石造りの心臓   作:ウボァー

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それは悲運か幸運か

「すいませーん……ジャックと行きたい場所があってぇ……」

 

 ガレージを覗いたカーリーが見たのは遊星、ジャック、クロウ、ブルーノの四人。

 平日のためジェイドはデュエルアカデミアにて臨時講師の仕事中だ。クロウは荷物を整理しているためそろそろ配達を開始する時間なのだろう。

 

「ああ、いいぞ」

 

 パソコンから顔を離し、遊星は即答した。

 

「いいんですか?」

 

「じっとしていても役に立たねえ穀潰しを連れ出してくれるってんだ、俺らとしては万々歳だぜ」

 

「おいクロウ貴様っ」

 

「ジャックにして貰いたいこと、プログラム組み上げてからのテスト走行ぐらいだからね。じっとしているのも暇だろうし……気分転換にはいいんじゃないかな」

 

 賛成多数。どうぞどうぞお二人でご自由にと追い出される。

 二人一緒にお出かけとなると、目的はデートかなと思われているだろう。まあ、別に、そうだとしても嫌ではない……けども。

 カーリーの愛車に乗せられたジャックは一言も喋らず、勢いに流されるままであった。

 

 しかたなく車の窓から見える景色だけを眺めていたが、様子がおかしい。周囲の景色より現在地を把握しているが、カーリーが向かう場所は遊園地でも水族館でも、ましてやショッピングモールでもない。

 

 辿り着いたのは人気がない、遊具がない、本当にただ広いだけの公園……と呼んでいいのかすら定かではない場所。

 

「何をするつもりだ」

 

 思っていたのと全く違う。こんな場所に連れ込むなんて何を考えているのかと疑問が脳内に浮かぶのは当然だった。

 

「デュエルしましょう、ジャック」

 

「デュエル? お前が…………オレと?」

 

 思い出すのは二人で力を合わせて行ったデュエル。最初はこちらの言うことを聞かず、勝手な行動をしていた彼女の姿。

 デュエルタクティクスの差を考えるとそもそも勝負になるのか危うい、と相手に知られたらとても失礼なことを考えていた。

 

 彼の内にある不安を察したのか、カーリーは自信満々に答える。

 

「ジェイドさんお墨付きの腕前になれたもの。これまでの私とは一味も二味も違うんだから」

 

「ジェイドが?」

 

「そうよ!」

 

 カーリーはふんすと胸を張る。

 ジェイドがこちらに知らせず勝手に動いた……ということはまたぞろ変なことを考えたのだな、とジャックは眉を顰める。

 

 鬼柳への取材の中、デッキが原因ではないかとしっかり聞いていたのにカーリーを強くするとは。

 ダークシグナーとなった彼女とオレがデュエルしたとわかっているだろうに、何故そんなことを。

 

「もしかして……負けちゃうのが怖いとか〜?」

 

「そんな訳がないだろう」

 

 わかりやすい煽り。安い挑発を受けた程度で乗り気になれないが、かといって挑まれたデュエルを受けないというのは決闘者としてのプライドが許さない。

 何を企んでいるのかはここで問い詰めずともデュエルによって聞き出せば良い。

 

 互いにデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 掛け声がウキウキなカーリーと、まだどこかに戸惑いが残るジャック。二人の思いの差がデュエルディスクに伝わったのか、先攻はカーリーからとなった。

 

「私の先攻ね、ドロー! 永続魔法《凡骨の意地》を発動!」

 

 発動されたのは通常モンスターを使うデッキに採用されるドロー加速カード。

 

「《占い魔女 スィーちゃん》を召喚。カードをセットしてターンエンドよ」

 

《占い魔女 スィーちゃん》

星4/攻0

 

 カーリーが召喚したのは青色の長髪と同色の天使の羽を頭部に生やした、愛らしいデフォルメされた魔法使い。杖を握りしめるがその力は頼りない。

 

「ほう」

 

 一連の手捌きを見てジャックは感心したような声を漏らした。

 先攻1ターン目。落ち着いた立ち上がりだが、動きに戸惑いがない。自分のデッキをちゃんとモノにしている決闘者の手付き。

 

 ――ジェイドからのお墨付き、というのは嘘ではなさそうだ。

 

