石造りの心臓   作:ウボァー

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WRGP予選編
絆と衝突


 エンジンの完成。それに伴うDホイールの強化完了。あとライディングスーツの新調。大会前にほぼ全ての準備は終わり、残すはチーム名決めだけ。

 

 皆をまとめ上げるものになるから納得できるものにしなければならない。そう話し合う中でジャックが出した名前は、ジェイドについにここまで来たのかと実感を抱かせた。

 

 ――『チーム5D's』。

 

 チームのロゴを使ったステッカーを貼れば、これで本当の本当に準備完了だ。満足そうに頷く。

 

 双子とアキを呼んでのお披露目の中で5D'sという名前が気になった龍亞に対し、ブルーノは名前から勝手に5つのDだから『デビル』『デストロイ』『デッドヒート』『ダーク』……と指折りながら由来を捏造。

 英語で続いていたのに最後で『大好きブルーノちゃん』とふざけきった名称を出したところジャックによる鉄拳制裁をくらっていた。

 

 頭を押さえてわーん痛いよう、とジェイドに泣きつく真似をした結果、ブルーノはジェイドに頭をヨシヨシ撫でられている。その様子にイラッときたのか弟は睨むが、アルターエゴは冷静に指摘する。

 

『ハァ……カッとなって手を出すのをやめればいいだけの話だろう。馬鹿なのかジャック・アトラス。いや馬鹿だったな、これで何度目だ』

 

「ぐぬぬ……」

 

 WRGPではオートパイロット機能が使えないため、AIである彼の出番は限られる。必然的にピットでの調整補佐やデュエルログの整理担当、と裏方に回されることになったがアルターエゴは文句一つ言わず仕事に従事している。

 あの頃のキング様の再現データがここまで変われるんだから、現実のわがまま元キングもこの姿勢を見習ってほしいぜ、とクロウは内心思っていた。

 

 チーム5D'sの正しい由来は5つの赤き竜の痣と5体のドラゴンに導かれて集まり、絆が結ばれたから。ジャックが案を出した名前だ。

 ……流石にクロウの『噴水広場なかよし連合』は反対が多く没となった。

 

 対戦相手となるだろう他チームの名前もしっかり見ているはずなのにどうしてこれでいけると思ったんだ。

 うるせえなんらウソついてねえだろ。

 実況の中で気が抜ける名前を何度も聞かされてマトモに戦えるとでも思っているのか。と、ジャックとクロウのじゃれ合いのような口喧嘩はどこか微笑ましい。

 

 言い争いの間もずっと撫でられっぱなしで、だんだん恥ずかしくなってきたブルーノがジェイドの甘やかしアームから脱出。ジャックの語る由来に待ったを唱える。

 

「ドラゴンだったらジェイドの《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》も加えて6になってもよかったんじゃ」

 

「《テクトリカ》は幻竜族だから正確にはドラゴンじゃないんだよ」

 

「え、そんな種族あったっけ?」

 

「無かったけど、神様だし特別ってことなんじゃないかな。ほら証拠」

 

 ジェイドはデッキから取り出したカードをブルーノに渡す。

 

「へえ……あ、本当だ。幻竜族って書いてある」

 

 種族について盛り上がったのはブルーノが来るよりも前だから知らないのは無理もない。

 

 【メメント】のエースモンスターである神様をなんとか封じたいとクロウがドラゴン族を強制的に守備表示にする《ドラゴン族・封印の壺》を使った。

 が、「我はドラゴン族じゃないですけど……?」なツラをして攻撃表示のままだったため、デュエルそっちのけで神様の種族当てが始まった。

 

 一番ありそうなドラゴン族が違うとなれば恐竜族かアンデット族か、はたまた化石系モンスターを有する岩石族か、と意見が割れた。

 なお、ジャックは大穴の『既存の種族のどれでもない』を選んだので結果として彼の一人勝ちで終わった。

 

 ちなみに幻竜族の英語表記はWyrm。この時代に存在しないが、通常モンスター2体の融合で出せるドラゴン族の《始祖竜ワイアーム》と同じため少々ややこしく感じる決闘者もいるかもしれない。

 

 これ以上の質問や反対がないことを確認して、遊星は己の手を出す。クロウ、ジャック、龍可、アキ、龍亞、ブルーノ、ジェイド。みんなで手を重ねる。

 

