会場に届いた緊急ニュースはゴーストの出現についてのもの。氾濫するライディングロイド――ディアブロ達を倒すためにジェイドはDホイールに乗り会場を飛び出す。
バトルロイヤルルールであるなら《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の全体攻撃がよく効く。プラシドと戦うまでに余計なデュエルで皆を消耗させる必要はない。
ジェイドはいろんな理由を考えてはいるが、チームカタストロフとのデュエルが不完全燃焼で終わった結果半端に残った闘志を発散させる相手として選んだ、が一番正しいだろう。
「騒ぎが大きいのは……あっちか!」
ハイウェイを駆け抜けて掃討に向かおうとするジェイドの前に、ひらりと何者かが舞い降りた。
「きっひゃははは! 残念だけどお前は戦わせないよ!」
Dボードに乗ったルチアーノだ。妨害するようにジェイドの眼前を走る。
「ルチアーノ……!」
『イリアステルの三皇帝か! 逃しはせん!』
プラシドが八つ当たり気味に起こしたゴースト氾濫に、本来ならば協力していないはずのルチアーノが何故かいる。アクセルシンクロの習得に悪影響を出さないためにもここはジェイドがルチアーノをデュエルで拘束するのが最善だと判断。
ライディングデュエルに持ち込めば走行スピードは制限される。偽のジャック・アトラスとして暴れ回る際に使っていた、相手を強制的にデュエルモードへと移行できる機能を使用し――。
『ぐ、がああああ!?』
「アルターエゴ!」
画面の中の彼がノイズに侵食される。相手のデュエルシステムへと接続した時にウイルスを送り込まれたようで、苦しげな顔をした後にすまないと口だけを動かし通信画面から男は姿を消した。
「《スピード・ワールド2》セット――起動しない……!?」
「ホセが作ったもののくせに僕へ歯向かえるなんて思い上がるからだよバーカ! 当然の罰さ!」
どうやらDホイールのデュエル機能へも干渉するウイルスだったようで、うんともすんとも反応しない。デュエルが封じられたまま二人の間に緊張が走る。
仲間へと手を出されたことでジェイドの怒りがふつふつと燃え上がる様子を見てルチアーノは何かを納得したのか頷く。
「なるほどね、こういうことか……」
「何がだ」
「こっちの話だよ。教えてやる義理なんてない」
本当にホセの言った通りじゃんか。確かに自覚されるとマズイな、と少年は口の中だけで転がす。
「これはプラシドの独断だろう? なんで私の邪魔をしている」
「アイツが勝手に動いたことまで知ってるんだな。サーキットの完成には使えるからプラシドの思い通りにさせてるだけだよ。デッキの相性を考えるとお前だけは止めないとマズイから僕が来たってワケ。……で、こんな無駄話してていいの?」
後方からDホイールが複数接近する。ディアブロだ。
召喚されているモンスターは《
だが、ダメージが実体化する闇のカードなら話は変わる。
「ディアブロとかカッコつけた名前にした癖に使わせるカードがコレとかダッセェよなー。そう思うだろ?」
ジェイドの足止めをしていたのはディアブロが来るまでの時間稼ぎだったのか、ルチアーノはギアを上げる。
「そんなにデュエルしたかったんならこいつらに遊んでもらいなよ、サンドバッグとしてさ!」
「待て!」
『死ね!』
『死ね!』
ルチアーノを追おうとするジェイドの隙をついてモンスターが体当たりしてくる。実体化したカードによる衝撃で車体がふらつく。
キャッチボールでもするかのように、ぐらついた方向にいたもう1体の《
低い攻撃力のせいで打撲のような痛みが体に残ったまま次の攻撃が襲いかかる。右も左も前も後ろもぐるりと取り囲まれ、このままではリンチされてしまうだろう――常人であれば。
ジェイドをDホイーラーとして鍛え上げたのはジャック・アトラスだ。モノホイールのため運転難易度の高いホイール・オブ・フォーチュンを基準にして教え込まれたジェイドのライディングテクニックは相応に高い。