「攻撃力0を攻撃表示で出すとは攻撃を誘っているのか、それとも罠を匂わせこちらが攻めないことを期待しているのか」

 

 ジェイドが面倒を見たということはデュエルの腕はかなり上がっている。考えられる二つの可能性はどちらも同様にあり得る。

 

「どちらだろうと関係ない、小賢しい策は粉砕するのみ! 俺のターン、ドロー!」

 

 いかなる相手だろうとパワー戦術で倒していく、それが彼のデュエルスタイル。罠があるのなら力のまま踏み壊すべしとカードを勢いよく引き抜いた。

 

「《ツイン・ブレイカー》を召喚!」

 

《ツイン・ブレイカー》

星4/攻1600

 

 先陣として選んだのは相手が守備表示となってもダメージを通すことのできる戦士。

 カーリーのセットカードが自身のモンスターの表示形式を変更して防御するものの場合、このモンスターの前では逆効果になる。

 

「攻撃だ! モンスターを粉砕せよ!」

 

「そうはいかないんだから! セットしていた速攻魔法《ディメンション・マジック》を発動! 《スィーちゃん》をリリースして手札の《占い魔女 チーちゃん》を特殊召喚。その後相手モンスターを破壊するわ!」

 

 勇敢に攻め込んだ戦士だったが、魔法使いが不思議な棺の中に自分から入っていき目標を見失う。

 仕方なく、先の見えない暗闇の中に消えた目標を追い突貫。不思議なことに棺は一人でに閉まった。

 

 ……くぐもった悲鳴が聞こえた後、開いた棺にいたのは新たな魔法使い。ジャックの操る戦士はどこかへと消え去ってしまった。

 

《占い魔女 チーちゃん》

星6/攻0

 

「フ、強くなったと自称するのならそう来なくてはな。カードを1枚セットしターンエンドだ!」

 

 モンスターを残しながら攻撃をいなす、決闘者として一定以上のレベルを超えると必須となるテクニック。

 最初の不安はもはや無く、ジャックの気分は高揚していく。

 

「私のターン! ドローしたのは通常モンスターの《占い魔女 ヒカリちゃん》。このカードを見せることで《凡骨の意地》の効果により追加のドローを行うわ」

 

 再びのドロー。カードを確認し、うんうんと一人頷く。

 

「《占い魔女 ヒカリちゃん》を召喚!」

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

星1/攻0

 

 またも攻撃力0のモンスターを攻撃表示で出したカーリーだが、無策というわけではない。

 

「永続魔法《開運ミラクルストーン》発動! この効果で私のフィールドの『占い魔女』たちの攻撃力はその数×1000アップ! 召喚・反転召喚・特殊召喚したターンは攻撃できないけど……これでスーパーパワーアップよ!」

 

《占い魔女 チーちゃん》

攻0→2000

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

攻0→2000

 

 このターン通常召喚した光の占い魔女は攻撃できない。が、地の占い魔女は前のターンに特殊召喚された。

 攻撃可能なモンスターは1体。伏せカード1枚を気にし過ぎては勝てる勝負も勝てなくなる。

 

「攻撃力2000になった《チーちゃん》でダイレクトアターック!」

 

「そう易々と攻撃が通せると思うな! 罠発動、《ブレイク・チューン》! 手札のチューナーモンスター1体を特殊召喚してその攻撃を無効にする!」

 

 可愛らしい掛け声と共に振り上げた杖が、罠の影響でピタリと止まる。

 

「来い、《ダーク・リゾネーター》!」

 

《ダーク・リゾネーター》

星3/守300

 

 そんな様子を見て音叉を持った丸っこいシルエットの悪魔が笑う。

 

「チューナーが出てきちゃった……! うう、私はこれでターンエンド……」

 

 自分のペースを崩されカーリーはしょんぼり意気消沈。

 

「成程、シンクロ召喚を行う前に倒し切りたいという魂胆だったか……。オレのターン、ドロー! 相手フィールドにモンスターが2体以上いるため、《パワー・インベーダー》をリリースなしで召喚する!」

 

《パワー・インベーダー》

星5/攻2200

 

「ああ、これでレベルの合計が8になった……!」

 

「レベル5の《パワー・インベーダー》にレベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング!」

 

◎◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

5+
3=
8

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

星8/攻3000

 

