「ジェイド、本当にいいのか」
クロウ・ホーガンと十六夜アキを襲った謎の影。地面から実体として現れるフック状のそれを使うのがチームカタストロフだと確証を得ている。
チームユニコーンからの情報提供や、アルターエゴが記録した証拠を提出すれば即刻出場停止処分が下るだろう。
そこに待ったをかけたのはジェイドだった。
「問題ないよ。これまでダメージが実体化するデュエルをしてないから、一度はそれっぽいのを経験しておかないとね」
いつも通りの表情をしようと頑張った結果逆に感情が抜けたうえに、あからさますぎるとってつけたような理由。
それが本音ではないだろう――そう言ってしまったら彼が必死に押し込めている怒りを解き放ってしまう。
ジェイドの気持ちを汲んだ皆はそれ以上問いかけることなく、優しき兄を鬼と変えてしまったチームカタストロフの行く末を察した。
レストインピースと同色である黒のレーシングスーツに身を包んだジェイドは、弟であるジャック・アトラスと並んで入場。
ジャックのファンは彼をアトラス様と呼ぶが、ジェイドは彼と兄弟のため名字が同じ。よってアトラス様のお兄さーんなんてちょっと呼びにくそうな声援が飛んでいる。なおそれらには全てジャックが応えていた。
ジェイドがもし敗北した場合は肩が完治しているクロウがセカンドホイーラーとして出る予定だ。……だが、おそらく出番はない。
アキは闇のカードに狙われたがアルターエゴのハンドリングによってダメージは軽微。
しかし、サイコデュエリストの力で放り出された体を受け止めようとしたが、実体化がうまくいかずに頭を打ってしまったため万が一を考えて入院している。
検査の結果は問題なしだと判明したが未だ入院しているのは、狙った相手を取り逃したチームカタストロフが再び襲ってこないとも限らないので安全な場所へ、という理由もある。
この試合を病室で見ているアキのためにも。
闇のカードによって納得できない敗北をさせられてしまったチームユニコーンのためにも。
色んな思いを背負い、ジェイドは戦いの舞台に立つ。
「ジェイド」
ジャックに呼びかけられる。手を顔の高さまで上げ、何かを要求している。何か、についてはすぐにわかった。
「思う存分にやれ」
「ああ」
勢いをつけて二人はハイタッチ。思いっきり暴れてこいと許可を出す側と貰う側。少し痛みでひりつく手のひらが彼を暴走寸前の怒りの化身から決闘者へと引き戻す。
「――行ってくる」
メットを被り、Dホイールに跨り、ピットからレーンへと。指定された位置にファーストホイーラーが並ぶ。
「よう、十六夜って女はどこへ行ったんだ? まさか俺らにビビって家で親に泣きついてたりすんのか?」
「…………」
ジェイドは挑発を無視する。
「ケッ、ダンマリかよ気持ち悪りぃ」
二人の間でそんなやり取りが行われているとも知らずに実況は観客を高揚させる言葉を並べ続ける。
盛り上がりを見せる応援席の一角。チーム5D'sと関わりのあるいつもの面々の定位置となっているそこへ、チームユニコーンのメンバーであるブレオが加わり少しだけ賑やかになっていた。
「気のせいだと思いたいんだが……ジェイド、なんかずっとおっかない感じがしねぇか?」
ううん、と唸っている牛尾の疑問はもっともだ。ジェイドが普段醸し出す優しさ、というか余裕が全く感じられない。
「そうなのか? ポッポタイムで顔を合わせてからあんな感じだったんだが」
「何だか大変なことになっちゃいそう……こういう時こそ!」
カーリーが取り出したデッキケースは2つ。【占い魔女】と【フォーチュンレディ】。あの時のデュエルにより増えてしまったカードを分けたものだ。
《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》と《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》両名に確認してもらったところ、地縛神による闇の力は抜けたからそれらのカードは気にせず使って良いとお墨付きを得ている。
二度もジャックを苦しめてしまった【フォーチュンレディ】に対して思うところがないわけではないのだが、彼女たちはもともと【占い魔女】だった。カーリーをずっと支えてきたカードを捨て去る……それはできなかった。
デッキをそれぞれの手で持ち、おでこにくっつけるようにして何事もありませんようにとむにゃむにゃ祈る。そしてデッキから1枚ずつ引く。
