石造りの心臓   作:ウボァー

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皆様の考察などなど含んだ感想は読ませていただきました!
ほぼ完全正解なものはあります。


ひとでなしの自戒

 衝撃的な真実により力がほとんど抜けてしまったジェイドであったが、オートパイロットによりポッポタイムへと戻ることはできた。しかし、というよりは当然と言うべきだが足元がおぼつかない。

 Dホイールから降りるのも一苦労していたのでジャックに手を貸してもらいゆっくりと体を動かす。

 

「しっかりしろジェイド。誰がなんと言おうと、お前はお前だ」

 

「ぁ……コルテ、ッ」

 

 言いかけてはっとする。金の髪と白い肌、同じ特徴を持っていた別の誰かを見てしまったことに彼は気付いてしまった。

 ここにいるのは、ジャック・アトラスなのに。

 

「ちがう、違う違う! 嫌だ、こんな、ああ……!」

 

 だから衝動的に手を振り払って下がった。ジャックの手という支えがなくなったジェイドはDホイールにもたれかかるようにしてずり落ちていく。

 成すべきことを間違えてしまった王が、彼と接触などしていいはずがない。

 

「ごめんなさい……」

 

 頭が割れるように痛い。胸が張り裂けてしまいそうなほど苦しい。右腕で目を覆い隠し、左手で胸を押さえ苦しそうに呼吸を繰り返す。

 

 あの時と似た状態。違うのは、原因と理由が彼の中で明確であること。

 

「ごめんねジェイド、ちょっと触るよ……っと!」

 

 一気に蘇る記憶を処理できず動けないでいるジェイドをブルーノは難なく抱き上げた。

 

「ボクが部屋まで運ぶよ」

 

「あ、ああ、助かる」

 

 えっほえっほと大急ぎでブルーノは二階へと駆け上がる。チームの中でジェイドと関わってきた時間が一番少ないからか、ブルーノは戸惑いつつもいつも通りのように動けている。

 ……チームのリーダーとして一番しっかりしなければいけないはずの遊星だが、何もできていない。無力な己を苛むように拳を強く握った。

 

 遊星が思い出すのは二人の言葉。

 

 ――これからのことを知ってる癖に仲間へ隠し続けた兄弟もどき同士だろ?

 

 ――5000年の戦いで今度こそ赤き竜の力にならんとする願いを利用された自覚なき神々の駒、それがお前だ。

 

 イリアステルと名乗った彼らの言葉は一考に値する。

 過去のジェイドは決闘者でありながら、決闘者たらしめるカードを皆に渡していた。デッキを持とうとせず、周囲の者達が強くなることを自分のことのように喜んでいた。

 

 それらの行動は全て、そうあれと定められたものであったから。一見使用困難に思えるカードでも遊星ならジャックならクロウなら、と渡していたのは未来でどんなデッキを使うのかを知っていたから。

 

 疑問が全て敵であるイリアステルの言葉で納得できてしまう。それが嫌だった。

 あの言葉を信じてしまうのならば、ジェイドのこれまでは、人生はいったい、なんだっていうんだ。

 

 ――絆を掲げる貴様らが己を強くするための道具としてソレを使い続ける残酷さを持つか否かは……。

 

「道具なんかじゃ、ない」

 

 何があろうとジェイドは大切な仲間だ。ガレージの中へとしまい込まれたDホイール、その一つにコードを繋げてパソコンを起動する。彼が助けた仲間を助けるために。

 

 頼まれていた修復がどこまでできるのかはわからない。なにせ未知の技術で作られた人間の人格の複製だ。作業に取り掛かろうとガラガラとシャッターを閉め……外部から見えなくなったことにより姿を現す竜がひとり。

 

『ミクトランテクートリ、貴方はなんという事をしたのですか』

 

「《エンシェント・フェアリー》……!?」

 

『その言い方……貴様、まさか奴の虚言を信じると?』

 

 柔らかな光を宿す守護の竜は珍しく怒りを剥き出しにしていた。名を呼ばれたために姿を現した骨の竜は不機嫌そうに返答する。

 

『彼が冥府に近しいものだとは私も気付いてはいました。しかし、その理由までは思い至らなかった。でも貴方が関わったのならば説明がつく!』

 

『ジェイドを我が作ったなどあり得るものか! 我は偶然に見つけたのだ!』

 

『嘘偽りなどいくらでも述べられます』

 

『それは奴らに知っていると名前を出されたイェーガーについても同じこと。未だ見つかっておらんが、もしそのことについて知っているかを聞かれたら『はい』と答えろ、と命令されているとすれば? そらみろ、可能性などいくらでも考えられる! 無益な言いがかりはよせ』