包囲が完成する直前、アクセルを全開にしディアブロの間を針の穴を通すような正確さですり抜ける。無理矢理な動きで少々ボディを擦ってしまったが必要経費だ。
「へえ、なかなかやるじゃん」
その様子を見たルチアーノはどこか他人事のような褒め言葉を発する。
サイズの関係で搭載できるエンジンサイズがDホイールより劣るため、スピードが遅くなるはずのDボードがジェイドをグングン引き剥がしていく。未来の技術の賜物だろう。
「逃げるなルチアーノ!」
「何言ってんだ、この状況なら逃げるに決まってるだろ! じゃあなー!」
こちらに対して振り向きながらバイバイと手を振る余裕のある彼がコーナーを曲がっていく。後を追うジェイドだったが、曲がり切った先に特徴的な赤髪はいなかった。
「どこに行っ……いや、こうなったらプラシドを探すほうが早い! 確か……」
多くの決闘者に衝撃を与えてきた爆発両断シーンはしっかりと覚えている。あの時の背景にあったのはネオダイダロスブリッジの象徴とも言えるモニュメント。
ルチアーノによりジェイドはどうやら遊星たちとは逆方向へと誘導されていたようで、向かう途中で地上から昇る流星が暗雲を裂く。デュエルが終わるまでには間に合いそうにない。
幻影と合わせて5体になった《シューティング・スター・ドラゴン》が《機皇帝ワイゼル》へと連続攻撃をし――ハイウェイのど真ん中で大きな爆発の花が咲いた。
辿り着いたのはプラシドの胴体が千切れた後。一番最後に合流したジェイドはあちこちに攻撃を受けた跡があり、遊星は無事を確認できた安心とダメージの心配が入り混じった声をかける。
「大丈夫なのかジェイド」
「アルターエゴとデュエルシステムがやられた。後で修復お願い」
「何!? ああ、わかった」
忘れぬうちに遊星へ頼み事をし、共に見上げる。
ネオダイダロスブリッジ、縦長のダイヤモンドリングのようなモニュメント――その上に彼らはいた。
統一感のある白の装束を纏った老人と少年、そしてスクラップ同然の姿になった青年。
「どうやら役者が揃ったようだな。儂達はイリアステルの三皇帝。そして儂がリーダーのホセ」
「僕はサブリーダーのルチアーノ。で、こいつが下っ端のプラシドだ!」
ホセはDホイーラー達を一瞥し、何故かジェイドに向けてのみ言葉を発した。
「フ、本物がいるにも関わらず偽りの王も担ぎ上げるか。亡霊となっても歴史を繰り返すとは、人間とはまこと愚かなものよな」
「これからのことを知ってる癖に仲間へ隠し続けた兄弟もどき同士だろ? 傷の舐め合いしててすごくお似合いじゃん」
完全に回復できてはいないが彼を馬鹿にされることだけは許せない。自己修復を放棄し、破損している己に負荷をかけることを承知でアルターエゴは吠える。
『黙……れ! それ以上じぇ、ぃドを愚弄すルことは許さん!』
「破滅の未来の知識と絶望を宿した結果、逃げることを選ぼうとしたお前が言えることか?」
『聞くなジェイド! こいつらはお前を惑わせるために言葉を選んでいるにすぎん!』
「さっきからうるせーんだよ、黙って聞いてな!」
『ジェ、い――』
ルチアーノが左手で何かを握り潰す仕草をすると同時にぶつん、と強制的にシャットダウンされる。
「これで静かになったぜ」
「ご苦労」
ホセの口から語られるイリアステルの正体、それは未来を救うために有史以前から人々を操り歴史を修正する組織という人の想像を遥かに超えたもの。
両親の仇を目前にして感情の抑えが効かなくなったシェリーとミゾグチの特攻をあっさりといなし、三皇帝は人ならざる力を見せつける。
飛来した石板から《機皇帝グランエル》を得たホセがWRGPを勝ち上がってこい、とチーム5D'sに告げ――本来ならばここで終わるはずだった。