カーリーお得意のカードを使った占いだ。デッキが増えたことで占いの精度も倍……かは分からないが、メッセージ性は上がった気がする。
ドキドキしながら確認した2枚のカードは《受け入れがたい結果》と《フォーチュンレディ・ダルキー》……とても不安になる結果だ。
「だ、大丈夫…………よね?」
「まあ、無事では済まないだろうな」
「ええ!? どっちがですか!」
「チームカタストロフに決まってる」
ブレオは平静を保っていた。
誰かのためにあれだけ感情を出せる男はそういない。全く関わりのなかった自分でさえ彼が怒っているのならば、と納得してしまうほどの気迫。
そして軽く見せてもらったデッキ。……破滅の使者なんて肩書きはあのデッキにこそ相応しいだろう。
やりたいことがシンプルであるが故に何よりも暴力的。ファーストホイーラーとして露払いどころか全員倒せるほどの超パワーデッキ。
……思わず、彼とデュエルをすることにならず助かったと思えてしまうほどの力がそこにあった。
「……ジェイド・アトラス。頼んだぜ」
周囲と違い声を張り上げる形の応援ではないが、込められた気持ちは同等……いやそれ以上。チームカタストロフの真実を知ってしまったブレオは、ジェイドがどんなデュエルを見せてくれるのかをただ静かに見守っていた。
『フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!』
空中に浮かぶカウントが進む。
『ライディングデュエル・アクセラレーション!!』
始まるのはスピードに支配された世界のデュエル。実況による掛け声が合図となり二台のDホイールは一気に加速。どちらが相手を追い抜かすかの勝負を始める。
――チームカタストロフは苛立っていた。何らかの介入でチーム5D'sへと思い通りに闇討ちを進められず、ド派手にクラッシュしたのはチームユニコーンだけ。
過激なものを見たがるファンへ向けたサービスを。最初にガツンと一発入れてやろうと体当たりを狙うが、それを読んでいたジェイドはアウトコースへと走行ラインを変更しあっさりと回避。
インコースを空け、お先にどうぞと道を譲る。
「チッ……舐めやがって!」
相手の思い通りに進めてしまうが、第一コーナーの先取により先攻を得られるチャンスを逃すものかとヘルマンはスピードを上げる。インコースを攻めるようにしてコーナーを曲がる。ジェイドからの妨害は何もない。
『先攻はチームカタストロフ、ヘルマンからだ!』
「俺のターン、ドロー! 《ヒドゥン・ナイト-フック-》を召喚! カードを1枚セットしてターンエンドだ!」
《ヒドゥン・ナイト-フック-》
星4/攻1600
召喚されたのは四肢にフック状の鉤爪を持つ、チームカタストロフの戦いに欠かせない闇のカード。
後攻となったジェイドはそのモンスターへは特に反応しない。先行する相手の背だけを見ている。
ピットからデュエルを見ているチーム5D'sとしては黙ってはいられない。クロウにアキ、チームユニコーンを襲った存在がすぐそこへと現れたのだ。
「出やがったな、奴らのインチキモンスターが!」
「上手くいくのかなぁ……」
「大丈夫よ、精霊たちも元気だったから……でもあれって元気で済ませていいのかな……?」
「俺たちは名前が知られているから対策されやすいが、ジェイドについての情報は広く知られていない。つけ入る隙は十分にある」
出場チーム紹介の際に取材を受けたことでジャック・アトラスの兄であることは知られているだろうが、どんなデッキを使うかまでは明かされていない。
「奴等はジェイドにとって完全に『敵』だ。もう逃れることはできない」
「ねえ、鬼柳さんはボク達がいれば本気で怒ったジェイドを見ることはない、って言ってたけど……ライディングデュエルの場合ってどうなるんだろう」
「………………」
ライディングデュエルの特性上、彼らとジェイドには物理的な距離があると言えばある。ブルーノが思いついた謎については誰も答えることはできなかった。
「私のターン、ドロー!」
ヘルマン SPC 0→1
ジェイド SPC 0→1
ジェイドはドローしたカードを手札に加え、なんてことないような声色でチームカタストロフへと話しかける。
「何もわからない相手をクラッシュさせるのは楽しかった? お前らみたいなのを楽しませるなんて嫌だからできる範囲で邪魔してたんだけどその感想は今言える?」
