石造りの心臓   作:ウボァー

35 / 53
ジャック LP3000 手札0枚
《天狼王 ブルー・セイリオス》星6/守1500
伏せカード2枚

紅蓮の悪魔のしもべ LP6800 手札4→5枚
《地縛戒隷 ジオグラシャ=ラボラス》星10/攻3000
伏せカード1枚


1の葦の日に帰還せし我らが王(セ・アカトル・トピルツィン)

『困ってる? 困ってるよねえ! ご自慢の力でどうしようもできない相手に手も足も出せない! それがお前の限界だよジャック・アトラス!』

 

 攻めあぐねるジャックを前に、しもべは愉快そうに手を叩いて笑う。

 

『みっともなく耐え続けるのもこれで終わりさ! 私のターン、ドロー! チューナーモンスター、《地縛囚人 ライン・ウォーカー》を召喚!』

 

《地縛囚人 ライン・ウォーカー》

星3/守1100

 

 召喚したのは前のターンに手札に加えていたモンスター。発達した両腕と、その手首に鎖が繋がっている囚人。

 

『召喚したこいつの効果で墓地から《異界共鳴-シンクロ・フュージョン》を手札に加える。フィールド魔法《地縛牢》発動! そしてフィールド魔法があることで手札の《ストーン・スィーパー》を特殊召喚!』

 

《地縛囚人 ストーン・スィーパー》

星5/守1600

 

 手札にはあの魔法カードを加え、フィールドにはチューナーと非チューナーが並ぶ。

 

「また来るか……!」

 

『本日2回目! 《異界共鳴-シンクロ・フュージョン》発動! レベル3の《ライン・ウォーカー》とレベル5の《ストーン・スィーパー》を墓地へ送りシンクロ召喚と融合召喚を行う!』

 

 今度の合計レベルは8。レベルが上がった結果より強力なモンスターが現れようとしている。

 

『地の底から蘇れ。戒め放つ翼持つ巨獣よ! シンクロ召喚! 《地縛戒隷 ジオグリフォン》!』

 

《地縛戒隷 ジオグリフォン》

星8/攻2500

 

『地を這う囚人よ、刑場への道を歩き続ける囚人と一つとなり、戒め与える巨獣となれ! 融合召喚! 《地縛戒隷 ジオクラーケン》!』

 

《地縛戒隷 ジオクラーケン》

星8/攻2800

 

 片方は空を舞う脅威。片方は海に潜む恐怖。幻想の存在は地縛の力により現実となり、ドラゴンウィングのシグナーへとその力を見せつける。

 

『《ジオクラーケン》の効果でデッキから2枚目の《地縛牢》を手札に。《ジオグリフォン》の効果で墓地から《地縛囚人 グランド・キーパー》を守備表示で特殊召喚』

 

《地縛囚人 グランド・キーパー》

星1/守300

 

『特殊召喚した《グランド・キーパー》の効果で墓地から《地縛囚人 ストーン・スィーパー》を特殊召喚!』

 

《地縛囚人 ストーン・スィーパー》

星5/守1600

 

 悪魔により再び就役せよとフィールドへ呼び戻されたのは大地を整えるローラーを引きずる囚人。背後に石を排除する役目を負わされた囚人も追従する。

 

「またシンクロ召喚に繋げるつもりか」

 

『ノンノン、同じことばっかりしてちゃ芸がないってもんさ。《グランド・キーパー》のもう一つの効果を適用させたいの。こいつとフィールド魔法がある限り私の『地縛』モンスターは破壊されなくなる! 戦闘でも効果でもね! どう、絶望した?』

 

 それは条件付きの耐性付与。囚人の労力により整えられた大地の上では、地面に縛られる者たちは戦闘・効果どちらによる破壊からも守られる。

 

『それじゃ《ストーン・スィーパー》をリリースしてセットしていた《ナイトメア・デーモンズ》を発動。相手に《ナイトメア・デーモン・トークン》を3体もプレゼントしちゃう!』

 