 

 狭いガレージの中で常人には聞こえない声が響く。

 

 繰り返す終わりのない問答。互いの感情が積み重なっていく危うい空気の中――ぎり、と歯を軋ませ、触れてはならない箇所に踏み込んだのは骨の竜だった。

 

『終わりが迫っていたあの時、助けを出さなかったお前らが何を言うか!』

 

『それはっ……星の民による赤き竜が現れるための祈りは』

 

『詭弁を! なんとしてでもという思いがあるならば《ライフ・ストリーム》のように全てを変えてでも現世へとしがみつくはずだろう! 奴は時が間に合わずに助けられなかったが、お前たちはそれすらしなかった!』

 

 竜はシグナーを見る。正しくは、彼らのデッキの中にいるドラゴンを。

 

『世界しか救えず国を見捨てたお前達にジェイドを語る権利などない! あいつらのせいで、冥府に来た王は――!』

 

「もう……もうやめて!」

 

 人間がなんと言おうと止められぬ怒りが渦巻く。精霊の声が聞こえるため彼らの感情を人一倍感じ取ってしまう龍可は耳を塞いで懇願するが、竜の耳には届かない。

 彼女を守るように兄である龍亞や精霊の《レグルス》や《クリボン》が寄り添うが、音を防ぐことはできない。

 

 これ以上苦しめないでくれ。そんな龍亞の思いに反応してか、機械仕掛けの竜が現れて怒りを振り撒く竜を羽交締めにする。

 離せ、貴様もそいつらの肩を持つのか――そこからは人語ではなく、竜のみに伝わるやり取りが始まっていった。

 

 

 

 騒がしい声が、全て自分を責めるものに聞こえてくる。勘違いだとわかっているのに、全てお前のせいだと耳に張り付いて消えない。

 

 記憶の霧が晴れていく。隠しておきたかったものが明らかになっていく。

 

 

 思い出している。見せられている。

 それは後悔しか残らなかった男の、わずかな記憶。

 

 

 1の葦(セ・アカトル)の年。凶兆が続き、星の民たちは厄災の到来を予言した。

 ここに残っていては災いを告げたその口を閉ざして厄を遠ざけるために殺されてしまうから、ほとぼりが覚めたころに帰ってきなさい、と私は言葉を与え星の民を旅立たせた。

 

 彼らがこの地に帰ってくることはなかった。

 大きな船に乗って、遠い土地よりある人々がやってきたからだ。

 

 金の髪に白い肌。時期も一致する。

 伝説の通りに神が帰還した――喜んだのは最初だけだ。

 

 彼らは我々が望んだものではなかった。

 なにもかもが間違っていた。

 

 ケッツァーコアトル、赤き竜に……いや、我らの崇める神々を奴らは悪魔だと言った。

 全く知らないものを信仰せよと押し付け、拒否すると神殿を荒らした。

 

 金銀財宝を要求した。

 神のように、捧げ物と同等の恵みを返してはくれなかった。

 

 祭りの準備をしていたもの達を皆殺しにした。

 装飾品を根こそぎ奪った。

 

 彼らは帰還した神などではなく、欲望に塗れた人間で、侵略者だった。

 民は当然に怒り狂った。

 

 なんて事をしてしまったのか、と悔やんでももう遅い。

 私が彼らを受け入れてしまったせいで奴らはこの地の構造を知ってしまった。誰が敵で誰が味方なのか、攻め落とすための情報を与えてしまった。

 

 侵略者を神だと間違えてしまったから、本当の神にも疑いを持つものが出てしまった。

 赤き竜へと純粋に祈ることができなくなった。

 

 この国は終わる。

 他の誰でもない、私のせいで。

 

 では戦って倒し、追い出すか? ……無理だ。彼らの武器は仕組みがわからないが凶悪で、剣や槍で戦ったとて勝利は得られず犠牲だけが積み上がるだろう。

 

 だから私はどうかこれ以上の犠牲が出ないように、彼らと良き友人になろうとした。友人に手を出すことはないと信じて。

 私は何を言われても構わないから、民はどうか生き延びてほしかった。

 

 

 荒れる民を鎮めてほしいと頼んできた彼の隣に立って、私は彼らの友になると宣言して――民は侵略者に従う王ではなく、戦う王を望んだ。

 

 

 異なるものをすぐに受け入れることはできない。

 それが人間の全てで、投げられた石は私への罰だ。私の体を治療しても、人々の心はもう戻らない。一度動いた流れは止められない。

 

 ……戦争が起きるだろう。神に捧げるのではなく、人の欲望のためだけの、血に塗れた戦いが。

 