「っ……邪魔してたのはお前か!」
「実際に動いたのは違うけども、概ね合ってる」
こちらのしていることを分かっていた上でそれを妨害していたのが、今デュエルしているこの男。
思わぬ発言を聞いて反射的に振り向いたヘルマンは男の顔を見た。……何を考えているのか分からない無表情。しかも、昼間だというのに何故か翠の目がやけに光っているように見える。気味が悪い。
「私はね、決闘者と呼ぶべきでない相手とデュエルするのは楽しいとは思えないんだけどさ……楽しいお祭りとしてならこのデュエルも楽しめそうな気がしてね――さあ、花の戦争を始めようか!」
「な、何を言ってやがる……?」
知らない単語を使いだした対戦相手に戸惑いを隠せない。うろたえる男を放置してジェイドはデュエルを進める。
「《メメント・ゴブリン》を召喚! 効果で自身を破壊してデッキの《メメント・ウラモン》と《メメント・スリーピィ》を墓地へ。墓地に送られた《メメント・ウラモン》の効果を発動し自身を特殊召喚。特殊召喚に成功したため効果で墓地の《メメント・スリーピィ》を手札に加える」
ジェイドの展開は小鬼の破壊から始まった。毛玉は小さな手足をぴこぴこ動かし墓地の仲間を呼び寄せる。
「『メメント』が破壊されたターン、《メメント・スリーピィ》は手札から特殊召喚できる!」
フィールドに飛び出した羊が尻尾の振り子を揺らしてめえめえと鳴けば、空間がぐにゃりと歪み渦が出来上がる。
「特殊召喚した《メメント・スリーピィ》の効果発動! 手札・フィールドのモンスターを素材とし『メメント』モンスターの融合召喚を行う!」
『おおっとジェイド・アトラス! モンスター効果による融合召喚という高等技術を見せる!』
「フィールドの《メメント・スリーピィ》と手札の《メメント・カクタス》を融合し――《メメント・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!」
《メメント・ツイン・ドラゴン》
星7/攻2800
そのモンスターはぱっと見を例えるならば巨大なワニ。大きな体躯で鈍重そうな二口竜だが、ライディングデュエルの世界について来るため空中浮遊したままDホイールに追随する。
「後攻1ターン目で融合モンスターだと……!」
ライディングデュエルにも融合を可能とする《
デュエル開始直後はスピードカウンターの数が少なくモンスターの効果のみで展開することが殆どになる。必然的に立ち上がりが遅くなりがちなライディングデュエルでは融合モンスターがこんな早くに出ることはあり得ない。
そんな常識を破壊したジェイドの姿に多くの観客は興奮を隠せないでいる。
「《メメント・ツイン・ドラゴン》の効果発動! フィールドの《メメント・ウラモン》を破壊してデッキから『メメント』モンスター2体――《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》と《メメント・シーホース》を手札に加える。
二口竜からばりばりどっかんと落ちてきた雷で毛玉が感電し、モ!! と叫んで爆発。
「『メメント』が破壊されたので墓地の《メメント・カクタス》を自身の効果で特殊召喚」
《メメント・カクタス》
星5/守1400
破壊音に反応してコウモリのような水族がぬるりと墓地から浮上する。
「《メメント・カクタス》が特殊召喚に成功したため効果発動。このターン、レベル9以上の『メメント』はダイレクトアタックが可能になる」
「何っ!? ……だが、その融合モンスターのレベルは9には届いてねえ! 無駄撃ちか?」
まさかの効果に驚くが、その対象となるモンスターがいないことにヘルマンは安堵する。
「意味のないことをする決闘者がいる? ちょっとは自分の頭で考えなよ。私のフィールドにいるのが『メメント』モンスターのみのため、手札から《メメント・シーホース》を特殊召喚」
《メメント・シーホース》
星5/守1600
「《シーホース》の効果で《メメント・ツイン・ドラゴン》を破壊。破壊したモンスターのレベル以下になるようデッキから『メメント』モンスターを墓地へ送る。《メメント・ツイン・ドラゴン》のレベルは7――よって、デッキからレベル4の《メメント・ダークソード》、レベル1の《メメント・メイス》、レベル1の《メメント・ゴブリン》を墓地へ」
走るのが大好きな馬による追突事故。衝撃でデッキにいた仲間たちも一緒に墓地へ落っこちていく。