 手の大きさも、負ってきた傷の数も、何もかもが違う。

 シグナーの痣のあるなしは関係なく、絆のもとにただ一つの目標に向かうチームがここに結成された。

 

「今日から俺たちは、チーム5D'sだ!」

 

 おー! と掛け声と共に重ねていた右手を上げる。ここにいる仲間を一つにする共通の名前というシンボルが、より絆を深めていった。

 

 

 

「クロウ――!」

 

 WRGP会場でそれは起きた。

 

 プラクティス――練習走行の規定時間を過ぎたがもう一周と勝手に走ってしまったクロウが、レーンに出たばかりのDホイールと衝突。

 

 ずっと走っていたものとこれから走ろうとしていたものではスピードが違う。

 ブレーキをかけたが減速が間に合わず起きてしまったコレは誰がどう見てもわかる事故だ。衝撃でDホイールは横転し破損、乗っていたものはその下敷きになってしまう。

 

 大きな音。悲鳴。

 壊れた機械と倒れた人間。

 道路に残る熱。ゴムが溶けたにおい。

 

 嗚呼。私は見ることしかできなかった。止められなかった。悲しみに締め付けられる胸を押さえて一人行く。

 

「あ、あ」

 

 クロウをなんとかして止めようとDホイールの通信機能を使いつつ後ろで速度を落として走っていたため、事故に巻き込まれず、またチームの誰よりも真っ先に駆け寄れたジェイドだったが……どうしてか、自分の感情と行動の制御ができなかった。

 

 息が乱れたままでうまく空気を吸い込めない。ひゅうひゅうと乾いた音を出す気道。心臓の鼓動が嫌というほど鼓膜に響く。

 

『しっかりせんかジェイド!』

 

 アルターエゴの声は耳に入らない。レストインピースから降りるもスタンドを立てなかったために愛機はバランスを保てず、がしゃんと倒れた。

 

「ごめ、なさ」

 

 ふらふらと歩く。視界が滲む。自分とは違う自分がその昔見た景色と重なる。目から溢れ出す水が止められない。

 その場で屈み、ぼろぼろと涙を流しながら――ジェイドは記憶の中にしかいない、もう届かない人々への謝罪を繰り返す。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

 

 ――こわすことしかできないおうさまで、ごめんなさい。

 

 はっきりとクロウはその懺悔を聞き取った。聞き間違いを疑うような言葉に目を丸くしたが、それを深掘りできる余裕はなかった。

 

「だ、大丈夫かアンタ!?」

 

「づっ……ぐ、しっかりしろジェイド!」

 

 これまで見たことないほど取り乱した男の姿に、事故を起こしてしまったクロウと、これからの演技のことを忘れたブレオが二人して宥める。

 

「クロウ! ジェイド!」

 

 遊星とジャックが遅れて到着し、見たのはジェイドを取り囲むようにするクロウと男三人。

 初対面だがどこかで見た覚えがあるような……遊星は記憶に引っかかる顔を近くで見て、その正体に気付く。

 

「もしかして君たちはチームユニコーンの……」

 

「ああ、俺はアンドレ。クラッシュしたのがブレオ……で、救急箱持ってるのがジャンだ」

 

「俺はチーム5D'sの不動遊星だ。すまない、俺のチームのメンバーがブレオさんに怪我を……」

 

「いや、事故してすぐにあれだけ動けてるなら大した怪我はしてないだろう。Dホイールならなんとでもなるからそう気負わなくても大丈夫だ。問題は……彼だ」

 

 話題の中心はジェイドに移る。

 

「……クラッシュに何かトラウマでもあるのかい?」

 

「いや、こんな事は初めてだ」

 

 ジャックが言い切る。そうか……とアンドレは心配そうな顔をうずくまっている彼へと向ける。

 

 ――チーム5D'sは知らないが、この事故は情報収集を兼ねてチームユニコーンがワザと起こしたものだった。

 

 Dホイールの破損やDホイーラーの怪我、それらを強請るためのネタにしてデュエルを取り付け、使用カードと戦法という貴重な情報を得る。

 もし事故が起こらなかったら、何かしらの難癖をつけてデュエルへと繋げる……そんなシナリオを複数用意していた。

 

 トラウマを掘り起こして対戦相手を潰してしまおうなんて気持ちは一欠片もなかった。

 

