石造りの心臓   作:ウボァー

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続いちゃった。おかしいな……一発ネタのはずなのにな……。


宝石の瞳

「オレはジャック。お兄ちゃんの名前は?」

 

 あの日、兄ができた時からそういえば自己紹介を済ませていなかった。兄は名前を言いたくないのか、あーだの、ううんだのと口をもごつかせる。

 名前に関して嫌な思い出でもあったのだろうか。聞き返さない方が良かったかも……そう自罰的になり、ジャックがしょんぼりした顔を地面に向けようとしたのを兄は慌てて静止する。

 

「ああ、そんな気にしなくていいって! 私の名前、はね……」

 

 こちらの顔を、目を、瞳に反射する己の顔を見て。

 

「私の名前は――ジェイド。ジェイドだよ」

 

 そう、何か重大な決断をしたように、はっきりと兄は告げた。

 

 ジェイド……後から知ったが、それは宝石の名前。なるほど似合っているな、と思った。なんたって兄の目は透き通るような、こちらを見透かすような見事な翠。

 宝石からつけた、いや、あの時にとってつけたように思われるかもしれない名前。本当の名前は違うのかも……そんなことはどうだっていい。

 兄は、どんな名前だろうと変わることなくこのジャック・アトラスの兄なのだから。

 

 強くて優しい、自分の盾となってくれる人。

 

 経験やカードパワーがはるかに上のはずの大人相手にデュエルで互角……いや、それ以上に渡り合う姿を見る度、自分ももっと強くなりたいという思いを募らせた。

 兄の後ろではなく、横に――前に立ちたい。それは決闘者として自然な目標だった。

 

「あれ、またシンクロモンスターが落ちてる? えーと、レベルと召喚条件……」

 

 天性の才能か、何故か自分のデッキで出しやすく、かつ効果も有用なカードを見つけるのがすごくうまかった。こればっかりは何を真似しても獲得できない能力だ。

 兄の手には、サテライトに捨てられているのが疑問になるぐらいの良いカードが集まってくる。

 ……カードが決闘者を選ぶ、という話がある。ならきっと、兄は特別なのだ。だって、こんなにも自分を選んでいるカードを見つけてくれる。

 

 

 ……安心できる居場所へと辿り着いた途端、兄は自分だけに与えてくれたものを皆へも振り撒くようになった。自分だけでなく、遊星やクロウ、マーサハウスの皆のデッキそれぞれに向いたカードを拾ってくるようになった。

 

 

 ――自分だけの特別は、あっけなく消えてしまった。

 

 

 何とかして特別に戻りたかった。

 兄自身のデッキを、オレが倒せば……そうすれば、オレの背だけを見てくれるだろうか。そんなオレの邪心に気がついているのかいないのか。兄はデッキを持とうとはしなかった。

 

 他人のデッキを使う兄を倒す――? それは、オレが超えたい兄ではない。

 兄には他人のデッキを使おうと思えば出来るだけの知識があるが、それは許せなかった。だから兄がデュエルをする時はオレのデッキを使え、と有無を言わさず押し付けるようになった。

 

 

 奪われたくなかった。

 

 

 弟がいつもお世話になってます、とまさか兄がチームサティスファクションの本拠地に挨拶に来るとは……流石に予想ができなかった。

 

 鬼柳には兄の話をしたことがあった。それがマズかったか、自然な流れでデュエルを始めようとして。慌てて自分のデッキを握らせる。

 ……遊星とクロウは「まだお前それやるのかよ」と視線で訴えかけていたが。

 

 手の内を知られているオレのデッキだというのに、無事に勝利した兄を見て胸を張る。鬼柳は気にしていなかったが、残り二人のオレを見る目がよりジトっとしたものになっていった。

 

 デュエルの腕前に満足した鬼柳がチームに入れようとしたが、流石にデッキを持っていない決闘者の扱いに困ったのか……しぶしぶメンバー入りを取りやめた。

 

 

 デッキを持っていないことに感謝――決闘者としてあるまじき考えがよぎる。

 

 

 だから、だったのだろうか。イェーガーに誘われた時、チャンスだと思ってしまったのだ。

 シティでライディングデュエルキングになる――あの時は確かに共に輝かしい道を歩く未来が見えていた。だが、現実は違った。

 

「ジャック? ……ラリー!? 一体何を――」

 

 条件として提示されたスターダスト・ドラゴン。それを得るため、遊星に仲間かカードかを選ばせるその瞬間を、一番見られたくない人に見られてしまった。

 

 咄嗟のことだった。衝動に突き動かされるように兄の腹を殴って意識を奪い、ラリーを助け出そうとする遊星には目もくれず、まるで人攫いのような形でサテライトから抜け出した。