『これで良かったのです』

 

 寂しい部屋の中、彼の声がした。

 イリアステルの一人にして、姿を現すことなく声のみを伝える賢人。

 

『……これが正しい歴史。この国は滅び、シグナーの竜はこの地から解き放たれる。力を持つそれらはモーメントの制御装置に組み込まれ、そして奪われる。ゼロ・リバースを起こすため』

 

「わたし、は…………まちがっていたのですか」

 

 返事はすぐには来なかった。あらゆることに精通する神様のような彼にも、悩むという行為があるのだと私は今際の際で知った。

 

『いいえ。受け入れようとも、拒もうともこうなっていました。彼らの目的はこの地を支配すること。最初から選択肢は与えられていなかった。モクテスマ2世、貴方は限られた中でよく頑張りました』

 

 返事をしようとして、出たのはこふ、けふ、と血を吐く音。

 

『ただ、悪かったのは時間だけ。そう、時間だけ……』

 

 そう言い残して声は消えた。

 本当のほんとうに、ひとりぼっちになった。

 

 ……ああ、さむい。あたたかなものがきえていく。めのまえがくらくなっていく。

 

 ひとりきりのへやでつめたくなるわたしを、冥府にいた緑の目は見ていた。

 

 

 

『――ひとりは、さびしいよ』

 

 大きな骨の手が、私を――。

 

 

 

「ごめ、なさ……」

 

 悪夢のような記憶にうなされるジェイドの汗を拭い、乱れた布団を直す。流れるのは生理的な涙か懺悔の涙かは判断できないが、それが彼の心を軽くしてくれるのならなんだって構わない。

 

 そっとストローを付けたスポーツドリンクを口元に近付けてやると二口ほど吸ってから口を離した。生きるために必要な何もかもができない訳ではないことに安心する。

 

「ねえ、ジェイド」

 

 ブルーノがやさしく男の手を握りそばにいることを伝える。

 

「わかっていた……んだよね、きっと。ボクのことも」

 

 青い髪の青年は悲しげに問いかける。

 白い髪の男は薄く目を開き、ただその手を握り返した。それが答えだった。

 

「そうか」

 

 それは皆の前で明るく振る舞っているブルーノではなく、アクセルシンクロを操る謎のDホイーラーとしての声だった。

 

 不動遊星のため。赤き竜の戦士たるシグナーのため。二人に与えられた使命は似通っている。……そして、正真正銘の人間ではないことも。

 

「…………思い出さないほうが、よかったのだろうか」

 

 こんなに苦しくなるのなら、どうして思い出してしまったのだろう。

 過去を持たないひとでなしの男がふたりぼっち。どれだけ考えても答えは出てこない。

 

 思考の邪魔をするのはこん、こん、と規則正しく叩く音。ドアではなく、窓を。

 

『何を悩んでいる、人間?』

 

 窓の向こうにいたのは影をそのまま切り出して持ってきたような真っ黒のコンドル。人語を発することから普通の鳥ではないことは一目瞭然だ。

 その正体は地縛神の一柱、《Wiraqocha Rasca(ウィラコチャ・ラスカ)》。

 

「…………何の用だ」

 

 不動遊星を守護し、また導く使命を背負った彼としては再びの危害を加える可能性を持つ邪神を許すわけにはいかない。デュエルディスクを出そうとする彼へとコンドルは嘴を開いた。

 

『下が五月蝿いので上から来ただけだ。蜘蛛は兄弟の下でするべきことがある故、今回は我が代理だ』

 

 どうやら敵ではない。蜘蛛の地縛神と同じくゴドウィンの使いのようだ。

 

「何かあったのか?」

 

『あれからの成果の報告にな。我も兄弟に力を貸すことにした、というものだ。それでジェイド個人へのアレソレがあったのだ、が……お前達は絆が持ち味のはずではなかったのか? 何故ああも醜く争っている』

 

「最初はジェイドのことのはず……だったんだけど」

 

 ブルーノは人間でないとはいえ、ギャア、シャア、グルルル! と人語を失ったドラゴンの言い争いの中身まではわからない。音の大きさ的に多分よくないことだ。放置していたら動物の縄張り争いよりもひどいことが起きてしまう。

 

『ふむ、ふむ……ついに真実を知ったか。いや、この有様ということはイリアステルに無理やり知らされたのか? なら鵜呑みにするのは危険なのだが……というか話が逸れている馬鹿を黙らせるとしよう。案内しろ』

 

 コンドルはブルーノの頭の上にぴょんと飛び乗る。重いものが突然に乗っかったことで重心がずれた青年はその場で倒れそうになった。

 