《ナイトメア・デーモン・トークン》

星6/攻2000

 

「攻撃の的を用意してきたか」

 

 しもべのモンスターの1体が消え、ジャックのフィールドに並ぶのは黒く細長い悪魔。

 己も使ったことのあるカードのため、これがプレゼントという善意ではなく相手を仕留めるための行為だと十分に理解している。

 

『そして墓地の《ライン・ウォーカー》を除外して効果発動! 《天狼王 ブルー・セイリオス》をエクストラデッキに戻す。その後、相手はその同名モンスター1体を自身のエクストラデッキから特殊召喚できる。さ、どうする?』

 

「……なんだと? オレは《天狼王 ブルー・セイリオス》を守備表示で特殊召喚する。しもべめ、一体何を狙っている……?」

 

 消えたのは一瞬。青き狼王はすぐさまフィールドに帰還する。

 一度フィールドを離れるとステータスなどの情報はリセットされる。しかし、狼王は他のカードによる強化を受けているわけでもなく、表示形式を相手が決めるわけでもない。謎の多い一手にジャックは困惑する。

 

『こういうことさ! 相手のエクストラデッキからモンスターが特殊召喚されたことで《ジオクラーケン》の効果が発動! このターンに特殊召喚された相手フィールドのモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数かける800のダメージを相手に与える!』

 

 触腕を大きく掲げて海魔は咆哮する。デュエル相手でない観客の体をも震えさせるほどの大音量。ぱらぱらと天井から細かな石のかけらが落ちる。

 

「このターンに特殊召喚って、まさか、《ナイトメア・デーモンズ》を使ったのはそのため!? つまり、破壊されちゃうのはジャックの《天狼王 ブルー・セイリオス》とトークン3体を含めた合計4体で……3200のダメージ!」

 

 カーリーは発生するダメージを計算する。ジャックの残りライフは3000、よってこの効果が通れば彼のライフは尽きる。

 

「それだけではない。《ナイトメア・デーモン・トークン》は破壊されるとコントローラーに800のダメージを与える。それが3体、つまり合計ダメージは5600だ」

 

 その計算式をボマーが訂正。訂正したとしても、発生するダメージは彼のライフを上回っている。

 

「でも、《ジオクラーケン》の効果を無効にしちゃえば無事に」

 

「いや、効果を無効にしたとしてもやつのフィールドには攻撃可能なモンスターが3体残っている。そして特殊召喚された《ナイトメア・デーモン・トークン》は全て攻撃表示だ。この効果だけでなく、攻撃にも対処できねばジャックに勝機はない……!」

 

『観客兼我が主復活後の生贄予定のお二人さん、解説どうもありがとうね。さあ、どうするのか見せてもらうよシグナー! やれ、《ジオクラーケン》!』

 

 高く高く振り上げた触腕が、ジャックのフィールドを荒らすべく振り下ろされる。これを許せば男の敗北が決まる。

 

「その効果にチェーンしてダブル・トラップオープン!《シンクロ・バリアー》、《活路への希望》!」

 

 ジャック・アトラスとあろう者がそれを黙って見ているはずがない。セットされていたカードが2枚とも発動される。

 

「《ブルー・セイリオス》をリリースして《シンクロ・バリアー》を発動! このターンのエンドフェイズまでオレが受けるダメージは0になる。そして《活路への希望》の効果――!」

 

ジャック

LP 3000→2000

 

「――ライフを1000払い発動し、相手とオレのライフの差1000につきデッキから1枚カードをドローする。貴様のライフは6800、対するオレは2000。よって4枚ドローする!」

 

 触腕による暴虐の限りが尽くされるが、ジャックに傷ひとつ与えることなく荒波は静まっていった。

 

「いいぞ! 《シンクロ・バリアー》ならばこのターンの戦闘ダメージも受けることはない!」

 

「でも、折角のシンクロモンスターが……」

 

 喜ぶボマーと残念がるカーリー。対照的な反応を見せる決闘者たち。

 