 イェーガーは余計なモノを、と兄のことを見下していたが……オレには、何としても兄が必要だったのだ。

 

 シティへと着いてからというもの、兄はどこかぼんやりとしていた。シティとサテライトの生活の差について来れず呆然としているのだと勝手に納得し、オレがこれまでの兄の分までしっかりせねばと気合を入れていた。

 

 ……あれほどまでにカード拾いに熱を上げていた兄は、シティに来てからというものの自分から外に出ようとはしなかった。

 本当ならそこで気付くべきだったのだろう。

 

「あれ? ジャック、いつも乗ってたDホイールは」

 

「アレか。捨てたぞ」

 

「……………………え?」

 

 サテライトから出る際に遊星から奪った白いDホイール。酷使していたため壊れてしまったが、ジャンク品の寄せ集めより良い性能のものがシティでは作れる。いらないゴミだからあれは捨てた。そう告げて……。

 

「…………うん。そっ、か」

 

 ほろりと涙を流す兄の顔を見て――オレはずっと間違えていたのだと、ようやく気が付いた。

 オレは、オレのことだけしか考えていなかった。真に兄のことを思えていなかった。

 

 

 

 王の手中の玉は、あの日から石へと変じてしまった。

 

 

 

 元気もりもりメメント・モリ!(コールアンドレスポンス)

 

 皆が来ちゃった。死刑宣告かな……。今のところ死んでるけど……。

 

『我が兄をどこへやった! ゴドウィンッ!!』

 

 ひぇっこわい。ふわふわしながらもぎゅっと縮こまる。

 

『そう焦るな。怒鳴らずともすぐにわかる』

 

 石の心臓が瞬間移動して祭壇の上空へと出現。

 

『あれは地縛神の……!?』

 

 ワンチャン違うかもしれないと思ってたけど地縛神が確定しちゃった。

 ……あれー気のせいですかねゴドウィンさん。この石の心臓に冥界の王が引き寄せられてませんこと? コンドルの地上絵の地縛神を呼ぶためのアレじゃないんですかコレ?

 

『シグナーの血を継ぐものが最も信頼せし魂――それこそが冥府の王への最大の贄!』

 

 ちょっと何言ってるんかわからないんですがえっ待ってあのぅ超官??

 ニエって何? 煮えたぎってきたぜ? ……イケニエ? このままだとイリアステルに殺される前に死ぬ! いや石の心臓の中にいる時点で既に死んでるんだけど!

 

『冥府の王よ! 永劫不滅の心臓を得て、今ここに真なる受肉を果たすのだ!』

 

 骨に腐った肉を纏わせた四つ足の獣みたいなヤツが大きく口を広げて石の心臓を食べようとしておられる。わぁ。

 ……うわ垂れた黒い液体入ってきた! ぎゃあー! 助けてー!!

 

 今のところ特に何もしてなかった《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》のカードにどろりと黒がかかった――その時だった。

 

『オオォオオオオオオオオォォォォン――ッ!!』

 

 骨と宝石を纏う、禍々しくも頼もしいドラゴンが「何してくれとんじゃゴルァ!!」な感じで冥府の王の横っ面をぶん殴った。

 あっ……物理効くんだ……。攻撃力5000パンチ、痛そう。《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の腕の先にあるのは拳じゃなくて竜の頭骨なんだけど、その場合でもパンチでよかったのかな? いや気にするのはそこじゃないか。

 

『あれはまさか……』

 

 超官がなんだか戸惑ってる? シグナーの痣もピカピカしてるし。OCGプレイヤーが知らない因縁があったの?

 突然のダメージに悶えた冥府の王だが、鳥だか獣だかよくわからない真っ黒謎生物たちを敵対者に向けてぽこじゃか放つ。

 

『ルオオオオォオオオッ!』

 

 何をきっかけに現れたのかよくわからないまま、実体化した《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が《メメント・クレニアム・バースト》のあの全方位ビームで変な黒い奴を蹴散らしている。

 未来のチーム5D'sが困惑している。

 

 ……あれ? シグナーの竜の見せ場奪ってない? 取り敢えず超官と三人はデュエルもう始めていいと思うよ……?

 

 うん、生贄状態な私は手出しできないから見守るしかできないや! なるようになーれ!

 《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》ー! がんばえー!

 

 

 

 5000年――長い時を待った。なんか突然すごい衝撃があってびっくりした。このメメントランに目覚まし時計はない。何が起きたのかと人間界を覗く。

 ゼロ・リバース? いかに隠そうとしても我には見える。これは天災ではなく人災だ。そして……その裏にはダークシグナーの影がある、とも。

 

 死者は皆冥府に来るが定めであるが、地縛神は死者を奪って自分のものにした挙句、言うことを聞かなくなったら無理矢理に動かす。

 

 嫌いだ。やり口が何よりも嫌いだ。絶対に向こうの側にはつきたくない。でも赤き竜――ケッツァーコアトルとは殴り合いたい。

 あの野郎ちゃんと骨返すって言ったのに騙しやがって。我あいつもだいキライ! 直接行って殴り飛ばしたい!