『ここでまさかの融合モンスターを手放す選択! これは吉と出るか凶と出るか!?』
融合モンスターとはエースモンスターに匹敵するもの。誰も予想しない展開に観客は混乱する。初めて見るモンスター達が何を見せてくれるのか、それが一気にわからなくなってしまった。
「破壊された《メメント・ツイン・ドラゴン》の効果で墓地の《メメント・ダークソード》を特殊召喚!」
雷の残骸から立ち上がるのは二刀流の剣士。ハッ、と声を出し刀を構える。
モンスターを出しては壊し出しては壊し、墓地へと集めていく。何も知らなければ意味の無い作業とも思えるカード捌きにだんだんと苛立っていた者たちがいた。
「さっきから自分のモンスターを破壊するだけじゃねえか! いつまで遅延してやがる! さっさとデュエルを進めろ!」
チームカタストロフのピットから野次が飛び、彼らのファンがそうだそうだなんて同調を始める。会場の一部の空気が悪くなっていく中でヘルマンはチームメイトへと愚痴を吐く。
「何言ってやがるんだ……このプレッシャーがわかんねえのかアイツら……!」
自分のカードを破壊していくことに迷いが無い。明らかに終着点となる何かを目指しているのにその正体が見えてこない。それがどれほど恐ろしいのかを外野はわからないのだ。
「この程度で急かしてくるなんて驚いた。そんなに早く負けたいのか? 手札の『メメント』カードを捨てて《メメント・ダークソード》の効果発動。お前の伏せカードを破壊する!」
「俺のカードを!? クッ……《ドゥームズ・レイ》が……!」
伏せられていたのは直接攻撃に反応する罠。
「それっぽっちで私を止められるなんて軽く見られるのは御免だね! 《メメント・ダークソード》の効果で自身を破壊し、デッキから《メメント・エンウィッチ》を特殊召喚。《エンウィッチ》の効果でデッキから《メメント・メイス》を手札に。《エンウィッチ》の効果を発動し、自身を破壊して墓地の《メメント・メイス》を特殊召喚。《メイス》の効果、自身を破壊してデッキから《メメント・フラクチャー・ダンス》を手札に」
ぐるぐる入れ替わるモンスター。【メメント】を初めて相手にするヘルマンは、Dホイールに表示される相手カードの動きを見ていて目が回りそうな感覚を覚えていた。
「取り敢えずはこのぐらいでいいか。待たせて悪かったね! 墓地の5種類の『メメント』モンスターをデッキに戻し――手札から《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》を特殊召喚!!」
遥か古代より存在する冥府から、現代を象徴するライディングデュエルの世界へと神が参列する。
空から大地に落とす影の中にDホイールがすっぽりと隠れてしまうほどの巨大な骸の竜。身体を彩る無数の宝石はギラギラと目を刺すような光を放つ。
両腕にある竜の頭骨から漏れ出すエネルギーが。鋭く光る眼光が。胸の内で真っ赤に光る宝石が。何もかもがここにいるのは普通のモンスターではないと主張する。
この圧倒的存在感、そして他の追随を許さぬ力。これこそがジェイド・アトラスのエースモンスター。
《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》
星11/攻5000
「レベル11っ……しかも攻撃力5000だと!?」
満を持して降臨した竜はフィールドで咆哮する。それだけで攻撃を食らったかのような衝撃がヘルマンを襲う。
『連続したモンスターの破壊はこのために! ジェイド・アトラス、ライディングデュエルキング達を鍛えたその腕に一切の間違い無し――!』
融合モンスターの破壊やブーイングにより静まってしまったスタジアムは、偉大なる竜の降臨により今日一番の盛り上がりを示す歓声で塗り替えられる。
「カードを2枚セット」
――WRGPではバトンを繋げていくチーム戦という特殊なデュエルのため、特別なルールがある。
そのうちの一つ。相手を倒した場合、そのターンのエンドフェイズまでは処理が続行される。このときカードを手札からプレイすることはお互いに出来ない。……つまり、カードのセットもできなくなる。
よって、メインフェイズ1で魔法・罠を伏せる行為は今からお前を倒すという死刑宣告に等しい。
「《メメント・カクタス》の効果を忘れてはないだろう? レベル9以上の『メメント』はこのターンダイレクトアタックができる! 行け! 《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》! オーバーウェルミング・ボーンフォース!」