「わああ!?」

 

 ぐらつく体は幸運にもジェイドへぶつかることはなかったが、これを乗せたままというのは少々動きにくい。ひとまず退いてもらおうと両手を頭の上に持っていくが、その手は嘴につつかれた。

 

『降ろすな。お前がこのまま下へ降りろ。我はここまで来るのに疲れた』

 

「え、え? でもジェイドが」

 

『行け』

 

「いったぁ!?」

 

 身なりは小さいがとんでもない圧政者なコンドルが頭に爪を食い込ませる。逆らうことはできなさそうだ。

 背を伸ばしたままでは頭の上にいるコンドルがドア枠にぶつかってしまうだろう、と当たらないよう屈んで潜り、そろりそろりと慎重に歩く。

 

「ゆ、ゆうせえ……」

 

「ブルーノ!?」

 

 ジェイドの面倒を見ているはずのメカニックが困った声で頭に地縛神を乗せて出てきた。意味がわからない。どったんばったん大騒ぎなドラゴン達は喧嘩に夢中で邪神には気付いていない。

 

『ここでいい。動くなよ、狙いがずれる』

 

「え、ちょっと何を――」

 

 頭のてっぺんで何をしているのかは見えない。とにかく、まずいことが起きようとしているのはわかった。

 コンドルは翼を広げ、嘴の中に紫色の光が集まっていく。

 

「まさかっ……皆伏せろ!!」

 

 クロウは双子を庇うように倒れ込み、効果の斜線から逃す。想像を絶するその力は嫌というほど知っている。幼馴染達を苦しめ、自分も受けたことがあるそれが頭上を通る。

 

『――ポーラースター・オベイ!』

 

 それは強制的にライフポイントを1にする、最強にして究極の力。取っ組み合いを始めそうだったドラゴン達に直撃し強制的にノックアウト。力を削がれたせいかほとんどが姿を消す。残ったのは骨の竜だけだ。

 

『これで良い』

 

 青髪を足蹴にするようにしてコンドルはばさりと飛翔し、階段の上で首を痛めたブルーノが誰にも知られず一人苦しんでいた。

 

『何があったのかを聞かせよ。話はそこからだ』

 

 小さな体で威厳たっぷりに、コンドルはほうほうふむふむと相槌を打ちながら人間達の話を聞く。

 

『過去が無い……確かに。その言葉はゴドウィンらが伝えたかったことと一致する』

 

 一番否定したかった部分を肯定され、チーム5D'sの顔に絶望の色が混ざる。その様子を見てか邪神は言葉を付け加える。

 

『だが、明確に隠していることがあるな。我の記憶と違うところがある。かといって口で教えても理解が追いつかん……これは今の貴様らならよくわかるはずだ』

 

 イリアステルの言葉で大惨事を招くところだったのだ。その点については嫌というほどわかる。よって人間達は真実を急かす真似はしない。

 

『ひとまずジェイド・アトラスの――正しくはモクテスマ2世の記憶による苦しみを取り払いたいのだろう。なら簡単なことではないか』

 

「まさか息の根を、とか言うんじゃねえだろうな」

 

 クロウが言葉の裏を深読みして噛み付く。

 

『その発想を人間が出すのか。末恐ろしいな。安心しろ、それは不正解だ』

 

 黒いコンドルはジャック・アトラスへと向き直り、彼個人に向け言葉を発する。

 

『ジェイドを連れてナスカへと来い、ジャック・アトラス。赤き竜の力で紅蓮の悪魔を滅ぼし、1の葦(セ・アカトル)の年に神が正しく帰還したのだと王に示せ』

 

「紅蓮の悪魔――《Uru(ウル)》の言っていた地縛神! 見つけたのか」

 

『ああ。灯台下暗し、とやらだ。なんか知らんうちにナスカに鎮魂の祭壇ができててそれを利用された』

 

「なるほどな」

 

「ジャック、行くの? 地縛神がいた場所に行くなんて危ないんじゃ」

 

「ではジェイドをどうやって助ければいい。何かの拍子で思い出す状態のまま放置するなどオレはお断りだ」

 

 龍可は心配そうにするが、では他にジェイドを救う手段があるのかと聞かれてもジャックには思いつかない。邪神が告げた案に乗るしかない。

 

「行くとしてもどのぐらい時間かかるの?」

 

「ええ、と……空港からペルーまで20時間、そこからバスに乗って6時間……だそうよ」

 

 龍亞の素朴な疑問に対しアキはざっと検索した画面を見せる。往路だけでなく復路のことを考えると数日がかりの大旅行だ。想像もつかないぐらいの長い移動時間に龍亞はうへえと声を上げる。