 シンクロ召喚されたのは当然、ジャック・アトラスを象徴する存在。小さな魔法使い達が体全部を使ってやって見上げられるほどの大きさを持つ、強大なシグナーの竜。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《チーちゃん》に攻撃! アブソリュート・パワーフォース!」

 

カーリー

LP 4000→3000

 

「きゃああっ!」

 

 炎を纏った攻撃に焼かれ、魔法使いは悲鳴を上げ戦闘破壊される。

 占い魔女がいなくなったことで奇跡の石による強化は弱まり、残る魔法使いの攻撃力が変化する。

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

攻2000→1000

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 彼の象徴となるドラゴンがフィールドを睥睨する。下手な攻撃は通らない、攻撃力3000の圧がカーリーへと降りかかる。

 

「まだまだこれから! 私のターン! ドローした《占い魔女 フウちゃん》を公開し《凡骨の意地》で1枚ドロー!」

 

 力の差には怯まずドローしたカードを確認。まだ戦える。

 

「《占い魔女 フウちゃん》を召喚。占い魔女が2体になったことで攻撃力は2000になるわ」

 

《占い魔女 フウちゃん》

星3/攻0→2000

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

攻1000→2000

 

「《ヒカリちゃん》に《下克上の首飾り》を装備!」

 

 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は守備表示のモンスターを纏めて焼き払う効果を持つため、カーリーは守備を固めにくくなった。

 ならばどうするか。その答えとなるのは大きな目を象った不気味な首飾り。女の子としては嫌なデザインだが、モンスターとしては贈り物が喜ばしいのか大事に抱えている。

 

「その装備魔法は確か……」

 

「バトルよ! 《ヒカリちゃん》で《レッド・デーモンズ・ドラゴン》へ攻撃!」

 

 永続魔法により強化されているが、攻撃力は未だ彼の魂を下回る。そんな中、首飾りがきらりと光った。

 

「《下克上の首飾り》は装備モンスターよりレベルの高いモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算時のみレベルの差×500攻撃力をアップする! 《ヒカリちゃん》と《レッド・デーモンズ》のレベルの差は7。よって攻撃力が3500アップするわ!」

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

攻2000→5500

 

 レベル1とレベル8の衝突により攻撃力が5500に到達。常人ならば狼狽えるのだろうが、生憎この男の兄は攻撃力5000を安定して出してくる決闘者。

 慣れとは恐ろしいもので、ああそうきたか、ぐらいに受け止めていた。

 

「ようやく本気を出した、というところか?」

 

「もう! 私はずっと本気なんだからーっ!!」

 

ジャック

LP 4000→1500

 

 杖から照射された光が竜を貫く。グオオオォ……と苦しそうに叫び、赤き魔竜は大地に倒れ伏す。

 ジャックの手から攻撃力の差を覆すようなカードは使われず、戦闘による破壊は成立した。

 

「……やった、やった! ジャックのエースを倒せちゃった!」

 

 占い魔女と一緒にカーリーはぴょこぴょこ嬉しそうに跳ね回る。その様子を見てジャックはどこか楽しげに笑う。

 

「我が魂を倒しただけでその喜びよう……ジェイドはデュエルの腕前はどうにかできても、落ち着きは叩き込めたわけではないようだな」

 

「ちょっと、それってどういうことよー!?」

 

「フン……真の決闘者の立ち振る舞いというものを見せてやろう。罠カード《ロスト・スター・ディセント》発動!」

 

 墓地からフィールドへと登る光。倒れていたはずの竜へと活力を与え、戦いの舞台へと再起させる。

 

「墓地の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》をレベルを下げ、守備力0かつ効果無効の状態で特殊召喚!」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

星8→7/守0

 

 《ロスト・スター・ディセント》で復活したモンスターは表示形式の変更ができないため、このままでは攻撃に転じることができない。

 

 しかし、相手がエースモンスターを失ったショックを使いデュエルの主導権を自分に戻そうとしていたカーリーにとっては、いかに弱ろうと《レッド・デーモンズ・ドラゴン》がフィールドにいること自体が問題だった。

 

「せっかく倒したのにぃ! うう、私はこれでターンエンド!」

 

「オレのターン、ドロー! 《紅蓮魔竜の壺》を発動し2枚ドロー」

 