「な――うああああああっ!!」
闇のカード何するものぞ。竜はモンスターを無視して決闘者へと突撃。ピットへと直接ぶち込むように、普段のストレートな殴りとは違いフック気味な一撃を叩き込んだ。
ヘルマン
LP 4000→0
ライフポイントが0になったことでヘルマンの乗っていたDホイールのフロントカウル部が開き、敗北したことを示す白煙が噴出する。
速度は落ちたものの交代のために寄らねばならないピットまでは問題なく走行できた。
『き……決まったァーーっ! 後攻1ターンキル!!』
ジェイドはチーム5D'sのピットに向けてやったぞ、とサムズアップ。皆の嬉しそうな声が聞こえてきてふっと微笑む。
対する相手チームはバトンの受け渡し作業中。……責任をなすり付け合うような言い争いが聞こえるのは気のせいだろう。チームで出場するのに仲違いをするなど一番あってはならないことだ。
『チーム5D's、ジェイド・アトラスの速攻で第一戦は勝利! チームカタストロフのセカンドホイーラー、ニコラスはこの盤面をどう覆すのか!』
前を走っていたヘルマンが脱落したためジェイド一人となっていたスタジアムだが、ニコラスが乗ったDホイールが後ろから追ってくる。
追う者と追われる者。ここから狩る側と狩られる側が逆転するのだと視覚的な印象を与える構図となった。
「俺のターン、ドロー! ……これなら!」
ニコラス SPC 1→2
ジェイド SPC 1→2
彼のフィールドにはヘルマンから引き継いだ《ヒドゥン・ナイト-フック-》のみ。ニコラスはドローしたカードを見て、それを迷うことなく盤面へと出す。
突然大地から噴出した溶岩にジェイドのモンスターが飲み込まれていく。よくよく見れば腕のようにも見える溶岩は骨の竜と馬を握り潰し、混ざり合い、人型になっていく。
この召喚エフェクトで呼び出されるモンスターは1体しかいない。
「お前のフィールドの《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》と《メメント・シーホース》をリリースし、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を特殊召喚!」
《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》
星8/攻3000
どこか愛嬌を感じさせるつぶらな瞳をした溶岩がジェイドのフィールドに出現。
首から下げる檻は本来なら決闘者を閉じ込めるのだが、ライディングデュエルではそんなモンスターがいると視界を遮られてとてつもなく邪魔になり事故の原因になる。そのせいでDホイールと同速で並走、という何とも言えないシュールな光景で妥協されている悲しきモンスターだ。
「へえ」
そんなモンスターを出されたジェイドだったが、対策のしにくいリリースで厄介なモンスターを除去するとはなかなかやるじゃないかと感心していた。
「そんなツラしてられるのも今のうちだ! 行け! 《ヒドゥン・ナイト-フック-》! 《メメント・カクタス》に攻撃!」
「《メメント・カクタス》は守備表示のためダメージは発生しない」
「んなこたわかってんだよ!」
モンスター同士のバトルが行われる中、ニコラスのDホイールから妙に長く影が伸びる。この攻撃の真の狙いはジェイドのDホイールへと闇のカードによる妨害を仕掛けること。戦闘ダメージではない。
調子に乗っている野郎をクラッシュさせてやる――そんな邪念を読み切ったのか、ジェイドは影から現れたフックを見もせずに回避。
「避け、っ」
「狙いがわかりやすすぎるんだよヘタクソ」
「……カードをセットしてターンエンド!」
『エースモンスターを失っただけでなく、送り付けられたのはデメリットを持つ上級モンスター! このピンチをどう乗り越えるのか!』
ジェイドの戦術は崩された。セットカード2枚からどう主導権を取り戻すのかと観客はデュエルの行方を注視していた。
「私のターン、ドロー!」
「お前のスタンバイフェイズに《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》による1000のダメージが、」
