石造りの心臓   作:ウボァー

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日常の裏であの兄弟が何をしているかの話。


痣を持っていた男

 地縛神が封印された地の底、広大な冥界を二人は歩く。

 既に死した体は補給の必要が無いため、水も食べ物も皆無な枯れ果てた大地のみという果てのない旅路を問題なく続けられる。

 生前の肉体の記憶は残っているため精神的な疲労による休憩は必要となるが、それだけだ。

 

 繰り返す破壊と再生の運命を終える戦士となった二人の歩みは止まらない。

 

「近付いてきたようだな……」

 

 光の先から繋がっていた運命の地をどれほど歩いてきただろうか。ルドガーの呟き通り、二人の目に荒野の変化が見えてきた。

 

 縦横無尽に伸びる白い糸。

 狡猾な神が紡ぎ上げた巣。

 あちこちにて蠢く子蜘蛛。

 

「ようやく辿り着いたぞ、《地縛神 Uru(ウル)》」

 

 その邪神こそが運命を狂わせたすべてのはじまり。

 戦士となった二人が乗り越えるべき試練、そのひとつ。

 

 ルドガーがダークシグナーになっていた17年間。それだけの期間を現世に潜伏し続けた蜘蛛の地縛神は、人間を侮りがちな邪神としては持たないはずの発想がある。

 

 蜘蛛を使った情報収集。民間人を操り手駒を増やす。操った人間を闇のデュエルの身代わりにする。……ルドガーのしてきた行いは邪神の経験として蓄積されたもの。

 次の5000年が来た時、次代のシグナーが狡猾な蜘蛛の糸に絡め取られてしまう可能性はゼロではない。

 

 それに、神話の中でケッツァーコアトルは蜘蛛に酒を勧められて過ちを犯した。必然的に相性が悪い。

 そのためかルドガーを邪神に傾倒させることに成功した。

 

 ――故に、一番最初に滅する地縛神をそれとしたルドガー・ゴドウィンの提案に対しレクス・ゴドウィンは反論しなかった。

 

「このまま進むのを許してはくれないようだ」

 

 運命の導きのまま進んだ彼等を歓迎する子蜘蛛は全て邪神の力で作られたもの。見た目よりも遥かに凶暴で凶悪だ。

 

 二人の目に地縛神の居城が見えたということは、当然相手にも認識されている。子蜘蛛の群れは男を威嚇しつつじりじりと近寄る。

 馬鹿正直に進めば蜘蛛糸で動きを封じられ、噛みついてきた子蜘蛛の毒に狂わされるだろう。

 

「ここは私に任せてください」

 

 レクスがルドガーの前へと出る。

 取り出したのは1枚のシンクロモンスターカード。デュエルディスクに置かれて召喚されたそれは四つの首を持つ龍。

 

「頼みますよ――《太陽龍インティ》」

 

 二つの力を併せ持つ究極神となっていたレクスが使っていたシンクロモンスターが吠える。

 運命に決着をつける旅路に力が必要だろう、という慈悲で赤き竜が彼の手に残したそれへ下したのは単純明快な命令。

 

 即ち、敵を全て焼き払う事。

 

 太陽の具現たる竜が空を走り大地に炎を落とす。天から降る火に逆らう手段のない哀れな子蜘蛛はギィギィと泣き喚くも、助けは来ない。いくらでも替えが効く存在に邪神は助けなど差し伸べないからだ。

 

 列を成す炎の間を二人は行く。……ふと、何かに気付いたように空を揺蕩うインティは首を向けた。

 瞬間、遠くから響く地縛神の咆哮。四方から射出された蜘蛛糸に締め付けられて太陽龍が砕け散る。

 

「うぐうっ……!」

 

「レクス!」

 

 闇の力によるモンスターと決闘者の感覚共有。苦痛でレクスは苦しそうに胸を抑えうずくまる。ルドガーは弟を心配し肩を貸そうとしたがレクスは拒否した。

 

「大丈夫です……今は私よりも、倒すべき敵のことを……!」

 

 今の彼には破壊された太陽龍と同じ、全身が砕け散るような痛みが襲っている。荒い呼吸を繰り返す男はどう見ても大丈夫とはほど遠い。

 ……しかし、覚悟を決めた時のレクスは非常に頑固だ。説得はできない。

 

「わかった、が……無茶はするな」

 

「言われずとも」

 