 

 でも我を使える決闘者がいない。あの野郎は眷属の竜を複数の人間に与えて出て来れる可能性増やしてる。5000年を過ぎても伝説が残ってる。我使える可能性ある人間0人なのに。ズルイぞ!!

 

 文句を言っててもしょうがないので、人間界の様子を確認し……荒ぶる魂(バーニング・ソウル)を宿すシグナーの祖の血筋が絶えていないのかと驚く。ゼロ・リバースにより親を亡くしたのだろうか。一人だけだ。見ていてめちゃくちゃハラハラする。

 

 人の子は年長者に守られ健やかに育つべきゲフンゲフン、ここでお前が死んだらケッツァーコアトルが出てくる機会減るかもだからな! という誰に向けたツンデレなのかわからないムーブをする冥界の竜。

 見守ることしかできないのが非常に腹立たしい。もし生きているけど冥界に近い人間がいればワンチャンで守ってあげられるのにな――。

 

 ――いたわ。いる? えっ本当に? 我の勘違いじゃないよね?

 

 何度も何度も確認した。間違いなく、冥界の匂いがどことなくする人間が、何の偶然かシグナーの祖の血を引く子供の兄を始めていた。兄って始められたっけ? まあいいか。

 

 生きているのに死んでいる。いるはずのない存在がいた――竜は歓喜に打ち震える。しかも名前がジェイド(翡翠)ときた。これは得るしかない。

 

 ……だが、まだだ。まだ全てを満たしていない。

 

 力を得るためならば、人間であろうと試しは必要だ。それは無理難題。出来るはずのないこと。あの野郎はなんかハチの音が法螺貝の音になるとかいうそんなわけねえだろを成し遂げた。思い出したら腹立ってきたな……。

 

 子供に酷なことをさせるつもりはない。ペナルティは特に無い、簡単な名前当てゲームを試練とする。

 メメントランに住まう眷属を向かわせ、その名を当てることができれば力を与える。シンプルだ。

 

 さあ、ジェイドよ。一度もこの世に出たことのない名を当てられることができ――。

 

 

『モンスター、みんな【メメント】になってるなぁ……』

 

 

 ――ああ、ああ! このようなことが本当にあるとは! 見事当てた!

 

 メメントランに骨が何度も打ち合さる音が響き渡る。これ以上ないほどに竜は笑っていた。

 

 感謝を。ただ感謝を。今ここにあの野郎を殴り飛ばす機会が生まれ……あっ。

 

 これは困ったぞ。これまで表舞台に出たことないからパワーが足りない。カードの姿で彼の手元に移動はできたがそれだけだ。カードの精霊として姿を出すこともできない。眷属も真の姿である【メメント】になりきれてないし……。

 

 デュエルしたらエネルギー溜まりそうだからちょっとだけデュエルして! ちょっとだけで良きだから!

 

 

 えっ? 持ってるカード40枚無いの?

 

 

 いやあんなにカード拾ってたのに!? 拾ったカードは必要となる子供たちへ配ってるの? えらい。メメントポイントをあげよう。

 デッキ埋めるための汎用カードも無いの? 《偽物のわな》とか《落とし穴》……もないの? 本当に? じゃあ本当に今手にあるのは【メメント】だけしかいない……?

 えっ、えぇ……。いるんだ、そんな決闘者……。すんごい良い子だったけどちょっとこれは予想してなかった……。

 我、不覚。

 

 これ以上無いほどしょんぼりした。

 ……本当に何もできないまま、彼を見守るだけの日々を過ごした。サテライトにいる間もいろんなことがあって、ジェイドがしょんぼりした時も竜は一緒にしょんぼりした。

 

 蜘蛛野郎に洗脳されて無断外出、そのまま祭壇に捧げられるまで何もできなかった己が腹立たしい。

 贄となった今は冥府パワーを使って彼の魂と自我を守っている。でもこの魂、彼というか彼女というべきなのかどっちだ……? 性別問題は複雑なのだなあ。

 

 

 

 ……あ!? 何してくれとんじゃゴルァ!! なんだお前たかが冥府の王如きが冥界の神たる我が認めた人間を奪うと!? 許さんぞこの泥棒猫!!

 冥府の扉が開いてるなら冥府パワー使って実体化できるんだぞこっちは! 赤き竜より先にお前をぶっ飛ばしてやる!!

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