石造りの心臓   作:ウボァー

22 / 53
キャラ崩壊の恐れがあります。
苦手な方は終わりの方だけ読んでください。


閑話:「早くね?」って駄弁ってるだけの話

 喜ばしいことは分け合うべきである。あとチームメンバーに知らせないのはおかしい。

 というわけで鬼柳に二人がくっつきました報告の通話をし、記念すべき第一声は。

 

『いや早くね?』

 

 恋愛はよくわかんねえけど恋仲になるにあたってもっとこう段階があるんじゃないのか、と鬼柳がツッコむ。

 え、ダークシグナーの時にあらかた済んでるようなモン? そうか……そう言われたら俺は何も言えねぇわ、とあっさり引き下がったが。

 

『ジャックがなあ……大丈夫か? あのジャックだぜ?』

 

 名前を強調して何度も呼ぶのは仕方ない。

 なんといったってあのジャックだ。自分を曲げないことに定評のあるジャックだ。些細なことからの喧嘩、最悪の科学反応が起きた場合の破局が簡単に想像できる。

 

「恋は人を変えるって言うし、それに賭けるしかない」

 

「だからオレを何だと思っているのだ!!」

 

「……新郎新婦の席で読み上げる手紙ってどう書けばいいかな」

 

「おーい、いいかげん戻ってこいよジェイドー」

 

 あとジェイドは混乱したままだった。紙と筆記具を片手にウロウロしながら文章を考えていた。

 

 誰とくっついたとしても応援と祝福はする。

 が、アニメを見ていた時のジャックとカーリーの関係をそうしちゃうの!? という個人の感情を含まずに行動ができたか、そう問われれば嘘になる。

 急展開の末にうまいこといきましたなんて報告を聞き、アニメの思い出と兄としての思い出が一気にぶわーっと出てしまった結果がコレだ。

 

 元気もりもりメメント・モリ!(現在進行形の醜態)

 

 万が一が起きたなら二人を繋げる手助けをした責任は取るつもりだったが、無様すぎる醜態を晒し続けている兄が二人の頼れる相談役になれる……かは定かでは無い。

 ひょっとすると二人が恋人としてぶつかり合いながらもいい感じに丸くなるほうが先かもしれない。

 

「聞いてる、話は聞いてるから」

 

「聞いてるだけじゃよくねえよ。ちゃんと中身わかってるかぁ?」

 

 ぐいーんぐいーんとクロウの手で体を揺らされる。しっかりとした芯のないゆるんゆるんお兄ちゃんだ。

 

 ジャックはジャックだし、遊星は鬼柳の対応をするし、ブルーノはチームサティスファクションの輪の中に混じりにくいのでちょっと遠巻きになる。

 というわけで必然的にクロウがジェイドの面倒を見ることになった。

 

「わかってるってぇ」

 

「そんな力の抜けた声されても何も信用できないんだよなぁ」

 

 へにゃへにゃふわふわのジェイドから紙とペンを取り上げる。取り敢えずソファに座らせ、これでも持っとけとクッションを押し付けておく。言われるがままに抱きかかえたジェイドを放置して男四人は鬼柳と語らい合う。

 

『皆の人気者なキングやってたんだしいつかは、とか未来の話だと思ってたのによ……まさか昨日の今日でなりましたとは思わねーよ』

 

「取り敢えず赤飯は炊いたぞ」

 

『そこはケーキとかじゃねえのか。……ま、俺もなんか考えとくわ。サティスファクションタウンの復興に忙しいから遅れるかもしれないけどよ。届く前に実は別れてました、とかならないようにしろよ? これは冗談抜きで言ってんだぜ?』

 

「そんな心配をされるほど愚かな真似はせん」

 

 んー、と何かに悩んでいたブルーノが口を開く。

 

「ボク考えたんだけど、ジェイドは応援しただけだしさ……もしかして恋のキューピッドは牛尾さんってことになるのかな?」

 

「まあ……そうなる……のか?」

 

 カーリーがダークシグナーの記憶について向き合おうとしたのは鬼柳と繋がりが出来たため。

 なぜ繋がりができたかと遡ればクラッシュタウンのことを教えた牛尾に辿り着く。

 

 皆の頭の中に、構えるのは弓矢ではなくゴヨウするための手錠というごっついセキュリティ天使牛尾が爆誕。それぞれ何とも言えない顔になった後無理やりイメージを追い出す。

 

「俺の運命は俺が選んだものだ。キューピッドなどという存在が不確かなものに決められてなるものか」

 

「うんうんそうだよね。……で、挙式はいつにする予定?」

 

 ジェイド、混乱から未だ回復せず。

 

「何をどう聞いたらその質問が出……ええいやかましい、まだせんわ!」

 

「…………まだ?」

 

「丁寧に言葉の揚げ足をとるな! そして毎回財布を取り出すな愚兄!」

 

「ゆゆ、遊星! 遊星ったら!」

 

 ブルーノがぺちぺちぺちと優しくも主張は通せるぐらいの強さで遊星の背中を叩く。

 

「ブルーノ? そんなに慌ててどうし、」

 

「大変だよ遊星、鬼柳さん息してないよ!」

 

『――ッヒ、――――!!!』

 

「きりゅうううううう!?」

 

 画面の向こうで声にならない笑いをあげ始めていた男だったが、あまりにも笑いすぎて過呼吸気味になっていた。

 

 大丈夫かい遊星ちゃん!? あとうるさいよアンタら! と大家のゾラが怒鳴り込むまで混沌は続いた。

 

『ハハッ、ヒー、あー笑った。ここまで笑うのいつぶりだ、ックク、はらいてぇー!』

 

