついた紙を渡され、次の取材が待ってるんだからー、と眼鏡をかけた女性記者はドタバタ騒がしく去っていった。

 

「しっかしいつも元気だよなあの人」

 

「ああでなくてはカーリーではないわ」

 

 皆が外に出て車を走らせるカーリーを見送る中、ジェイドは受け取った紙を開く。

 

 そこにあったのは電話番号と、メールアドレスと。

 

 ――ダークシグナーの時の記憶を取り戻してみたい。だからジャックが認めてくれるぐらいに鍛えて欲しい。

 

 そんな、口に出せないお願いだった。

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