『活路? んっふふ、そんなものどこにもありはしませんよ。我が主の前にはどんな抵抗も無駄無駄。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》ごときを使うシグナーなんかじゃ勝てっこナイナイ!』

 

「ッ……我が魂の何を知ってそんな口を叩いている! だいたい、紅蓮の悪魔は蘇っていったい何がしたい! 他の地縛神はもう倒されていることを知らないわけがないだろう。たった一体の邪神ごときで、かつて赤き竜を苦しめたなどという逸話のみを頼りに対抗できるほどシグナーは――オレ達は弱くない!」

 

 拳を握りしめて男は声を張り上げる。仲間たちがいる限り、この邪神が勝利する未来などあり得ないと信じている。

 しかし、しもべのフィールドにはジャックがいかなる攻撃をしようと突破不能な《地縛戒隷 ジオグラシャ=ラボラス》がいる。からっぽのフィールドで吠えるジャックはさぞかし虚しく見えるのか、ほとんどの話を右から左に聞き流していた。

 

『うーん……ま、教えてあげてもいいかな? 我が主の真の望み、それは赤き竜の地位の簒奪』

 

 だから、それはほんの気まぐれ。

 冥土の土産話として教えてあげてもいいかな、そんな思いつきでさらりととんでもないことを言ってのけた。

 

「………………なん、だと?」

 

『天に輝くべきは赤き竜などではなく、紅蓮の新星こそが相応しい。それが我が主のお考えなのです』

 

 えーといつだっけ、と指折り数える。

 

『そうそう、500年ぐらい前はちょっといい感じの流れだったんだけど、星の民どもにしぶとく耐えられて結局失敗しちゃった』

 

「500年前……!? もしや、コンキスタドールの……!」

 

 ケッツァーコアトルを守り神として崇めているボマーは、それに関わる歴史も知っていた。その中にはアステカ王国の興亡も含まれている。

 

『ぴんぽんぴんぽん大正解! 憎きケッツァーコアトルを悪魔と蔑んでくれた彼らが来たのはとても都合が良かったので利用させていただきましたとも!』

 

 視線は紅蓮の悪魔のしもべへと集まる。

 ……誰も注視していないが、ジェイドの目は完全に開いている。

 

『人の欲望ってのはちょいとつつけば簡単に弾ける。すぐそこにあるご馳走を目の前にして堪えるなんてできっこないのさ。金銀財宝ザックザクな野蛮人を倒せばあいつらは大儲けできて土地も手に入れてハッピー、私達も赤き竜を崇める奴らがいなくなってハッピー! だから手助けしてあげたのよ』

 

 翠の目は、何も言わずにただ見ている。

 

『モクテスマ2世が仕えていた星の民をテノチティトランから逃したせいで奴らの手で滅ぼしきれなかったのは残念だけど、王様が侵略者をケッツァーコアトルだと認めちゃったのはこっちにとってありがたかったよ』

 

 ただ、見ている。

 

『国の危機を知った星の民が祈りを捧げてなんとかケッツァーコアトルを呼ぼうとしてたけど、一度疑ったものはそう簡単には戻れない。赤き竜が悪魔なんだって揺らいだ信仰の一部はおいしくいただいちゃいました! うんうん、ずっとちょっかい出し続けた甲斐はあったあった』

 

「――おい」

 

 悪魔の自慢話を遮る、底冷えするような声。

 

 ジェイドが。

 その中にある王の記憶が。

 忘れ去られし骨の王が。

 

「おまえの、せいなのか?」

 

 冥府の神たる竜が。

 デッキにいる全てのメメントが。

 紅蓮の悪魔とそのしもべに怒りを向けた。

 

『うわっ起きてるぅ!? 一周回って冷静になっちゃった? でもアンタ今どうなってるかわかってる?』

 

 紅蓮の悪魔の一部である蛇、そこから侵食されている証の紫の紋様は未だしっかりとジェイドを蝕んでいる。生者を死者に染め上げるマイナスの力。供物が敵対心を見せたことにより紅蓮の悪魔は侵食を強める。