 ドローカードを見て、王者は不敵にニヤリと笑う。

 

「《クリムゾン・ヘル・セキュア》発動! 相手フィールドに存在する魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

「えええ!?」

 

 力を失われていたとて、その名は健在。必殺技となる魔法カードの後押しを受けた竜が放つ炎はカーリーの魔法カードを焼き尽くす。

 

「お前の戦術は魔法や罠などのサポートに強く依存している。それらを失った今、占い魔女の攻撃力は0に戻る!」

 

《占い魔女 ヒカリちゃん》

攻2000→0

 

《占い魔女 フウちゃん》

攻2000→0

 

「ううう〜……墓地に送られた《下克上の首飾り》の効果が使えるけど、デッキの一番上には置かないわ……」

 

 ジャックの次なるモンスターの展開が約束されてしまった今この状況でドローカードの固定をするのは痛手となる。それ即ち、カーリーの手には攻略手段がないことを示唆する。

 

「《バリア・リゾネーター》を召喚」

 

《バリア・リゾネーター》

星1/攻300

 

 召喚されたのは背中に大きな装置を背負った悪魔。

 両手を上げ、キィン、と音叉を鳴らす。

 

「レベル7となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン》にレベル1の《バリア・リゾネーター》をチューニング!」

 

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

7+
1=
8

 

「王者の決断、今赤く滾る炎を宿す真紅の刃となる! 熱き波濤を超え現れよ! シンクロ召喚! 炎の鬼神、《クリムゾン・ブレーダー》!」

 

《クリムゾン・ブレーダー》

星8/攻2800

 

 ジャックの操るシンクロモンスターはシグナーの竜だけではない。魂と認識するが故に優先して使われているだけであり、状況によっては他のモンスターを使うことも当然ある。

 

「バトルだ! 《クリムゾン・ブレーダー》で《ヒカリちゃん》に攻撃! レッドマーダー!」

 

カーリー

LP 3000→200

 

「きゃああっ!」

 

 攻撃力0という戦闘に抵抗手段の無い相手に容赦なく剣を振い、一撃で2800のダメージが与えられた。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 絶体絶命のピンチなカーリーのフィールドには《占い魔女 フウちゃん》1体のみ。

 

「私のターン。ドロー」

 

 このドローで突破できなければ……そう考えながら手にしたカードは。

 

「《闇の誘惑》を発動…………」

 

 その効果はデッキから2枚ドローし、手札から闇属性モンスターを除外するというもの。闇属性がいない場合は全ての手札を失うデメリットがある。

 属性のばらけている占い魔女で十全に使うには少々リスクを伴うドローカード。何かおかしい、とジャックは思考する。

 

 ――それが、異常の始まりだった。

 

「除外するのは――《フォーチュンレディ・ダルキー》」

 

「フォーチュンレディだと!? カーリー、お前!」

 

 消えたはずの闇のカード。それが何故デッキに。

 

「あ、ああ、あああ――!!」

 

 デュエルを続けるよりも彼女の安全を、と駆け寄ろうとしたジャックを跳ね除けるのはぶわりと吹き上がる黒い風。呪詛混じりの神の暴風。髪は巻き上げられ眼鏡が吹き飛ばされ、その強さを物語る。

 

 眼鏡がなくなったことで他者から見えやすくなった彼女の目は――ダークシグナーの頃と同じように、黒く染まっていた。

 

「やだ、いや……! こんな、違う!」

 

『《フォーチュンフューチャー》を発動。除外されている《ダルキー》を墓地に戻して2枚ドロー』

 

 彼女を使い、別の存在がデュエルを進める。影から出で、操り人形のように絡めとるモヤの糸。

 

 黒に橙の光。内側にぼうぼうと燃える憎悪の炎。

 その正体をジャックは知っている。

 

「地縛神……!」

 

 倒されたはずの神は、その恨みを糧として彼女の中に潜み続けていた。しかしシグナーとのデュエルを契機に蘇り、復讐を果たさんと姿を現した。

 

 完全なる復活はできずとも、忌々しき者へ消えない傷を刻むために。

 

『永続魔法《フォーチュン・ヴィジョン》を発動。デッキより《フォーチュレディ・パスティー》を手札に加える。そしてこれを通常召喚』

 