「残念、ドローフェイズ終了前に《デストラクト・ポーション》を発動。《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を破壊して、その攻撃力分ライフを回復する」
ジェイド
LP 4000→7000
「俺のカードを利用しやがった!?」
ジェイドを焼くはずだった溶岩は消え去り、回復光へと変わる。
ニコラス SPC 2→3
ジェイド SPC 2→3
「いやあ、モンスターを全部墓地に送ってくれて助かったよ――墓地の『メメント』モンスター5種類をデッキに戻し、墓地から《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》特殊召喚!」
ジェイドが後攻1ターン目にヤジを飛ばされるぐらい墓地を肥やしていた甲斐はあった。竜は墓地に眠る眷属全てを使ってフィールドに再び現れた。
「墓地からも出せるのかそのモンスターは……くそっ、罠オープン! 《拷問車輪》!」
ニコラスが発動したのは対象の攻撃を封じた上で効果ダメージを継続して与えられる罠。下手に破壊するよりも、と選んだ手段だったがそれを読んでいたジェイドはセットカードを発動する。
「チェーンして伏せていた《メメント・フラクチャー・ダンス》を発動! 《拷問車輪》を対象にして破壊し、《テクトリカ》がいるので追加効果で《ヒドゥン・ナイト-フック-》を破壊!」
空から降ってきた厳ついデザインの車輪を竜は真剣白刃取りのようにキャッチしそのまま押しつぶす。粗大ゴミとなった車輪を相手モンスターにぶん投げることで相手フィールドを綺麗さっぱり破壊。
「なにぃ!?」
「これで邪魔なモンスターは消えた! 《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》でダイレクトアタック! オーバーウェルミング・リ・ボーンフォース!!」
敵を滅する一撃を遮るものはない。戦場に帰還した神の拳が破滅の使者の二人目を粉砕する。
「ぐああああああーーっ!」
ニコラス
LP 4000→0
『鮮やかなカード捌き! またもや1ターンキルだ! チームカタストロフはラストホイーラーのハンスへとバトンが渡されたが、フィールドにカードは残っていない! はたしてジェイド・アトラスの快進撃を止められるのか――!?』
敗者から次の走者へと引き継がれていくはずのフィールドはガラ空き。相手の盤面が完成した状態で戦わねばならないハンスにかかる負担はとても大きい。
試合のペースは完全にジェイド・アトラスが握っている。
慌てて発進してジェイドを追うハンスはなんとか彼の牙城を切り崩そうとカードを勢いよく引く。
「俺のターンだ! ドロー!」
ハンス SPC 3→4
ジェイド SPC 3→4
「クソッ……カードを5枚セットしてターンエンドだ!」
ドローカードは良くなかったのか顔を歪め、手札の殆どをセット。壁となるモンスターは出てこない。
「私のターン。ドロー」
ハンス SPC 4→5
ジェイド SPC 4→5
相手が苦しそうな顔をする中で淡々とデュエルを進めるジェイドは2枚のカードを手札から取り出す。
「スピードカウンターが4つ以上あるため、《
「うおおおっ!?」
ハンス
LP 4000→1500
「効果ダメージへの対策は伏せてなかった? ならこれで終わり。《
「――は?」
連続して使われたのはスピードの世界でのみ使える魔法カード。鎖によって縛られたエースモンスターは呪縛の効力で攻撃不可能になるが、攻撃力を直接呪詛へ変換した閃光がハンスを貫く。
ハンス
LP 1500→0
ぶしゅう、と白煙を吐き出しDホイールが停止。最後の砦となるラストホイーラーが一番あっさりと倒された事実に誰もついていけなかった。ずっと誰かしらの声が響いていたスタジアムに静寂が訪れる。
『…………はっ! な、なんということだー!? 1人1ターンで倒す、このデュエルは予選試合の中でも最速の決着間違いなし! スピードの世界を制したのは、チーム5D's――!!』
時が止まったような世界で一番最初に口を開いたのは実況だった。流石のプロフェッショナル、突然のトラブルにも完璧に対処し会場の熱気を完全に冷ますことなく繋げることに成功。
「これで終わりかぁ。闇のカードで相手をいたぶりたがる奴らだから防御系のカードはそう積んでないと考えていたけど……まさかここまでとはね」
