石造りの心臓   作:ウボァー

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黄金の記憶

 デュエルモンスターズにおいて、レベルというのは力の指標になる。

 地縛神と極神はレベル10。赤き竜はレベル12。その間であるレベル11に位置する《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の力というものは推して知るべしというもの。……いや、もはや推し量らずとも見ればわかる。

 

『ヴゥゥルオオオンッ!!』

 

 冥府の王の喉笛に喰らいつく。怪獣大決戦は依然として竜が優勢のままだ。ライディングデュエルに参加していないシグナー達の竜も、冥府の王が呼び出したシモベたちを倒していく。

 

 

 ――赤き竜の力を受けた《セイヴァー・スター・ドラゴン》により《地縛神 Wiraqocha(ウィラコチャ) Rasca(ラスカ)》は打ち倒された。

 

 

 ダークシグナーの敗北により、この世にとどまれなくなった冥府の王が現世から消えていく。それを見届けた竜は大きく、一度だけ羽ばたいた。

 突風に飲まれたシグナー達はバランスを崩して倒れたり、顔を腕でガードしたりと様々な反応をして――。

 目を開ければそこは宇宙のような、この世とは明らかに違う不思議な空間。

 

『こいつらがお前の力を与えた者で間違いないな?』

 

 そして、赤き竜と会話している謎に塗れたあの竜がいた。

 

 竜は確認をとった後、赤き竜の頭をぽこっと叩いた。赤き竜、クオオオオオン!? と痛みと困惑で咆哮。さらに追い討ち。クオーン!?

 今度はまさかこっちが敵になるのか、とシグナー達が身構える。……そんな彼らを見つけ、遠くからやってくる三つの人影。二人はゆっくりと歩き、一人は走ってきた。

 

「な、なっ……何やってるのー!?」

 

『何とは……積年の恨みを込めケッツァーコアトルを殴っているのだが』

 

 一番最初にやって来たのは、翠の目をまん丸にし、あわあわおろおろするジェイド・アトラス。

 真っ先に近寄ったのは勿論彼の弟ジャック・アトラス。もう二度と離すまいと力を込めて肩をがっしりと掴む。

 

「こんのバカ兄貴が! オレが、オレがっ……どれだけ心配したと思っている……!」

 

「軟禁してくれてた弟に心配とは言われたくないんだけどなあ!?」

 

「あの時はオレの目の届くところにどうにかして留めておきたかったからだ! 今は間違っていたと思っている!!」

 

「は? おま、ジャックお前シティで本当に何やってんだお前」

 

 シグナー全員ドン引き。クロウが代表して皆の意見を代弁する。

 

「…………待って。兄? ジャック・アトラスに兄がいたの?」

 

「お兄さんの話なんて聞いたことないかも……」

 

 シティ在住の十六夜アキと龍可が疑問を口にする。

 

「あ、自己紹介が遅れましたジェイド・アトラスといいます。この元キングのお兄ちゃんしてます。血は繋がってませんのでそこのところよろしくお願いします。あとメディア露出一切無いのは恐らくこの弟のせいなので責任はこっちに」

 

 ジャックの両手首を掴みストロングに肩から外したのち、シグナーに向けてぺこりと挨拶。あっご丁寧にどうも、と元の育ちの良さを感じさせる礼をするシグナー紅二点。

 

「何故今そこまで言うのだ!」

 

「事実そうだったろ!」

 

「ぐうっ」

 

「ぐうっ、じゃない!」

 

「二人とも、頼むから落ち着いてくれ……」

 

「こりゃー今は何言っても無理だろ。後でジャックは俺がシメとくわ」

 

「…………私たちは、どうすれば良いのだろうか……?」

 

「兄弟の感動の再会だ。邪魔しないようにしておけ」

 

『こうなる原因を作ったお前たち兄弟にソレは言われたくはないと思うぞ?』

 

 ゴドウィン兄弟にズバッと切り込む後方腕組みドラゴン。

 

「いやはや手厳しいですね、ミクトランテクートリ神」

 

『……やはりお前は我を知っているか』

 

「シグナーとダークシグナーの戦いについて調べる中、忘れられた伝承と神についても知る機会がありましたので。冥界の最奥に座する者にして、赤き竜へ人命の再生に関わる宝物を与えた死の支配者。私の策が成った時、宝物を人の手から取り戻すため地上に姿を現すのでは、と警戒はしていました。……まさか彼の手中にすでにいた、とは流石に思いませんでしたが……」

 