 二人の道行を邪魔するものを焼き払ったとはいえ一人残すのは不安ではあるが、この感情を足を止めていい理由にしてはならない。

 早く終わらせる。そのために走る。走って、走って……その先に男は神を見る。

 炎の届かなかった最奥にして巣の中心に座する、巨大な黒い蜘蛛。血のように真っ赤な八つの目をぎょろぎょろと動かして侵入者を見る。

 復活して暴れていた頃と比べると光の強さは衰えているが、それでも神。威圧は失われていなかった。

 

『――不快』

 

 身をよじり足をひとつ大地に叩きつける。それだけで衝撃波が発生し男に襲いかかる。

 ルドガーは全身で飛び込むようにして神の攻撃を回避し、着地の衝撃は前転で逃した。立ち上がった男はデュエルディスクを構えて叫ぶ。

 

「邪神よ、今こそ運命を終わらせる時だ!」

 

『……我に立ち向かう、か。一度は闇に屈した者が勝てるとでも?』

 

 それはかつて脳に響いていた甘美な囁きと同じ声。赤き竜により押し付けられたシグナーという役目など放り出してしまえ、と堕落を肯定する邪神の声。

 ドラゴンヘッドのシグナーでありながら闇を選んでしまった過去は消えないが、消えない過去については目の前の神にも同じことが言える。

 

「シグナー達の絆の力の前に倒れた邪神に言われる筋合いはないな」

 

 強大な闇の力を持つ神は最終的に敗北している。復活した地縛神はずっと赤き竜に負け続きだからこそ、シグナーに選ばれたルドガーを切り崩し赤き竜の力を取り込もうとした。

 まあ、その策は弟に未来を託すためシグナーの痣が浮かんだ腕を切り離す、という自己犠牲を孕んだ兄弟の絆により一部失敗したが。

 

『ほざけ、駒風情が』

 

 思い返したくない過去を掘り起こされた邪神の怒りに呼応するかのように地の底から石板が浮上し、合計五つの石板が邪神の前に整列した。

 5000年周期で起こる決戦はその時代に応じた手段を用いて行われ、此度の決戦はデュエルによって勝敗を決めた。その延長戦ともいえるこの戦いも当然デュエルが行われる。

 

「デュエル!」

 

『デュエル』

 

 かつて自分を操っていた神にルドガーは一人立ち向かう。過去と決別するために。

 

「私の先攻! ドロー! ――フィールド魔法《アンデットワールド》を発動!」

 

 周囲の見た目はそう変わったようには見えないが空気が変化する。

 どこか腐臭の混ざった、生者を拒む領域へ。

 

「《アンデットワールド》がある限りフィールドの表側表示モンスター及び墓地のモンスターはアンデット族になり、我々はアンデット族しかアドバンス召喚できない!」

 

『姑息な手を……』

 

「モンスターをセット。カードを3枚伏せターンエンド」

 

 地縛神は基本的にアドバンス召喚により現れる。手段の一つを封じられた神は鬱陶しげな独り言を呟く。

 ――心は熱く、思考は冷静に。ルドガーは地縛神が現れるまでの時間を稼ぎつつ守備を固める。

 

『我のターン。ドロー。《インフォーマー・スパイダー》を守備表示で召喚』

 

《インフォーマー・スパイダー》

星4/守1800

 

 邪神により召喚されたのはスパイダーの名前の通り昆虫族のモンスターだが、フィールド魔法の影響で屍のような見た目に変わっていく。

 

『カードを3枚伏せてターンエンド』

 

 互いに守備モンスターと伏せカード複数を並べる消極的な立ち上がり。

 先に動いたのはルドガーだった。

 

「私のターン、ドロー! そちらが来ないのならばこちらから行くぞ! 《劫火の翼竜 ゴースト・ワイバーン》を召喚!」

 

《劫火の翼竜 ゴースト・ワイバーン》

星4/攻1700

 

 それは竜を名乗るアンデット。命を宿さぬことを示す青白い鱗を青い炎で照らし、虚な目には闘志のみを燃やす翼竜だが、攻撃力は相手モンスターの守備力を超えていない。

 

「召喚に成功したことで効果発動。デッキより《幽合-ゴースト・フュージョン》を手札に加える」

 

『融合魔法……だと?』

 

 ルドガーの手に加わったのは神が見たことも聞いたこともない名前の魔法カード。赤き竜の力なのかもしれないが、何か異様な気配を感じる。そう、これはまるで、闇に近しいような……。