 

「だからどうした!」

 

『一度負けた奴が強がっても意味ないよ。大人しくそこで見てな、だぁいすきな弟クンが負けるとこをさ! このターンを凌いだとて、私のモンスターを倒せなきゃ意味ないのにね。さて、私はカードを1枚伏せてターンエンド――』

 

「――相手ターンに墓地の《絶対王 バック・ジャック》を除外して効果発動!」

 

 ジェイドの思いに呼応したのだろうか。ジャックが相手ターン中に動いた。

 

『んぁ、そんなカードがいつ? ああ、《パワー・ウォール》で墓地に行ったカードですか』

 

 ソリッドビジョンに映るのはジャック・アトラスによく似たモンスター。背負ったジェットパックで飛翔する機械に似た悪魔は決闘者の動きを待つ。

 

「デッキの一番上のカードをめくり、そのカードが通常罠カードだった場合自分フィールドにセットする。違った場合はそのカードを墓地へ送る。……そして、この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる」

 

『デッキトップ依存? 随分と運任せの効果だこと。自分がこのまま死ぬかどうかの運試しがしたいの?』

 

 心を乱したいだけのしもべの声に耳を傾ける必要はない。精神を集中する。

 

「……デッキよ、応えろ。奴らの悪逆をこのまま許していいはずがないだろう」

 

 戦いを共にするカードへと語りかける。

 

「《レッド・デーモンズ》よ、赤き竜よ! オレに力を!」

 

 そして――デッキからカードを引き抜く。

 

「デッキトップは通常罠、《デモンズ・ゴーレム》! 《バック・ジャック》の効果によりセットしてそのまま発動! 《ジオクラーケン》を次のターンのエンドフェイズまで除外する!」

 

 絶対王者ここにあり。ジェットパックで飛翔した悪魔は彼の手にある罠を即座に起動させる。悪魔像から射出された鎖に絡め取られ、海魔は異次元へと連れていかれた。

 

『何っ……!?』

 

「これでオレは次のターン、シンクロ召喚を妨げられることはない!」

 

 予想外のところから発動された起死回生の罠はしもべの戦術を乱し、デュエルの流れをジャックへと引き寄せる。

 

「オレのターン! ドローッ!!」

 

 手札5枚。フィールドのカードは0枚。

 対する相手は恐るべき悪魔達。

 このターンで決着をつけねば負ける状況。そんな中、男はこのデュエルで一番の闘志の昂りを見せる。

 

「速攻魔法《サイクロン》発動! フィールド魔法《地縛牢》を破壊する!」

 

『《グランド・キーパー》による耐性を解除しにきたか……しかし《地縛牢》を破壊した報いでお前のライフは半分になる!』

 

ジャック

LP 2000→1000

 

 突風が陰気な牢獄を粉砕。破壊された牢獄から溢れ出した怨念がジャックの体を蝕む。

 

「この程度のダメージ、今更構うものか! 《ソウル・リゾネーター》を召喚!」

 

《ソウル・リゾネーター》

星3/守200

 

 その背に背負うのは赤き竜の紋章。魂の名を冠するリゾネーターは男の手へ新たな力を運ぶ。

 

「《ソウル・リゾネーター》の効果でデッキより《ヴィジョン・リゾネーター》を手札に加える! そして、フィールドに闇属性・レベル5以上のモンスターがいるため《ヴィジョン・リゾネーター》を特殊召喚!」

 

《ヴィジョン・リゾネーター》

星2/守400

 

 その身に纏うのは運命に翻弄された者の装束。深い闇に導かれてそのリゾネーターはフィールドへと舞い降りる。

 

「手札を1枚捨て《D・(ディファレント・)D・R(ディメンション・リバイバル)》発動! 除外されている《風来王 ワイルド・ワインド》を特殊召喚し、これを装備!」

 

《風来王 ワイルド・ワインド》

星4/攻1700

 