《フォーチュレディ・パスティー》

星1/攻?→200

 

「そのモンスターは!」

 

 俯いて表情は分からないが、そのモンスターが纏う黒い装束はまるで。あの時の……ダークシグナーとなっていたカーリーのような姿。

 

『《フォーチュンレディ・コーリング》発動。デッキから《フォーチュンレディ・ライティー》を特殊召喚』

 

《フォーチュンレディ・ライティー》

星1/攻?→200

 

『特殊召喚された《ライティー》を対象に《地獄の暴走召喚》を発動。対象と同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚する。お前もフィールドにいるモンスターを参照し同じ効果を使えるが、いるのはシンクロモンスター。よって恩恵を受けるは我のみよ!』

 

 暴走する。氾濫を止められない。

 

「ジャック……」

 

「カーリー!」

 

 流れる涙は風に乗って消えていく。記憶が彼女を蝕んでいく。

 一人では受け止められない狂気の渦の中、道標となる赤い炎の王者を見て、カーリーは確かに笑った。

 

「――どんな運命だって、貴方なら乗り越えられると信じてるわ」

 

 風が止む。地縛神の怨念たる霧は彼女を覆い隠すように包み込み、カーリーは力が抜けたのかかくんと膝をつく。

 

 ――立ち上がった彼女は、先程までの様子とは一転し邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「《マジックブラスト》を発動! 私のフィールドにいる魔法使い族モンスター1体につき相手に200のダメージを与える。私のフィールドには5体。1000のダメージを受けなさい、ジャック!」

 

ジャック

LP 1500→500

 

「ぐおおおおおっ……!」

 

 魔法使いの力を束ねて作られた球状のエネルギーがジャックに襲いかかる。

 全身を貫くこの痛みは現実のもの。二人のごく普通のデュエルが闇のデュエルへと染められていく。

 

「レベル1の《フォーチュンレディ・ライティー》3体とレベル3の《占い魔女 フウちゃん》に、レベル1の《フォーチュンレディ・パスティー》をチューニング」

 

⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎⚪︎⚪︎

1+
1+
1+

3+
1=
7

 

「来なさい、《フォーチュンレディ・エヴァリー》!」

 

《フォーチュンレディ・エヴァリー》

星7/攻?→2800

 

 シンクロの白服と蛍光の髪。明るい印象を与えるはずの組み合わせだが、額にある不気味な目の形をした光が全てを反転させる。

 

「墓地に送られた3体の《ライティー》の効果発動。デッキから『フォーチュンレディ』3体を特殊召喚する!」

 

《フォーチュンレディ・パスティー》

星1/守?→200

 

《フォーチュンレディ・ファイリー》

星2/攻?→400

 

《フォーチュンレディ・アーシー》

星6/守?→2400

 

 フィールドを満たすのは魔女たちの邪悪な笑い声。

 

「《ファイリー》の効果で《クリムゾン・ブレーダー》を破壊! そして破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 

 ジャックの残りライフポイントは500。赤い魔女が振るう杖から炎の渦が出現し、剣士をその中へ閉じ込める。

 このままでは効果ダメージを受け敗北する――それを許すほど男は弱くない。

 

「チェーンして罠カード《パワー・シフト》発動! 《クリムゾン・ブレーダー》の攻撃力をターン終了時まで0にする!」

 

「それは!」

 

 剣士は魔女の放った炎に飲まれて消えるが、その炎が男の肌を焼くことはなかった。残るのは熱気だけ。

 

「《フォーチュンレディ・ファイリー》によるダメージはフィールドでの攻撃力を参照する……!」

 

「攻撃力0を破壊したとしてもオレにダメージは届かん。それだけではない! 《パワー・シフト》を受けたモンスターがこのターン破壊されたため1枚ドローする!」

 

「手札を増やしたところでこのターンで負けたら意味がないわよジャック・アトラス! 