「自分探し、か。儂はついぞしたことがなかったが答え合わせのない問いは辛かろう? ジェイド・アトラス。お前の正体を明かそうではないか」
これは慈悲ではない。愛さえ要らなくなった絶望による、他者との違いを晒し上げて孤立させるための行動。
「シグナーの兄となった男について我々は当然調べた。その結果、戸籍、DNA……何一つとして、お前が過去ネオドミノシティで生きていたという証明を可能にするものはなかった」
「何を言っている……!」
「断言する。貴様に親などいない。そも、貴様と血の繋がりのあるものが世界のどこを探そうといない。これは我らが神の名をかけて真実だと保証しよう」
「ふざけるな! じゃあジェイドはなんだって言うんだよ!」
「私のお父様とお母様と同じように、彼の両親もお前達が消したのか!」
ジャックと出会う以前のことを語らないのではなく、そもそも語れないのだとしたら。クロウは思いついてしまった答えを口に出さぬようぐっと飲み込み、大事な仲間を守ろうとする。援護するのはシェリーだ。
親がいないのにこの世に生きるそれを人間と呼んでいいのか。ならば何故ここに生きているのか。その答えはすぐにホセが告げた。
「いいや、もとより存在しない。ミクトランテクートリが地上に現れたいがためだけに作った、冥府の力を持つ人間――それがジェイド・アトラスだ」
「…………つくった?」
「その材料となったのは、地縛神復活の周期と合わなかった故にダークシグナーになることはなかったが同等の後悔を抱く者」
作った。
材料。
およそ人間に対して使うべきでない言葉。ジェイドは今自分が立っている場所がぐらぐらと崩れていくような感覚を覚えた。
「ッ――駄目だ! これ以上耳を貸すな!」
謎のDホイーラーが叫ぶ。しかし、もう遅い。
「侵略者を帰還した赤き竜の化身と思い込み招き入れ、国を終わらせた王。神々との絆を破壊し、守ってきた民から未来に不要と判断され殺された男――モクテスマ2世」
――その名前はよく知らないが、どうしてだろうか。ジェイドはそれが自分のことなんだとわかった。感情の昂りに呼応して表層に出た情報とも合致する。
段階を踏んで思い出すべきそれを無理矢理に引き摺り出される。奥底に沈んでいた記憶と今の記憶がホセの言葉でぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、自分が保てなくなるような感覚に溺れていく。
「5000年の戦いで今度こそ赤き竜の力にならんとする願いを利用された自覚なき神々の駒、それがお前だ」
力が抜けていく彼をこの世に繋ぎ止めるよう、腕を強く握り、弟は一歩踏み出す。
「何を意味のわからんことをほざいている! ジェイドはジェイドだ!」
さっきから聞いていれば人間ではなくバケモノのように蔑むだけ。幼い頃の思い出を踏み躙る発言にジャック・アトラスは怒りを隠せない。
「我らが神は全てを見ている。アレは幼きジャック・アトラスの眼前に『突然現れた』ものだ。生まれながらに赤き竜の痣を持つお前を導とし、神々が配置したのだ」
「そんなもの口先だけならばどうとでも言える!」
「ならばイェーガーに聞け。レクス・ゴドウィンが調べたことは奴も知っている」
「なっ……」
すぐにバレる嘘の場合、他者へと確認を取れと告げる必要はない。つまり、奴らの言っていることは。
「真実とはいつも残酷なものだ。チーム5D's、絆を掲げる貴様らが己を強くするための道具としてソレを使い続ける残酷さを持つか否かは……フ、ここで答えを出さずとも直ぐにわかることか」
「きひひ! 絶望を祈ってるよ」
ルチアーノがプラシドの使っていた剣を一振りすれば空間に亀裂が入る。イリアステルの三皇帝は光を放つ亀裂を経由してこの場から去った。
後に残ったのは人間達と――呆然と立ち尽くす、ひとでなしだけ。
ジェイド・アトラスについてですが、ホセの回答の場合は部分正解となります。