 風を纏う王が異次元より帰還。必要なモンスターを揃えたジャック・アトラスは力を呼ぶための祝詞を唱える。

 

「行くぞ! レベル4の《風来王 ワイルド・ワインド》にレベル2の《ヴィジョン・リゾネーター》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

4+
2=
6

 

「紅き竜よ、琰魔を呼び起こす道を照らし出せ! シンクロ召喚! 《レッド・ライジング・ドラゴン》!」

 

《レッド・ライジング・ドラゴン》

星6/攻2100

 

「あれは……!?」

 

 ジャックがシンクロ召喚したのは、ボマーが夢で見た、炎となった《レッド・デーモンズ・ドラゴン》とそっくりのシンクロモンスター。

 

「まさか……あれは悪夢などではなく、予知夢だったのか!?」

 

「え? ど、どういうことなんですか?」

 

「神話に曰く――過ちを犯したケッツァーコアトルは己を炎で焼き、この世を去った」

 

 ボマーの口から語られるのは遥か昔の御伽噺。それと重ね合わされた現代の話。

 

「あの時、紅蓮の悪魔に操られていたマックスによる攻撃の反射。あれが伝説の再現の始まりだったのだ。己の力を過信したという過ちにより炎でその身を焼き、それを許せなかったジャックは我々の目の前から去っていった」

 

 ……そして、王のいるこの場へと帰還した。

 

「つまり?」

 

「――ジャックは、ケッツァーコアトルの伝説をこの地で蘇らせようとしている」

 

 炎で作られた魔竜は吠える。

 

 見よ。星の民よ。アステカの民達よ。

 長き時を越えて。長き嘆きを越えて。

 我らが偉大なる神がここに帰還する。

 我らが偉大なる王が悪魔を打破する。

 

「シンクロ召喚した時、《レッド・ライジング・ドラゴン》の効果発動! 墓地の《ヴィジョン・リゾネーター》を復活! また、墓地に送られた《ヴィジョン・リゾネーター》の効果でデッキより《クリムゾン・ヘルガイア》を手札に加え――これを発動! 効果で《魂を刻む右(エングレイブ・ソウル・ライト)》を手札に加える!」

 

 永続魔法により広がるのはどこまでも炎が燃える地平線。紅蓮魔竜に相応しき舞台が展開される。

 炎の魔竜の力で蘇ったチューナーのレベルは2。今いるシンクロモンスターのレベルは6。

 

『合計のレベルは8! ついに来るか、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!』

 

 しもべの警戒に対しジャックは鼻で笑う。王の思考についてこれぬ凡骨だと。

 

『何がおかしい』

 

「しもべよ、貴様は確かに言っていたな。オレが力を得るにはジェイドを紅蓮の悪魔に捧げる必要があると」

 

『ん……? いやまあ言ったけどさ、何? それがどうし――ッ!?』

 

 しもべを構成する炎の勢いが弱まる。その後、即座に乱れる。何を言いたいのか気付いてしまったから。

 

『ま、さか。まさかまさかまさか貴様ッ!!』

 

 紅蓮の悪魔に抵抗し続けるジェイドを指差し、王者は宣言する。

 

「この状況は誰がどう見ても契約は既に成立している! 使わせてもらうぞ、その力!」

 

『無礼であるぞ! 人間如きが我が主を利用しようなど!』

 

「操られたとはいえ契約は確かに行われた! 文句など言わせんぞ! 悪魔ならば契約は守れ!」

 

 突かれてはならぬ盲点を指摘され、苦しげな低い声が悪魔像から発せられる。

 

『あ、ああっ!? 我が主! そんな馬鹿な! 神を、紅蓮の悪魔を人間が喰らおうなど!』

 

「レベル6の《レッド・ライジング・ドラゴン》にレベル2の《ヴィジョン・リゾネーター》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

6+
2=
8

 

「王者がもたらすは血の饗宴! 真紅の魔竜よ、戦場にその爪痕を残せ! シンクロ召喚! 現れよ――《スカーレッド・デーモン》!!」

 