『ジェイドは特例だからな。思考がまだ常識の内にあるお前では予想できないのは当然だ。というかアレは与えたではなく騙されたの間違いなんだが…………あ!? 何だお前最初は与えるって言っただろって!? やっぱりあげたくないなって思ったの! そしたらお前はしっかり返しますって言ったのは我忘れておらんぞ!』

 

 途中で赤き竜が横槍を入れ、今度はこっちの話がヒートアップ。

 

「は、はは……まあ、神々の力を一人の人間がどうこうできるわけがなかった、ということでしょうか。では改めて。シグナーの皆様、此度のダークシグナーの戦いが終わってからどうなるのか、についてお話ししましょうか――」

 

 それは負の感情を利用され、地縛神の犠牲となった人々についてのこと。

 地縛神を倒したことで解放されたのは魂のみ――そこに元の肉体は付随していない。かの邪悪な神々は死者の肉体を負の力により作り上げ、そこに死者の魂を移し替えて利用していた。

 人間は魂だけでは現世に留まれず霧散する。故に、地縛神を倒されたダークシグナーは皆、神々の力によって作られた偽りの体を失って黒い塵となって消えていった。

 

 ――故に、全ての戦いが終わった時。赤き竜は己の血とミクトランテクートリの所持していた骨で元の通りに人間の肉体を作る。ダークシグナー達が苦しまぬよう、新たな肉体からは悪しき記憶を取り払う。

 

「じゃあ!」

 

「ええ、じきに蘇ります――ダークシグナーとなった者達全て」

 

 ゴドウィンは体を少しどける。そこには目を閉じ横になっている鬼柳やボマー、ミスティにディマクの姿があった。だがそう示された中にある一人がいなかった。

 

「カーリー……? おい貴様! カーリーはどこにいる!」

 

『カーリー? どこぞの破壊女神……いや違うな、あのハチドリ野郎に憑かれた彼女か。彼女は非業の死を遂げて冥府の使者となった他のダークシグナーと違い、デュエル中に死んだ。ここにいないのは当然だろう』

 

「いないだと!? ではカーリーは蘇らないとでもいうのか!」

 

 人間よりもはるかに巨大な相手だが、ジャックは臆さず詰め寄り睨みつける。

 

 ――神話にて、ハチドリは天界の太陽の家(トナティウ・イチャン)で転生した戦士の姿だと言われる。つまり太陽と縁が深い生き物だ。カーリーはハチドリの地上絵である地縛神に選ばれた。ハチドリの戦士たる要素を持っている、とみて問題はない。

 ケッツァーコアトルは太陽神であった時もあった。まあ他にも要素はあるが、いろいろざっくり総合して噛み砕いて言うなら。

 

『お前がいるから戻れるに決まっているだろう、そうカッカするな。あーんなコト言っといて彼女の太陽でないとは言わせんぞ、太陽たるケッツァーコアトルに近き者』

 

「………………なぁっ!?」

 

 突然の暴露。ジャックの頬が赤く染まる。

 

「……《テクトリカ》、後でちょーっとお話ししようか」

 

『えっ』

 

 流石に見過ごせなかったのかジェイドが助け舟を出す。

 

『いやでもジェイドよ、人の世界では汝は精霊の声も姿も感じ取れぬだろ? 精霊が分かるのはそこな少女しかおらんだろう。年端もいかぬ彼女にこみ入った話を通訳させるのは酷というものでは』

 

「通訳? こっちの声は届くし人間の言葉完全にわかるならいらないでしょ。説教一方通行で」

 

 説教からは逃れられないとわかったのかしょぼんとする。たとえ神であろうが、ジェイド視点ではあるはずのないカード達を突然引き連れて来た迷惑神なのでこの扱いが妥当なのだ。

 

『我悪くないもん……悪いのは多分ここに彼女を並べなかったケッツァーコアトルだもん……あっそうだ我の持っていた骨を返してもらいたいのだが? 神同士の約束を破るほど馬鹿ではないだろう? というかあのレベルが三分の一になってた感じの分身のお前何? あっちも殴りたいのだが』

 

 脈絡のないあっそうだ、で速攻復活。守備力も5000ある神はそう簡単にへこたれない。

 赤き竜はさっきまで痛みに悶えていたとは思えないような、神としての威厳に満ち溢れた大きな声を上げる。

 

『――ほう? 5000年で繰り返すくだらぬ争いが真に終わりし時、か。その約定、確かに承った』

 

 終わる時。その言葉を聞いたゴドウィン兄弟は互いを見合わせ頷き、ここにいる皆から離れるような仕草をとった。

 

『レクス・ゴドウィンとルドガー・ゴドウィンは……そうだな。天か地か、どちらへ向かいたいかは全てが終わってから決めてもらうとしよう』

 