 

 効果ダメージを回避され悔しそうに顔を歪めたものの、まだこれで終わりではない。

 

「《フォーチュンレディ・パスティー》の効果発動! 手札・フィールド・墓地の魔法使い族モンスターを除外することで『フォーチュンレディ』1体のレベルをターン終了時までその枚数と同じ数だけ変更することができる! 私はフィールドの《フォーチュンレディ・ファイリー》を除外し、《パスティー》のレベルを1アップする!」

 

《フォーチュンレディ・パスティー》

星1→2/守200→400

 

 効果を使用するために攻撃表示で特殊召喚され、低い攻撃力を晒していた赤い魔女をフィールドから消して攻撃の的から逃した。しかし、カーリーの狙いはそれだけではない。

 

「そして『フォーチュンレディ』のレベルが上がったことで《フォーチュンレディ・アーシー》の効果が発動! 貴方に400のダメージを与える!」

 

「がはっ……!」

 

ジャック

LP 500→100

 

「これで終わりよジャック! 《フォーチュンレディ・エヴァリー》でダイレクトアタック!」

 

 残りわずか100となったライフポイントを削るべく、闇の攻撃が迫る。

 

「直接攻撃宣言時、手札の《バトルフェーダー》を特殊召喚しバトルフェイズを終了させる!」

 

 攻撃を止めるのは澄んだ鐘の音。

 

「くっ! 私はターンエンド――う、うう……!」

 

 頭を押さえる。ふらつく。目の黒が薄くなる。

 彼女は未だ支配に抗っている。

 

「私のスタンバイフェイズになれば『フォーチュンレディ』達はレベルが上がり、《アーシー》による効果ダメージが貴方を襲う! それだけじゃないわ、墓地の《マジックブラスト》は私のターンのドローの代わりに手札に加えることできる! ――時間は何も解決なんてしない、死へと向かわせるだけ! 残されたこの1ターンで何ができると言うの!」

 

 こんな言葉が本心のはずがない。全ては闇が見せるまやかしだ。

 

 まだ闇から戻って来れない彼女ではあるが、声は聞こえていると信じジャック・アトラスは宣言する。

 

「――お前を救える」

 

 男の瞳は揺るがず。

 女の瞳は揺れる。

 

「オレのターン――ッ!」

 

 手札2枚。

 残されたモンスターは《バトルフェーダー》のみ。

 

「魔法発動、《星屑のきらめき》! 墓地に存在するドラゴン族シンクロモンスターのレベルと同じレベルになるように、自分の墓地に存在するモンスターをゲームから除外し、対象を特殊召喚する! ――蘇れ、我が魂! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ッ!!」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

星8/攻3000

 

 空に輝く八つの星。三度フィールドへと現れた紅蓮魔竜は己の存在を主張するかの如く咆哮する。

 

「《救世竜セイヴァー・ドラゴン》を召喚!」

 

《救世竜セイヴァー・ドラゴン》

星1/攻0

 

 それはあのデュエルを終わりに導いた切っ掛けとなるモンスター。

 

「レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と、レベル1の《バトルフェーダー》に、レベル1《救世竜セイヴァー・ドラゴン》をチューニング!!」

 

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎ ⚪︎

8+
1+
1=
10

 

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて大地を照らす! 光輝け! シンクロ召喚! 大いなる魂、《セイヴァー・デモン・ドラゴン》!」

 

《セイヴァー・デモン・ドラゴン》

星10/攻4000

 

 悪魔から天使のものへと形を変えた二対の翼を広げ、孤高の光が大地を照らす。赤き体に光を纏い、闇を許さぬ絶対的な力となってここに顕現する。

 

「《セイヴァー・デモン・ドラゴン》の効果で《フォーチュンレディ・エヴァリー》の効果を無効にする! パワー・ゲイン!」

 

 フォーチュンレディ達は攻撃力を己の効果で得ている。

 よって、効果が無効となった今、その力は――。

 

《フォーチュンレディ・エヴァリー》

攻2800→0

 

「闇よ、消え去れ! アルティメット・パワーフォース!!」

 

 紅の結晶の中、身動きが取れず固まった魔法使いが砕け散る。余波の炎により守備表示モンスターも全て消えていく。闇から生まれたカードたちが全て墓地へと葬られる。

 鳥の声にも聞こえる人ならざる悲鳴が響いた。地縛神の残滓は彼女の体から抜け出て、新たな憑依先を探そうとしている。

 

「逃すか! 我が魂よ、くだらぬ復讐をここで終わらせろ!」

 

 言われるまでもないと応えるように竜は咆哮する。

 決闘者の指示は竜の意思と合致した。彼女から逃げ出そうとした闇を竜はその手で引き摺り出し、掴み、握りつぶし、炎で焼き尽くす。

 復活できるような一片のカケラも残さぬように。

 