 王者の眼前に降臨するのは見慣れた紅蓮魔竜が真紅の光を纏った存在。紅蓮の悪魔の力を一部吸収し、新たなる力を得た姿。

 

《スカーレッド・デーモン》

星8/攻3000

 

「フィールドにいる《スカーレッド・デーモン》は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》として扱う! よって手札よりチューナーモンスター《レッド・ノヴァ》を特殊召喚!」

 

《レッド・ノヴァ》

星1/守0

 

 これで、フィールドにはチューナーが2体。

 

「感じるぞ、魂の鼓動を」

 

 右拳を胸に――心臓に当てる。

 そこから放たれる熱き炎は彼の魂そのもの。

 

『それは!』

 

「荒ぶる――荒ぶるぞ、オレの魂が!!」

 

 魔の奔流が。竜の昂りが。王の怒りが。

 ジャック・アトラスに呼応する。

 

『それだけは、それだけは許さぬ!』

 

 覚醒の兆しを見たしもべが取った手段は落石という直接的な危害。決闘の相手を殺してしまい勝利する、決闘者にあるまじき愚行。

 ジャックが立つのは狭い足場だ。どんなカードを使ったとしても空から落ちてくる巨大な物体を回避することはできない。

 

 

 クオオォォォ――ン、と声がした。

 何度も彼を助けてきた竜の声が。

 

 

 落石を妨げたのは幾度となくシグナーを助けてきた赤き竜と、彼の兄の力である冥府の神。ジャック・アトラスは傷一つなくデュエルを続行する。

 

『おのれ……!』

 

『――神聖なる決闘を始めた貴様が、それを台無しにして終えようとするなど神が許すとでも?』

 

 赤き竜も同意するように声を上げる。因縁の相手を前にしても二柱の神は手を出さない。

 この戦いに幕を下ろすのは神の横槍ではなく、この男の役割であるが故に。

 

「レベル8の《スカーレッド・デーモン》に、レベル3の《ソウル・リゾネーター》とレベル1の《レッド・ノヴァ》をダブルチューニング!」

 

 チューナーが変化したのは通常通りのエフェクトである光の輪ではなく、赤く燃える4つの炎の輪。それが紅蓮魔竜の身を包むように球を作る。

 

「チューナーを2体!?」

 

「そんなシンクロ召喚があるのか……!」

 

 王者は手を開き、天へと伸ばす。その内に納まるよう現れた何も描かれていないカードを力強く掴む。

 

「荒ぶる魂よ! 再び紅蓮の悪魔をその力によりて封印せよ!」

 

 体の一部である蛇のみを出して像の中に潜んでいた紅蓮の悪魔の姿が引き摺り出され、ジャックの手の中にあるカードへ赤い光として吸い込まれていく。

 

『まさかまさかまさかッ! やめろォッ!』

 

「紅蓮の悪魔よ! お前の力を全て根こそぎ奪ってやる!」

 

 紅蓮の悪魔が彼の力と変化させられカードに吸い込まれていく。うろたえるしもべには、それを止める手段はもうない。

 それと同時に、ジェイドと紅蓮の悪魔の繋がりを辿って、彼の内で増幅させられた負の感情も共に外へと流れていく。紫の紋様が薄れて消えていく。モーメントと同じ虹色に光る冥界の扉が小さく小さくなって、閉じる。

 

 一万年以上存在した悪魔をたった一人で封じるほどの力だ。たかが人間一人、王一人、国一つぶんの後悔。その程度は重しにすらならない。

 

 紅蓮の悪魔が消える。両腕に噛み付いていた赤い蛇も消える。宙ぶらりん状態から支えを失ったジェイドはすとんと神殿の床に着地。

 

「……もってかれちゃった」

 

 なんということだろうか。今この時に高まっていた後悔だけでなく、これまでの分やこれからの分、生きることが罪だと認識してしまった王様の思いまでジャックは勝手に奪って封印してしまった。

 