「ジェイド」

 

 弟の声でようやく顔を上げる。

 目元は泣き腫らして赤く、瞳孔は開いたまま。ひうひうと声にならない音を出す口は開いたままで、意味のある返事はできそうになかった。

 

「……じゃっく」

 

 ジャックはジェイドへ己の鼓動を聴かせるように抱きしめる。それを受けたジェイドは彼がここにいると確かめるように、縋り付くようなかたちで腕を背中に回し痛いほどに抱きしめ返す。

 

「いきてる……」

 

 ……力の加減ができていないせいで圧迫されている弟がうぐ、と呻き声に近い声を出しているのにも気付かない異常事態。

 

「――どうするブレオ」

 

「――この状況からデュエルに持っていけって? 流石に無理だ。……すまん、俺のせいだな」

 

 ブレオとジャンはチーム5D'sに聞こえぬように話し合う。

 世界大会という大舞台。必ず勝たねばならない予選。情報収集のためとはいえ後ろめたい手段をしている自覚はある。一歩間違えれば相手に取り返しがつかない怪我をさせる他、スポンサーへと悪評が及びかねない諸刃の剣だ。

 ここまでの騒ぎの中、どうデュエルをしろというのか。警戒する決闘者本人からの情報収集は諦める他ない。

 

 複数人の介抱によりジェイドは立てる程度に回復はしたようだが、ジャックの支えがなければ精神は危ういまま。

 クロウが責任は全て俺にあると弁償を申し出たが、ブレオはスポンサーの用意している予備のDホイールがあるから問題はないと拒否。

 ここで話し合うのはプラクティスの時間を奪うことになるためもう終わりにしよう、と言われ会話は強制終了。続きは予選の勝敗が決まってからでも遅くはないからと被害者に言われて追い出されたなら、加害者に何か言える権利はない。

 

 互いに痛み分け……いや、互いに返しようのない負債を抱えたまま別れることになった。

 

「すまねえ。俺のせいだ……ちゃんとジェイドの言うこと聞いて止まってたらこうはならなかった」

 

 帰り道、クロウは仲間たちに謝罪する。一人の身勝手がチーム全体の和を乱すなんてわかっていたはずなのに。言い訳のしようがない失態だ。

 

「ああ、無理矢理にでも止めるべきだった」

 

「……許してしまったのは俺たちもだ」

 

 クロウをそのままにしていたジャックと遊星にも責任はある。クロウ一人を責める事はできない。

 

 ジェイドは予選中にできる限りこちらの情報を出さぬよう、【メメント】による超火力で複数人抜きを狙うファーストホイーラーとなるはずだった。

 しかし、こんな調子ではチームユニコーン戦には出られないだろう。

 

 ジャックと手を握り、引っ張られるままに歩く。

 言われるまま、為されるがまま。そんな様子がシティへと連れ去って無気力になってしまったあの頃と重なってしまう。

 

「なんとしてもオレのパワーで……!」

 

 ジャックはジェイドのするはずだった役目を自らに課し、必ず勝たねばと気負いすぎている。

 

「……なあ、一ついいか? ジェイドのことだ」

 

 クロウは重く苦しい空気の中で口を開く。

 

「アイツ、あの時に確かに言ったんだ。『こわすことしかできないおうさまで、ごめんなさい』……どういう意味だと思う?」

 

「それは」

 

「訳わかんねえだろ。俺もだよ」

 

 ジャックがキングと呼称されていたのが感染した……なんて面白おかしいものとは程遠い。言葉の意味がわからない。何の王なのか、そもそも、何故自分を王だと言ったのか。誰への謝罪なのか。

 

 彼らにとって、ジェイド・アトラスはジャック・アトラスの血の繋がらない兄。それ以上でもそれ以下でもない。

 幼いジャックと会うまでの過去を知らない。聞いたことがない。……ジェイド、と名乗っているがそれは彼自身の目の色からつけたもので本当の名前じゃない。

 

「俺たちは、ジェイドのことを何も知らねえんだ」

 

 その気付きは今知るべきものだったのか。答えは出ない。

 暗雲が立ち込めるまま、WRGP予選の開催は刻一刻と近付いていた。




誰かの記憶のせいであの頃の状態に一時的に戻っちゃったジェイドですが、チームカタストロフ戦始まるまでには元気になってるので安心してください。
…………安心?
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