闇のカードを相手にしたがこれといって受けたダメージは無い。無傷のジェイドは敗者へと声をかけるべくレストインピースから降りる。
呆然とするハンスに向かって歩きながら、不完全燃焼な男は大きくため息を吐き出して感情を露わにする。
「私はとてもね――怒っているんだ」
それはチームカタストロフのみへと向けられた激情。
「流石にこんな大勢の前で大暴れするのはチームに迷惑かかるから、さ。考えたんだよ。デュエルの中で穏便に終わらせる方法」
翠の光が敗者を見下す。
「――何一つとして、思い通りにさせてやらない」
「こ、こんな馬鹿なことが!」
「それが一番言いたいのはチームユニコーンだ。まさか世界大会に違法カードを使って勝ち上がろうとする馬鹿がいるとは思ってなかったんだから」
チームカタストロフは安易な欲により闇のカードを使い始めた連中だ。クラッシュを見たいと望む皆の期待に応えるため、そんな言い訳をしてズブズブと力に溺れていった。
「クラッシュさせる勝ち筋しか追ってないお前らは決闘者の誇りを自分から捨てたんだ。……このぐらい覚悟してたはずだろう?」
闇のカードを使っているのにこれといった活躍も反撃もできず、ちゃんと決闘者として戦っていれば、なんて後悔を心に刻んでいく。ジェイドがしたのはそんなデュエルだった。
「くっ……くそおおおおおお!!」
反論ができないことを理解してしまったのかハンスは誰へも向けられない思いを大地に向かって叫ぶ。
「……自分のカードを使わなかった奴らに決闘者として死なせる価値なんて最初からなかったか」
祭りには贄が必要だ。
でもそれは私たちではないし、チームユニコーンでもない。決闘者の誇りを持たないチームカタストロフを捧げられたとて、どの神も喜びはしないだろう――。
「…………」
ふと口を押さえる。
何を考えているんだ私は。とんでもなく物騒なことを口にしなかったのは理性のおかげか? いや最初に変なこと言っちゃってる。
「ごめんアルターエゴ、花の戦争って何かわかる?」
デュエルが終わった今なら彼を使っても問題ない。繋がった通信からジャック・アトラスと同じ顔がこちらを覗く。
『――検索完了。アステカで行われていた生贄を確保するための儀式戦争だ。花とは血を流し倒れた人間の比喩になる』
「ひえ」
意味がよく分からない単語が一番物騒なことだった。こわい。
『意味を分からないまま発言したのか……つまりはお前の正体とはアステカに関する存在だということか?』
「そうかもしれない……というか早く牛尾さん呼ばないと! 牛尾さーんこっちでーす!」
さっきまでの殺気を全て捨て去り、いつものどこかほんわかしたお兄ちゃんに戻ったジェイドは腕を大きく振ってセキュリティの一人を呼ぶ。己の所業に後悔し続ける犯罪者を捕まえるのにそう時間はかからなかった。
「――チッ。役立たず共が」
プラシドは眼下で起きた結末に舌打ちをする。最初はルチアーノと共に観戦していたが何も告げずに別れたため周囲には誰もいない。
「サーキットの完成には近付いたがまだ足りん。オレ直々に動くしかないようだな」
ジェイドがチームカタストロフへと抱いた激情はサーキットの一部分を描くに至った。が、それだけではプラシドは満足できない。
「ホセはなぜ奴についての情報を隠している……! これほどまでのエネルギーを出せる人間などあり得んというのに!」
神の命により、本来の歴史に存在しない人間であるジェイド・アトラスについての調査はホセに一任されている。
そのホセが情報を遮断しているため、プラシドとルチアーノは彼が破滅の未来を知っている可能性があるという一点しか異常性を把握できていない。
破滅の未来を知るならなぜ邪魔をするのか。この時代に愛着が湧いているから、という下等な人間らしい答えなのは分かっているが……だとしても運命に抗うなど愚かの極み。
今すぐに倒してやりたいがそれはできない。何故ならば、神が三皇帝へとジェイド・アトラスとのデュエルはするなとWRGP予選が始まる直前に啓示を出した故に。ならば、邪魔者を直接倒すのではなく苦しめる方向へと移行する。
「お前は仲間が倒れていく姿を最後まで見続けることになる。戦うことが許されないまま、失う絶望をとくと味わうがいい――行け、ディアブロ達よ! この町をカオスに陥れてやれ!!」
采配を振るかの如く腕を突き出す。それを合図に格納されていたデュエルロイド達が一気に放出され、ネオドミノシティのDホイーラーを駆逐するべく動き出した。