 思い出し笑いの領域に突入する鬼柳の腹筋は限界を迎えつつあった。

 感情が一定のラインを超えると人が変わったような反応を見せるジェイドが、ここまで変になった姿を見せられるとは思いもしなかった。油断していたところに直球ストレートをぶち込まれてオーバーキルだ。

 

「なんで確定してない未来にそこまで全力疾走してるんだジェイド……」

 

「だってこんな喜ばしいことそうそうないし祝わないと」

 

「いや、もっと他に…………あっ……」

 

 過去に起きた大きな出来事を中心にジェイド視点を整理してみよう。

 

 見守ることしかできなかったチームサティスファクションの崩壊。

 互いに目指すものの違いにより二人の仲が悪くなる瞬間に居合わせ、ジャックによりシティへ拉致からの軟禁。

 ジャックによる皆との絆を蔑ろにするように見える言動や、様々なストレスで一時的な精神崩壊。

 ダークシグナーにより誘拐され生贄として死ぬ。

 蘇生して平和な日常になるかと思えば新たな敵として機皇帝が出現。

 偽ジャック。

 クラッシュタウンの一件。

 

 過去を振り返ってみると、確かにジェイド視点では手放しで喜ばしいことはそんなに無い。

 ……大体の原因となっている男共は何も言えなくなった。

 

「ね、アルターエゴはどう思う?」

 

 重っ苦しい空気をなんとかできないかとブルーノはDホイール――レストインピースへと語りかける。普段の整備好きが高じてついにおかしくなったわけではない。

 

『――何についてだ』

 

 誰にも通信を繋げていないはずのDホイールから返事が聞こえてくる。

 それも、ジャック・アトラスの声で。

 

「取り敢えず最初の話題に戻りたいし、ジャックの恋愛事情で」

 

『……早いだろう、どう考えても』

 

 レストインピースに備え付けられた画面に映るのは金髪の男の顔。

 ほんのりと暗い肌に目元のラインがより目付きの鋭さを際立てる――かつて、ジャック・アトラスの偽物として暴れていた存在、そのデータのみがDホイールの中で動いていた。

 なおアルターエゴという命名はジェイドがした。どちらもジャックと呼ぶのも、キング時代の彼を参考に作られた存在のためキングと呼ぶのも気に入らないと二人が喧嘩するためだ。

 

『所詮は肉体に縛られた生命体と言うわけか。キングが俗な欲望に振り回されてどうするというのだ』

 

「ジェイドを攫おうとした貴様には言われたくないわ!」

 

『オレはオレ(ジャック・アトラス)よ。いかに上っ面を虚飾で取り繕おうと本質は変わらんということだ』

 

 どこかエフェクトがかかっているジャックの声と、普段聞き慣れたジャックの声が言い争う。

 

『な、なんでジャックが一人で喧嘩してんだ? ジェイドにつられておかしくなったか?』

 

「ああ、鬼柳は知らないか。ジャックだがジャックではないんだ」

 

「ジャックが次々と決闘者をライディングデュエルでクラッシュさせてる、ってんでニュースになってたんだ。正体はジャックとそっくりのデュエルロイドだったんだが、それがわからない間は本人の仕業ってことになって大変だったんだぜ」

 

『そんなことがあったのか……』

 

「まあいろいろあって解決したんだが……どこかでジェイドがメモリを拾ってきてな。それの中にコレがいた」

 

『コレとはなんだクロウ』

 

「貴様はコレで十分だろう。アルターエゴなどという無駄に仰々しい名前を貰って調子に乗りよって」

 

『拾った、ね……。クラッシュタウンに来た時はそんな声しなかったが、もしかして』

 

『ああ、既にいたぞ。多くに存在を知られると問題を招くから出来る限り隠れているが』

 

 鬼柳、ふと何かに気付く。

 

『…………もしかしてジェイド、弟に跨って乗り回してるってことに』

 

「それ以上はいけない」

 

 遊星は鬼柳の閃きを闇に葬り去る。

 酒が一滴も入っていないにもかかわらず昼間から騒ぐ男達。彼らの喧騒は満足するまで続くのであった。

 

 

 

 

 遥か遠く、ナスカの地。地下に隠されし神殿にて。

 

 ――か細く残っていた青の灯火が一つ、消えた。

 

『おやおやぁ〜? 早すぎやしませんか? どうやら残滓も消え去ってしまったようですねぇ』

 

 神殿の中、紅蓮の炎が一人舞う。人のシルエットに似ているそれは長い尻尾を揺らし、悲報となるはずの消失を楽しげに受け取った。

 

『これで地上に出た地縛神達の呪いはぜぇんぶ無くなってしまいましたか。我が主の援護を受けていればアイノキセキ、なんてくだらないショーによる無様な負け姿を晒さずに済んだものを』

 

 強大な悪魔に仕えるしもべは道化のように語る。

 

『まあ、あの男を揺さぶれるネタが増えたと言うことでヨシとしましょうか。――然るべき時にこそ、憎き血を継ぐ男を最強の地縛神たる貴方様へ捧げましょうぞ!』

 

 高らかなる宣言。……その後、疑問が浮かび首を捻る。

 

『しかし何故冥府の存在がニンゲンの真似事を? 骨のような白髪とあの翠の目……ううむ覚えがあるような無いような。まあ、忘れてしまったならその程度の存在ということでしょう!』

 

 ケラケラと笑い、しもべは時を待ち続ける。




鬼柳
二人がくっついた報告を聞いた人の中で一番落ち着いている。さすがチームサティスファクションのリーダーだ!

偽ジャック
なんやかんや事件解決後イリアステルが捨てたものをお兄ちゃんが拾った。Dホイールに居候中。
詳しくはいつかの話で執筆予定。

紅蓮の悪魔のしもべ
あのニンゲンのことがなんとなく記憶にあるようなないような。……まあいいか!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。