カーリー

LP 200→0

 

 デュエルが終わり、全ては何事もなかったかのように消えていく。残されたのは二人の決闘者だけ。

 力が抜け、地面に倒れそうになっていた彼女をジャックは抱きしめる。開いたその目は、今を生きる人間の目。

 

「ごめんなさい、私が弱かったから、また負けちゃった……」

 

 カーリーに残ったのは乗っ取られてしまった後悔。せっかく鍛えてもらったのに、楽しくなるはずの思い出だったのに。全部台無しにしてしまった。誰にも顔向けできない。

 

「いいや、お前は負けてなどいない。特殊召喚するモンスターに《フォーチュンレディ・ウォーテリー》が含まれていたならば、ドローによりさらに盤石な盤面を作れていた。しかしお前はそうしなかった」

 

 ジャックが名前を出したモンスターは特殊召喚された時、フィールドのフォーチュンレディの数と同じ枚数のドローができるため、あの場に出ていたなら合計4枚のドローとなった。

 ジャックはその枚数分カーリーのデッキトップから確認する。

 

 ――《タイムパッセージ》。フォーチュンレディのレベルをエンドフェイズまで3つ上げ、効果の補助を可能にする速攻魔法。

 

 ――《フューチャーヴィジョン》。召喚されたモンスターを未来に飛ばす、相手の計算を全て狂わせるフィールド魔法。

 

 ――《フォーチュン・スリップ》。攻撃対象に選択されたモンスター1体をゲームから除外して、相手モンスター1体の攻撃を無効にする罠カード。

 

 ――《運命湾曲》。相手の魔法・罠カードの発動、及びモンスターの召喚を無効にし、そのカードを相手の手札に戻し使用を封じる罠カード。

 

 これらが使われていたならジャックは勝てなかった。

 その未来を、運命を、彼女は選ばなかった。

 

「これが全てだ。お前は地縛神が残した呪縛に打ち勝った」

 

 落ちてしまった眼鏡は幸運にも破損していなかった。彼女のトレードマークとなっているそれを顔へと戻す。

 

 あの時とは違い、顔がはっきりと見える。だからこそ、より目を合わせられなくなったカーリーは一人言のように喋る。

 

「ジャック。私ね、本当はこのデュエルで勝ったら言いたかったことがあったの」

 

 きゅ、と口を噤む。その言葉でジャックは何故カーリーがデュエルで強くなろうとしていたのかの理由を察する。

 

「でも、言う資格、なくなっちゃった」

 

「思い出してしまったんだな、全てを」

 

「…………ええ」

 

 声色は震えている。孤独であったならば、発狂していただろう記憶。

 しかし彼の腕の中、救世の再演となったからかあの時になかった落ち着きが二人の心のどこかにあった。

 

「カーリー」

 

 男は自分から背けようとしている彼女の顔を、手で無理やりに己に向ける。

 

「やめて、ジャック」

 

「オレは、ジャック・アトラスは。カーリー渚を――真に愛している」

 

 これまで逃げていた気持ちを、真っ直ぐに言い放った。

 

「どんな運命が待っていようと、オレはお前と共に歩みたい」

 

 ジャックの告白を聞き、カーリーの目から雫がはらはらと溢れていく。

 悲しみではなく、喜びの感情からなるものだ。

 これまでも、これからも、全てを受け止めてくれる覚悟。デュエルで見せたあの強さが、彼の熱が伝わってくる。

 

「私もよ、ジャック! ――愛してる!」

 

 強く抱きしめ合う。

 もうその体が消えることはない。

 もうこの手が離れることはない。

 もうこの思いから目を背けない。

 

 もう、二人の未来を邪魔するものはいない。




Q.あの二人だしデートするのかなと思ってたらなんかジャックが闇のデュエルのせいでボロボロになって帰ってきた上に二人がカップルになりました報告を受けた男たちの気持ちを述べよ。

A.取り敢えず炊くか……赤飯!
なおジェイドにも伝わった結果その日は自習になりました。仕方ない。
ご祝儀って割り切れない数字にするんだよね、取り敢えず5万円包めばいい?それとも末広がりの8万??(混乱中)
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