「ゴドウィン……」

 

 ミクトランテクートリのその物言いは、まるで二人はもう蘇らないと言っているようではないか。

 

「不動遊星、私達はこの運命に立ち向かいます。あなたが教えてくれた、人間の――仲間の絆。私の中にずっとあったものの力で」

 

「さあ、決着をつけよう。この因縁に――」

 

 二人はいつからか輝いていた光の中へと歩いていく。彼らが遠くへと歩むうちに、この空間と意識が薄れていく。そして――。

 

 

 

 シティの一角、喫茶店のテラスにて。牛尾さんと深影さん、そして龍亞龍可兄妹とアキさん……つまり地縛神の一件でシグナー達が関わった人達と親交を深めていた。

 ジェイドは椅子に座りながら、んぅ、と腕を上げ逸らしつつ背を伸ばす。

 

「よしっ、今日も元気もりもりメメント・モリ!」

 

「ジェイドのにーちゃん、たまにそれ言うよね。何て意味?」

 

 ジュースのストローから口を離した龍亞が尋ねる。

 

「意味って言われてもなあ……今日も一日頑張ろう! って気合いの掛け声? ちなみにオリジナル」

 

「へーぇ、俺も真似たら強くなれるかなあ」

 

「言葉を真似るだけで強い決闘者にはなれないわよ、龍亞」

 

「むぅ……」

 

 反論がなんにもできない龍亞はジュースを一口吸う。

 

「……そういえば、遊星遅いね」

 

「ジャックとクロウも来てないな」

 

「何ですって!?」

 

 両手に取材の準備万端なびんぞこ眼鏡記者、カーリーが彼らの名前を聞き慌てた様子で駆け寄る。

 

「ジェイドさん! 三人がどこに行ったか知ってません!? 今日こそ重大スクープの気配が――」

 

「ああ、あの三人はダイダロスブリッジのところ行ったよ? すぐには来ないんじゃないかなあ」

 

「ええー!? そんなぁ〜……」

 

 サテライト出身の三人に詳しい彼の言う事なら間違いはない。空気の抜けた風船みたいにへなへなとカーリーの気合いがしぼんでいく。

 

「大体お前こそスクープの宝庫じゃねぇかよ」

 

「ダークシグナーになってからのこと、全然覚えてないんだからスクープも何も無いんです〜!」

 

「いやー、赤き竜が忘れさせていることを掘り返させるのはどうかと私は思うけどなあ」

 

 うんうん、とジェイドの言葉に頷くシグナー達。彼だけは生贄になってた時のことをばっちり覚えているのでそう言える権利がある。カーリーはしぶしぶ諦める。

 ……が、そう簡単にへこたれる彼女ではなかった。

 

「じゃあこうなったらスクープじゃなくてもいいです! ジャックのお兄さんなら色々と知ってることあったりしますよね!? 今のうちにたーっくさん聞いちゃうんだから!」

 

 ジャック・アトラスの兄が弟についてを話す、それを聞き逃す深影ではなかった。ずい、と身を乗り出す。

 

「よければ私もお話を聞いても?」

 

 気になるかならないか、だったら間違いなく気になる話。テーブルに一緒にいた皆が耳を傾ける。

 

「うーんプライバシー……どのへんまで言ってセーフなんだろうな……。それじゃ、ジャックと初めて会った時のこと、とかでも?」

 

「大丈夫です大丈夫です全然オッケーです!」

 

 こくこく何度も何度も頷き、記者というよりジャック・アトラスファンの面が疼いてきているような、とジェイドは思ったが口にするのはやめておいた。

 

 ――自分が確かにここにいるという証明であり、スタートを忘れないためにも誰かに話す、というのは悪くない気がした。

 

 彼の持つデッキの中には今もまだ《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》がいる。黄金色の思い出達を聞きながら、人と神は共に幼き頃へと思いを馳せるのだった。




投稿後に書き忘れていたと気付いたので後書きを追記します。

地縛神編はこれでお終いとなります。イリアステルはどうするんやろなぁ(何も考えていない)

赤き竜を殴りたいテクトリカでしたが、OCGで赤き竜が出てくるイメージあるデッキといえば……あっ……となってましたがそこのツッコミが読者から来なくて救われた作者がいたとかいないとか。

うっかりメメントの同期の某シンクロテーマの話をしたら「よしじゃあ探すぞ!殴りにいく!」します。返してもらう約束は取り付けたけど何千年も返してなかった延滞料金分まだ殴り足りねぇんだ……。
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