 ……神との絆を絶った原因の一つを、我らが偉大なるケッツァーコアトルを汚した愚行を、直々に許してくださった。

 ……ああ、あのはげしくもあたたかなほのおを。ひかりを。わたしはめざしてやってきたのだ。

 

「王者と悪魔、今ここに交わる! 荒ぶる魂よ、天地創造の叫びをあげよ! シンクロ召喚! 出でよ――《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

星12/攻3500

 

 炎の殻を破り咆哮するのは真紅の灼熱龍。

 神殿をくまなく照らす紅の光は邪悪の存在を許さない。黒き魔と紅き炎を一つに束ね、邪神の力を全て己のものとして。紅蓮の新星は、今ここに誕生した。

 

「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力はオレの墓地のチューナー1体につき500アップする!」

 

 ジャックの墓地にいるチューナーは《幻影王 ハイド・ライド》、《変容王 ヘル・ゲル》、《シンクローン・リゾネーター》、《ソウル・リゾネーター》、《ヴィジョン・リゾネーター》、《レッド・ノヴァ》の合計6体。

 よって、その攻撃力は。

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

攻3500→6500

 

「そして、墓地に送られた《スカーレッド・デーモン》の効果!」

 

 ぞわり、としもべの炎が揺らめく。決闘者の勘が何かを察知し、ここで効果を使わねばならないと警鐘を鳴らす。

 

『この気配はっ……!? チェーンして《ジオグリフォン》の効果発動! 墓地の《ストーン・スィーパー》を守備表示で特殊召喚する!』

 

「――王者の鼓動、今再び列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい! 出でよ! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

 真紅の灼熱龍の登場により周囲へと散った火の粉が、炎が、八つの球となり、さらに一つに合体する。そして爆発し――紅蓮魔竜が姿を見せる。

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

星8/攻3000

 

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》と《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。ジャック・アトラスの力の象徴が並び立った。

 

「そして《スカーレッド・デーモン》の更なる効果が起動! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する! デモン・スクラッチ!」

 

 紅蓮魔竜はその手に真紅の光を纏い、王者へ刃向かおうとする者らへと振り下ろした。赤の爪痕がフィールドを蹂躙、紅蓮の悪魔の力の一部が攻撃表示の地縛戒隷達をまとめて葬り去る。残るのは守備表示の囚人だけだ。

 

『ぐぅ……我が主の力をこのように使うなど! だが! 破壊された《ジオグリフォン》と《ジオグラシャ=ラボラス》の効果発動! 《ジオグラシャ=ラボラス》の効果で、』

 

「モンスターの効果が発動した時、墓地の《大いなる魂》を除外してその効果を無効に! さらに、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力を2000アップさせる!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

攻6500→8500

 

『でも《ジオグリフォン》の効果は止められない! フィールドのカードを破壊し、その後、フィールド・墓地の『地縛』の数に応じたダメージを与える! 破壊するのは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》さ! ああ、我が主! 憎きシグナーを倒して今すぐに解放いたします!』

 

 チェーン1に《ジオグリフォン》の効果を、チェーン2に《ジオグラシャ=ラボラス》の効果を。凶風が吹き荒れ、紅蓮魔竜を引き裂こうとするが――赤き竜の紋章が守る。

 

「オレのフィールドのカードが破壊される場合、墓地の《ソウル・リゾネーター》を代わりに除外する!」

 

『んなぁにィ、身代わり!? これじゃ、そんなっ……!』

 

 しもべの使った《ジオグリフォン》は破壊に成功しなければその後のダメージは発生しない。

 よって、ジャックの1000のライフポイントを削ることはできない。

 

 墓地からチューナーが減ったことで《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力は500下がり8000となる。しもべのライフポイントは6800。……500程度減ったところで問題はない。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に《魂を刻む右(エングレイブ・ソウル・ライト)》を装備!」

 

 彼の魂の竜はバーニング・ソウルを覚醒したジャックと同じように、心臓へと右拳を当てる。その手に魂の光を宿す。

 

「バトルだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《地縛囚人 グランド・キーパー》へと攻撃!」

 

『その攻撃が命取りだよ! 攻撃宣言時に《聖なるバリア -ミラーフォース-》発動! お前の自慢のドラゴンは全部これで破壊される!」

 

 しもべの前に現れたのは炎を跳ね返す聖なる障壁。攻撃が仇となる一発逆転の罠カード。

 

「ああ、終わりだ……」

 

 ここにいる人間全ての感情を代弁するジェイドの絶望的な呟き。主を失って錯乱していたしもべだが、超強力な罠の発動に成功してデュエル開始当初の上機嫌な姿に戻る。

 

「……何勘違いしてるの? お前が、だよ」

 

 そんな悪魔へと、翡翠は死刑宣告を下した。

 

「――キングのデュエルは常に相手の先を行く! 《魂を刻む右(エングレイブ・ソウル・ライト)》を装備した《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は相手が発動した効果を受けない! また、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は相手の効果では破壊されない!

 

『は…………はあああああ!?』

 

「やれ、《レッド・デーモンズ》! アブソリュート・パワーフォース!」

 

 罠という小細工など無意味。

 ただ、圧倒的な力の前に粉砕される。

 

「攻撃は通った! 故に、我が魂の効果が発動! お前の守備モンスターを全て破壊する! デモン・メテオ!」

 

 天より降り注ぐ炎が残るモンスターを葬りガラ空きになったフィールド。しもべの視界には巨体の灼熱龍がようく見えるようになった。

 残る攻撃対象はたったひとつ、紅蓮の悪魔のしもべだけ。それはこちらを嘲り笑う仕草を止め、小さく縮こまって命乞いをする。

 

『ヒッ……! あ、主なき私めに何を……』

 

「力を見せてやろう! 我が力を! 貴様らのくだらん策略によって犠牲となった人々の怒りを! ……そして、我が兄の激昂を思い知れ! 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で、紅蓮の悪魔のしもべにダイレクトアタック!」

 

 攻撃の指示により龍は手足を折りたたみ炎を高め、その身を炎の星に変える。紅蓮の炎は咆哮し、この世から滅するべき悪魔へと狙いを定める。

 

「――バーニング・ソウル!」

 

 そして、炎の星は敵を真っ直ぐに貫いた。炎の悪魔は己よりも遥かに大きく、熱く、赤い炎に呑まれて消えた。

 攻撃の圧倒的威力にしもべの背後にあった悪魔像も崩壊。ヒビ割れが神殿の壁、天井へと発生し伝播する。

 

紅蓮の悪魔のしもべ

LP 6800→0

 

『ああ、嗚呼! 敗北程度で逃すものか! 許すものか! 貴様には死の安らぎすら与えん!』

 

 デュエルが終わればもう自由だ。許さぬ、と紅蓮の悪魔のしもべだったろう火種へと《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は食らいつき、力を溜めている。

 

 ……攻撃力5000が、怒りのままに暴れる? 今にも崩れ落ちようとする神殿の地下で?

 

 赤き竜は単純な力では《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》に勝てない。この様子では人間の声に耳を傾けられないだろう。

 

 怒り狂う神を止められるものがいない。

 このままだと、いけない。

 

 ジェイドが――いいや、そのドッペルゲンガーと呼ばれた、彼の見た目を借りている《⬛︎⬛︎⬛︎-⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》が力を使った。

 

 腕を伸ばし、視界の中の二つを繋げるように指で宙をなぞる。それだけで冥府の神は崩れ、悪魔だった炎も壊れる。

 

 墓地から何度も蘇ってくる冥府の神は破壊されたとて時間があればまたひょっこり出てくるから特に問題ないが、大ダメージを受けていたしもべはもう現世に復活することはない。

 

 突然の消失にぽかんとしている人間達。赤き竜は嘶き、崩落を始めた地下から皆を救い出す。

 ……もう一人のジェイドをどこか懐かしい目で見ていたのには、誰も気づけないまま。

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