 

「そう焦るな、デュエルは始まったばかりだ。私はチューナーモンスター《ゾンビキャリア》を反転召喚」

 

《ゾンビキャリア》

星2/攻400

 

 ルドガーはセットモンスターを裏返す。

 先攻1ターン目に伏せていたモンスターの正体は肥大化した肉体を持つアンデットにして、チューナー。

 

「レベル4の《ゴースト・ワイバーン》にレベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

4+
2=
6

 

「シンクロ召喚! 来い、《デスカイザー・ドラゴン》!」

 

《デスカイザー・ドラゴン》

星6/攻2400

 

 星と輪が一直線に並びシンクロ召喚のエフェクトが暗い冥界を照らす。

 腐り落ちた肉と骨を剥き出しにした黒い竜は長い首をもたげ、翼を広げて相手を威嚇。長きに渡り死者を冒涜してきた邪神の所業許すまじと唸る。

 

「バトル! 《デスカイザー・ドラゴン》で《インフォーマー・スパイダー》に攻撃!」

 

 相手は守備表示のためダメージは通らないが、だからといってフィールドにモンスターを残してやる必要はない。攻撃の指示でドラゴンブレスが蜘蛛目掛けて放たれた。

 

『攻撃宣言時に《スパイダー・エッグ》発動。その攻撃を無効にして我のフィールドに《スパイダートークン》を3体特殊召喚する』

 

 どこからともなく現れた蜘蛛の巣が炎を受け止め、卵の中にいるものたちがその衝撃で蠢く。卵から蜘蛛の足が突き出てフィールドに出ようと動き出す。

 

「カウンター罠、《トラップ・ジャマー》発動! その罠の発動を無効にし破壊する!」

 

 それを許すルドガーではない。最初に伏せたカードは全てが防御のためではなく、攻撃を通すためのものも含まれていた。

 産まれようとしていた蜘蛛はカードから吹き出す煙によって固められていく。

 

「お前が使っているのはダークシグナーだった私も使っていたデッキ、その罠を使うのは想定済みだ!」

 

『最初に姑息な手と言った筈だ! 我は《カウンター・カウンター》を発動し《トラップ・ジャマー》の発動を無効にし破壊する!』

 

「なにっ!?」

 

 蜘蛛が使ったのはカウンター罠を止めることのみに特化したカウンター罠。

 相手の効果を止められず、こちらの攻撃が無効にされたうえに卵が孵化する。

 

《スパイダートークン》

星1/守100

 

 産まれたばかりの生命達はフィールド魔法の効果により種族が変化し痩せ細った姿を晒す。

 

『知っている程度で人間が神に届くはずがない。このトークンは当然、全て守備表示だ』

 

 これで地縛神のフィールドにモンスターが4体並んだ。

 フィールド魔法で相手のアドバンス召喚は封じられているためリリースとして利用されることはないが、守備表示のモンスターが増えてしまったこと……その一点だけが不味い。

 アドバンス召喚が使えずとも、地縛神を出す方法はある。

 

「くっ……私はこれでターンエンド」

 

『では、貴様のエンドフェイズに永続罠《縛られし神への祭壇》を発動』

 

 出現したのは地縛神を讃えるための祭壇。上部に並ぶ燭台はまだ火がついていない。

 

「やはり、そのカードを!」

 

『我のターン、ドロー――《縛られし神への祭壇》の効果。スタンバイフェイズに一度、フィールド上に表側守備表示で存在するモンスターの数だけこのカードに地縛神カウンターを置く』

 

 現在、表側守備表示のモンスターは4体。

 それと同じ数だけの燭台に炎が灯る。神が降臨するための目印ができる。

 

『そして地縛神カウンターが4つ乗ったこのカードを墓地に送り、デッキから《地縛神 Uru(ウル)》を――この我を特殊召喚!』

 

《地縛神 Uru(ウル)

星10/攻3000

 

 カードの代わりである石板を操っていた神がそれらを乗り越え前進する。歩くだけで巻き起こる振動で祭壇は崩れ、モンスター達がいるフィールドに《地縛神 Uru(ウル)》が並ぶ。

 

『フィールド魔法がある限り、何人たりとも我に触れることはできん! 貴様の発動した《アンデットワールド》が我を完全なる存在へと押し上げる!』

 