 

 ゴーストとプラシドの大暴れによりデュエルレーンがめちゃくちゃになったためWRGPは中止状態だ。よって国外に行く時間はある。

 

「Dホイールならば到着してからの移動時間は少し短縮できるな」

 

「本気かよジャック!」

 

 ジャックが乗り気だとしても、あの状態になってしまったジェイドを連れていくのは無茶だ。クロウが反論しようとして、待ったをかける声が二階からした。

 

「……いくよ」

 

 ジェイドがこちらを見ていた。話し声は丸聞こえだったのだろう。翠の目は既に覚悟を決めている。

 

「ジェイド! まだ寝てないとダメじゃないか」

 

 ブルーノが再び部屋に戻そうとするが、ジェイドはそれを押しのけようとしてふらついて。結局ブルーノへと体を預ける体勢になった。

 

「だって、そうしないと。わたしのせいでみんなが……」

 

「違うよ。ジェイドのせいなんかじゃない。皆のために、を義務にする必要はないんだ」

 

「でも……」

 

 体調が悪いのに無理をして起きてきた彼の頭を撫でる。疲弊している彼はそれだけですぐにすうすうと寝息を立てて眠りの世界へと誘われていった。

 

「二人とも行くつもり、か。仕方ねえ。なら俺も付き添いに――」

 

 アルターエゴの修復には専門知識を持つ遊星とブルーノがかかりきりになる。学生のアキに幼い龍可と龍亞は海外へ連れていくのは少々危険だ。ならばとクロウが名乗り出る。

 

『貴様らは来るな』

 

 そんなシグナーの申し出を骨の竜は断った。

 

『たとえ一度だろうと疑ったお前らと共にいるなど許せるものか』

 

 人間ではなくシグナーの竜に向けている発言だが、使用する決闘者もどうせ似たようなことを考えているんだろうと決めつけが混ざっている。

 ではジャック・アトラスはどうなのか、と問われれば無条件にジェイドの味方になると冥府の神は答えるだろう。幼い頃から彼ら兄弟を見てきた故の信頼だ。文句を言いたげなシグナーらへとフンと鼻を鳴らしてから竜は姿を消した。

 

 どうしようか、と悩む彼らを吹き飛ばすようにばたーん! と勢いよくドアを開けたのはカーリー渚。

 

「それっ……なら、私が、一緒に行くんだからー!」

 

「カ……カーリー!?」

 

 しかも、今起きていることと全く関係ないはずの彼女が会話に参戦してきたおまけ付き。

 

「ジェイドさんにこのカードを渡されて、『どうかジャックについていってあげて』って頼まれたのよー! 急かされるし急にいなくなるしですっごく怖かったんだからぁー!!」

 

「ジェイドのにーちゃんはずっとここにいたけど、何かの間違いじゃないの?」

 

「え……じゃあアレってドッペルゲンガー!?」

 

 これまで起きたこととは毛色の異なる異常現象が起きているがジェイドは寝ている。何も答えることはできない。

 

『言ったろう? 奴らは明確に隠していることがある、と』

 

 隠し事などこれこの通り簡単に綻びが出てくる。イリアステルの語った真実だけではその現象を説明できない。ならば奴らの真実には足りないものがあるのだとコンドルは嗤う。

 

「と、とにかくこれ! ジャックに!」

 

 知らない間にホラー体験をして半泣きの彼女はこれ、とジャックに右手を突き出す。

 

 その手に握られていたのはチューナーモンスター、《ヴィジョン・リゾネーター》。

 

 見たことのないリゾネーターモンスターにジャックの目が釘付けになる。《フォーチュンレディ・パスティー》と似た、ダークシグナーの彼女の格好に近いそのモンスターをジェイドが渡した、その意味とは。

 

「これを使え、ということなのか……?」

 

 答えはなにもわからない。ただ、魂に従い男はそのカードをデッキへと入れた。




もし、彼らの来る年がずれていれば。
もし、民を説得できる時間があれば。

もしかしたら、というものは無限に考えられる。
……しかし、時間があったところで、結局この終わりは変えられなかった。

彼らの宗教において『赤い竜』とは黙示録の獣であり、大魔王サタンの化身。滅びをもたらす悪の化身。
それと同じに見られて嬉しいなど、思うはずがない。
友人になどなれるはずはない。

王よ。最初から、分かり合える道などなかったのです。


――英雄から神となった最後の一人は、赤き竜の力ではなく西洋の天使の力を選んでいる。


そのことを知ってしまったおうさまのメンタルは察してください。
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