 フィールド魔法がある限り地縛神は攻撃対象にならず、相手の魔法・罠の効果を受けず、相手を直接攻撃できる。更にそれぞれが敵対者を苦しめるための固有の能力を持つ、恐るべきモンスター。

 それが今、力を振るう。

 

『《スパイダートークン》を糧とし我の効果発動! エンドフェイズまで《デスカイザー・ドラゴン》のコントロールを得る!』

 

 天から降り注ぐ蜘蛛糸が操り人形のように対象を絡めとる。ドラゴンは粘つく糸が身体にまとわりつく嫌悪からもがくも、その動きによってさらに別の糸に触れてしまう。

 蜘蛛糸に巻き上げられ、攻撃するべき向きを変えられたドラゴンは弱々しく鳴く。ルドガーのフィールドにいた唯一のモンスターが奪われたことで、2体の攻撃が通れば邪神の勝利となる。

 

『ダイレクトアタックだ! さあ、我の攻撃をその身で受けるがいい! ルドガー!』

 

 逆らってきた矮小な存在をその牙で噛み砕かんとぐわりと身を乗り出す。

 これは闇のデュエル。ダメージは実体化し、ライフポイントが無くなったものは消滅する。普通のモンスターの攻撃ですら致命傷になる中、本物の神の一撃を受けてしまえばデュエルの決着を待たずにその衝撃で命を落としかねない。

 

「それはお断りだ! ライフポイントを半分払い《アイアン・リゾルブ》発動! このターン、戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、その後バトルフェイズを終了する!」

 

ルドガー

LP 4000→2000

 

 命を削り作られたエネルギー壁が牙の到達を防ぎ、攻撃を弾かれた地縛神はその反動でたたらを踏む。コストとしてライフポイントを一気に半分失ったにも関わらず、ルドガーはふらつくことなく二本の足で立ち続ける。

 

『ぬう……っ』

 

「この罠はお前に作用しない防御札。かつての決戦ならばいざ知らず、デュエルモンスターズという枷がある以上完全な存在など存在しない!」

 

『減らず口を!』

 

「たとえどんな相手だろうとデュエルの中に勝利の可能性は必ず存在する! 自分のライフポイントが相手より1000ポイント以上少ないため、1000ライフポイントを払って《活路への希望》を発動!」

 

ルドガー

LP 2000→1000

 

「お互いのライフポイントの差1000ポイントにつき、自分のデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 地縛神のライフポイントは初期値のままである4000。よってルドガーは3枚のカードをドローする。

 

『ハ! それが活路だと? 自らを追い詰めただけではないか』

 

 攻撃を受けていないにも関わらず、自分から《地縛神 Uru(ウル)》による直接攻撃で受けるダメージと同じだけのライフポイント3000を失った男を嘲笑する。

 

「お前が出てきたならば一度でも攻撃を通してしまえばどのみち終わる。この命を出し惜しむ必要はない」

 

『強がりも言い方次第で強者の余裕、というわけか? カードを3枚伏せターンエンド。そして我の力で奪ったモンスターはお前へと戻る』

 

 コントロールが元に戻った《デスカイザー・ドラゴン》はルドガーの身を案じるようにクルクルと鳴く。

 

『――せいぜい足掻いてみせろ、人間』

 

 蜘蛛は手札全てを使い切り罠を敷いた。フィールドのモンスターが地縛神のみであればルドガーもダイレクトアタックで邪神のライフポイントを減らせるのだが、未だ壁となる効果モンスター1体とトークンがあと2体いるため攻撃を通すのは困難。さらに3枚のセットカードにより攻撃を潰しにかかるだろう。

 

「その油断が命取りとなるのだ、邪神よ!」

 

 次のターンで相手を倒すか、攻撃の備えを整えるか、どちらかができなければ男は負ける。

 

 すぐそこまで迫り来る敗北に一切怯むことなく、かつて痣を持っていた男は兄弟の絆を胸に果敢に立ち向かっていた。




ダークシグナーになる前のルドガーが使っていたデッキが不明なため、運命を終わらせる戦いへと挑む彼には対地縛神を意識したアンデット族デッキを組んでもらいました。

あと前話の偽ジャックと一緒に逃避行ルートは存在しませんが、作者的なイメージソングはラストリゾート(Ayase)です。湿度。
そして前話でジェイドに関するアレソレを一部公開したので過去の話の本文や後書きに仕込んでいた透明文字を変更して読みやすくしました。
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